ISIL、アルカイダ、ボコ・ハラム......世界各地で、イスラム過激派との衝突やテロが起きている。
バングラデシュでは、今年に入って5人のブロガーが殺された。彼らはいずれも、「イスラム教に対して批判的」とされる記事を書いていた人物だ。
これまでバングラデシュは、穏健なイスラム主義の国家として認知されていた。しかし、ブロガー連続殺害事件の背景には、イスラム過激派の影が見え隠れしている。
日本を含む先進国のメディアは、イスラム過激派の影響下にある国々を単なる貧しい国々と見てしまいがちで、貧しい国々であるがゆえに起きる過激派事件ととらえる傾向がある。しかし、事実はそうではない。
バングラデシュは経済成長を遂げつつあり、世界最貧国からも既に脱している。
つまり、バングラデシュにおいてはむしろ、経済成長の結果として過激派とのつながりが発生したのではないかと考えられるのだ。
今年2月以降、バングラデシュで殺された5人のブロガーたち。彼らはいずれも、イスラム過激派から「イスラム教に対して批判的」とされていた。
政府当局の捜査では、国内のイスラミストグループによる犯行との見方が示されている。
また、まだ記憶に新しいイタリア人、日本人の銃殺事件では、ISILが犯行声明を発表している。
これだけを見れば、バングラデシュではイスラム過激派が猛威を振るっているように見えるが、実際の所、原理主義的思想はマジョリティにはなっていない。
ダッカで暮らしていても、非常に世俗的な社会であることを日々感じている。
では、なぜこのようなイスラム過激派との関わりが想定される事件が立て続けに起きているのだろうか?
10月の事件で襲撃され、搬送されるFaisal Arefin Dipan。彼はその後亡くなった。(出典)
政府当局は捜査の結果、ブロガー連続殺害事件はイスラミストグループ「アンサルラ・バングラ・チーム(Ansarullah Bangla Team)」による犯行としている(複数のメンバーが逮捕されている)。
これに対し、前回の記事でお伝えした邦人殺害事件を含む外国人殺害事件については、元野党第一党BNP(中道右派)グループの指示によるヒットマンによる犯行で、政府の社会的信用を失わせる目的があったとしている。
外国人殺害事件はISILが犯行声明を出しているが、与党アワミ・リーグ(中道左派)率いる政府としては、BNPグループが関与していると睨んでいるのだ。
しかし、BNPグループもイスラム過激派と無縁ではない。BNPグループの中には連合政党としてジャマティ・イスラムがあるからだ。
ジャマティ・イスラムはイスラム主義政党で、2001年からの5年間はBNPと連立政権を組んでもいた。彼らは中東のイスラム諸国と太いパイプがあり、多額の資金援助を受けているという情報もある。
ジャマティ・イスラムはもともとイスラム主義ではあるが、原理主義的ではなかった。しかし、近年党内に過激派思想を持つ集団が存在している。つまり、いずれにせよ背景にはイスラム原理主義的勢力がある……という見方だ。
回りくどくなったが、今年バングラデシュを騒がせた殺人事件のいずれもが、背景を辿っていくとイスラム過激派勢力に辿り着く、ということなのだ。
通常の殺人事件は、標的の存在を認知しなければ起こらない。
今回のようにブロガーの殺害に至るには、犯人にある程度の教育水準や経済水準が求められる。読み書きができ、コンピューター・リテラシーを持っていなければ、そもそもブロガーたちを認知することが不可能だからだ。
学校に通ったことがなく字が読めない、或いはPCを持とうにも金がないし、それ以前の問題として村に電気が来ていない……というような、以前のバングラデシュのような貧困社会では、なかなか起こりえなかった犯罪だと言えるだろう。
ところが、最近のイスラム主義政党の支持者や活動家は、一般の与野党の支持者たちと同等もしくはそれ位以上の学歴保持者なのだという。
この背景には、国の教育制度が整い、それほど裕福でなくても一定レベル以上の学歴を身につけられる社会が実現していることがある。
また、イスラム過激派の持つ宗教思想はごく偏狭で狂信的な教義である。この教義を能動的に理解し、同調するに至るには一定の教養が必要である。
一般に、教育レベルが上がると、宗教の影響力は低くなりやすい。しかし、一定レベル以上の教育を身につけたマス層のなかに、少数だがイスラム教に自らのアイデンティティを見出す者がいる。教育を身につける人々の数が増えれば、過激派思想に染まる若者の数も増える……という現象が起きているのだ。
事実、ブロガー殺人事件の容疑者のなかには、イギリス国籍を持つベンガル人も存在している。また、外国人殺害事件が起きてから複数のイスラム過激派のアジ トに当局の捜査が入ったが、拳銃や手製爆弾などを含む武器に加えジハーディストの思想本が見つかっている。書物が過激派思想の浸透に重要なものとなってい るのだ。
教養や経済力を持つ層も、イスラム過激派思想と無縁ではないのだ。
さらに、バングラデシュ国内の政治事情も背景として見逃せない。
野党第一党としてかつては国政を担ったこともあるBNPと、その連合相手のジャマティ・イスラムは、どちらも弱体化の一途をたどっている。
BNPは2014年初頭の選挙をボイコットしたせいで、国政レベルのプレゼンスを消失した挙句に内部で仲間割れ。ジャマティ・イスラムは1971年の独立戦争時にパキスタン側についた過去があるのだが、その咎を今頃になって戦争犯罪人裁判で指弾され、幹部が軒並み逮捕、処刑されている。
両政党とも、現政権に対抗する手段は、もはやテロぐらいしかない……という状況に追い込まれていると言っても過言ではない。
追い込まれたジャマティ・イスラムが中東の過激派と連携し、そこに現状に不満があり過激派思想に染まった若者たちが絡み合い、連続して事件を発生させているのではないだろうか。
8月の事件の容疑者として逮捕された三人。いずれもイスラム過激派であるAnsarullah Bangla Teamのメンバー。(出典)
一定レベル以上の教養を身につけた青年たちが、中東から発信される過激思想に感化されて犯行に至る……という点において、バングラデシュの事件は、パリ同時多発テロ事件の犯人像と似通っている部分が多い。
中東を挟んで西と東で起きた事件であり、イスラム過激派がらみということもあって、多くの日本人にとっては他人事に映るだろう。
けれど、実際はもっと身近なものだ。
90年代に、高学歴者層が自らのアイデンティティに疑問を抱え、偏った教義に心酔していった結果、起こったテロ事件がある。そう、オウム真理教事件だ。
一定の教養や経済力があったとしても、現状への不満が歪な思想と結合すれば、容易にテロに結びついてしまう。
グローバリズムやインターネットがそれに拍車をかけているのだとすれば、何とも皮肉な話である。
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