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ジセダイ総研

日本で「俗流台湾論」があふれる不思議 台湾総統選に見る「上から目線」

安田峰俊
2016年01月25日 更新
日本で「俗流台湾論」があふれる不思議 台湾総統選に見る「上から目線」

 2016年1月16日、台湾(中華民国)において総統及び立法院(国会)議員を選ぶ同時選挙がおこなわれた。結果は、最大野党・民主進歩党の蔡英文主席が約689万票を集め、与党・中国国民党候補の朱立倫主席に300万票以上の差を付け圧勝。民進党は立法院でも、1986年の結党以来初の過半数の議席を獲得し、国会とのねじれのない完全な政権交代をはじめて成し遂げた。台湾は中国大陸との関係改善をより志向する「藍営」(藍色陣営:国民党に代表される)と、台湾アイデンティティをより強調する「緑営」(緑色陣営:民進党に代表される)の二大政党制の国だが、今回のダブル選では、学生運動「ヒマワリ学運」をルーツに持つ新政党・時代力量の躍進と合わせて、政界の「緑化」が一気に進行することになった。

 ところで、今回の選挙結果に最も強い関心を示した外国は、(中国政府の関係者を除けば)おそらく日本だっただろう。一昔前までは、中国への配慮から青天白日満地紅旗(中華民国の国旗)が画面に映り込むだけでモザイクを掛け、「中華民国」という言葉すらタブー視していたNHKをはじめとするテレビ各局も、現在は普通に取材班を送り込んで詳しく報道するようになった。台湾がそれだけ「普通の隣国」として扱われるようになった証拠でもあり、かの国はもちろん日本のためにも喜ばしい現象だといえるだろう。

 また、ネットなどを見ると、選挙戦の期間中から蔡英文を応援したり、当選を喜んだりする声もけっこう大きかった。今後の蔡政権は中国と一定の距離を置き、比較的「親日」的な姿勢を示すことが期待できるため、こちらもやはり自然な話である(私自身、どちらかといえば緑色陣営の勝利を喜ぶ側だ)。

 もっとも、日本での動きには現地の感覚から見てちょっと不自然な「解説」や「応援」をおこなう人たちがかなり多く見られたのも事実だ。ことに特定の政治的立場に立つ人ほど、恣意的な解釈をアピールする傾向が強かったように思える。ややお節介ではあるが、本稿では以下、これらにいちいち突っ込みを入れていくことにしたい。報道が増えたとはいえ、台湾は日本国内において情報の絶対量がすくない国であり、小さな誤解でもある程度は訂正作業をおこなっておくほうがいいかと思うからだ。

 

「リベラル蔡英文」とネット保守

 さて、まずは保守層(特にいわゆる「ネット保守」)の反応と、それへの違和感を見ていこう。下記に紹介するのは、1月10日にネット保守系の政治団体、頑張れ日本!全国行動委員会が渋谷で主催した蔡英文候補への「応援」集会の様子を伝えるツイッターの書き込みである。ちなみに、1枚目は蔡英文支持と思われる在日台湾人(出典)、2枚目は台湾と日本の双方にルーツを持つ人物(出典)、3枚目は台湾の総統選ウォッチを好むツイッターユーザー「中国住み」氏の投稿(出典)だ。

 

 

 ちなみに上記の「頑張れ日本!」やその傘下団体は、過去に日本国内で、外国人移民受け入れ反対の街頭活動渋谷区の「同性パートナーシップ条例」反対運動北海道のアイヌの「特権」を批判する言説の発表などをおこなってきたほか、前会長(現在は決裂)だった田母神俊雄氏は原発賛成派として知られている。また、同団体は尖閣問題や慰安婦問題についても強硬な言説と街頭活動で有名である。

 では、こうした団体による「応援」活動の姿に違和感を唱える声が出ていたのはなぜか。まずは、私が当選当日に台北市内の蔡英文選挙本部で撮影した写真を見てみてほしい。

 

蔡英文に声援を送るLGBT団体関係者と思われる男性

 

開票集会の前にダンスを披露する山地原住民(少数民族)、アミ族の女性たち。その後、同じく台湾社会のマイノリティである客家の関係者も登壇して演説した。

 

ペットや環境を重視するコンセプトを前面に出した蔡英文グッズ販売店

 

