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ジセダイ総研

『シン・ゴジラ』立川までのルートを徒歩で再現 都心からの避難と政府の業務継続性

石動竜仁
2017年05月01日 更新
『シン・ゴジラ』立川までのルートを徒歩で再現 都心からの避難と政府の業務継続性

 第40回日本アカデミー賞で最優秀作品賞含む7冠を達成した映画『シン・ゴジラ』。「ニッポン対ゴジラ。」というコピーが表しているように、現代の日本に怪獣が出現したら? という想定で作り込まれた同作は、怪獣災害に対する政府の対応を詳細に描写したことでも注目を浴びた。

 作中、都心がゴジラに蹂躙され、官邸機能の移管を迫られる展開がある。移管が決まるや、政府要人や職員は官邸から退避し、立川市に設置された政府対策本部予備施設を目指す。そして、主人公である矢口官房副長官は渋滞に阻まれ、都心から徒歩で一晩かけて立川へ移動することになる。

 実はこの立川への移動については、内閣府(防災担当)が同様のシミュレーションを行っている。災害等で官邸・都心での執務が不可能となった場合、少数の政府要人はヘリで立川まで移動し、職員はバスまたは徒歩で移動することが想定されている。映画では多少の違いがあるが、このシミュレーションに近い。

 内閣府のシミュレーション「政府中枢機能の代替拠点に係る基礎的調査」

 先月末に上梓した『シン・ゴジラ 政府・自衛隊 事態対処研究』(ホビージャパン)の執筆にあたって、『シン・ゴジラ』の設定とこの内閣府のシミュレーションを基にして、実際に矢口らが歩いたルートを予想した。結果、およそ33.2kmという移動距離が判明した。これは、一晩かければ移動が可能な距離と考えられる。

『シン・ゴジラ 政府・自衛隊 事態対処研究』(ホビージャパン)

 しかし、ゴジラに限らず発災時の移動には平時と違ったリスクが伴う。また、政府職員が徒歩で長駆移動する事態はよほどのことでもある。果たして実際に、立川への移動は可能なのだろうか? そこで、予想ルートを歩き、体力的に可能か、どのようなリスクがあるかを実際に検証してみることにした(検証と言うと聞こえはよいが、ぶっちゃけ映画と同じルート(多分)を歩きたかったのが大きいことは告白しておく)。

 なお、この企画について、当のシミュレーションを作成した内閣府(防災担当)職員に、実際に歩いてみるとうち明けた所、「え、うちのシミュレーションを……?」と少々引かれたことを付言しておく。

『シン・ゴジラ』Blu-ray(東宝)

首都壊滅、その時は

 さて、災害等により、首相官邸での執務が困難となった場合の政府災害対策本部の移管先は、被害に応じて設定されてある。

 まず、首相官邸が執務不能となった場合、隣にある中央合同庁舎第8号館に本部が移管される。永田町・霞が関一帯での執務が不能となった場合は、市ヶ谷の防衛省中央指揮所。都心の被害が甚大な場合、立川市の立川防災基地内に設置された災害対策本部予備施設に移管することになっている。

 政府災害対策本部の移管先とは言うが、都心が壊滅的に陥るような事態の場合、総理を長とし閣僚全員が構成員となる緊急災害対策本部が立ち上がっているはずである。この場合、内閣がまるまる立川に行くことになり、事実上、行政中枢機能が立川に移ることになる。それに伴い、多数の要員(内閣府の想定では初動人員2,000名、後続含めると計10,000名)が立川で執務を行う必要が生じる。この移動について、バスまたは徒歩での移動を想定されている。

 現在、政府が想定している首都直下型地震は、都区部直下でのM7級地震である。この場合、官庁街が集中する永田町・霞が関は、震度6強の揺れが想定されており、主要な庁舎はこれに耐えられるよう設計あるいは改修が施されている。

 しかし、首都圏に想定されるリスクは地震だけではない。たとえば、富士山・浅間山が噴火した場合、関東南部は降灰により交通網・送電網が麻痺するおそれがある。

 また、2011年のノルウェー連続テロ事件では、首都オスロの政府庁舎が被害を受け、中央官庁の機能が別施設に移管される事態にまでなった。1995年のオウム真理教による地下鉄サリン事件は、国家中枢に対するテロであることが明らかになっており、同様の事態が起こる可能性もゼロではない。

 政府の中央防災会議でも、2012年に首都直下地震対策検討ワーキングループは「首都直下地震対策について(中間報告)」の中で、「首都直下地震にとどまらず、首都圏が壊滅的な被害を受ける他の事象も視野に入れるべき」と指摘しており、地震以外の事象も既に検討の段階に入っている。内閣府の歩行シミュレーションも、政府中枢機能の代替拠点に関わる報告書の中で検討されたものだ。

