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ジセダイ総研

「中の人」に聞く防災

石動竜仁
2017年09月04日 更新
「中の人」に聞く防災

日本の防災行政を舵取りするのはどこ?

 日本は多くの災害に見舞われる国だ。この認識は多くの方が共有しているだろう。実際、地震だけを例にとっても、全世界の0.25%の国土面積に対して、全世界で起こるマグニチュード6.0以上の地震の18.5%は日本で発生している。我々日本人にとり、災害はごく身近な存在だ。

 しかし、災害慣れしている日本人であっても、「国家としての日本の防災を舵取りしているのはどこか?」と聞かれて、即答できる人は少ないだろう。災害の際にテレビに映し出されるのは、被災地で活動する自衛隊や救急・消防といった、災害が「起きた後」に目立っている組織が大半だ。多くの人にとって、国と災害・防災と言ったら、そちらのイメージが強いかもしれない。

 そこで、防災週間の今を迎えた今、常日頃から日本の防災行政の舵取りを担う「中の人」に、日本の防災行政について話を伺い、知られざる防災の一端を見ていきたいと思う。

日本の防災行政の舵取り役 内閣府(防災担当)

 話を伺ったのは、日本の防災行政の舵取り役を担う、内閣府(防災担当)だ。省庁再編により2001年に発足した内閣府では、旧国土庁の防災局を引き継ぎ、内閣府(防災担当)として、日本の防災行政の中心的役割を担っている。内閣府と言われても、経済産業省や外務省といった省庁と異なり、名称からは具体的にどんな仕事をされているかはイメージがつきにくいかもしれない。

内閣府(防災)が入る中央合同庁舎8号館(中央)

 内閣府は内閣の重要政策の中でも、多分野にまたがり省庁間で調整が必要なものを担当しており、それぞれのテーマに応じて内閣府特命担当大臣を置いている。このため、内閣府は一つの行政機関でありながら、2017年8月末現在、10名もの担当大臣がいる。その中で、防災行政を担うのが防災担当。小此木八郎内閣府特命担当大臣(防災)をトップに、100名近い職員が在籍している。

 今回、話を伺うのは、内閣府防災の企画官(普及啓発・連携担当)の後藤隆昭氏。ネットでも発信活動を行っており、昨年は映画『シン・ゴジラ』で話題になった国家の危機対応について、当事者として解説を行った同人誌を発表し話題になったことでも知られている。

後藤隆昭氏 内閣府政策統括官(防災担当)付 企画官(普及啓発・連携担当)

これまで土地行政、国土計画、防災行政に関わり、現在は国土交通省から内閣府に出向中。著書に『虚構と防災』(自費出版)。

----内閣府(防災担当)の役割とはなんでしょうか?

 日本の場合は、災害対応といっても基本的に各省庁で所管があって、そこで対応していくのが大前提です。それを内閣府が総理の下、束ねていく構造になっています。
 よく対比されるのがアメリカのFEMA(連邦緊急事態管理庁)で、彼らの人数は平時8,000人で、他に1万人ほどの非常時対応要員を擁する組織で、予算規模で言っても130億ドルくらい。一方で内閣府防災は人数で言うと100人ほど、予算規模で言うと50億円で、だいたい2桁違う規模です。
 FEMAはまたオールハザードアプローチを取っていて、自然災害だけでなくテロ等の全ての危機について所管する形になっています。日本の場合は特に地震や台風のような自然災害の被害がそれ以外のテロ等のリスクに比べ重視されているため、まずは自然災害への対処が一義的に考えられ、それを担当する部門として内閣府防災があります
 日本版FEMAを作るべきではないかという議論は昔から何度もあるのですが、FEMAのような組織にも長短あって、州の能力を超える場合に連邦政府が緊急事態宣言をし、FEMAが出張るのですが、FEMA自前でかなりの災害対応ができます。一方で平時はそこまでの大組織が必要ではないので、行政コストを考えると、そんなに効率が良い訳ではないだろうと思っています。

ハリケーン・アイリーンに備え、物資の準備を行うFEMAのロジスティクス職員

----自前でこなすFEMAのアプローチに対して、内閣府はどうなのでしょうか?

 我々は大規模災害だけのためにフルセットでスタンバイさせる訳にはいかないので、日頃他の用途で各省が使っているものを転用します。端的に言うと、自衛隊がそうですよね。国防のために持っているものを、災害派遣という形で転用する。
 防衛省に限らずどこの省庁も同じで、その全体を束ねるのが内閣府であって、緊急災害対策本部などを立ち上げて、官邸主導の下に有機的に連携して対応していきます。内閣府防災自体の職員が少なくとも、あくまで各省庁が連携するための潤滑油として機能なので、それで足りないというわけではありません。むしろ各省庁がそれぞれの特性を生かしたリソースを持っているので、各省庁の力を集約して発揮することに腐心するのが我々の役割です。

----自然災害を一義的に担当するとのことでしたが、7月29日未明の北朝鮮のミサイル発射の際、後藤さんも官邸への参集指示を受けたとTwitterで書かれておりましたね。こういった自然災害以外での対応も内閣府はしているのでしょうか?

