公開中の映画『シン・ゴジラ』が好評らしい。
公開は7月29日だったが、今月25日に星海社から出る拙著『安全保障入門』の作業がクライマックスだったために観に行けず、SNS上で加熱するシンゴジ面白かった話に耐えつつも、校了した8月5日にすぐ観に行き、その評判に違わぬ出来に大変満足した。
『シン・ゴジラ』を観て関心したのは、現在の日本の安全保障や危機管理の制度が丹念に描かれていたことだ。映画については既に様々な評価がなされている。ここでは自分の分野である安全保障に絞り、ネタバレも最小限に抑えるため、初動対処の一部に限定して、シン・ゴジラで描かれた日本の安全保障・危機管理制度について述べていきたい。
ゴジラを始めとする怪獣映画といえば、初代を除くシリーズの多くの作品で、ゴジラなどの怪獣の存在が認知されている世界観で、怪獣に対抗するための組織や兵器が人類側で準備されていることが多い。
しかし、『シン・ゴジラ』では、いきなり現代の日本にゴジラが現れたかのような状況設定がなされている。そのため、ゴジラ出現当初の政府・自治体は、巨大な生物が都市を襲うという想定外の状況の中、災害や事故、テロ、戦争を想定した現行の法制度、組織の枠内でゴジラに立ち向かうことを余儀なくされている。とすると、この映画の序盤は、実際にゴジラが出現したら、というシミュレーションにもなっているのだ。
映画冒頭、東京湾アクアラインで海底トンネルが崩落する。矢口蘭堂内閣官房副長官に、事故の第一報が内閣情報集約センターから伝達され、官邸連絡室の設置、緊急参集チームへの参集指示が行われたことも伝達される。劇中でそれらの用語はほとんど説明されないが、これは実際の首相官邸の危機管理の手順と全く同じだ。
内閣情報調査室の内閣情報集約センターは24時間体制で国内外の重要・緊急情報を収集しており、重大な事故、災害、テロといった緊急事態が発生した場合、ただちに首相、官房長官、官房副長官といった政府要人に速報がなされる。
初動対処の流れ(首相官邸サイトより)
首相官邸地下に設置されている危機管理センター内では、緊急事態に応じて官邸連絡室あるいは対策室が設置される。また、関係する省庁の局長級職員は危機管理センターに参集するよう指示が下り、通常30分以内に緊急参集チームとして協議を開始する。『シン・ゴジラ』は、この官邸における危機管理の初動対処を忠実に再現している。
しかし、この初動対処については、やる手順が決まっている。『シン・ゴジラ』における政府対応描写の真骨頂は、事件が巨大不明生物によるものと判明し、想定外の事態に対して、現行の法律、制度でどこまで対応していくかを模索する過程にあるだろう。
自衛隊しか対処できない状況であるのは明らかだが、防衛出動を命じる要件である武力攻撃は、国家かそれに準じるものを主体として想定しているため、巨大不明生物に対して防衛出動はできないと劇中で議論されている。最終的には、有害鳥獣駆除を目的とした防衛出動命令が行われる。
もっとも、この辺は個人的に疑問が残る点で、有害鳥獣駆除・害獣駆除を目的として、自衛隊に駆除を命じることができるかというと、厳密に法解釈するなら難しいと思われる。有害鳥獣駆除の法的根拠である鳥獣保護法ならびに鳥獣被害防止特措法では、鳥獣の定義について「鳥類又は哺乳類に属する野生動物」と第二条で定められており、防衛出動を定めた自衛隊法第七六条より主体をはっきり定義している。「巨大不明生物は武力攻撃と見做せるか?」と劇中で議論するなら、「巨大不明生物は鳥類・哺乳類と見做せるか?」と議論してもよかったんじゃないかと思うが、その光景はかなり滑稽な絵になってしまうかもしれない。
なお、過去に海獣(トド)の漁業被害で自衛隊が訓練名目で出動し、トドが集まる岩に発砲した例もあるが、トドは漁業法と水産資源保護法により管理されているため、鳥獣保護法の対象外で有害鳥獣駆除に該当しない。また、近年も北海道でシカの駆除協力を自衛隊は行っているが、
映画パンフレットによれば、映画制作にあたって行われた官庁に対するリサーチでは、「巨大不明生物の出現」という突拍子のない事態のため、官庁によって見解が分かれ、その場合は防衛省の見解に沿って話が進められたと書かれている。過去、旧防衛庁で実際にゴジラが出現した想定でシミュレーションが行われたと報じられたが、その結論は有害鳥獣駆除を目的とした武器弾薬の使用は可能というものであったらしい。
恐らく、『シン・ゴジラ』劇中で同様の措置が行われたのは、旧防衛庁のこの研究が原因だと思われるが、この時のシミュレーションは、あくまで「頭の体操」レベルの話だったと防衛省の報道官は述べており、厳密な法的問題は考えられていなかったと推測される。
これは、現実にあり得ないシチュエーションに、現行法で対処を考えることの難しさが現れている例かもしれない。しかし、それでもなお、『シン・ゴジラ』は現在の日本の安全保障・危機管理の制度をよく描いている。
とにかく映像に情報量を詰め込むが、劇中での説明は省くというエヴァンゲリオン同様の庵野秀明総監督のスタイルのため、劇場では一つ一つの言葉に対する観客の理解もままならず話が進んでいくが、テンポの良い映像とゴジラの圧倒的な災厄感を前にしては、理解は置いてけぼりでも面白さへの障害にはならない。観終わってから、「アレどういう意味なんだろ?」と調べるのも、庵野作品の楽しみ方の一つなので、興味を持たれた方は試してほしい。
「現実(ニッポン) 対 虚構(ゴジラ)」というキャッチ・コピーは、現在の日本にゴジラが現れたら、という想定で作られたシン・ゴジラを、これ以上ないくらい的確に表現していたし、映画の出来もそれに恥じないものだった。大迫力のスクリーンで体験するのが怪獣映画の醍醐味でもあるから、ぜひ劇場に足を運んでみてはどうだろう。まずは難しいことは考えずに体験し、面白かったら調べてみるのもアリだろう。
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