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ジセダイ総研

コンテナハウスの生活 シリア難民一家との交流

タイナカジュンペイ
2016年03月28日 更新
コンテナハウスの生活 シリア難民一家との交流

 2016年は、ドイツ国民にとっても、ドイツに逃れてきた難民たちにとってもいい幕開けではなかった。

 前回の記事でもお伝えしたとおり、ケルンで大晦日から元旦にかけて起こった女性への集団暴行事件は難民問題に対してネガティブなセンセーションを起こした。以降、難民問題に対してネガティブな印象を与えるような報道が増え、メルケル首相の支持率もやや低下した。

 ケルンの事件が、今後の難民問題に暗い影を落としたことは間違いない。

 そんな暗い雰囲気が立ちこめるなか、私はシリア難民の家族が住まう、ハンブルク市内のコンテナハウス(一種の仮設住宅。参考記事)を訪ねた。

 今回は、コンテナハウスに暮らす難民一家の生活をレポートする。

 

ヨーロッパ中からかき集められるコンテナハウス

 

 今回伺ったコンテナハウスは、ハンブルク市内の北部に位置し、地下鉄の駅やショッピングセンター、商店がならぶ通りにほど近い。着工は昨年の8月すぎで、11月から受け入れが始まったそうだ。このコンテナハウスは家族連れが多く暮らしており、優先的に振り分けられているようだ。

 コンテナにはメーカー名が記載されている。このコンテナハウスはポーランドの会社製のものだった。単一のメーカーのものや、似た規格に統一されているわけではなく、ヨーロッパ中からコンテナハウスをかき集めていることがわかる。

 

  敷地内には、建設途中の遊具が放置されていた。想定をはるかに超える数の難民が流入したため、こういった遊具類は後回しになっているようだ。

 

家族向けのコンテナハウス

 今回取材させてもらったのは、シリアから避難してきたムハンマドさん一家だ。

 ムハンマドさん一家は、私の知人である日本人女性Aさんと、昨年末から近所付き合いという形で交流がはじまったそうだ。今回、私はAさんに同行する形で取材させてもらった。

 コンテナハウスに入るのははじめてだ。内部はダイニングに相当する部屋、トイレとシャワールーム、寝室と複数の部屋にわかれている。キッチンの水道からはお湯が出るし、電気コンロや冷蔵庫、オーブンもある。食器や調理器具も支給されており、暖房設備もしっかりしている。シリアより厳しいドイツの冬も、問題なく過ごせているという。

 寝室には二段ベッドがあった。他にも、クローゼット、机、ぬいぐるみ、カバン、ブラウン管テレビなどなど、実際に使うかどうかはともかく、様々な物品が支給されていた。

 機能的にも広さ的にも、家族で暮らすのに問題ないように思えた。

 

ムハンマドさん一家との交流

 ムハンマドさん一家は5人家族だ。父であるムハンマドさん(Mohamad Sahyuni)、その妻Thanaaさん、子供は3人いて、長女のMaya(12歳)、次女のShahd(9歳)、そして末っ子で長男のSouhil(4歳)。

 このコンテナハウスに入居したのは、昨年11月のことだという。コンテナハウスへの受け入れ開始直後のことだ。

 一家は5人家族だが、現在ここに住んでいるのは、ムハンマドさんを除く4名(ムハンマドさんの妻と子供3人)だ。ムハンマドさんは現在、レバノンでレストランの料理人として働いており、時折家族に会いにドイツを訪問している。

 つまり、この一家のうち、難民申請をしているのはムハンマドさんを除く4人ということになる。ドイツ国内の難民たちの中では、先に父親だけが、あるいは父親を除く家族だけが難民として逃れてくるというケースも多い。ムハンマドさん一家の場合、シリア国外で働いていたため、シリアにいた家族だけがドイツに避難した……というわけだ。

 ムハンマドさん一家は、A氏と私を快く迎えてくれたが、とにかくコミュニケーションが大変だった。私たち日本人2名はアラビア語やトルコ語がほぼできず、ムハンマドさんは英語が少しできるが、家族の他の面々は、日本語はもちろん、英語やドイツ語がほとんどわからない。お互いに知っている単語を駆使して、少しずつ会話が成立しだすと、一気に場が和んだ。

 また、驚いたのは長女のMayaだ。彼女はコンテナハウスに入居してから学校に通うようになり、毎日ドイツ語を勉強しているという。まだごく短い期間なので語彙は少ないものの、知っている語彙を駆使してドイツ語で会話することができた。また、ドイツ語でなんと言うか分からない場合、スマホの翻訳アプリでアラビア語から訳して見せてくれた。

