災害列島と呼ばれるほど、日本は自然災害の多い国である。
今年は特に、豪雨による土砂災害、幾度も直撃した大型台風、そして御岳山の噴火と大規模な自然災害が相次いだ。これらの災害は、一度起こってしまえば、あとは行政の対応に期待するしかないような性質のものである。
しかし、これらの災害に関して、自分の住む土地にどの程度のリスクがあるか、簡単に知ることができる。
この知識は、学校の授業で言えば「地学」と呼ばれる分野に属する。特に専門的な勉強をする必要はなく、書店で手に入る地形図や、国土地理院のウェブサイトで公開されている地質図、そして自治体の公開しているハザードマップを見るだけで、「自分の暮らす土地がどういった場所で、どういったリスクを含んでいるのか」を容易に知ることができるのだ。
今年の災害に関するニュースが「喉元を過ぎる」前に、どうかこれらを紐解いていただきたい。
今年は(「も」というべきか)、自然災害の多い年だ。願わくば、「年だった」というように過去形にしたいところである。しかし、台風の襲来はまだつづく可能性があり、竜巻も発生しやすい時期でもあり、また、冬には雪の心配もある。そして、地震は季節問わずにやってくる。
報道をみていると次々と新たな災害が起きるために、ニュースがどんどん上書きされていって、関係者以外にとっては過去の事件になりがちだ。しかし、いつ、どこで発生するのかが予測がつかないのが自然災害である。そして、災害が起きたのちの救助その他に関しては、行政の活躍に期待することになるとしても、その前段階の対策は、結局のところ自分でするしかない。
御嶽山噴火による被害状況を報じる新聞誌面
「戦後最悪」という被害者数になった、9月の御嶽山の噴火では、「有珠山で噴火予知ができたのに、なぜ御嶽山ではできなかったのか」という疑問が筆者のもとにも複数寄せられている。それは、けっして研究機関を責めるというものではなく、純粋な疑問としてのものだ。実際のところ、警戒レベルをあげるべきだったか否かという議論がなされている。本稿は、この是非を問うつもりはない。
まず、事実として知っておきたいのは、火山は一つ一つ異なる“個性”をもつということだ。気象庁によれば、現在、日本に活火山は110あるとされている。その火山すべてについて、独立の個性があり、そして火山の歴史も異なる。そして私たちは、110の火山すべてについて、その性質や歴史を完全に知っているわけではない。
2000年の有珠山の噴火で予知が成功した背景には、いくつもの理由が挙げられる。そもそも有珠山は、最近300年間において、数十年に1度のサイクルで噴火を繰り返してきたこと。つまり、はっきりとした周期性が認識されていたこと。そして、前兆現象として地震の群発、隆起や地割れなどがあることが知られていたこと。こうした現象をとらえるための観測網があり、また「専属」ともいえる研究者がいて、有珠山に関する研究が進んでいたことなどである。産業技術総合研究所地質情報センターのwebサイトにある言葉を借りれば、「有珠山は日本で最もよく監視・観測が行われている火山の一つ」なのである。
しかし110の火山について、こうした体制が整っているわけではない。火山の歴史に関しても、科学機器・手法による観測記録があるのは、ここ100年ほどの期間である。しかし、観測記録による予知に限界があることを、私たちは2011年の東北地方太平洋沖地震で身をもって学んだはずだ。数百年以上にわたる歴史記録をたどればひろう事ができる記録もあるが、相手は地球である。私たち人類の歴史尺度がそのまま適用できるわけではない。
ちなみに、「休火山」「死火山」という言葉は、現在では使用されていないことをご存知だろうか? 数千年にわたって活動を休止したのちに活動を再開した火山もあることから、これらの用語は使用されなくなった。言い換えれば、これまで活動をしていないとみなされていた火山でも活動を再開することがある、ということである。ましてや御嶽山は、2007年にも今回と同じ水蒸気噴火を観測しているし、1984年には死者29名を出す山体崩壊が発生している。
8月には広島で大規模な土砂災害が発生した。局地的な短時間の豪雨に端を発する土石流が住宅地に襲来し、多くの被害を出す事になった。こちらについても、警戒情報や避難勧告に関する議論がなされている。本稿は、この是非も問うつもりはない。
ただし、「こうした自然災害を対岸の火事とどこかで思っている節はないだろうか?」と読者のみなさんに問いかけたい。みなさんは、自分の住む場所、働く場所が、いったいどのような地形にあり、地質にあるかを知っているだろうか?
