ゲームを皮切りに、社会現象となっている「妖怪ウォッチ」。
「妖怪ウォッチ」は、なぜ社会現象になったのか? そこには、開発者側の緻密な計算があった。
「ポケモン」以来の「集めゲー」の伝統を受け継ぎつつ、「日常との地続き感」をより一層強化したものとなっている。また、ゲーム内に社会道徳の要素を盛り込むことで、親にとっても受け容れやすいものとなっているのだ。
「ゲームはPTAの敵」と長らく言われてきた。「妖怪ウォッチ」は、ゲームとしての面白さを追求しつつ、「家族が納得できる娯楽」をつくりあげることで、同時にその壁も乗り越えたのだ。
「妖怪ウォッチ」が話題である。
これはニンテンドー3DS用のゲームで、2013年にレベルファイブから発売された。以後、子供たちを中心にじわじわと支持を伸ばし、気付いてみれば関連グッズが品薄で全く手に入らなくなるほどの大ブームとなっていた。
ゲームソフトの売り上げは発売翌年に100万本を突破し、コミカライズやアニメ化、グッズ展開なども非常に好調である。
ゲーム第一作からちょうど1年で発売された続編は発売直後に前作の売り上げを上回り、1ヶ月後には200万本を突破している。
この数字は、たとえば昨年末に同じくニンテンドー3DS用ソフトとして発売されたガンホーの「パズドラZ」の累計売り上げ本数を既に大幅に超えている。
下馬評では、このゲームはあの「ポケモン」の売り上げを傾かせるのではないかとまで言われている。
レベルファイブ『妖怪ウォッチ』公式サイト画面
とはいえエンタテインメント業界は、世間が思っている以上に、パイの奪い合いよりもまずは業界として活気のある状況を好むものである。
特に海外市場への立ち後れやスマホゲームの活況、さらには子供のゲーム離れなどの要素が絡んだ斜陽化が囁かれている日本のゲーム業界においてはなおさらだろう。
そんなわけで、ひさびさに子供たちの爆発的な支持を集めているゲーム機用のゲームとして、「妖怪ウォッチ」は基本的に歓迎されている。
しかし一方で、ゲーム業界に普段からあまり関心を持たない大人たちは、このブームに驚きを禁じ得ないようだ。
「パズドラ」などのソーシャルゲームと違い、子供たちを中心としていつの間にかヒットしてしまった(ように見える)ことで、「妖怪ウォッチ」を捉えかねている。
もちろんこの作品はシステムが実によくできていて、単純にゲームとしてかなり面白いものなのだが、そんな説明では大人たちは満足しないだろう。
そんなわけでメディアは最近このゲームを今年の大ヒット商品のひとつに数えて、あれこれと人気の秘密を探ろうとしている。この傾向は来年の年明けまで続くに違いない。
では大人たちが納得しそうな妖怪ウォッチの目新しい点とは何だろうか。
それはいくつかあるが、特に注目すべきなのは、現実とゲーム内の世界とがうまくリンクさせられていることだ。
このゲームのよさの大半は、この説明で片が付く。
このゲームで要となっているのは、メインタイトルにもなっている「妖怪ウォッチ」という特殊な腕時計である。
主人公がゲーム内で友達になった妖怪はメダルとしてストックされ、このメダルを腕時計に差し込むことで妖怪を呼び出すことができる。
メダルを手に入れるには様々な方法があるが、特に目立っているのはゲーム内に設置された「ガシャ」だろう。ガシャとは、つまりはハンドルを回すとキーホルダーだの何だのという小さな景品が出てくるあれである。いわばくじ引きみたいなもので、よい景品が出るかは回してみないとわからない。ごく簡単に言うと、このガシャに「ガシャコイン」という硬貨を入れてハンドルを回せば妖怪メダルが手に入る。
このゲームのポイントは、それが玩具と連動していることである。
まずゲーム内に登場するのと同じ「DX妖怪ウォッチ」という腕時計型の玩具が売り出されており、子供たちは仮面ライダーの変身ベルトよろしく、これをこぞってほしがっている。
そして、ちゃんとゲーム内と同じような妖怪メダルが売られていて、腕時計にセットして遊べるし、裏面に記されたQRコードを3DSに読み込ませればその妖怪をゲーム内で使うことができる。