 説明すると難しいのですが、内閣府と内閣官房があって、内閣府は自然災害について、その予防から応急段階、復旧・復興までの全てのフェイズに渡って関係省庁の調整をします。一方で内閣官房は、主に官邸の初動対応を担当します。早く正確に総理に情報を上げて、意思決定をするのが内閣官房の役割です。
 内閣府にもそういう機能はありますが、特に初動の段階で総理の意思決定のためのアレンジをするのが内閣官房の仕事です。そのために内閣官房は官邸の地下に危機管理センターと呼ばれる施設を持っていて、何かあれば緊急参集チームという形で関係省庁を集めて対応を協議します。内閣官房はオールハザード対応(注:自然災害だけでなく、事故、テロといった幅広い事態に対応すること)であることも我々とは異なります

 日本の防災行政機構について、集権的なアメリカと対比すると、日本は分権的な形を取り、内閣府が省庁間の調整機能を果たしているという。また、初動における総理の意思決定をサポートする内閣官房に対し、内閣府では災害の全フェイズでの調整といった分担も行われている。それでは、内閣府は具体的にどのようなことを行っているのだろうか?

----内閣府防災内部の組織のミッションについて、お聞かせ頂けませんか?

 全体で言うと、統括官、いわゆる局長が上にいます。その下に次長にあたる審議官が2人、その下に課長に当たる参事官が8人います。各参事官は、主に予防段階、応急段階、復旧・復興段階といった災害のフェイズ毎に機能分担しています。
 予防段階には主に国や自治体の計画策定を担当している防災計画担当と、国民一般に向けた普及活動をやっている私のいる普及啓発・連携担当があります。初動段階には、初動対応のオペレーションを担当する災害対策緊急事態対処担当と、被災者支援を行う被災者行政担当があります。復旧・復興段階では、被災者支援を行う被災者行政担当と、自治体の復旧・復興を支援する事業推進担当があります。この5つが災害のフェイズ毎に設けられているものです。
 この他に、被害想定や予想される災害への対処検討などを行う調査・企画担当。防災訓練や自治体職員の養成を行う地方・訓練担当、全体のとりまとめをする総括担当があり、そのように機能分けされています。

----後藤さんは、東日本大震災の時はどのような仕事をされていましたか?

 平成20年に内閣府防災に来て、もうすぐ異動かなという時に東日本大震災が来ました。当時は復旧・復興担当(現在は復興庁が担当)というところにいて、復旧・復興全般や被災者支援を担当していました。
 当時は今より人員が少なくて、70名くらいだったと思いますが、それが現地(岩手、宮城、福島)の3つの対策本部と、官邸にも人が行き、残った人間で仕事をしていました。時期によっても違いますが、各現地対策本部に5〜6名ずつ、官邸に多い時は20名ほど行っていて、庁舎に残ったのは普段の半分くらいでした。3日仕事してちょっと家に帰って、また3日仕事してという状態でした。

----現地に行く人はどのような人なのでしょうか?

 普段、予防段階や調査研究を担当している者が主に現地に行きます。逆に被災者支援関連の制度を担う人は、東京にいないと仕事になりません。発災時の制度を持っていない人が、事前に現地要員として登録され、大規模災害時は平時の業務を全部一時休止して、災害対応だけやるという感じになりますね。

----東日本大震災の際、仕事でいちばん最初にとりかかった仕事はなんですか?

 私の場合は、当時担当していた業務のひとつに特定非常災害特別措置法がありました。これは、大きな災害があった際の権利利益の保全や、義務の免責をするものです。わかりやすいたとえで言うと、運転免許証の期限が切れると車が運転できなくなりますが、被災時にとても更新など出来ないので、一時的に期限を延ばしてあげる必要があります。こうした措置を特定非常災害に指定することで、各省庁の持つ様々な制度についてパッケージで出来るようになります。
 東日本大震災を特定非常災害に指定するために政令を出すのですが、その作業を最初の2、3日でやりました(注:平成23年3月13日公布・施行)。各省で様々な制度があり、事前にリスト化されているものを適用するために、各省に了解をとって政令を作りました。

----現在は普段どういうお仕事をされていますか?

 普段は普及啓発・連携担当ですので、防災についてのパンフレットや防災白書といったものを作ったり、9月1日の防災の日周辺の防災週間、11月5日の津波防災の日、阪神大震災が起きた1月17日といった節目節目に各イベントを担当しています。

 また、発災時の行政とNPO、ボランティアの連携についても担当しており、自治体とNPO、ボランティアがスムーズに連携して、お互いの足らざる部分を補いあって、NPO、ボランティアに力を発揮して頂けるよう、行政とNPO、ボランティアの橋渡しのようなこともしています。

----内閣府防災として国民にこういうこと知ってほしい、というのはありますか?