 全体的なイメージをざっとつかむだけでも、日本側の「応援」集会の雰囲気との大きなギャップは明らかだろう。引き続き、移民受け入れ、同性愛、国内少数民族、原発、尖閣、慰安婦といった台湾国内の各問題について、蔡英文の姿勢を見ていきたい。

 

【移民問題】……「新移民(近年の中国や東南アジアからの移民)」への社会保障の向上や彼らのアイデンティティの保護に積極的な姿勢を示し、昨年10月21日には「新移民の子も(選挙権を行使して)総統を選んでほしい」と発言。

【同性愛】…昨年10月31日に自身のフェイスブック上で動画を発表し、「婚姻の権利平等」を主張。当選後に同性婚の合法化を目指すことを表明している。

【少数民族】……蔡英文自身、台湾の山地原住民(日本統治時代の「高砂族」)であるパイワン族の血が4分の1入っている。彼女は昨年10月24日の演説で、2005年に民進党政権下で成立した「原住民基本法」が、原住民自身のテレビ局の設置や、原住民の年金支給年齢を55歳に引き下げる(ちなみに通常の支給年齢は65歳から)などの成果を上げたことを強調。当選後に補助の拡大を含む原住民保護政策を取ることを主張している。(もっとも、原住民はもともと国民党の票田で、国民党側も原住民政策を重視している点は変わらないが)

【原発】……蔡英文の公約は、2025年までに台湾の脱原発を達成することである。

【尖閣問題】……民進党・蔡英文ともに、以前から尖閣諸島は台湾領という認識である。当選後の記者会見でも「日本との関係はとても重要。なぜなら、主権論争が2国の関係に影響を与えてほしくはないからです。領有権の問題は存在するが、日本との強力な関係はこのまま続きます」とフォローしつつ、「釣魚台(尖閣諸島の台湾名)は、台湾に属しています」とコメントしている(そもそも、台湾で与党になろうとするならば、自国の国益を重視する姿勢を打ち出すのは当たり前である)。

【慰安婦問題】……台湾人慰安婦問題の解決に前向きである。(そもそも、台湾において慰安婦問題は「反日」の政治カードではなく「女性の人権」の問題としてとらえられている部分も大きい。こうした問題に関心が強い公民運動(市民運動)の賛同者を支持層に多数取り込む蔡英文が、慰安婦問題の解決に積極的な姿勢を示すのはやはり当たり前だと言える)。

 

 ……事例を挙げれば挙げるほど、日本のネット保守の人たちが自分の時間を割いて街頭に出てまで、なぜ熱心に蔡英文を「応援」するのか首を傾げたくなる。仮に民進党が日本国内に存在したとすれば、往年の民主党並みに激烈なバッシングに晒されるのは間違いないだろう。日本のネット保守と、台湾の緑色陣営の主張でほぼ唯一主張が(多少は)近いのは「台湾独立」への志向性だが、蔡英文は選挙期間中も両岸関係の現状維持を主張しているし、大多数の台湾人も(中国から距離を置くことは望んでいても)即時の台湾独立は求めていない。ネット保守の人たちの言説や行動は、矛盾を通り越して「意味不明」というしかないだろう。

 日本のネット保守のイデオロギーを見る限り、彼らと本当に相性がいいのは、どう見ても「反中共、戦略的な親日&親米、大陸への軍事的逆襲、台湾島の住民は単一中華民族、国家主義政党による専制体制の堅持」という方針を掲げていた1980年代までの国民党である。現在の台湾でも、外省人1世や国民党内の老保守派には、いまでもそういう人がちょっとくらいは存在すると思われるので、「頑張れ日本!」は彼らが存命しているうちに連帯の対象を変えたほうがいいのではないだろうか?

 

「台湾ナショナリズム」を無視したい日本のリベラル

 さて、ネット保守系の人たちをずいぶんくさしてしまったが、実のところ台湾については一部のリベラル層の人たちの認識も同様に微妙である。蔡英文の政策が彼らに受けがいいのは当然ではあるのだが、だからといって恣意的な「解釈」をおこなっていい理由にはならない。

 以下に紹介するのは、リベラル派と思われるある映画監督のツイートだ(発言者個人を攻撃する意図はないので、アカウント名は伏せる)。見た限り、日本のリベラル層の人々にはこうした立場から民進党の勝利を喜ぶ人がそれなりに多くいた印象である。

 

 

