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ジセダイ総研

中国、初の国産空母を建造 「普通の軍隊」を目指す日中

高口康太
2016年01月12日 更新
中国、初の国産空母を建造 「普通の軍隊」を目指す日中

 中国人民解放軍は先日、初めて国産空母の建造を正式に認めた。このニュースは日本でも大きく報じられたこともあり、中国の軍拡はここまできたかとの印象を受けた人も少なくないだろう。  だが、細部を見ていくと別の景色が見えてくる。いまだに「普通の軍隊」になれず、必死に摸索を続ける中国軍の現状をお伝えしたい。

中国国産空母建造のニュースが招いたお通夜モード

 2015年12月31日、中国国防省は定例記者会見を開催。楊宇軍報道官は記者の質問に答え、国産空母を建造中であると認めた。初めて公式情報で建造の事実が認められた。
 私の持論だが、軍事情報は中国のガンダムである。今の時代はエンタメがあふれているが、かつての男の子たちにとっては軍事情報こそが最大の娯楽だったのだ。今でも30代以上のおっさんたちには軍事オタクが多い。中国軍の新兵器やら自衛隊の新型護衛艦やらというニュースをキャッキャウフフと楽しんでいる。昨年の大閲兵式でも、真っ先にネットにあふれた意見は「これで兵器がたくさん見られるぞ!」という大はしゃぎであった。
 というわけで、国産空母にもワクワクしているのではないか……と推測してSNSやらネット掲示板をのぞいてみると、意外なことにへこんでいる人ばかり。お通夜モードとなっていた。
 その理由は楊報道官が発表した空母のスペックのためである。

 

この空母は完全に我が国が自主設計したもので、大連で建造中です。排水量は約5万トン。通常動力を採用し、国産戦闘機J-15やその他艦載機を搭載します。固定翼機の離陸にはスキージャンプ方式が採用されます。

 

 この短い説明が中国の軍事オタクのみなさんを失望させたのであった。そもそも数年前から中国の国産空母建造は公然の秘密だった。
 公式発表がない中、妄想だけが先走り、「どうやら原子力空母らしいね」「米軍ですらまだ正式採用していない電磁カタパルトが搭載されるとのこと。すでに陸上基地で電磁カタパルトの試験は進められている」などなどの噂が飛び交っていた。
 米国を上回る最新鋭空母との期待は肩すかしに終わった。それだけではない。排水量5万トン、スキージャンプ式飛行甲板といったスペックは、中国の現有空母・遼寧号とほぼ合致する。「自主設計」とは名ばかりで、たんなる遼寧号のコピーなのではとの観測が一気に広がった。
 中国のニュースサイト・網易の記事「初の国産空母は遼寧号のコピーか?」は「発表内容にはがっかり」と素直に認めつつも、「国産戦闘機J-15やその他艦載機」って発表していたんだから、ひょっとしたら噂のステルス艦載機を開発しているかも知れないじゃん!と必死に盛り上げている。

 

2015年4月、中国のネットに流出した中国初の国産空母の写真。
ドックで建造が進んでいる。(出典

 

 

いつからはクラウン、いつかは空母

 失望したり無理やり盛り上げたりとなかなか大変な状況である。それというのもさまざまな兵器の中でも、「空母」は中国で特別な存在だからだ。
 私が初めて「中国の空母」に出会ったのは1998年、中国内陸部の都市・長沙市でのことだった。できたてほやほやのビルに「マンション界の空母、ついに誕生」との横断幕がかけられていたのだ。同行者の中国人に「ただのマンションに見えるんですが、どのあたりが空母なんでしょうか?」と質問すると、「空母というのはともかくすごいもの、豪華なものというイメージがありましてね。なんで宣伝文句に使うわけですわ」と説明してくれた。日本語で言うならば「マンション界のフェラーリ」といったところか。
 ことほどさように、中国(の軍事オタク)にとって空母は憧れの的だったわけだ。もともと中国共産党はゲリラ戦の達人ではあっても海軍はからっきしであった。国共内戦では国民党を中国本土から追い出すことはできても、海峡をはさんだ台湾までは追いかけることができなかった。1995年の台湾海峡危機ではミサイル演習を実施して圧力をかけてみたものの、米軍の空母がやってきて逆に戦闘力の差を思い知らされてしまった。空母こそ一流国の証明なのである。

 

2012年、遼寧号就役を受けて、中国で「空母スタイル」と呼ばれるブームが起きた。発艦誘導員の姿勢を真似た写真をネットで公開するものだが、社会現象の様相を呈した。空母就役のニュースが娯楽となったシンボルとも言える。

(画像をクリックするとYoutubeが開きます)

 

 

