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きみに必要な武器

「SNSもシェアハウスも、同じ価値観であることを確認しあう共同体。そういったものには批判的なんですよ」瀧本哲史さんインタビュー【後編】

2012年09月12日 更新
「SNSもシェアハウスも、同じ価値観であることを確認しあう共同体。そういったものには批判的なんですよ」瀧本哲史さんインタビュー【後編】

『武器としての決断思考』に続く第2弾『武器としての交渉思考』も好調の瀧本哲史氏へのインタビュー。後編は「デモがなぜ無効なのか」から踊る大捜査線論、ミリタリーおたく説の真偽についてライター・速水健朗氏が迫ります。


前編はこちら「「僕の本業は、投資家なので実はあまり目立たない方がいいんです。」瀧本哲史さんインタビュー【前編】」



デモはなぜ意味がないのか? 交渉の必要性

 

なるほど。で、新刊ですけど、今度はディベートの技術ではなく、交渉の技術の本ですよね。

 

瀧本 『武器としての決断思考』は個人が自立して意思決定するための本なら、『武器としての交渉思考』はその自立した個人が結社をつくって何事かを成し遂げようという中身なんです。実はこの2冊は、最初から2冊でワンセットという裏コンセプトがあるんです。

 

最初の本で武器は配って、それで次の本はさあ、集団をつくって戦うぞということですね。軍隊をつくれと。

 

瀧本 軍隊じゃなくて、むしろゲリラのイメージですね。個別のゲリラを組織化しようぜっていう。

 

同じ思想を持った者同士が一緒に……。

 

瀧本 いや、私がむしろ強調したいのは、全然考えの違う人たちを組織化するということなんです。いまどきのSNSにしても、シェアハウスブームにしても、結局は同じ価値観であることを確認し会うための共同体が多すぎるじゃないですか。僕は、そういったものには批判的なんですよ。むしろ、利害関係を異にしている人たちが、利害を調整して戦うというのが最強なんだと思ってます。

 

具体的には、どういう人たちが読むべきですかね? ターゲット層って想定されてます?

 

瀧本 本を書く時には、特定のペルソナを想定して書くことにしているんですけど、そうですねこの本の場合、社内で自分の考えてることが理解されないなあと不満を持っているサラリーマンとかですかねえ。

 

空回りしている人? 

 

瀧本 そう、自分は正しいのに、なんで誰も俺に着いてこないんだろうか? ……みたいになっちゃってる人っていますよねえ。

 

人望がなかったり、リーダーの資質に欠けていたりする人たちなのかな。つまり、今度の本には組織論やリーダー論の本の要素もあると?

 

瀧本 そういう側面はありますけど、人格的に優れたリーダーになろうとか、人に対して影響力を持とうみたいなことではないんです。

 本書の前半は、分析して利害関係を把握しようということをシンプルに書いてます。交渉って、自分と相手の両者がメリットを得るというものなので、自分を主張するよりも、相手のメリットを考える方が重要なんですね。それを元に、合理的な個人であれば、必ずこういう風に判断するということを説いているんです。

 

なるほど。

 

瀧本 でもね、そんな合理的な奴なんてほとんどいないんです(笑)。後半は、現実の人間は非合理で、こんな行動をするものだから、モデルケースを挙げながら、それにきっちり対応しましょうということを提示しているんです。

 

交渉の技術って言っても、大事なのは攻撃ではないんですね。

 

瀧本 本の冒頭では、就活デモの話をしているんですよ。あれのダメなところって一方的に自分たちの主張をしているところなんです。相手に合意を求めるのであれば、相手側にメリットになることを提示しないと意味がないんです。自分たちを雇う、あるいはもっと大きく、現在の就活モデルを変えるとこういうメリットがあるよということを提示できれば、企業も聞く耳を持つかも知れないし、そもそも社会がもっと注目しますよね。

 

いまは国内では反原発から反フジテレビまで、世界的にもジャスミン革命からニューヨークのオキュパイ・ウォールストリートまで、いろいろなデモが世界的に起きていますけど、単に要求するのでは意味ないよということですか

 

瀧本 社会を変えるということを具体的に考えるのであれば、主張よりも交渉をすべきでしょう。互いの利益を考えて、その配分を調整する。そのやり方でしか、物事は動いていかないんだと思います。

 

日本的組織と踊る大捜査線

 

瀧本さん『踊る大捜査線』の映画って観たことあります?

 

瀧本 実は結構好きで、中の人ともうわ、なにをするくぁwせdrftgyふじこlp

 

あのシリーズってずっと組織論をやってますよね。現場から組織を変える織田裕二とトップに行って組織を変えようとする柳葉敏郎っていう。

 

瀧本 『レインボーブリッジを閉鎖せよ』って、『ヒトデはクモよりなぜ強い』っていうオリ・ブラフマンとロッド・A・ベックストロームのリーダーのない組織が一番強いっていう組織論でした。

 

その次の『踊る大捜査線 THE MOVIE3 ヤツらを解放せよ! 』には、利害調整型の登場人物が出てきます。小栗旬は、所轄と調査一課の両方の利害を調整して、両者にメリットを与えて組織を変えていくんですね。で、犯人は小泉今日子なんですけど、彼女は社会に不満を持つ若者を扇動して刑務所の中から犯罪を操るんです。彼女の手法も、相手のメリットを分析してインセンティブを与えてやるんです。つまらない社会をこうすればおもしろく変えられるよって。

 

瀧本 なるほど、3はまだ観てなかったです。僕の考えていることと近いかも知れません。小泉今日子的に、全然関係ない人たちをネットワーク化させて、行動させるっていう世界観って、まさに僕の考えていることに近いですね。

 

そうか!