 たくさんありますが、よく言っているのは、災害時は自助・共助・公助と言われますが、公助の部分は特に発災当初はあまり期待できない。例えば阪神大震災では、助かった人の8割は自助(自力による救助)、共助(家族・隣人らによる救助)によるものと言われています。そのため、ひとりひとりの防災力を高めて頂くということが非常に大事です。
 最近推しているものに地区防災計画というのがあるのですが、これは、市町村が作る行政計画である地域防災計画だけでなく、町内会のような地区単位で防災計画を作って、それを市町村の地域防災計画に組み込んむことが出来るようになったもので、平成25年の災害対策基本法改正で導入された精度です。
 それぞれの地域で災害が起きた時にどうするかを考えてもらい、それを市町村計画にも反映できるようにしたのが地区防災計画精度です。ただ作ればよいというのではなく、計画を作る際に地域住民が集まって話しあうことで、様々な気付きがあるといった効果もあります。

----九州での大雨災害の際、ボランティアについて抑制的なツイートが出回っていることに言及されていましたね。災害時におけるネットの影響について、どう思われていますか? 

 ちゃんと測定したわけではないですが、ネットの影響はあると思います。被災地では数多くのボランティアが必要となりますが、一方で受け入れ側の体制が出来てないと、ボランティアが来ても作業の振り分けもうまく出来ず、混乱する場合もあります。二次災害の恐れや専門機関による捜索救助活動との兼ね合いもあり、当初の段階ではまだ一般ボランティアは入らない方がいい、ということもありますが、状況は刻々と変わるため、古い情報がいつまでも流布することの弊害もあります。
 災害時にデマが出るのはある程度やむを得ない部分もあり、信頼できる機関が正しい情報で打ち消すしか無いと思います。ただ、行政の情報発信は、特に災害時になるとどうしても弱くなりがちなので、例えば、被災地の首長は必ず毎日定時に、記者の前に立って会見することが大事だと言っています。

----内閣府防災として、今後の課題として取り組んでいることは何ですか?

 課題は色々ありますが、大きな課題が、首都直下地震と南海トラフ地震への対処です。他にも想定される災害は様々ありますが、規模が大きく、かつ発生確率が高いのがこの2つで、相当なダメージは避けられないため、それをいかに軽減するかが課題です。
 「防災担当」と言っていますが、最近では、防災という言葉はだんだん古くなってきていて、今は減災という呼び方もよく使われます。英語でもdisaster management(災害管理)という言葉よりも、disaster risk reduction(災害リスク軽減)と言うのが主流になってきています。災害が来るのはやむを得ないので、いかに被害を軽減するかという考えです。
 東日本大震災でもそうでしたが、いくら高い堤防を作っても限度があります。防潮堤を超える津波は、住民避難といったソフト面で対応し、いかに被害を減らすかといった方向にシフトしています。
 また、巨大災害では、発災後の被災者の住宅確保が困難になります。一般的なフローは、まずは避難所、仮設住宅を経て、恒久住宅というものですが、今のやり方でやっていたら、南海トラフ地震などでは数も用地も足りないので、そこをどうやってクリアするかが大きな課題ですね。

----最後に、後藤さんから伝えて欲しいことはありますか?

 繰り返しになりますが、まずは自助の取組が大事です。特に大きな災害になると、すぐに助けは来ません。最低3日間、できれば1週間の備蓄はして下さいという言い方をしています。大きな災害になればなるほど、自治体が機能しないので、自助・共助で少なくとも最初は乗り越えてもらうしかありません。
 また、災害が起きてから出来ることは実はそんなに多くはないので、いかに準備をしておくかが大事です。よく言われることですが、訓練で出来た以上のことは、本番には出来ません。個人にしてもそうで、事前に連絡方法を決めておかないと、通信が途絶した後にはどうにもなりません。事前に想像力を働かせて準備するのに尽きると思います。

----本日はありがとうございました。

 災害報道ではなかなか目につかない内閣府防災。今回はそのミッションや実務について、当事者の話をお伝えした。公助の仕組みを整える機関でありながら、自助共助の重要性や、個人・家庭で行う備蓄を訴えかけるなど、行政の限界に言及したのが印象的であった。

 東日本大震災の事例を見れば分かるように、巨大災害により行政・自治体が甚大な被害を蒙り、麻痺することは十分考えられる。インタビューでは防災行政の当事者として、災害時に行政が動く事にも腐心しているのが窺えたと同時に、行政が動けない・手に余る事態を、現実に起こりうると受け止めていた。

 公共事業や、様々な法律による規制・制度といった様々な省庁・行政の働きが、我々の日常から災害を遠ざけているのは疑いない。しかし、国家ですら持て余す災害は頻繁に起きている。こういった災害に際しては、普段から我々自身の「防災力」を高めることが、災害時の生存に決定的な意味を持つ。我々は行政に守られている部分も多いが、その限界も認識し、備える事が重要となる。

 防災週間を期に、貴方も防災への備えを見直して、「防災力」を高めてみてはいかがだろうか。

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IT系企業に勤める傍ら、2008年から「Dragoner」名義で軍事関係ブログを始める。2010年にTwitterを開始、多くのフォロワーを持つ人気アカウントとなり、2013年から本格的にライター業を始める。現在は、個人ブログだけでなく、「Yahoo!ニュース個人」でも、一般向けに軍事問題の時事解説を行っている。

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ジセダイ総研 研究員

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