例えば、土石流は、沢にそって発生する。あなたの近所にそうした沢はないだろうか? また、当然のことながら、水は低きに向かって流れるものである。あなたの今いる場所は、周囲と比べて高い場所なのか、低い場所なのか。通勤・通学に使う道はどうなのか?
地質についてはどうだろう? 自分の足下にはどのような地層が広がっているか。あなたはご存知だろうか? 最寄りの活断層はどこにあるのか。水を含むと崩れやすいのか。あなたの足下は、地震があればゆれやすいのか。東北地方太平洋沖地震の例でいえば、液状化が発生しやすいか否か……。
2014年10月、台風18号の日本列島上陸を伝える朝日新聞デジタル版ニュース
http://www.asahi.com/articles/ASGB565CNGB5TIPE02F.html
そもそも私たちは、自然災害の多い日本列島で暮らしている。この列島には、台風も襲来するし、火山もあるし、地震もある。これらに対する基礎知識を持ち合わせていたいところである。いわゆる「学校の授業」でいえば、すべて「地学」といわれる分野に属する。
しかし、「地学を学んだ」と記憶のある日本国民がどのくらいいるだろう?
残念ながら、それは他の理科3分野ほど多くはあるまい。筆者は大学で地球学科に在籍していたが、高校地学を受講した経験のある同期は半分もいなかったと記憶している。大学の専門学科でさえ、この状況である。
何も大学で地学を学ぶべき、と主張するつもりはない。何も中高の地学で、「もっと災害教育を取り入れるべき」というつもりもない。
しかし、この学問はおざなりにして良いものではないはずだ。人材を育てるうえでも、早期に「地学に興味をもつ」教育体制づくりを国は考えるべきではなかろうか。もし本稿を関係者の方が読んでいてくれるのならば、そのあたりを問いかけたい。いちばん怖いのは、無関心であることである。
すでに教育課程を終えているみなさんには、ぜひ、自分の暮らす範囲だけでも、もっと地学に関心をもってもらいたいと思う。
地形や地質は、地形図や地質図を見ればわかる。そうした地図を片手に、実際に歩いてみるのもの良いだろう。
地形図は書店、地質図は地質調査総合センターのホームページ(https://gbank.gsj.jp/geonavi/)などでも入手は可能だ。地形図も地質図も読み方がわからなければ、それを解説する本や教科書を手にとっても良いかもしれない。
地形図に関しては、国土地理院のホームページ(http://watchizu.gsi.go.jp/riyou/)でも「読み方・使い方」が公開されている。
もし、「地形図や地質図はハードルが高い」という方は、せめてハザードマップだけでも見ておきたい。基本的に「自治体名」と「ハザードマップ」という単語で検索をすれば、お住まいの地域のハザードマップにたどりつくはずだ。国土交通省はポータルサイト(http://disapotal.gsi.go.jp/index.html)を用意しているので、そちらからたどっていってもいい。
また、台風や火山に関する情報は、気象庁のホームページ(台風:http://www.jma.go.jp/jp/typh/ 火山:http://www.jma.go.jp/jp/volcano/info.html や http://www.data.jma.go.jp/svd/vois/data/tokyo/volcano.html)でも入手することができる。
例えば、今回の御嶽山の活動については、9月11日には、レベルの引き上げこそ行われていないものの、火山性地震の観測と注意を呼びかける情報は発表されていた。レベルの判断は人が行うものだが、活動は純然たる事実である。
また、過去の火山活動の歴史もまとめられている。こうした事前情報を「得る事ができる」ということだけでも知って欲しい。……この記事を読まれている、意識の高いあなただけではなく、家族友人知人との日常会話で「そういえば、こういうのがあるのを知ってる?」と展開して、情報の共有を行っていただければと思う。
地域に密着した自然史系の博物館でもさまざまな情報を得る事はできる。博物館のイベントもあるだろうし、最近は「ジオパーク」という地域密着型の活動も増えている。まずは、関心をもつこと。「喉元をすぎる前に」ぜひ、何か一つでもアクションを行うことをおすすめしたい。
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サイエンスライター。2003年、金沢大学大学院自然科学研究科博士前期課程修了。専門は地質学、古生物学。その後、科学雑誌『Nweton』編集部勤務を経て、現在は「オフィス ジオパオレント」代表。専門家への取材と、資料に基づく、科学的でわかりやすい記事に定評がある。(著者近影は、柴田竜一写真事務所の撮影による)
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