 

瀧本 あの映画シリーズって、最新の組織論をエンターテイメントの形にするのがとてもうまいんです。そもそも「踊る〜」のシリーズって、現代のサラリーマン組織の不条理を、別の組織に仮託して描くということをやっているんですね。映画版の2は、リーダーのいない組織が最強だっていうのをやるんですけど、最後は旧来型の警察が勝つじゃないですか。話がわかる上司がいる組織が最強なんだって。

 

そうですそうです。

 

瀧本 あれは、観ている側を安心させるために必要なオチなんですよ。サラリーマンの鬱屈を織田裕二というキャラクターを使って晴らすというドラマなので、最後はああいう落としどころになってしまう。

 

そう考えると劇場版の3のラストは、ある意味、日本的会社組織の敗北なんです。織田裕二も元気がない。

 

瀧本 そこは作り手側があえてファンの期待の裏をついて、本音を出した可能性もありますよね。

 

なるほど。

 

瀧本 織田裕二の出演する作品が、サラリーマンの組織論を意図したものだというのは、『県庁の星』も同じ構図なんです。あと、織田裕二の出世作って知ってます?

 

なんでしたっけ?『ママハハ・ブギ』でしたっけ?

 

瀧本 映画の『就職戦線異状なし』なんです。今では想像できない、超売り手市場の就活映画ですね。

 

そっか、最初からサラリーマン組織に加入するっていうところから、織田裕二作品って一貫してサラリーマンや公務員の世界を描いていたんですね。

 

瀧本 『外交官 黒田康作』もそうです。あれも、アラフォーになった島耕作というか、サラリーマン、公務員の組織をテーマにした一連の流れのひとつなんです。

 

会社という組織からはみ出す主人公を織田裕二はずっとやっているんですね。いや、まさか瀧本さんと織田裕二論を交わすことになるとは思いませんでした(笑)。今日僕がもっとも聞きたかったことを最後に聞いていいですか? 瀧本さんってミリタリーオタクなんですか?

 

瀧本 僕はぜんぜんそういう趣味はないんですよ(キッパリ)。

 

じゃあ、なぜ軍隊や戦争のアナロジーをよく使っているんですか?

 

瀧本 海上自衛隊や防衛庁でも仕事をしているからじゃないですか。そういう現場でも、いまはディベートを教えるというニーズがあるんです。これは今度の本の冒頭でも書きましたが、昔の軍隊であれば鉄拳制裁だ突撃だっていうことで機能したんでしょうけど、いまどきはそれではダメなんです。いまはそればっかやったら、皆逃げちゃうんですよ。

 

ディベートで論理的に兵隊教育を行うと。

 

瀧本 そうです。もっと上に行っても同じですよ。いまどきは軍事目的だからって土地収用ができる時代でもないし、政治家や他の省庁、地方公共団体を動かせるわけじゃない。となると、こうこうこういう目的でこの施設や兵器が必要でって具合に交渉する能力が必要なんです。

 

そんなところにまで瀧本さんのニーズがあるんですね。

 

瀧本 近代の徴兵制っていうのは、中途半端な人間でも前線に送り出さなくてはいけないので、規則や懲罰でしばりつけてきたんですけど、いまは先進国の軍隊は志願制なので、やり方は当然変わってきているんです。あと、経営の世界で、軍事的な戦略から学ぶことって多いんですよね。ランチェスター戦略とか、ロジスティクスの重視とか戦略と戦術の区別とか。

 

やっぱり詳しいですよね。こっそり聞きますけど、家で戦車のプラモデルくらいはつくってますよね?

 

瀧本 それは、ぜんぜんありません!だから、自衛隊からもらったグッズとかも視聴者プレゼントにしたんですよ。

 

うーん、ほんとかなぁ(笑)

 

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瀧本さん著書「武器としての決断思考」「武器としての交渉思考」の試し読み公開中です。

インタビュイー紹介

瀧本哲史

瀧本哲史

京都大学客員准教授、エンジェル投資家。
東京大学法学部を卒業後、大学院をスキップして直ちに助手に採用されるも、自分の人生を自分で決断 できるような生き方を追求するという観点から、マッキンゼーに転職。3年で独立し、企業再建などを手がける。また、他の投資家が見捨てた会社、ビジネスア イデアしかない会社への投資でも実績を上げる。京都大学では「交渉論」「意思決定論」「起業論」の授業を担当し、教室から学生があふれ、地べたに座って板 書する学生が出るほどの人気講義に。「ディベート甲子園」を主催する全国教室ディベート連盟事務局長。星海社新書「軍事顧問」も務める。単著は『僕は君た ちに武器を配りたい』(通称ボクブキ、講談社)と『武器としての決断思考』(通称ブキケツ、星海社新書)。

インタビュアー紹介

速水健朗

速水健朗

1973年、石川県生まれ。ライター、編集者。コンピュータ誌の編集を経て現在フリーランスとして活動中。専門分野は、メディア論、都市論、ショッピングモール研究(『思想地図βvol.1』ショッピングモール特集の監修)、団地研究(『団地団ベランダから眺める映画論』大山顕、佐藤大との共著を準備中)など。TBSラジオ『文化系トークラジオLife』にレギュラー出演中。主な著書に『ラーメンと愛国』(講談社現代新書)、『自分探しが止まらない』(ソフトバンク新書)、『ケータイ小説的。――“再ヤンキー化”時代の少女たち』(原書房)など。

きみに必要な武器

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