さらには現実の店舗にもゲームとそっくりなガシャが置いてあったり、限定のキャンペーンでは特別な妖怪が手に入る「ガシャコイン」が配布されることもある。100万部売れた「コロコロコミック」のように、レアな妖怪が手に入るQRコードの付加された商品が発売される例もある。
これらを手に入れるため、今や大人たちが巻き込まれてコンビニだのショッピングモールだの、あちこちの店舗を行脚している。遠くまで出かけたり、朝から並んだりすることも珍しくない。
以上のような玩具との連動について、いかにもうまいカネ儲けの仕組みだと揶揄する者はいるだろう。しかし、話はそこまで単純でない。
これを軸にしてゲームと現実世界をうまくリンクさせた妖怪ウォッチは、従来のゲームとは少し異なる受け入れられ方をしたと言えるのだ。
まずゲームでやっている妖怪集めと同じことが、現実世界でもできるというのが今の子供たちに好まれた。
「妖怪ウォッチ」は「ポケモン」から連なる「集めゲー」の一種で、200種類以上もいる妖怪を集めていくのがゲームの大きな目的になる。
しかし「ポケモン」の場合はあくまでもゲームの世界内でモンスター集めをしていたが、「妖怪ウォッチ」の場合はゲーム内だけでなく現実でもQRコードを探して妖怪集めができるのだ。
集めゲーの嚆矢である「ポケモン」を開発した田尻智は、こうしたゲームを昆虫採集から発想したと説明している。
「妖怪ウォッチ」は明らかにそれを徹底したものだ。だからゲームのオープニングは昆虫採集のシーンから始まるし、また序盤では、木の幹や自販機の下、自動車の下など、昆虫採集と似たような場所で妖怪をゲットできるという説明が行われる。
つまりこれは、昆虫採集よりほんの少しだけ不思議な冒険ができるというくらいのゲームなのである。
「ポケモン」は日本中を旅してモンスターを集め、最強のライバルを倒すのが目的だったが、「妖怪ウォッチ」には昆虫採集気分で妖怪を集めて、ラスボスに至っても自分たちの街を守るくらいの目的しかない。
「ポケモン」をより徹底させた集めゲーなのに、だからこそ似て非なる思想で作られている。「ここではないどこか」を目指すのではなく、自分の日常生活と地続きの冒険を楽しめる。この日常に密着した感覚が、「妖怪ウォッチ」の魅力なのだ。
次に、「妖怪ウォッチ」は大人をうまく巻き込んだ。
レベルファイブは「妖怪ウォッチ」以前に「イナズマイレブン」や「ダンボール戦機」シリーズで若年層向けゲームを積極的に展開し、子供たちによく受け入れられた。一部だがオタク層の大人にも訴求した面がある。
しかしこうした動きは限定的なもので、社会全体を動かすような大ヒットには結びついていない。「妖怪ウォッチ」がそれらと違ったのは、ゲーム内と現実をうまく連動させることで、必然的にプレイヤーである子供だけでなく、大人をもこの人気に付き合わざるを得なくしたことなのだ。
大人が子供に巻き込まれながら、家族みんなが「妖怪ウォッチ」をひとつの価値として楽しむ。これは決して恥ずべきことではない。
子供がほしがるおもちゃを手に入れるため家族総出で出かけるような傾向は、高度成長期の核家族時代から珍しくなく、それは家族にとってひとつのレジャーと化している。
つまり、「妖怪ウォッチ」はその流れの中にうまく入り込むことに成功したのだ。本物の昆虫採集のように、あるいはプラレールだのビーズアクセサリーだののように、子供より大人のほうが熱心になってしまうことも珍しくない。
ネットを少し検索すれば、大人たちが子供のためと称しつつ、妖怪メダルやガシャコイン集めに東奔西走している姿を簡単に見付けられるだろう。『漫画アクション』(双葉社)に連載されている福満しげゆきの漫画『うちの妻ってどうでしょう?』の中でも、妻が(作者から見ると謎に満ちた)「妖怪ウォッチ」のメダル集めに精を出している姿が「妊活」ならぬ「妖活」だとして描かれていた。
そうやって子供たちの、そして大人たちの日常生活へと次第に馴染んでいったからこそ、「妖怪ウォッチ」は発売から1年近くなった今になって「いつの間にか」ヒットした商品として驚きと共に認められるようになったのだ。
最近のゲーム業界では、このように人々の生活に寄り添うゲームが「ゲーム・アズ・サービス」(=サービスとしてのゲーム)という言葉などに象徴されながらとりわけ重視されるようになってきた。
