昨年の大晦日から元旦にかけて、ドイツのケルンで起きた、大規模な窃盗・痴漢・レイプ事件。この事件は、ドイツ国内での移民に対する不信感を、一気にあおる結果となった。
これまで、どちらかと言えば移民受け入れに積極的だった世論は一気に冷え込み、女性たちは護身用のペッパースプレーを買いあさっている。
しかし、昨年だけで110万人もの難民を受け入れたドイツにおいて、彼らはもはや「隣人」になろうとしている。
新たな隣人への不信感でゆれるドイツは、この先どこにいくのかを考えてみたい。
2015年から2016年へ、年が変わるその夜に、ケルンで事件は起きた。
ドイツでは、大晦日は「ジルベスター」と呼ばれ、市民は街に出て酒を飲み、花火を上げ、新年を祝う。日本の大晦日は、家族でゆっくりと過ごす静かなものだが、ドイツの大晦日は賑やかで騒々しく、場所によっては危険もはらむ。例年、大晦日の街では、何かしらトラブルが起きている。
しかし、今年の事件は、例年起こっているようなトラブルとはまったく種類の違うものだ。1000人もの若い外国籍の男たちが酔っ払い、女性に対し、盗難、痴漢濃行為、そしてレイプにまで及んだのだ。2016年1月10日の時点で被害届は516件にものぼり、女性たちの怒りの声や、パートナーを守り切れなかった男性の悲痛な声は、日本国内でも報道されるところだ。
しかし、この事件は1月4日の夜まで報道されなかった。そのため、ケルン警察が情報を隠蔽していたのではないかとドイツ国民は不信感を募らせた。そして、報道の直後から、「犯人は難民ではないか?」と、難民に対する不信感がわき起こることになった。
実際、現在取調中の容疑者は、主に難民ステータスを申請している人々だ。モロッコ人とアルジェリア人が多く、その他にアルバニア、モンテネグロ、コソボ、セルビア、シリア、イラク、アフガニスタンの人々もいる。難民を積極的に受け入れてきたドイツにとって、最悪の事件と言ってもいいだろう。
この事実は、難民政策への反発という形で表面化している。1月9日に行われたケルンの事件への抗議デモは、参加者約1700人と小規模なものだったが、そのうち約500人がPegida(Patriotischen Europäer gegen die Islamisierung des Abendlandes)つまり「国内のイスラム化を反対する愛国者たち」の団体の支持者だった。
大晦日にはケルンだけでなく、ハンブルクやシュトゥットガルトなどの都市でも、小規模ながらも同様の事件が起きている。こういった事件を皮切りに、今後国内の反イスラム的勢力が支持を拡大していく可能性がある。
今のところ、難民に対して過激な反対運動を展開する人々は、ドイツ国内でも少数派である。
とはいえ、ケルンでの事件は難民に対する警戒感をもたらしたことは間違いない。その証拠として、事件が報道された直後から、ある商品が異常な売れ行きを示している。
その商品というのが、「ペッパー(唐辛子)スプレー」だ。ペッパースプレーは催涙スプレーの一種で、護身用として購入されている。Googleの検索ワードや、Amazonのベストセラーランキングで異常な数値を示しており、このことは国内の新聞でも採り上げられた。メーカーによっては、通常時の700%の売れ行きだという。
パリで起きた同時多発テロ事件(2015年11月13日)の直後にも一時話題となったが、今回の売れ行きはそれをはるかにしのいでる。最近では、「実際に人間に使用したらどうなるのか」を示した動画がSNSなどで回ってくるようにもなった。
人に使用したらどうなるのか。この動画がSNSで拡散している。
護身用の商品では、他にもスタンガンや警報ベルなどが売れており、過激な反対運動には参加しないものの、ドイツの(特に)女性たちが難民に不信感を持っていることがわかる。
ちなみに、ペッパースプレーは対人使用が禁じられており、人間に対して使用した場合は2000ユーロ(約26万円)の罰金が科せられる。それでも購入する人が後を絶たないのは、襲われるくらいなら罰金を払った方がマシ、と考える人が多いのだろう。
しかし、ペッパースプレーなどの護身用グッズで目の前の危機は回避できたとしても、難民問題が解決するわけではない。
多くのドイツ人によってペッパースプレーが購入されている。
グーグルのトレンドサーチのグラフ
ペッパースプレーには幾つかのメーカーがある。
ドイツは、2015年だけで110万人に及ぶ難民を受け入れた。2013、4年の合計が37万人だから、国内には約150万人もの難民がいることになる。
対するドイツの人口は約8000万人。難民受け入れに賛成であれ反対であれ(或いは無関心であれ)、既に彼らの姿は日常に溶け込みつつある。
隣に難民が越してきた、近所にコンテナハウスが建てられた、子供と同じ学校に転入してきた……などなど、いかに不信感を持ったとしても、彼らを完全に避けて生活することは難しい。
現在ドイツでは、難民の受け入れを拒否はしていない。しかし、ハンブルクでも難民受け入れのためのインフォメーションやテントは、現在たたまれた状態になっている。駅に行っても、到着したばかりの難民を見かけることはほとんどなくなった。
これは、現在ドイツに逃れてくる難民の数が減っていることが理由のようだ。おそらくは季節的なものだろう。ドイツの冬は厳しいからだ。そして、春になればまた、難民の数は増加するだろう。
不信感が高まった状態のまま春を迎えるのか? 国民感情が落ち着き、事件前のように積極的受け入れに支持が集まるのか? 或いは、ケルンの事件をこえるような、悪い事件が起こってしまうのか?
国内の世論調査では、極右政党が支持を伸ばしている。また、インターネットニュースのコメント欄には、心ないコメントが並んいる(日本と同じだ)。
春以降も受け入れを続けた場合、トルコ系移民の250万人に匹敵する数字になることも充分ありうる。このまま、難民への不信が、移民排斥につながれば、ドイツ社会にとってあらゆる意味で不利益になるだろう。
難民の流入が再び増加する春までが、ドイツにとって正念場になるだろう。罪を犯した難民たちにも問題があるのは当然のことだが、難民たちが不満をため込まないような努力も必要だろう。メルケル首相と政権がいかなる政治的判断をし、加えて新たな事件の発生を防ぐことができるのか。そしてドイツ国民が、過激な難民・移民排斥へと舵を切らず、ペッパースプレーを捨てることができるのか。ドイツは今、正念場の冬を迎えている。
難民たちへのインフォメーションが中央駅に設けられていたが、現在はなくなっている。
受け入れまでの間に配給などがされるキャンプがあった場所だが、こちらもなくなっている。
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タイナカジュンペイ
1982年生まれ。写真家。都市写真・ポートレートを得意とし、「Metropolis/メトロポリス」をテーマに都市の有り様を撮り続けている。2013年よりドイツ・ハンブルク在住。
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