たくさんの「企画」が世に出ては消えていく現代日本において、テレビ番組『アメトーーク』は際立つ存在だ。放送開始から10年以上が経った今でも一般的なテレビ視聴者から、コアなお笑いマニアまで多くのファンを獲得している。長きにわたって「好きなこと」と「結果を出す」ということを両立してきたノウハウは、決してバラエティ番組の方法論にとどまらず、様々な分野にも応用できるものではないだろうか。
気鋭のテレビ評論家、てれびのスキマこと戸部田誠が、その真髄に迫る。
9月4日に『アメトーーク!』(テレビ朝日)で放送された「帰ろか…千鳥」はお笑いファンの間で大きな話題を呼んだ。
この企画は東野幸治の持ち込み企画。東野が持ち込んだ企画といえば、品川庄司の品川をテーマにし、お笑いファン以外にも大きな反響を呼んだ「どうした!?品川」(12/9/13放送)が記憶に新しい。いつの間にか文化人然としてしまった品川を揶揄しながらも、憎たらしいほどに冴え渡っていたころに戻って欲しいという、歪んだ悪意と冷たい愛に満ちた東野流の芸人賛歌だった。「帰ろか…千鳥」もそうした悪意と愛の入り混じった企画だ。関西で一時代を築き、鳴り物入りで東京進出したにも関わらず、思うような活躍を見せることができない千鳥に「帰ろか」と宣告したのだ。もちろん、実際には千鳥の確かな実力と愛らしい魅力を伝える放送となっていた。
2003年4月から『アメトーク!』として深夜(月曜24:15~)に30分番組としてスタートした番組は、2006年10月から現在の放送枠(木曜23:15~)で約1時間番組となったことを機に『アメトーーク!』と改称した。
「ひな壇芸人」という言葉を一般化させ、今では一般的となった「くくりトーク」と呼ばれるシステムを“発明”。その後のバラエティ番組に多大な影響を与えた。また「家電芸人」などの流行語を生み出し、「中学の時イケてないグループに属していた芸人」(08/12/30放送)ではギャラクシー賞月間賞にも輝いた。
『アメトーーク!』は一般受けを度外視した「好きなこと」をやっているイメージがある。しかし、「好きなこと」と「結果を出す」ことを両立することは、どんな世界でも難しいものだ。だが『アメトーーク!』は放送開始から10年以上が経った今でも一般的なテレビ視聴者から、コアなお笑いマニアまで多くのファンを獲得している。長きにわたって「好きなこと」と「結果を出す」ということを両立してきたノウハウは、決してバラエティ番組の方法論にとどまらず、様々な分野にも応用できるものではないだろうか。
http://www.tv-asahi.co.jp/ametalk/
一方、『アメトーーク!』にもその牙城を揺るがすような事態が起きている。
2013年4月から23:00~23:30のレギュラー放送が開始された『アウト×デラックス』(フジテレビ)。完全に時間が重なっているわけではないが、『アウト×デラックス』の後半15分、すなわち『アメトーーク!』の前半15分が被っている。そんな『アウト×デラックス』が、2013年5月23日の放送で視聴率が上回ったのだ。そのとき、『アメトーーク!』で放送していたのは「今、プロレスが熱い芸人」。これまでも裏番組に視聴率で負けることもあったかもしれないが、同じお笑い色の強い番組に敗れたのは、ある意味で大きな“事件”だった。
また『アメトーーク!』には以前から指摘されていた課題があった。それを「勉強大好き芸人」(12/9/28放送)でかまいたち・山内が「小論文攻略法」にかこつけて公然と口にしている。「一般的な問題点」として「テーマの枯渇」、「出演者が偏っていく」ことと提示し、その「一般的な解決法」を「プレゼン大会の開催」としている。さらに山内は「自分なりの一般的解決法の問題点」として「結局よく出ている人がプレゼンしている。だから顔ぶれは変わらない。『アメトーーク』が狭い狭いコミュニティの中でぐるぐる回っている」と踏み込んだのだ。
確かに「プレゼン大会」を含め、多くの企画で顔ぶれが固定されているイメージは強い。
そんな課題に対し番組の総合演出であり、プロデューサーを務める加地倫三は、あえて「負ける」ことでその閉塞的な状況を打破しようとしている。
加地は著書『たくらむ技術』の中で「番組内での企画は、『3勝2敗』くらいのペースでいいと考えています。5戦ごとに1つ勝ち越せればいい。勝率は6割」と明かしている。