 正直に言って、ネット保守の解釈よりは多少マシなものの「ズレている」感じである。

 なぜなら、蔡英文は「反格差」はさておき、決して反グローバリズムの政治家ではない。現地の中央通訊社によれば、蔡政権はTPPへの参加を望んでいるようだし、なにより蔡英文は当選翌日の1月17日に日本の交流協会の会長(事実上の在台日本大使館大使)とさっそく会談して日本とのFTA締結に意欲を見せている。国民が反グローバリズム政策を求めて支持した政治家が、当選した次の日に手のひらを返したとすれば由々しき大問題となるはずだが、これについて台湾世論はちっとも怒っていない。

 もっとも、より違和感があるのは、上記のツイートが蔡英文の勝因としての「反中国」要素をことさらに否定している点だろう。

 即時の「台湾独立」は望まないまでも、台湾を中国とは別の国家だと考える台湾ナショナリズムや、中国大陸を感情的に忌避する心理は、いまや本省人(数世代以上前からの台湾在住者)系の住民だけではなく外省人(国共内戦後に台湾へ移住した中国大陸系住民)の二世・三世まで広く共有されている。政党支持層でも「緑営」はもちろんノンポリや「藍営」の一部にも広がっている感情だ。今回、国民党が総統候補者を当初の洪秀柱から朱立倫にすげ替えたのも、親中国的な傾向が強すぎる洪秀柱では票が集まらないという判断が一因である。

 過去8年間、台湾では馬英九政権の過度の対中傾斜政策のもとで、大手テレビ局の多くが中国資本の顔色をうかがって報道を自主規制するようになったとされる。ヒマワリ学運の原因になった両岸サービス貿易協定についても、経済競争の激化や格差の拡大が懸念されたこと以上に、台湾社会のなかに資本という形で中国の「支配」が入り込む事態が多くの国民に嫌われたことが、あれだけ大きなデモが起きる要因となった(事実、当時私がデモ現場を取材した際も、「自由貿易には賛成だが中国との接近には反対」と話す国民党支持層の若者に会うことは珍しくなかった)。今回の選挙にしても、馬英九政権下での格差拡大への反発と同時に、経済に限定されない「親中国」方針を国民が支持しなかったことが、蔡英文や緑色陣営の躍進を生んだのは疑問の余地がない。

 投票日前日には、韓国で活動する台湾人女性アイドルがテレビ番組中で中華民国旗を手にしたことを中国側に激しく批判され、所属事務所の指示でYoutubeに謝罪動画を投稿させられる事件が発生し、台湾世論の大きな反発を招いた。台湾メディア『民報』が報じた世論調査によれば、この事件は20代の選挙民のうち16.5%の投票行動に影響したという。格差問題もグローバリズムも関係なく、16歳の少女にまで「政治」の踏み絵を迫る中国という国への憤りが選挙結果に影響した事実はやはり明確に存在するのだ。

 

「私は中国人です」と紙に書いたメッセージを読み上げさせられる台湾人アイドル、周子瑜(出典)。

 

 ちなみに日本のリベラル派の人たちは、2014年の台湾のヒマワリ学運や香港の雨傘革命の際にも、学生の行動要因に「反中国」要素が存在しないことを強調し、「若者による民主主義を守るための反政権デモ」という側面だけをクローズアップして賛美する傾向が強かった。だが、近年の台湾や香港が置かれてきた客観的な政治状況と、習近平政権の成立以降に一層露骨さを増した中国共産党の統一戦線工作を考えれば、台湾や香港の学生デモの要因に中国への不快感が存在しないと主張するのは明らかに無理があるだろう。本題から外れるため細かな論述は控えるが、例えばヒマワリ学運や雨傘革命の参加者に北京訛りの普通話(中国大陸の標準語)で話しかけるだけで、ちょっと「引いた」警戒心をあらわにされるという一事を挙げるだけでも、現地のムードはおおむね想像してもらえるはずだ。

 日本は言論や思想信条の自由が保障された国だ。なので、日本のリベラル層の人たちが、日本国内のナショナリズムの高まりに嫌悪感を抱くのは自由だし、その立場も十分に尊重されるべきだ。だが、いくら嫌いであっても、ナショナリズムという要素自体を「なかったこと」にして外国の現象を解釈するのは明らかに問題ありだろう。ネット保守の人たちと同じく、党派性に凝り固まった考え方の先に事実が見えることはないはずなのだ(事実を意図的に見たくないならば話は別だが)。

