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ジセダイ総研

中国政府の「悪手」が招いた香港・雨傘革命

高口康太
2014年10月08日 更新
中国政府の「悪手」が招いた香港・雨傘革命

 香港政府のトップ、行政長官選出選挙に「真の普通選挙」を導入して欲しい。数万人の香港市民が香港中心部の主要道路を占拠する「雨傘革命」が続いている。

 民主主義を求める香港市民の怒りが爆発した――というほど単純な話ではない。活動参加者は決して一枚岩ではないし、中国経済への依存を理解し受け入れている人も少なくない。そうした中でこれほどの抗議活動が生まれた決め手となったのは、香港政府と中国政府による「悪手」だ。

 いったいどのような「悪手」が指されたのか、そこから私たちは何を学ぶべきなのかを考えてみたい。

中国政府の意向に従わなければいけない、香港の"普通”選挙

 まずは問題の背景を1997年の香港返還から振り返ってみよう。 

 返還後の香港憲法に相当する香港特別行政区基本法は、中国本土側と本土側双方の代表者が激論の末に制定したもの。中国にとって有利な条項も多いが、香港側が希望する内容も盛り込まれている。

 その一つが行政長官選出の規定を定めた第45条だ。将来的には普通選挙で選出することが盛り込まれている。そして返還から20年が過ぎた2017年から一般市民が投票する普通選挙の導入が決まった。

 もっとも中国政府にとっては面白い話ではない。そこで基本法の約束を守りつつも、普通選挙を骨抜きにする“とんち”を披露した。それが今年8月31日に決定された、いわゆる「ニセの普通選挙」プランだ。

 行政長官は普通選挙で選出されるが、立候補にあたっては経済界、業界団体や宗教団体、地域から選出された代表によって構成される選挙委員会で過半数の支持を得ることが要件となる。経済界や業界団体は中国との関係が深く、中国政府の意見に逆らえないのが実情だ。ゆえに立候補できるのは中国のお眼鏡にかなった人物だけになるという寸法だ。

 従来の行政長官は選挙委員会の投票で選出されてきた。新たなプランは立候補の段階で従来型の選出を実施してしまう構造にほかならない。「ニセの普通選挙」と呼ばれるこの手法は、「このはしわたるべからず」的な“とんち”感に満ちあふれている。

 

9月29日夜、携帯電話のライトをつけてアピールする抗議活動参加者。

中国語圏のキュレーションサイト・中国数字時代が紹介。

http://goo.gl/d8Gytk 

 

催涙弾がデモの大規模を招いた

 このやり口に香港市民の怒りが爆発した――とはならなかったのが興味深い点だ。むしろ8月31日から9月末にいたるまで抗議活動は盛り上がりを欠いていたのが実情だ。 

 関心のないノンポリの市民が多いことだけが理由ではない。「真の普通選挙」を望んでいる人の間にも意見の相違は大きかった。例えば金融街セントラルを占拠しようと呼びかけるオキュパイセントラル運動に対しては経済活動を人質にするような過激な手法に批判的な声が強かった。 

 事態が一変したのは9月末のこと。大学生中心の香港大学生連合会(学連)や中高生中心の学民思潮(スカラリズム)が授業ボイコット活動と香港政府総本部前での集会を実行した。26日夜には当局が新たに設置したゲートを乗り越え、一部学生が香港政府総本部前での座り込みを実施した。警察は催涙スプレーを使用して強制排除に乗りだし、また学民思潮のリーダー、17歳の黄之鋒(ジョシュア・ウォン)氏を逮捕した。学生に対する強制排除が反発を招き、5万人もの市民が学生たちを守るために現場に集まった。

 この動きに後乗りしたのがオキュパイセントラル運動だ。もともと10月1日からの行動開始を予告していたが前倒しでの実行を宣言。学生たちを守るために集まった5万人の支持者はあたかもオキュパイセントラル運動の参加者のようになってしまった。これには「運動を乗っ取られた」と反発する人も多く、オキュパイセントラル運動には参加しないと現場を去った人もいたという。 

 そして抗議運動拡大の決定だとなったのが28日夕方から香港警察が催涙弾を使ったことだった。デモ隊に対する催涙弾使用は香港返還後初の事態。政府の強権は許さないと多くの人々の関心と参加を集め、抗議活動は「雨傘革命」へと発展していく。

 この「雨傘革命」という言葉はきわめて象徴的だ。雨傘を催涙弾に対する盾として使ったことから名付けられたものだが、人々の気持ちをまとめあげたのはオキュパイセントラル運動でも「真の普通選挙」を求める声でもなく警察が放った催涙弾であったことを端的に示している。

 