ここで言う「負け」企画とは、「一部から強く支持されそうだけど、外すかもしれないもの」「かなり冒険的なもの」。いわば視聴率的には苦戦が予想されるものだ。一方、「勝ち」企画とは、「一度やって評判の良かったものの第2弾」「今までの経験上、好結果が期待できる新企画」、すなわちある程度の視聴率が見込まれるものだ。
加地の言う「負け」企画は、この番組の場合、大きく3つに分類されるのではないだろうか。
ひとつは、「しょうが芸人」など完全に外しにきている“チャレンジ企画”。古くはこの「くくりトーク」の元祖ともいえる「メガネ芸人」などもこれに当たるだろう。
2つ目は、あるひとつのジャンルや作品を扱う“マニアック企画”だ。「エヴァンゲリオン芸人」や「ジョジョの奇妙な芸人」、「越中詩郎芸人」などが代表的だ。今年のものでいえば「ガラスの仮面芸人」や「今、バイクが熱い芸人」、「ジャッキー・チェン芸人」、「格闘技やってる芸人」などがここに入るだろう。先出の「今、プロレスが熱い芸人」もそうだ。特に女性ファンの少ないような「男塾芸人」や「ビーバップハイスクール芸人」などは「負け」度が濃くなっていく。これはそのジャンルのファンには見てもらえるが、そうでない人たちにチャンネルを合わせてもらうのは難しいからだ。
そして最後は、「RG同好会」、「小木憧れ芸人」や「竜兵会」、「じゃない方芸人」などのように、お笑い芸人やその関係性などにスポットをあてたお笑いファン向けの企画だ。これはいわば“マニアック企画”のいちジャンルとも言えなくはないだろう。冒頭に挙げた「帰ろか…千鳥」もまさしくここに入るものだ。
ここに挙げた「負け」企画の一部は大きな支持を受け、いまや人気企画となりシリーズ化したものも少なくない。すなわち、「勝ち」企画に転じたということだ。そして、そういった企画こそ、『アメトーーク!』を象徴するような企画になっている。
加地は、テレビの基本は「いかに視聴者を驚かせるか?」だと語っている。(「ORICON STYLE」2014/1/25)
「負け」企画は、その理念を体現するように「え? こんなものを扱って番組を作るの?」などと新鮮な驚きを与えてくれる。
また加地は、マニアックな企画は視聴者に「“オレだけ感”を堪能してもらえる」(「日刊サイゾー」2013/1/24)と分析している。
「蛍原さんの『そんなん分からんわ!』って言うところを、それが好きな視聴者には『こんなことテレビで言っちゃって……オレは分かるけど』」と感じることができる。
この“新鮮な驚き”と“オレだけ感”は、まさに『アメトーーク!』の真髄である。
すなわち、「負け」企画こそが、『アメトーーク!』を体現しているのだ。
これは企画だけに言えるものではない。キャスティングにしても、いわば「負け」のキャスティングをすることが多い。
たとえば、かまいたち山内が「狭いコミュニティの中でぐるぐる回っている」と指摘した直後には「相思相愛・売れてる先輩×売れてない後輩」という企画を放送している。これは典型的な「負け」企画。お笑いファン向けのマニアック企画だ。その「負け」企画度は番組屈指だが、それ以上にキャスティングの「負け」度も凄かった。千原ジュニア×Bコース・タケト、ブラックマヨネーズ吉田×烏龍パーク橋本、博多大吉×天津・向、ケンドーコバヤシ×ネゴシックスという座組。挑戦的すぎるキャスティングである。この回は「売れてない後輩」をあえて出す企画だったから特別多かったが、他の回でも挑戦的なキャスティングは随所にされている。
最近で言えば、そんな中から注目されてきたのが三四郎・小宮やダブルブッキング・川元、デニス・植野といったところだ。
こうした、あえて「負け」ることで、「勝つ」という哲学は番組全体に浸透している。
『アメトーーク!』は「不安定」だからこそ、“新鮮な驚き”と“オレだけ感”が絶妙なバランスで維持することができ、「安定」した人気を保っているのだ。
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1978年生まれ。テレビっ子。ライター。『週刊SPA!』『日刊ゲンダイ』『Hanako』「水道橋博士のメルマ旬報」「日刊サイゾー」などでテレビ関連のコラムを連載中。著書に『タモリ学 タモリにとって「タモリ」とは何か?』(イースト・プレス)、『有吉弘行のツイッターのフォロワーはなぜ300万人もいるのか』(コアマガジン)がある。
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