ルートの選定

 『シン・ゴジラ』劇中では、矢口らは地下鉄赤坂五丁目駅(設定上、赤坂五丁目交番前交差点にあるが、実在しない駅)のA2出口に避難しており、そこを起点とした。なお、内閣府のシミュレーションでは、日比谷公園に隣接する中央合同庁舎第5号館を起点としている。

矢口らの起点と考えられる赤坂5丁目交番前交差点(筆者撮影)

 実際に歩くルートは、『シン・ゴジラ』劇中のルートを想定した。ルート設定にあたっては、内閣府のシミュレーションと、『シン・ゴジラ』完成台本にある甲州街道を歩いたという情報から、緊急時の避難路・輸送路として指定されている緊急輸送道路をできるだけ用い、かつ短いルートとした。

 以下のグーグル・マップでは、実際に歩く『シン・ゴジラ』劇中のルート(矢口ルート)と、内閣府の実際のシミュレーションの2ルートを記した。

【『シン・ゴジラ』劇中の移動ルート(予想)と内閣府の想定ルート】

 台本によれば、18時45分頃にゴジラが一旦活動停止している。そこから、打ち合わせの後、矢口が外に出て立川へ出発するのを20時頃と設定した。屋外と比べ比較的安全と思われる地下鉄路線内を歩いた可能性もあるが、検証不能なのでここでは除外した。また、実際に歩く時間は、治安等の問題から夜間は避け、12時間ずらして朝8時出発とした。

建築物と幹線道路

 起点である赤坂五丁目交番前交差点を朝8時ちょうどに出発した。赤坂御用地の脇から、神宮外苑を通り抜け、甲州街道に出る。

 出発した当初は比較的建物も新しく、火災や倒壊の危険性も少ないだろうと見られた町並みも、新宿区・渋谷区の境界あたりに差し掛かると、古い木造建築が散見されるようになった。実際、東京都都市整備局の「地震に関する地域危険度測定調査」では、東京都庁から西は一気に火災危険度が高くなる。

【Google防災マップ】

 また、防災拠点や自治体庁舎を相互に接続する幹線道路は、災害時に避難・消火・輸送活動に用いる緊急輸送道路に指定されているが、環状六号線、七号線沿いは震災時の火災危険度が高く、道沿いの建築物の倒壊危険度も低くない。

 このため、東京都では、震災から間もない2011年3月18日に「東京における緊急輸送道路沿道建築物の耐震化を推進する条例」を公布し、緊急輸送道路沿いの建物の耐震化を進めている。また、一般車両の進入が禁止される境界となる環状七号線では、2024年度を目標に無電柱化が計画されるなど、災害時の道路の健全性を確保しようと努めている。

 『シン・ゴジラ』では、ゴジラによる被害は都心が中心で、都心3区を抜ければ普段と変わらない町並みの中を矢口は歩いたと思われる。問題は、都心から逃れる避難民による混雑だろう。

災害時の徒歩移動問題

 災害時に問題は建物に関するものだけではない。避難民の問題も想定されている。

 立川までの道中の様子をTwitter上で実況したところ、都心からの徒歩帰宅への言及が散見された。しかし、今回の徒歩移動は、徒歩帰宅と性格が異なる。

 10年以上前、災害時に徒歩帰宅するための地図が流行った事を記憶している方も多いかもしれない。公共交通機関が使えない場合、徒歩での帰宅は当然のことのように思われる。しかし、近年は災害時の徒歩帰宅を抑制し、「むやみに移動を開始しない」よう行政は呼びかけている。

 発災直後に帰宅困難者が一斉に徒歩帰宅を開始した場合、道路が帰宅困難者で溢れ、救命・消火活動や緊急輸送に支障が出る恐れがある。また、インフラに被害が出ている中、数万人が長距離を歩くと、道中のトイレ問題も生じる。2,000名程度の移動である内閣府のシミュレーションでも、必要とされる仮設トイレ数を算出しており、この問題は軽視できない。このような背景から、帰宅困難者は都心の企業や施設で待機してもらうなど、一斉帰宅を防ぐ方向性になっている。

 また、内閣府の想定では、自宅までの距離が10km以内は徒歩帰宅を可能としているが、20km以上の場合は「帰宅困難」と見積もっている。今回の行程は軽く30kmを超えており、徒歩帰宅の参考にするには不適当な事に注意して頂きたい。

休憩場所とルートの問題

 行程のほぼ中間地点に位置するのが吉祥寺付近だ。ルートから近い吉祥寺西公園で20分ほど昼食休憩を取った。

 内閣府のシミュレーションでは、1時間毎に10分、食事に60分の休憩時間を設定している。それに倣い、今回の行程でも1時間あたり10分の休憩を取るよう心がけたが、道中は休憩する場所を探すのに苦労した。最終的には、歩道の車止めなど、座れそうな場所にはどこにでも座るようになった。

