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ジセダイ総研

F-35戦闘機導入に武器輸出三原則見直しが必要だったワケ

石動竜仁
2016年01月06日 更新
F-35戦闘機導入に武器輸出三原則見直しが必要だったワケ

 2015年を象徴する漢字に「安」が選ばれるなど、2015年は安全保障関連法制を始めとする安全保障問題に揺れた年であった。
 その2015年も暮れに差し掛かった12月15日、航空自衛隊の次期戦闘機であるF-35の組み立てが日本国内で開始されたと、アメリカ空軍が発表した。
 F-35の導入を巡っては、製造から運用に至る様々な面で壁があった。F-35導入を巡る政権の動きは、近年進められた安全保障政策の転換と無縁ではない。
 一兵器に過ぎないF-35が、なぜ政策の転換を促す要因になり得たのか。国産(組み立て)F-35の完成を前に、F-35の開発・製造・運用における制度的特色から、どのような面が日本の安全保障に影響を与えたのかについて振り返りを行いたい。

国際共同開発(仮)F-35

 第5世代ジェット戦闘機F-35の開発は、1990年代に統合打撃戦闘機(JSF)計画として始まった。
 アメリカの空軍、海軍、海兵隊がそれぞれ別個に採用していた戦闘機・攻撃機を1機種とその派生型に統合する計画で、2社による競争試作の結果、ロッキード・マーティン社のX-35(後のF-35) が採用された。
 これまでに空軍向けの通常離着陸型のF-35A、海兵隊向けの垂直離着陸型F-35B、海軍向けの空母艦載型F-35Cの3タイプが開発されており、航空自衛隊が採用を予定しているのはF-35Aとなる。

アメリカ空軍のF-35A


 F-35は国際共同開発の形をとっているが、実質アメリカ一国が開発を主導している。パートナー国は出資額に応じて、仕様決定における発言権や、情報へのアクセス権が与えられる仕組みだ。
 F-35の開発では、イギリスやイタリアなどの8カ国がJSFコンソーシアム加盟国として開発パートナーとなっている。日本はアメリカ製戦闘機の大口ユーザーで、F-35の有力な導入候補国でもあったが、武器輸出三原則の絡みもありコンソーシアムに加盟していない。結果、導入が決まった今でも日本がアクセス出来ない情報があるとされている。

 

 

 前述の通り、日本は国内向けのF-35の組み立てを自国で行う。この工程はFACO(最終組立・検査)と呼ばれ、アメリカ以外でF-35のFACOを実施出来る施設はイタリアと日本にしかない。FACOでは主翼や胴体などの各パーツを組み立てる他、所定のステルス性能を試験することで、F-35の品質担保に欠かせない工程だ。

 運用管理の面でも、FACO施設はステルス性能の維持に欠かせない。イタリアのFACO施設は欧州・地中海地域におけるF-35運用のハブとなる。同様に日本のFACO施設もアジア・太平洋地域のハブとなると見られており、非パートナー国としては破格の待遇であると言える。
 しかし、先行して稼働しているイタリアのFACO施設では、重要な作業にイタリア企業が携われずに不満を持っていると伝えられている。日本のFACOでも同様の事態が生じると思われるが、開発パートナーであるイタリアでもこの状況だと、日本はイタリア以上にF-35製造の中核から排除される可能性も否定出来ない。

 

恒常的な「武器輸出」が必要なF-35

 F-35は、運用を支えるシステムでも新たな手法が取られている。
 ALGS(Autonomic Logistics Global Sustainment)と呼ばれる後方支援システムがそれで、一言で表すと、F-35のための世界的なサプライチェーンとなる。
 従来の戦闘機の取得コストを1とすれば、戦闘機の就役期間中に要する維持コストは2かかると言われていた。F-35は40年から50年もの長期に渡る運用が予想されており、維持コストの低減は重要な課題であった。そこでALGSにより、取得コスト比で1とする事を目指している。