 中国政府へのアピールが生んだ、催涙弾という「悪手」

 催涙弾こそが「雨傘革命」を生み出した最大の要因である。となれば、政府の対応は失敗としか評価できないだろう。後に香港政府は機動隊を撤収させ催涙弾の不使用を宣言したが時すでに遅し。雨傘は運動のシンボルとしての地位を獲得し、現場に持ち込まれている。

 なぜ香港当局はこれほどの悪手を指してしまったのか? たんにアホだったからではない。硬軟おりまぜた、ずるがしこい戦術で運動の拡大を抑える実行力のある措置を取るよりも、「私たちは鎮圧に全力をあげております」と中国政府にアピールすることを優先した結果だ。 

 「問題解決に有効な選択肢」よりも「上司の顔色をうかがうこと、自分たちのメンツを保つこと」を優先させてしまったのは中国政府も同じだ。例えば今年6月に中国政府が発表した白書『香港特別行政区における“一国二制度”の実践』がそれだ。1997年の返還から17年間の「成功」を振り返るものだが、「一国二制度というが二制度の前提は一国。一国と二制度は同等ではない」と強調。一国を揺るがさない範囲でしか二制度は認めないとして、独立につながりかねない「真の普通選挙」導入は容認できないという姿勢を鮮明にした。

 また同白書は、返還がいかに香港経済にとって有利であったかに紙幅を割いている。中国人の個人旅行については、買い占めや産婦人科病院を占拠した越境出産といった反中感情の火種については触れることなく、香港経済を立ち直らせた強心剤だったと絶賛するなど、自画自賛に満ちあふれている。 

 中国が基本的人権を語る時、経済的な基盤など社会権を重視し、国家の制約からの独立を保障する自由権を軽視する傾向が強い。貧困からの脱却こそが最重要課題であった中国本土においては理解できなくもないが、経済的に発展した香港で同じ論理を持ち出しても通用するはずがない。本来ならば白書は香港人を説得するツールだったはずだが、中国国内でしか通用しない論理を見せびらかすだけのものとなってしまった。

 もう一つ、「悪手」の事例をあげておこう。今年8月17日には「普通選挙保持・反オキュパイセントラル大連盟」によるデモが行われた。「中国政府が与えてくれた普通選挙を守ろう、オキュパイセントラル運動に反対しよう」を旗印に10万人超がデモに参加したことになっている。 

 しかし実際はというと、「タダで観光旅行ができる」「日当がでる」と中国本土人をかき集め、香港に送り込んで行った官制デモだった。「デモの目的? 知らない。普通選挙? なにそれ食えるの」とあっけらかんと話す参加者の姿を香港メディアが報道、恥ずかしいプロパガンダがばれてしまった。

 中国国内ではバスでの送迎付き反日デモなど珍しい話ではない。同じやり口が香港でも通じると考えてしまう独善が失敗の原因だ。大金をはたいて実施したデモだが、人民日報に「香港人は中国政府を支持している!」との虚構ニュースを載せられる以外のメリットはあったのだろうか。

 

 日本もかかりうる独善という病

 これから雨傘革命はどう推移していくのだろうか? 抗議者と向き合う香港政府には実質的な決定権はほとんどなく、実質的な決定権を持つ中国政府が譲歩する可能性も低い。香港中心部の占拠という経済活動と市民生活に直結する運動形態のため、長引けば運動に興味のない市民の批判が高まることは必至だ。 

 抗議活動の先行きには楽観的になれないが、たとえ香港政府から実質的な譲歩を引き出せなかったにせよ、今回の経験は香港市民に大きな影響を残すことは間違いない。反中感情の高まり、政治への無力感、自分を中国人だと考えるアイデンティティを持つ人の減少などが考えられる。催涙弾に象徴される香港政府と中国政府の“悪手”は大きなデメリットを生み出してしまった。

 もっとも「自分たちだけに通じる論理や正義、メンツを優先して失敗する」のは中国だけの専売特許ではない。「原発再稼働に少しでも理解を示す人間は吊し上げる」「朝日新聞を叩けば、日本の国際イメージは変わるはず」……日本にだって実効性を考えずに独善的な論理だけで話を進める人はごろごろしているのではないか。

 あるいは香港情勢をめぐる中国の「悪手」は、反面教師として私たちが学ぶべき格好の教材なのではないだろうか。

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ライターの紹介

高口康太

高口康太

翻訳家、フリージャーナリスト 1976年、千葉県生まれ。千葉大学博士課程単位取得退学。独自の切り口で中国と新興国を読むニュースサイト「KINBRICKSNOW」を運営。豊富な中国経験と語学力を生かし、中国の内在的論理を把握した上で展開する中国論で高い評価を得ている。

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ジセダイ総研 研究員

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