習近平が総書記に就任して3年が経過した。政権発足と同時に始まった汚職摘発は、最大のターゲットと目されていた周永康に無期懲役判決を食らわせたが、一向に収束する気配はない。
習政権のターゲットは、身内の党員や官僚だけにとどまらない。知識人、報道やネット、少数民族と、全方位への締め付けが強化されているのが現状だ。
対外政策に目を転じれば、日中関係はひとまず改善する気配を見せているものの、南シナ海では人工島の建設を押し進め、緊張が高まっている。
胡錦濤時代から一転したかのように、強行策を展開する習政権は、隣国である日本にとっても厄介な存在だ。
しかし、中国の指導者には厳格な定年制がある。これに従えば、習近平は2022年の党大会で総書記の座を後任に譲ることとなる。つまり、あと7年弱ほど我慢すれば、習近平は自動的に引退することになる……というわけだ。
だが、そうは問屋が卸さない……という可能性が出てきている。ここ1年ほど、習近平の任期延長を求める声が漏れ伝わってきているのだ。仮にこの任期延長が実現すれば、少なくとも2027年まで留まることになるかもしれない。
そうなれば、我々は習近平とあと12年近くも付き合わねばならないことになる。定年は延長されてしまうのか? そして、定年延長を求める声は、どのような事情から出てきたものなのか?
そのキーワードは「紅二代」である。いま、中国共産党内部で起きている、世代の相克を見ていこう。
2015年11月に開かれた第18期五中全会(共産党のトップ400人が集まって重要政策を討論する会議)の直前、習近平の腹心である王岐山の留任を支持する提案が出された。この提案には、トップ400人のうち60人近くが署名したという。
王岐山は、中国共産党の最高指導部である常務委員会のメンバー7人のなかで、習近平と50年来の付き合いがあり、もっとも信頼が厚い人物だ。
王岐山は、習政権発足と同時に、汚職摘発を行う中央紀律検査委員会(中紀委)の長たる書記に抜擢され、これまでに閣僚級を80人以上摘発している。いわば、習近平政権による汚職摘発キャンペーンの切り込み隊長だ。
署名の提出とほぼ同時期に、中紀委の機関紙である『中国紀検観察報』は、「仕事をする体力、能力、やる気が残っているのであれば、紀律検査機関トップの任期延長は可能だ」といった趣旨の記事を掲載した。まるで、王の定年延長は規定路線であるかのような論調である。
常務委員の定年は、選出が行われる党大会の時点で67歳以下でなければならない。これが中国の定年制である。次の党大会が開かれるのは2017年11月だが、1948年生まれの王は69歳だから定年制に引っかかってしまう。党員摘発の大権を持つ中紀委書記が任期途中に入れ替わるのは、習近平の政権運営にとって、決してプラスとはいえない。少なくとも、王岐山のように全幅の信頼を置ける人間は他にいない。
まず王岐山の定年問題をクリアするため、2017年の党大会で定年を69歳に引き上げ、さらに自身の定年に関わる2022年の党大会で70歳と段階的に定年を引き上げることは、ありえない話ではない。
中国共産党は毛沢東、鄧小平が指導者を務めたあと、鄧小平が抜擢した胡耀邦、趙紫陽に引き継がれるかに見えた。しかし、彼らはいずれも政治改革で保守派の長老たちと対立し、いずれも解任を余儀なくされた。
趙紫陽の後に総書記に選ばれたのが江沢民、そして胡錦濤だ。いずれも新中国建国には関わっていない世代で、ここではじめて、建国時の創業者から「生え抜き社員」に経営が委ねられた。
その結果、中国は経済発展を遂げたが、それと引き替えに国内には様々な問題が惹起し、党内には腐敗がはびこるようになった。
これを、「雇われ社長の失敗」と見た場合、「創業者一族が再び経営権を持つことは当然」との論理が表面化し、それゆえに、創業者の子供たちにあたる「紅二代」が権力の表舞台に登場することになったのだ。
2006年に撮影された、紅二代の"同窓会"。反党分子として処分された者の子孫も含めて、彼らは定期的にこうして集まっている。(出典)
胡錦濤の後継者レースで常に先頭を走っていた李克強ではなく、紅二代の習近平(父・習仲勲が共産党幹部)が総書記に選ばれたのは、紅二代の代表たる習近平こそが共産党を立て直してくれると思われたからに他ならない。
王岐山の場合、自身は幹部の息子ではないが、妻の父が副総理などを歴任した大物党員で、紅二代の身内だと見なされている。他にも、常務委員の中には兪正声という紅二代も控えている。7人しかいない常務委員会のうち、3人が紅二代なのだ。
しかし、共産党を立て直すと言えば聞こえがいいが、紅二代の利益を守ることこそが習近平に課された至上命題と言ってもいい。
実際、汚職摘発を受けた紅二代は今のところおらず、彼らは不動産、通信、投資ファンドなど大手企業のトップを務めたり、株式を大量に保有し続けている。「紅二代は汚職ばかりする官二代(単なる政府高官のドラ息子)とは違う」と言う紅二代もいるが、彼らが清廉潔白だとは到底思えない。
庶民が喝采を送る習近平の汚職摘発キャンペーンは、極めて恣意的で、当然権力闘争の一部でもあるのだ。
習近平の一族も、清廉潔白とは程遠い。
実際、習近平の実の姉にあたる斉橋橋が、不動産屋ホテル経営などを手がける大連万達グループの株式を保有していたと『ニューヨーク・タイムス』に報じられたこともある。
この時は、グループトップ自ら「(斉夫婦が)巨額の利益を捨ててまで売り払った」と保有を認めた。しかも「習近平の家族への厳しさを証明した」と斉が習の家族であることも認めたことになる。
先日、蓮花味精という中国では有名な調味料メーカーの社外取締役候補に、習銀平という男が挙がった。詳しい経歴を見るまでもなく、習近平の一族の人間であることは名前から明らかだ。取締役に大物党員の血縁を置いておけば、企業は便宜を図ってもらえるし、紅二代側にも公開前の株式を取得出来るなどの見返りがあるだろう。
同社は発表の翌日に銀平を候補から取り下げた。習近平への批判を封じるための素早い処理だったが、いずれの案件も、妻や子供ら家族を厳しく管理しろと常々言っている人間にしては随分と身内に甘い。一般党員なら、単独でも一発アウトになっておかしくない。
習仲勲100生誕年式典の模様。公式非公式を問わず、紅二代たちは定期的に集会を開催し結束を固めている。(出典)
1980年代、文化大革命の失脚から復活したある建国の功臣は、「我々の権力は終身」と言った。この特権意識が世代交代を阻み、現役世代への干渉を当然のものとし、ついに政治改革を頓挫させた。そして、この対立が内戦にまで発展したのが1989年の天安門事件だ。
この失敗から、鄧小平は中途半端になっていた建国の功臣を完全引退させ、国家運営から遠ざけたはずだった。しかし、それから30年近く経過した現在、気がつけば彼らの子世代が実権を握っている。
彼らは確実に中国を巣食っている。習の任期が何年まで延びようが、再び権力が終身化したとしても、自浄作用が働かなければ中国に明るい未来はないだろう。
日本にとっては厄介に思える習近平政権の長期化も、中国にとっては、最大の落とし穴になる可能性も秘めているのだ。
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三木義弘
ブロガー、ライター。「水彩画」名義で、ブログ「中国という隣人」を運営。中国政治が専門。香港紙や海外メディアに過剰に依存せず、新華社、人民日報などの公式情報から独特の視点で中国情勢を読み解く。共産党幹部の葬儀、頭髪事情に日本で最も詳しい。
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