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ジセダイ総研

ハリルホジッチ氏記者会見から見えた悲しき真相

五百蔵容
2018年04月27日 更新
ハリルホジッチ氏記者会見から見えた悲しき真相

 本日(2018年4月27日)、東京・霞が関の日本記者クラブにて、前サッカー日本代表監督ヴァイッド・ハリルホジッチ氏が記者会見を開きました。解任後はじめて、日本の公の場で発言の機会を持ったことになります。

 我々はこの会見をどう受け止め、今後何を追求していかなければならないのでしょうか。

コミュニケーション不足だったのはハリル氏ではなくJFA

記者会見に臨むハリルホジッチ氏(撮影:五百蔵容)


 予定時間を大幅に延長しつつ語られたハリルホジッチの言葉から見えてきたのは、解任理由として日本サッカー協会(JFA)の田嶋幸三会長が挙げていた「コミュニケーション不足」の存在が、図らずも裏付けられたということでした。 

 ただしそれは、田嶋会長が言うような監督と選手のコミュニケーション不足などではなく、「監督とJFAのコミュニケーション不足」だったのですが。

 会見中ハリルホジッチは、日本代表監督として初めてJFAハウスにオフィスを構えて選手への門戸を開き、海外組の選手とはこまめに電話でやりとりするといった具体的な施策とともに、選手とのコミュニケーションにまったく問題はなかったとしきりに強調していました。

 選手のみならず、裏方を支えるスタッフの仕事についても「完璧」だったと振り返っており、彼らとの意思疎通にも不都合はなかったことが窺えます。

 ハリルホジッチは選手やスタッフとコミュニケーションを図るための努力を惜しんでおらず、田嶋氏が指摘した「コミュニケーションが多少薄れてきた」という認識は持ちえなかったことでしょう。

 方や、JFA、とりわけ監督をサポートする役割にあった技術委員会については、コミュニケーション上怠慢があったと言わざるをえません。それは、ハリルホジッチが会見で「田嶋会長や西野技術委員長から、代表チームに問題があると言われたことは一度もなかった」「田嶋会長は技術委員会としても努力してきたと言っていたが、そもそも技術委員会が機能していたことすら知らなかった」という趣旨の発言をしていたことからも明らかです。

 技術委員会の責任者である技術委員長にはもともと、霜田正浩氏(現レノファ山口FC監督)が就いていました。ハリルホジッチを招聘したのも霜田氏です。後述しますが、霜田体制下ではハリルホジッチへのサポートも十全に行われていました。

 ところが、田嶋氏が会長に就任したのをきっかけに、霜田氏には「ナショナルチームダイレクター」という新設の肩書が与えられて実質的に降格させられ、技術委員長のポストには現代表監督の西野朗氏が収まりました。

 ひとつのプロジェクトに対して責任者が二人という、一般企業ではまずありえない人事が行われたのです。満足な働きをさせてもらえなくなった霜田氏は、代表チーム成熟への確信を待って、JFAを辞します。

 霜田氏が技術委員長の職にあった間は、ハリルホジッチは彼をベンチにまで入れ、密にコミュニケーションをとっていました。霜田氏もそれに応えており、ハリルホジッチの厳しい言葉の真意をゆがめることなく、選手との間の橋渡しもしていたことがわかっています。

 おそらく、ハリルホジッチとJFAとの「コミュニケーション不足」が発生するようになったのは、西野体制に代わって以降のことではないでしょうか。

 問題が起こっている、あるいは起こりそうなら、事前に申し送りをする。業務上、至極当然のコミュニケーションです。ましてや今回のケースでは、監督を替えなければならないほどの問題です。そんな初歩的なコミュニケーションが、国を代表する一大プロジェクトにおいてまったく行われていなかったというのです。

 会見では、1〜2名の選手が不満を抱いていたようだというハリルホジッチの推測も述べられました。この件については今後、メディアでもセンセーショナルに書き立てられるかもしれませんが、しかしこれも本来、技術委員会が間に立って吸収すべき事柄です。

 西野氏は試合やトレーニングに帯同しても「よかった」としか言わなかったそうですが、それはハリルホジッチの戦略・戦術への解像度が足りていなかったことの証左でもあります。西野氏以下、技術委員会の面々も同様だったと思われます。

 たとえば、国内組の体脂肪率が、ハリルホジッチの求める基準にいつまでも達しなかったという問題。無論、選手の意識の低さも問題視されるべきです。ですがそれ以前に、技術委員会は、体脂肪率を下げることの必要性を認識して各クラブや選手との橋渡しを行うべきではなかったでしょうか。

 けれども、その形跡、少なくともあるべき努力が払われた形跡はみられません。2017年末のE-1選手権でも、数多くの国内組が監督の要望を満たせていなかったのですから。橋渡しをすべき技術委員会が、「ハリルのサッカー」と「体脂肪率」の分かちがたい関係を理解できていなかった可能性が高いのです。

 あるいは、ハリルホジッチが「日本人には合わない」「縦に速い」サッカーを志向したために、選手から不満が噴出していたということは、たびたび話題に上がっていました。

 ところが、ハリルホジッチの発言に耳を傾け、意図を汲み取ろうとしていれば、「縦に速い」とはただの一度も言っていないことがわかります。そしてそれがわかっていれば、選手の誤解に対して技術委員会が働きかけることもできていたのではないでしょうか。けれども、西野監督の就任会見を見ても、「ハリルは縦に速くと言っていたが」といった雑な理解から少しも解像度を上げられていなかったことがわかります。

 繰り返しになりますが、指弾されるべきは監督と選手の、あるいは監督から選手のコミュニケーション不足などではなく、JFA・技術委員会の側の怠慢です。



敗れたベルギー戦はなぜ「完璧な試合」だった?

