『整形した女は幸せになっているのか』(星海社新書)では、学生を含む20代前半の女性3人に対し、かなり詳細なインタビューを試みた。皆、自分の言葉で、思うままに整形に至るまでの思いを話してくれた。筆者と3人の女子たちが、それぞれ(美容整形とは関係のない)雑談で盛り上がる場面も多々あった。インタビューを受けてくれた女子たちは、コンプレックスと向き合い、悩むこともあるけれど、本質は素直で優しい女の子たちだった。それが何だか、彼女たちと6歳~10歳近く年上の自分には嬉しかったし、本当に「みんな、可愛いなぁ」と思った。
鼻の整形について、社会人1年目の木本さんに話を聞いていたときのことだ。
木本さん:「やっぱヒアルロン酸だとすぐになくなってしまいますし、ちゃんとプロテーゼで高さも出したいなと思ってます」
筆者(以下――):「何ミリを考えているの? かなり鼻を高くしたい感じなのかな?」
木本さん:「そんな過剰になるのは、そもそもの顔にもあってないと思うので」
――すごい客観的に、自分の顔のバランスを見ていますね。
木本さん:「そうですかね(笑)。いわゆる『小悪魔ageha』系のモデルさんがやってるみたいな鼻にしちゃったら、不自然だなと思うので」
――「『小悪魔ageha』の◯◯ちゃんとかすごいですよね」
木本さん:「ですよね。でも、私、彼女のブログとか見てるんですけどね。すごい好きなんですよ(笑)」
――「彼女のファッションとか、可愛いですよね」
木本さん:「可愛いですよね。ドレスとかも、すごい可愛いなと思って(笑)。で、プロテーゼって、L字とI字があるじゃないですか。L字だと鼻を突き破っちゃう人もいて、それは怖いなと。形としては、すごく理想的ではあるので、やりたいんですけど、やるとしたらI字でやりたいなと思ってます」
こうして、整形ネタで盛り上がるインフォーマント(インタビューを受けてくれる方々)と、筆者の様子を見て、同席した編集者の今井氏(29歳男性)は驚いていた。「美容整形」という、普通であれば他人に隠しておきたい体験を語ってくれる以上、彼女たちは「個室」や「仕切り付きの飲食店」など、プライバシーが守られる環境を望むのではないかと、予想していたという。インタビューも、ひそひそと、こちらが配慮しながら行う様子を想像していたのかもしれない。ところが蓋を開けてみると、全く違った。整形した女の子たちは、皆オープンだ。「匿名で」という条件付きや、プライバシーを絶対に守るというこちらのポリシーを明らかにしたおかげもあるかもしれないが、皆あっけらかんと、明るいトーンで「整形体験」を語ってくれる。男性である編集者は、まずそのことに驚いていた。
20代前半の彼女たちは「プチ整形世代」だ。10代の頃から、「アイプチ」での二重メイクは当たり前。カラコンやつけまで「デカ目メイク」が流行する時代に、思春期を過ごしてきた。彼女たちが中学生の頃には、ギャル雑誌『Popteen』や『Ranzuki』『小悪魔ageha』でも、ごく当たり前に「すっぴんは一重まぶただが、メイクで二重にしている」モデルが人気を博していた。モデルたちが、すっぴんと「化粧後」を公開することも当たり前だ。もはや、整形に近いほど顔を変えるメイクテクニックを持っていることが、読者モデルとして共感されるポイントにすらなっている。
さらに、今の20代は「プチ整形」が社会に広まった90年代後半に、小学校高学年~中高生時代を過ごしている。雑誌にも「プチ整形」の広告が載り、友達が体験した、という子も多いのだ。プチ整形のハードルがどんどん下がる中、思春期を過ごした彼女たちは、「二重メイクやデカ目メイク後の自分」をこそ、<本当の自分>だと考えている。詳しくは本書に書いたけれども、彼女たちにとって、整形とは、「メイク後の自分に、すっぴんを近づける行為」なのだ。よく言われる、「不細工だから整形する」とか、「元の顔が不満だから整形する」という単純な図式では、不十分である。そこには、「メイク後の顔に自分のすっぴんを近づけたい=本当の自分の【顔】を固定したい」という、思いがある。そしてその思いは、プチ整形という技術がある今、簡単に実行へと移すことができる。
インタビューを受けてくれた、市村さんは次のように語った。
「男の人って、(女の人が)可愛くないから整形すると思ってるじゃないですか。でも女の子は、より可愛くなりたいから整形するって感じですよね」
そうなのだ。男の人は、女の子たちが「可愛くないから」整形すると思っている。もちろん、それはあるひとつのリアリティを表現してはいる。が、それだけでは、まっ
たく正確ではない。女の子たちはメイク後の自分に慣れているからこそ、「もっと(メイクした自分みたいに)可愛くなりたいから」整形するのだ。
多くの整形を受けてきためぐみさんも言う。
「大学になって顔が可愛い子が周りにいっぱいいて、『うわ、すげー!』みたいな。何時に起きてるんだろう、みたいな。」
――(筆者)女性が多いキャンパスで、美意識も変わった?
「そうですね。色々やりたくなっちゃって。(略)始めはコンプレックスを解消するための整形だったんです。埋没とか目頭あたり、鼻のレディエッセとか。でもなんか段々、私、褒められると伸びるっていうか嬉しくなって、頑張ろうって思っちゃうタイプなんで、そうやってちょっとイイ気になると、余計なこういうのとか(涙袋、タレ目術等)を、やっちゃう」
彼女たちが、男性の目をほとんど意識していないことは明らかだ。整形する女の子たちは皆、「理想の自分」を手に入れたいのである。自信を付けたい、自分で自分を、少しでも好きになりたい。そこに「異性にモテたい」という動機は、希薄であるように感じられた。一応こちらも、「整形したら、男性の反応は変わった?」「モテるようになったでしょう?」と聞くのだが(いじわるな質問ではある)、皆が皆、「う~ん……どうかなぁ?」「そんなに分からないですね、前向きになったとは言われますけど」と、異性からの反応を、気にかけていない様子なのである。もちろん整形した結果「モテるようになった」という女性もいたが(市村さん)、彼女はモテて多くの男性からアプローチされた結果、逆に、「異性と深く付き合いたい」とは、思わなくなったという。モテたらモテたで、恋人の面倒なことも経験しなければならない。過剰にモテるのは面倒だ。彼女は彼女なりに、整形の「効果と効能」を分析していた。整形とモテ。このテーマについては、次回、作家の中村うさぎさんへのインタビューから考察を深めていきたい。(北条かや)
関連リンク
▶「もっと可愛く」なることは、善か悪か? ギャル読モの「パフォーマンス美容整形」にみる「倫理の線引き」
星海社新書 『整形した女は幸せになっているのか』北条かや
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著述家。1986年、石川県金沢市生まれ。「BLOGOS」はじめ複数のメディアに、社会系・経済系の記事を寄稿する。自らキャバクラで働き、調査を行った『キャバ嬢の社会学』がスマッシュヒット中。ブログ「コスプレで女やってますけど」は、月間10万PVの人気を誇る。
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