2015年8月12日夜、天津市浜海新区の化学薬品保管倉庫で爆発事故が起きた。日本の気象衛星ひまわりもその光を捉えたほどの巨大な爆発だ。
スマートフォンの普及も大きいのだろう。ネットユーザーが現場を撮影した動画、写真が次々と公開されて現地の「地獄絵図」が伝えられている。クレーターのような大穴が空いた事故現場、吹き飛んだ建物、窓ガラスがすべて粉々になったマンション、吹き飛ばされたコンテナ、黒焦げになった1000台もの車、道端に転がる黒焦げの遺体やちぎれた手足などの恐ろしい光景が映し出されている。爆発の規模を考えれば、完全に吹き飛ばされた犠牲者も相当数いるはずだ。13日夜時点で公式に確認された死者数は50人だが、最終的な犠牲者はこれをはるかに上回るものと予想される。
事故直後にSNSに掲載された写真。
ユーザーは「ガソリンスタンドの爆発だと聞いた」とつぶやいている。
またSNSや中国メディアでは次々と被災者の声が伝えられている。
「爆音を聞いて、慌てて窓の外を見たら地獄が広がっていた。」
「死者は17人(12日時点での発表)どころじゃない。うちのマンションでガラスに串刺しになって死んだのは17人を超える。現場から半径1キロで生きている者はいない。」
「テレビを見ていたら突然大きな爆発音。そして窓ガラスが割れた。日本が攻めてきたのかと思った。」
(動画)13日にドローンで現場を空撮した映像。平地と化した爆心地からはなおも濃煙がたちこめている。
いったい何が起きたのか、そして事件は何をもたらすのか。現段階でわかりうる範囲でお伝えしたい。
天津市浜海新区だが、市中心部(第二次アヘン戦争後に各国が租界を設置し発展した市街地)からは西に直線距離で約20キロ離れた郊外にある。塘沽と呼ばれている地域で、一部の中国メディアも「天津塘沽爆発事故」という事件名で報じている。市中心部にはほとんど影響は出ていない。浜海新区はコンベンションセンターや港湾施設、工業団地が建ち並ぶビジネス中心の地域である。仕事で天津を訪れた日本人は中心部を素通りして浜海新区に向かう人も少なくない。
(動画)現場付近でネットユーザーが撮影した映像。
https://www.youtube.com/watch?v=0tUWzZPTXFw
爆発事故が起きたのは瑞海公司危険品倉庫で、大量の化学薬品が保管されていた。中国中央電視台(CCTV)が天津消防総隊の情報として伝えたところによると、午後10時50分ごろに火災の通報があり消防隊が出動。午後11時34分に2回にわたり大爆発が起きた。出動した消防隊員も爆発に飲み込まれ、すでに12人の死亡と20人超の行方不明が発表されている。中国地震台によると、1回目の爆発はマグニチュード2.3。その30秒後に起きた2回目の大爆発はマグニチュード2.9を記録している。換算するとTNT火薬21トンというすさまじい威力だったという。
黒焦げになった消防車(中国網)
13日午後6時時点で50人の死亡が確認されたほか、701人が入院治療を受けている。うち71人が重症だ。もっとも被害の規模はこれをはるかに上回るものになる可能性が高い。爆発現場からわずか100メートルの建築工事現場には約2000人が住んでいた簡易宿舎があったが、ほぼ完全に吹き飛んだ状態だという。また数百メートルの地点にあったマンションでは爆風でガラスが砕け、部屋がむちゃくちゃになった写真を住民がSNSに投稿している。未確認情報ではあるが、ガラスの破片でも多数の死傷者が出ているとの情報もある。事故現場から4キロ離れた伊勢丹浜海新区店でも爆風でガラス扉が割れたほど。爆発の光は10キロ離れた地点からも目撃されている。
事故原因についてはいまだ特定されていないが、爆発の中心地は爆薬の原料ともなる硝酸カリウムや硝酸ナトリウムが保管されていた場所だけに、火災の熱によって化学薬品が爆発した可能性がある。
また化学薬品の流出による二次被害が懸念されている。現場では鼻をつく刺激臭が確認されているが、天津市環境保護局によると、主にトルエン、クロロホルム、エチレンオキシドと判明している。また近隣の下水道からはシアン化ナトリウムが検出された。青酸カリとよく似た性質を持つ劇薬だ。現場には700トン以上も保存されていたが、どれだけの量が流出したのか、確認作業が急がれる。
13日夜現在、現地では懸命の救援作業が続けられている。化学薬品が流出しているだけに人民解放軍の化学戦部隊が投入されたという。少しでも多くの方が救出されることを願い、また犠牲者の冥福を祈りたい。
その先の話となるが、事故の影響について少し触れておこう。爆発物を保管している倉庫からわずか100メートルの地点に宿舎があり、数百メートルの地点にマンションがあるなど、中国の法律に照らして安全基準違反があったことは明らかだ。都市開発が急激に進みすぎた弊害として、中国の都市計画は立ち遅れている。加えて万一の事故を考慮しない人命軽視が惨事につながったことは否定できない。今回の事故を機に安全基準の徹底が求められる。
また習近平体制の世論対策が今回も効力を発揮するのかも注目点の一つだ。9月2日発売予定の拙著『なぜ、習近平は激怒したのか 人気漫画家が亡命した理由』(祥伝社新書)では、習近平体制は政府批判のネット世論や環境デモ封じ込めを最大の課題としてさまざまな対策に取り組んできたことを詳述している。人権派弁護士の大量逮捕・拘束や御用ブロガーの育成から1000万人の青年検閲ボランティアの動員まであらゆる手段を駆使している。
その“成果”は「温州高速鉄道衝突脱線事故から長江客船沈没事故へ」という言葉に象徴される。40人が死亡した2011年の高速鉄道衝突事故では政府はネット世論対策に苦慮し約1カ月にわたり対処を続け、鉄道部報道官など関係者が処罰されるまでに発展した。一方、今年に起きた長江客船沈没事故では400人以上が死亡する大惨事にもかかわらず、速やかに船体の引き上げと救助作業を済ませ、またメディアやネットの検閲を徹底することにより、政府批判の声を封殺することに成功した。
果たして今回の爆発事故でも政権の世論対策は成功するのだろうか。すでにネットでの情報検閲や報道の規制といった対策は始まっている。しかし、きわめてセンセーショナルな写真、動画が拡散したこと、そしてどの都市でも同様の事件がおこりかねない問題だけに中国国民の注目度は沈没事故以上に高いはずだ。あるいはこの事件が検閲体制にほころびを生むのだろうか、今後を見守りたい。
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高口康太
翻訳家、フリージャーナリスト 1976年、千葉県生まれ。千葉大学博士課程単位取得退学。独自の切り口で中国と新興国を読むニュースサイト「KINBRICKSNOW」を運営。豊富な中国経験と語学力を生かし、中国の内在的論理を把握した上で展開する中国論で高い評価を得ている。
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