 会見において、昨年11月に行われたベルギー戦を、0-1で敗れたにもかかわらず「完璧な試合だった」とハリルホジッチが評していたことは、コアなサッカーファンにとっては少々意外に映ったかもしれません。

 この理由を紐解くことは、ハリルホジッチの思考を理解し、彼がW杯本戦に向けて用意していたプランを探るうえでも重要だと思われます。

 いったいどのような理路をたどり、ベルギー戦に対してあのような高評価がアウトプットされるに至ったのでしょうか。

 この試合は、ベルギー代表の戦術的な構造(5バック+2DH or 3CH)と日本の狙いとが噛み合うことで、全体の90%近くが膠着状態にあったと言えるものでした。

 その膠着状態下、90分の戦いにおいて2〜3回は作り出せるであろうチャンスをものにすることで紙一重の勝負を切り抜ける。それがハリルホジッチの意図でした。この戦略はおそらく、戦力で日本を上回る国々と本大会で対峙する際にもベースとなったはずです。

 試合自体は、FW大迫勇也が決定機を決めきれず、逆に日本が構造上抱える問題点をベルギーに一度突かれたことで失点し敗れます。

 この問題点の詳細は拙近著『砕かれたハリルホジッチ・プラン』に譲りますが、端的に言えば、中盤の3人(3CH)が相手選手についていきがちなため、本来の持ち場から容易く釣り出されてしまうということです。

 とはいえその点はハリルホジッチも織り込み済みで、あえて放置していたように見受けられます(3月のウクライナ戦も同様)。本番では修正してきたでしょう。

 さらにロシアW杯では、日本がグループステージを勝ち抜いた場合、ベスト16でベルギーあるいはイングランドと対戦する可能性が高い組み合わせになっています。

 ベルギーが採用しているやり方は、選手たちの評判は悪く「守備的でつまらない」ものではありますが、デ・ブライネらのタレントを活かしつつリスクを軽減するものであり、一発勝負のトーナメントを着実に勝ち上がっていくうえでは合理的なものです。そのため、この日本戦から強度を上げこそすれ、戦い方を急に変えてくることはないと考えます。

 つまり、W杯ベスト16でベルギーと当たった場合、前述の問題点をクリアできていれば、たとえ得点を奪えなかったとしても0-0からPK戦に持ち込めたり、1-0でかわしきるといった展開に持ち込めたりする公算が高い......。

 以上のような、本大会を勝ち進むことを見据えた戦略上、そして試合における戦術上おおむね目論んでいた通りの試合運びができたため、ハリルホジッチにとってベルギー戦は「完璧な試合」だったのでしょう。

 もっとも私見では、この戦い方だけでは引き分けられても勝てるかどうかわからない、すなわちグループステージをトータル勝ち点3(=3引き分け)で終えてしまうおそれがあると考えていました。グループステージ突破のためには最低1勝を挙げる必要がありますが、「確実な1勝」を見込める戦い方ではありません。

 したがって、現時点でベルギー戦を「完璧」と言い切ることには疑問もあり、その分ハリルホジッチが「勝ちに行く」手段をどう仕込んでくるか大いに楽しみにしていたのですが、その答えを見ることは永遠に適わなくなってしまいました。



「日本の永遠のサポーター」との理不尽な別れ

 これだけの仕打ちを受けたにもかかわらず、日本や熊本への感謝を述べ、「私は日本の永遠のサポーター」とさえ言ってみせたハリルホジッチ。

 彼が単なる「お雇い外国人」ではなく、本気で日本サッカーを強くしようとしていた(いずれにせよ任期が切れていたであろうロシアW杯以降のことをも見据え、強化指針を残すことさえしていました)ことは、折々の発言に触れていれば容易にわかります。

 ハリルホジッチとW杯を戦うことができていれば、そして退任後もこの「日本の永遠のサポーター」と良好な緊張関係を持ち続けることができていれば、日本のサッカーにとってどれだけの財産をもたらしたことかと、悔やまれてなりません。そのことを改めて痛感した1時間半の会見でした。



■志半ばでW杯への道を絶たれたハリルホジッチ。彼はいかに戦い、日本サッカーに何を残したのか。解任に正当性はあったのか......本稿の著者・五百蔵容氏が徹底分析する『砕かれたハリルホジッチ・プラン 日本サッカーにビジョンはあるか?』(星海社新書)は、5月25日ごろより発売開始です。

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サッカー分析家、シナリオライター、プランナー。1969年横浜市生まれ。早稲田大学第一文学部を卒業後、株式会社セガ・エンタープライゼス(現株式会社セガゲームス)に入社。プランナー、シナリオライター、ディレクターとして様々なタイトルの開発に携わる。2006年に独立・起業し、有限会社スタジオモナドを設立。ゲームを中心とした企画・シナリオ制作を行うかたわら、『VICTORY SPORTS』『footballista』などにサッカー分析記事を寄稿する。そのサッカーだけにとどまらない該博な知識とユニークな視点に裏打ちされた論考は、サッカーという競技の本質をつくものとして高い評価を集めている。

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