つまり単純に「作品」としての完成度を高めて発売直後の売り上げに期待するだけでなく、その後のサービスとしての運営の確かさによって次第に売り上げを伸ばす手腕が問われるようになっているのだ。
前述の「パズドラ」だって、ヒット作だとして一般に騒がれるようになったのは発売から1年後であり、今後もこうして人々の生活と密着して人気を伸ばしていくタイトルは増えるだろう。「妖怪ウォッチ」のように「いつの間にか」売れている商品も増えるに違いない。
実際、「妖怪ウォッチ」はあらかじめ大人に受け入れられるように慎重なゲーム作りを心がけている。
このゲームは夜になっても家に帰らずにいると圧倒的な強さを持った妖怪に追いかけらる「鬼時間」や、赤信号を無視して横断歩道を渡っているとなまはげに襲われるなどのペナルティがあるが、そういうルールは子供たちにやはりこのゲームが現実とリンクした、日常と地続きのファンタジーを描いていることを意識させるものだし、大人にとってみればこれはゲームとして「悪い」ものではないという印象を与えられる。
ゲームとして「悪い」ものではないというのは決して馬鹿にできない。大人に危険なものではない、遊ぶ価値があると思わせることは重要なことだ。
たとえばこのゲームに登場するガシャは、一般には「ガチャ」と呼ばれてソーシャルゲームのブーム以来すっかり人気となった。しかしゲーム内の課金によってくじ引きのようにアイテムを手に入れさせるシステムは射倖心を煽るものだとして、つい3年ほど前に「コンプガチャ」などの悪質な仕組みを持ったものが消費者庁から景品表示法違反であると見なされた。
これによって、ともすればゲーム内で課金させること自体が悪であるという風潮すら一時期は生まれていたし、幼い子供を持つ親からすれば警戒心はさらに高まって当然だろう。
ゲーム業界はこれを放置すべきではないし、だからこそ「妖怪ウォッチ」は、現実とゲーム内を連動させることでこの課題を正しくクリアしていった。
つまりゲーム内にあるのと同じガシャが現実にも設置されていて、親の監督のもとで家族がそれを楽しめるならば、結果的にそれはゲーム内のガシャに対する警戒心を解くことにもつながるのだ。
「ポケモン」にも、イベント会場でレアなモンスターがゲットできるなどの施策はあったが、やはり「妖怪ウォッチ」はそれを徹底し、常態化させている。人々が日常生活の中であちこちに出向いて妖怪を探し、手に入れるという昆虫採集的な遊びに興じるよう仕向けているのだ。
今のエンタテインメントは現実において人を動かす力があるものが強いと言われるが、「妖怪ウォッチ」もちゃんとそれに当てはまるものになっているわけである。
加えて言うなら、これはコロプラがGPSを利用して2000年代前半から展開している「位置ゲー」のように、ゲーム画面だけに没頭するのではなく、特定の時期に、特定の場所に行くというイベント性が人の心をつかむというやり方を発展させたものになっている。
最近はiPhoneに移植されたことでIngressがネットユーザーに注目されているが、日本のゲームには位置情報を利用した面白いゲームがとっくに存在するし、「妖怪ウォッチ」はそのやり方を洗練させた最先端のゲームだと言えるのだ。
こうして「妖怪ウォッチ」は的確なやり方で社会現象と呼べるようなブームを作り上げた。
それは単にうまい収益構造だとだけ言ってすませられるようなものでもないし、もちろんレベルファイブという会社にとってのみよかったというものでもない。
いわゆるコンシューマ用ゲームの不振が叫ばれている昨今、それはゲームというジャンル全体の価値を押し上げる意味があった。今の子供たちの親は幼少期からゲームに親しんだ世代がほとんどで、ゲームであるからというだけで悪しき物だと決めつけるようなことはない。
大切なのは子供がゲームの世界にひたすら没入してしまうようなものではなく、家族みんなが納得して楽しめる娯楽としてゲームというメディアを再提示することだった。
ゲームと現実をリンクさせた「妖怪ウォッチ」の戦略は、そこで功を奏したのだ。
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