 自国で戦闘機を生産・運用する場合、従来は一国でサプライチェーンを構築したため、高コスト化の要因となっていた。
 ALGSでは全世界の部品一つ一つに管理IDが振られ、アメリカ管理下でF-35ユーザー国同士で部品が融通される仕組みが構築され、グローバルに生産され、ストックされた部品は、頻繁に国々を跨いだやり取りが行われる。イギリスで生産された部品が日本に送られる事もあれば、日本で生産された部品がノルウェーに送られる事も当然あり得る。それも頻繁にだ。

 

ALGSイメージ図(平成25年度防衛白書より)

 

 グローバルな供給管理システムであるALGSの理念からすれば、日本製部品だけ例外はあり得ない。このため、従来の武器輸出三原則の下では、武器輸出と看做される部品の国外移動を伴うALGSへの参画は事実上不可能となる。
 安倍内閣は2013年3月の「F-35の製造等に係る国内企業の参画についての内閣官房長官談話」にて、F-35の部品は三原則の例外とする事でこれを解決した。

 しかし、F-35のような国際共同開発・供給管理の形態を取る装備品開発の流れは、各国の防衛予算抑制の動きから今後もさらに強まる可能性が高い。
 また、平和維持活動や国際協力でも装備品の移動が伴う事もあり、個別の例外化では機動的な運用が出来ないことや、決まったルールが無い例外化の手続きが複雑化している事が問題となっていた。
 そのため、2014年4月に閣議決定された防衛装備移転三原則では、装備品移転にあたってのルールを策定し、代わりに例外化は認めない方向に転換した。

 

代替案無しの綱渡りの日本(と”西側”)

 戦闘機一つ導入するのに、ここまで政策変更を要するのも大げさかもしれない。しかし、そこまでする必要があった、と思う。

 現状、西側(古い言い方だ)の第5世代戦闘機開発計画はF-35しか無い。既に実戦配備されているF-22は、生産完了でラインが閉じている。
 とすると、”西側”で導入できる第5世代戦闘機は、F-35を置いて他にない。F-35一本の"西側"に対し、"東側"では、ロシアのT-50、中国のJ-20、J-31と3機種も第5世代機の開発が進められている。
 近い将来配備されるこれらの第5世代機により、第4世代等の従来機は陳腐化が避けられない。日本が政策変更を伴うF-35を選んだのは、代替案無き選択だったと言える。

 

ロシアで開発中の第5世代戦闘機T-50(撮影:Alex Beltyukov

 

 もっとも、代替案が無いのは”西側”共通だ。2014年のAFPの報道によれば、F-35の開発費は予定を1,670億ドル超過している。
 それでも計画が見直されないのは、戦闘機から攻撃機に至るまで次世代機をF-35に一本化しており、F-35計画の破綻はそれらの後継計画の破綻だからだ。選択可能な第5世代機がF-35しか無い以上、”西側”は付き合わざるをえない。技術の高度化と開発費高騰により、一級の戦闘機を開発出来る国は僅かしか無い。
 この理不尽は、大国による技術の独占が背景にある。

 

次をどうするか

 F-35配備もまだだが、早くもF-35の次を見据えた話が出つつある。

 大きく報じられているのでご存知の方も多いと思われるが、防衛省では将来戦闘機研究のための先進技術実証機(ATD-X)を製作し、今年の初飛行を予定している。ATD-Xを初めとした将来戦闘機研究は平成30年度までにほぼ出揃い、この成果を元に”次”の戦闘機の方針を決める予定である。
 しかし、日本単独で戦闘機開発をするとは考えにくく、ATD-Xの成果を持って、いずれ立ち上がる国際共同開発計画、あるいはF-35改善計画に参画するものと見られる。すると、先の防衛装備移転三原則が生きてくる。

 戦闘機ひとつとっても、それが政策の焦点と成り得るだけの問題を秘めていた事が分かる。今後「ジセダイ総研」での記事は、このような時事問題の背景としての軍事を中心にお伝えしたい。

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ライターの紹介

石動竜仁

石動竜仁

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IT系企業に勤める傍ら、2008年から「Dragoner」名義で軍事関係ブログを始める。2010年にTwitterを開始、多くのフォロワーを持つ人気アカウントとなり、2013年から本格的にライター業を始める。現在は、個人ブログだけでなく、「Yahoo!ニュース個人」でも、一般向けに軍事問題の時事解説を行っている。

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ジセダイ総研 研究員

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