やっと手にした空母は放棄されていたもの

 21世紀に入り世界の大国となった中国だが、それでもなかなか空母は保有できない。「いつかは空母」との期待は、きわめてアクロバティックな形で実現することになった。中国初の空母・遼寧号はもともとウクライナで建造途中で打ち棄てられていたもの。それを海上カジノに使うという名目で購入し中国まで持ち帰ったのだった。
 ウクライナからの買収を担当したのは企業家の徐増平だ。ウクライナに白酒(中国の蒸留酒。アルコール度数40度以上の強い酒)を50本持ち込み、ウクライナの軍人と宴会を繰り返した末に買収に成功したのだという。中国政府に接収されるまでは世界唯一の「空母の個人所有者」であった。ちなみに空母購入にあたって使った裏金やら宴会費用やらを中国政府が払ってくれなかったため、いまだに支払いを求めて交渉中だという。「経費の証明書を出せ」とはねのける政府に、徐は「裏金に領収書なんかないでしょ」とおかんむり。お国のために大事業を果たしたという切ない話である。
 それはともかく、人民解放軍というとすさまじい勢いで軍拡をしているという一面ばかりが報じられるが、現実的にはまだまだ問題が多く、近代的かつ合理的な軍隊になろうと必死に努力している最中である。新たな空母にしても、「とりあえず遼寧号と同じものを作ってみる」という判断は堅実だ。

 

2013年11月、南シナ海で演習航海を実施した遼寧号。甲板に「中国の夢、強軍の夢」との人文字が作られている。(出典

 

 

普通の軍隊になるために

 中国人民解放軍の堅実な改革は空母だけにとどまらない。例えば定員削減。昨年、中国人民解放軍は30万人もの定員削減を発表した。「精強な軍隊を作り上げるための人員削減だ」との論評を目にした人も多いのではないだろうか。
 そうした評価の前に人員削減の内実を見てみよう。リストラ候補最右翼は「文芸工作団」(文工団)だ。文工団は慰安イベントを実施する部隊である。どこの国にも軍楽隊ぐらいはあるだろうが、中国の場合は規模が違う。が、その数は1万人を超え、歌、踊り、演劇などカバーするジャンルも多岐にわたる。
 2009年にはバラエティ番組に引っぱりだこの人気女性歌手である韓紅が突然、軍に引き抜かれ、空軍政治部文工団副団長になったことが話題となった。階級は大佐。日本的に言うと紅白歌合戦の常連演歌歌手がいきなり自衛隊幹部になるような話である。人気歌手を軍に引き抜く必要は果たしてあるのだろうか。
 文工団は娯楽がない時代には必要な存在だったかもしれないが、21世紀の今となっては明らかに無用の長物。誰もがわかっていたことだが、2016年までずるずると存続してきてしまった。「精強な軍隊」になるためのというよりも、「普通の軍隊」になるための廃止と言うべきだろう。普通の軍隊になるためのハードルがいくつもあるのだ。
 「普通の軍隊」になるために不要な存在は文工団だけではない。中国軍には軍人芸人的な存在が多数いて、テレビ番組や新聞、そしてネットメディアであれこれ発言を続けている。その一人がヒット作『超限戦』(邦訳は共同通信社、2001年)で知られる喬良大佐(出版当時、現在は少将)だ。
『超限戦』は「サイバー戦や金融戦など新しい戦争のあり方を人民解放軍の現役軍人が激白」といった触れ込みで日本でも話題となったが、実はこの喬良氏、軍隊に入るやいなや映画技師という職位を与えられた。蘭州空軍政治部クラブで映画技師を勤めていた際に、お偉いさんに作家としての才能を見出されたのだろう。軍に在籍しつつ北京大学に入学させてもらい作家修業。大学院卒業と同時に中佐に任官し、小説やらオモシロ軍事理論書で一役人気作家となった。売れっ子作家さんの誕生は歓迎するべきだが、果たして軍人である必要はあるのだろうかとの当然の疑問が浮かんでくる。

 

おわりに

 ここまで、あまり日本では伝えられていない人民解放軍の姿について紹介してきた。
 誤解して欲しくはないのだが、なにも人民解放軍は古くさく取るに足らない軍隊だと言いたいのではない。兵士数、予算、そして何より不透明な意志決定のあり方から考えても、危険な隣人であることは間違いない。ただ冷静に事実をみれば、おどろおどろしい報道とは別の姿が見えてくることは知っておいても損ではない。
 さて、中国のお隣にある極東の島国でも、「普通の国」「普通の軍隊」をめぐって長年どたばたやっている。日本メディアの過熱ぶりに、「日本軍国主義がついに復活だ」と中国でも注目されているが、具体的な話をすると「え? 軍事同盟があるのに集団的自衛権がないの?」「平和維持活動に部隊を派遣しておきながら友軍を守れないの?」と奇妙に感じることが多いようだ。
 外から見て奇妙に思われたとしても、平和憲法と戦後日本の立ち位置をめぐる重要な議論であることには間違いないし、「普通の国」「普通の軍隊」になることだけが正しいわけでもない。
 ただし、自国の常識、自分たちの常識だけで判断するのは危険だということは言えるのではないか。
 軍事、国防も自分たちの社会にかかわる重要な一要素。国内外の事実を知りリテラシーを高めること、そしてそのリテラシーを持って他国も自国もしっかりと監視することが今、求められている。

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ライターの紹介

高口康太

高口康太

翻訳家、フリージャーナリスト 1976年、千葉県生まれ。千葉大学博士課程単位取得退学。独自の切り口で中国と新興国を読むニュースサイト「KINBRICKSNOW」を運営。豊富な中国経験と語学力を生かし、中国の内在的論理を把握した上で展開する中国論で高い評価を得ている。

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ジセダイ総研 研究員

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