 内閣府のシミュレーションでは、休憩場所を各地の税務署や駐屯地等を休憩地候補に設定しているので、場所だけは確保可能だが、その全てがルート上に存在する訳ではない。休憩のために500メートルほど遠回りすることも多く、体力的精神的余裕がなくなる中盤以降は、想定の休憩場所を使わない職員が出てくる可能性も考えられる。

 劇中の矢口らはどうしたのだろうか? 道中にある上述の休憩場所、あるいはその他の政府・自治体施設で休憩をしている可能性がある。立川に到着した矢口らは、総理や官房長官の行方不明情報を知っていたようなので、道中に寄った施設で状況を知らされたのかもしれない。

足元は天候次第?

 吉祥寺を過ぎる武蔵境のあたりに入ると、玉川上水沿いの道を行くことになる。このあたりから内閣府のシミュレーションとほぼ同じ行程となり、およそ6kmを玉川上水に沿って歩く。

 ここは自動車道沿いの歩道とは別に、玉川上水沿いに緑道が整備されているため、木陰の中、車を気にすることなく歩くことが出来た。しかし、緑道のため、雨天時は足元がかなり悪くなるだろう。

玉川上水沿いの緑道(筆者撮影)

 玉川上水を離れ、国分寺高校北交差点を南に行くと、十分でない歩道スペースの割に交通量が多く、注意を要する箇所に度々出くわした。このルートは内閣府による想定ルートだが、多少遠回りでも都道7号線を使う方が安全に感じた。しかし、ここはルートの終盤。肉体的精神的に最も疲弊している頃で、少しでも行程を短くしたい動機が強く働く。

【国分寺高校北交差点より南のストリートビュー】

徒歩移動、可能ではあるが......

 朝8時の出発から9時間25分後、17時25分に立川の災害対策本部予備施設前に到着した。肉体の疲労もあるが、なにより一人で黙々と歩き続ける事への精神的疲労が大きい旅路であった。矢口らが到着したのは朝6時頃(出発は前日20時頃と予想)とされているので、おおむねそれに近い時間がかかったことになる。

災害対策本部予備施設(筆者撮影)

 今回の徒歩移動にあたり、トレッキングシューズに厚手の靴下、ツバ広の帽子に目全体を保護するサングラスとそれなりの装備を準備したが、後半は足の疲労と、なにより精神的に辛かった。

 それなりの準備をした自分でもこのありさまだが、劇中の矢口はスーツに革靴という出で立ちの上、恐らく不眠で一晩歩いている。にも関わらず、立川到着後すぐに執務を始めており、彼が並々ならぬ体力と精神の持ち主であることが窺える。

 今回歩いた実感から、都心から立川まで一晩、あるいは内閣府の想定時間内での徒歩移動は可能と思われる。

 しかし、これまで述べたように、災害時に発生する事象や、季節の問題がある。特に夏季は、携行する水や装備は大幅に変わってくるだろう。4月後半の移動であったが、日射は無視できないほど強く、サングラスを常時着用していた。サングラスで覆われていない部分は日焼けで赤くなり、夏季は適切な対策をしないと、皮膚と目への負荷はかなり大きいと思われる。

 今回は『シン・ゴジラ』劇中の再現という形で赤坂〜立川間を歩いただけだが、実際にこのような政府中枢が都心外に移管される場合、東京郊外の立川に留まらない可能性がある。たとえばテロで都心での執務が難しくなった場合、立川が無事なら移管は可能だろう。

 しかし、南関東一帯に降灰が予想される噴火といった広域災害の場合、関東外への移管もあり得る。実際、内閣府のシミュレーションでは、札幌や名古屋、大阪といった地方都市を代替拠点とするのも検討している。立川への移管は、あくまで一つの可能性にすぎない。より軽い事態も、酷い事態もあり得るのだ。

 政府の業務継続性や代替拠点といった問題については、今後も議論が進むと考えられる。今回は『シン・ゴジラ』作中のルート再現という切り口からレポートしたが、これをきっかけに、政府の業務継続性について少しでも関心を持って頂ければ幸いである。

 なお、この行程を実際に歩いてみるのはオススメしないし、実際に政府職員が歩く羽目になる事態が来ないよう祈りたい。

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IT系企業に勤める傍ら、2008年から「Dragoner」名義で軍事関係ブログを始める。2010年にTwitterを開始、多くのフォロワーを持つ人気アカウントとなり、2013年から本格的にライター業を始める。現在は、個人ブログだけでなく、「Yahoo!ニュース個人」でも、一般向けに軍事問題の時事解説を行っている。

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