 

「俗流若者論」と俗流台湾論の相似点

 日本における台湾は、実に不思議な扱いをされがちな国だ。この国家は普段、日本人からはオタク文化の流行地と長期休暇時の旅行先としての関心くらいしか持たれていない。なのに、ひとたび学生デモや選挙などの政治的事件が起きるたびに、現地語もわからず現地に住んだこともない人たちがいきなりワラワラと大勢出てきて、台湾のすべてを知っているような顔で「解説」したり「応援」したりする怪奇現象が発生するのである。

 仮に政治的な事件の舞台がスペインやシンガポールであれば、日本の大多数のネット評論家やネット運動家の人たちはあまり関心を示さない。なぜなら、これらの国は日本国内でベーシックな知識がほとんど共有されていないため、わからないことは喋りようがないからである。また、アメリカやロシアについては論じたがる人がそれなりにいるが、こちらは言説の質に関わらず、本質的には「よくわからない相手」という前提のもとで語られることが多い。いずれも台湾の場合と違って、納得できる反応だろう。

 一般論として、人間は自分よりも年齢や地位が高い相手や、疎遠な同輩に対しては、先方の考えを根本的に理解できないことを認識したうえで振る舞う。その一方で、「目下」だと見なす相手に対しては、ちょっと本気になればいつでも対象の考えを理解できるような錯覚を抱いてしまいがちだ(昨今の世間にあふれる若者論や子育て論にびっくりするほど粗雑なものが多いことを考えれば、これは容易に理解できるところだろう)。

 あえて語弊を恐れずに言えば、訳知り顔で一過性的に台湾を論じたがるような人が妙に多い一因は、台湾という国家が日本の旧植民地であり、現在もなお国民の親日感情が比較的高いという事実に帰せられるような気がしてならない。普段は大した関心を持たず知識をアップデートする努力も放棄しているのに、都合のよいときにだけ相手の姿をああだこうだと決め付け、特定の論理に当てはめて理解したつもりになる行動というのは、心のどこかで相手を「目下」の存在だと思っているからこそできることだとは言えないか。

 ――もっとも、近年の台湾は日本人が優越感を持って上から目線で眺められるような国家ではない。

 かの国における市民社会の成熟度――例えばマイノリティへの権利保障意識や健全な社会運動組織の多さは日本をはるかに上回っている部分が少なくないし、女性の社会進出度も投資環境の整備度も、台湾は日本よりも優秀な面を数多く持つ。アジアの立派な優等生国家だ。

 今回の選挙後、蔡英文は支持者を前にした演説で、まず対立候補の朱立倫と宋楚瑜が民主主義の枠内で正々堂々と競い合ってくれたことへの感謝の意を述べた。一方で敗北した朱立倫も、メディアを前に「自分が誤っていた」と明言し、民意に支持された蔡英文の勝利を祝福した。台湾の民主主義は、本当のところ実際の運用の面ではそうきれいごとばかりではない面も数多いのだが、少なくともその理念が高いレベルで候補者にも選挙民にも共有されている点では、やはり日本よりも優秀な面が多々あることは疑いようがない。

 願わくば、この実にまともな隣国を、余計な思い入れや知ったかぶりを排して対等に見る日本人が増えてほしい。帰国する飛行機に乗るたびに、私はいつもそんなことを思ってしまうのである。

 

※現地取材と本稿の台湾経済に関する部分については、台北市内在住のジャーナリスト・杉野浩司氏のお手伝いをいただいた。

 

■安田峰俊氏の寄稿記事

「なんかSEALDs感じ悪いよね」の理由を考える ──中国や台湾の学生運動との比較から──

中国の支配者・習近平が引用する奇妙な古典 ――「紅い皇帝」のダヴィンチ・コード――

 

 

 

 

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安田峰俊

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ノンフィクション作家。 1982年滋賀県生まれ。立命館大学文学部卒業後、広島大学大学院文学研究科修了。当時の専攻は中国近現代史。一般企業勤務を経た後、運営していた中国関連のブログが注目され、見出されて文筆の道に。 著書に『中国人の本音』(講談社)、『独裁者の教養』(星海社新書)、『境界の民』(KADOKAWA)、『和僑』(角川書店)など。週刊誌・月刊誌への寄稿を続けつつ、多摩大学経営情報学部で講師も務めるなど幅広く活躍中。

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ジセダイ総研 研究員

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