 彼女の姿からは、半年、一年後には、不自由なくドイツ語で会話をしている姿が容易に想像できた。

 

難民一家の食卓

 私たちがうかがった時間はお昼過ぎだった。

 なんとか会話も成立しだして場も和んだところで、料理人であるムハンマドさんが腕を振るい、シリア料理をごちそうしてくれることになった。

 ムハンマドさんに「料理はどこで修行したんですか?」と聞くと「シリアとスペインだよ」という答えだった。そして、会話しながらも、器用に食材でバラをつくって見せてくれる。

 

 料理をつくっている父親の後ろ姿を見ながら、子供たちがスマホに入っている料理の写真を誇らしげに見せてくれた。

 タマネギ、パセリ、キュウリなどを細かく刻み、ブルガ(挽き割り小麦)とともにオリーブオイルやレモン汁などで和える。それをレタスの上に盛りつけて……できあがったのは「タブッレ」というサラダだった。

 タブッレはさっぱりした味で、結構な量があったが美味しく平らげることができた。

 


コンテナハウス内の治安

 食事をしながら伺ったところによると、ムハンマドさんがレバノンで働くようになったのは、ISによってシリア国内の戦闘が激化したためだという。以降も情勢がどんどん悪化したため、昨年9月には家族をドイツに避難させることにした。

 一家はその後、11月にはこのコンテナハウスに入居することができ、ムハンマドさんはレバノンに戻った(その後はドイツとの間を往復している)。

 これらの経緯からすると、ムハンマドさん一家はかなり恵まれたケースと言っていいだろう。家族全員が無事に国外に脱出でき、職があり、住居の心配もない。さらに、その住居も家族用のものが割り当てられている。

 報道によると、最近、コンテナハウスでのレイプ事件が多発しているという。たとえば、『ヴェルト』紙に掲載された記事によると、共同トイレやシャワーなどで事件が発生することが多いという。

 つまり、家族用のコンテナハウスであれば、トイレもシャワーも専用のものがあり、安心して使用できるということだ。

 

難民たちに与えられた「3年」という時間

 しかし、いかにムハンマドさん一家が幸運なケースだったとはいえ、それは幸せとはまた別のものだ。

 故国から離れざるを得ない状況になったことで、ムハンマドさん一家の生活は激変を余儀なくされ。家族が揃って暮らすこともできない。

 

 これは難民などの受け入れに際し、許可された場合に発行されるドイツの特別パスポートである。このパスポートを持っていれば、自国へ荷物を取りに戻ることもできるそうだ。

 パスポートに加え、居住者カードも発行されている。見比べてみたが、私が持っているものと特に違いはなかった。最初は、まず3年の居住が認められる。

 シリア情勢が安定すれば、難民たちは帰国を希望するだろう。しかし、その行く先はきわめて不透明だ。

 だとすれば、他国で生きていくしかない。

 ムハンマドさんも、いずれはドイツ国内で仕事を見つけ、コンテナハウスを出て普通の住宅で暮らしたいと考えているという。ただし、配布される書類はすべてドイツ語で書かれており、理解するのが難しいと言っていた。

 イスラーム世界の慣習もあり、難民一家の母親が外に出ることは稀だそうだ。ムハンマドさんの妻も、あまり外に出ることはないという。英語が少しできるムハンマドさんがいない時は、さぞかし不安で不便だろう。

 ただし、女性でも、まだヒジャブをつけていない子供たちは、元気に外で動き回ることが可能だ。

 彼らには、ひとまず3年の時間がある。

 めざましい勢いでドイツ語を習得している長女のMayaを筆頭に、3年あれば子供たちはすっかり環境に適応してしまうだろう。

 あるいは彼女たちは、将来的にはドイツ国内における新しい労働力となっていく可能性もある。

 とはいえ、国内感情や大量流入による治安への懸念、受け入れ先や雇用の確保など、挙げていけばきりがないほどネガティブな要素も多い。ビザが発給されたとはいえ、彼ら難民は私のような移民と条件がまったく異なるのだ。

 難民たちが本当の意味でスタートラインに立てるのか、3年という期間に、受け入れる側もそれらの課題を解決していかねばならない。

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ライターの紹介

タイナカジュンペイ

タイナカジュンペイ

1982年生まれ。写真家。都市写真・ポートレートを得意とし、「Metropolis/メトロポリス」をテーマに都市の有り様を撮り続けている。2013年よりドイツ・ハンブルク在住。

ブログ:https://www.facebook.com/tainaka.jumpei

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ジセダイ総研 研究員

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