3年後に再会すること(例え路頭に迷っても)を約束して行う、未来アポ付き取材コンテンツの「日本のスタートアップ」インタビュー。今と未来、線でつながる行動の歴史! ここが挑戦の最前線!
戒律を持つムスリムでも食べられる料理──ハラルフードを提供するレストランの検索サービスislamap。 この個性的なサービスを開発しているislamapの佐藤智陽社長は、なんと早稲田大学の3年生。しかも、会社を立ち上げたのは2年生のときだというから驚きだ。 そのサービスは、いかなる理念に支えられているのか? 「よりよい未来」を作るべく奮闘する若き社長が、『ジセダイ』に登場──!
構成:平林緑萌 インタビュー:平林緑萌、今井雄紀 撮影:築地教介
平林:本日はよろしくお願いします。
佐藤:どうぞよろしくお願い致します。
平林:取材のご経験は豊富でしょうか?
佐藤:いや、ほとんどないですね。むしろ、どうやってislamapのことを知られたんですか?
平林:それが本当に偶然で、先日、「富士そば」さんの公式Facebookアカウントで「ある店舗がハラルメニューに挑戦します」という投稿がアップされていたんです。
今井:「富士そば」さんがですか?
平林:そう。で、ちょうど同じ頃に大学院の後輩が、ハラルフードビジネスの研修会みたいなのに参加していて、「なかなかリーズナブルに提供するのが難しい」と言っていたんですよ。同時期にその二つを聞いたので、それで興味を持って調べたんですよ。「富士そば」さんの記事から辿っていって、islamapさんが引っかかったんです。
佐藤:それは光栄です。ありがとうございます。
今井:islamapは、ハラルフード──ムスリムでも食べられる料理を提供している飲食店を探せる地図サービスですが、こういったサービスをはじめられたきっかけは何だったのでしょう? 会社の立ち上げは2012年ですか?
佐藤: 設立自体は2013年ですね。2012年の6月頃から準備を始めまして、その後、夏にフセインさんいう留学生の方と知り合って、そこから軌道に乗った感じですね。
平林:いま、学部の3年生ですよね?
佐藤:はい。
今井:ということは、1年生でいきなり起業しようとされたんですか! すごい!
平林:そもそもの構想は、高校時代から温められていたということなんでしょうか?
佐藤:いえ、実はまったくそんなことはないんです。僕、高校は開成なんですが、やっぱり周りと同じように、東大入学を目指していたんですよ。まずは東大に入って、入学1年目にこれからの進路をじっくり考えよう……という未来設計をしていたのですが、東大に落ちてしまった。
今井:浪人などは考えなかったんですか?
佐藤:まず東大に落ちた時に、「これからどう生きていくか、一度人生を見直そう」と思いました。やはり、東大に入ることだけを考えていた節があったので、そういった人生設計そのものを考え直そうと思ったんです。
今井:その、人生を見直す過程でislamapの立ち上げに繋がっていくんだと思うんですが、もともとイスラム文化に興味があったんですか?
佐藤:なかったですね。
平林:では、大学でそういう学部に入られたということですか?
佐藤:いまは、応用物理学科に在籍しています。量子コンピューターとか、そういったことが専門ですね。
平林:あれ、全然違う(笑)。
佐藤:物理学、好きなんですよ(笑)。
今井:では、一体何がきっかけだったんですか?
佐藤:ムスリムの友人ができたのがきっかけで、それまでは全然、ムスリムの方々の文化も、そして勿論ハラルフードのことについても知らなかったです。
平林:そのきっかけについて、具体的に伺ってもいいですか?
佐藤:中東ファッションショーというものがありまして、アバヤ──中東の人たちの女性の着物だったり、ヒジャブ──顔を伏せるのだったりとかを着て行うファッションショーなんですが、そこでパネルディスカッションのパネラーとして自分が参加したんです。
今井:そこに参加されたときは、まだムスリム文化には興味はなかったんですよね?
佐藤:ええ、だから、何もわからない状態で参加しました(笑)。でも、そこでムスリムの友人が沢山できたんです。サウジアラビアやモロッコ、エジプトなどからの留学生ですね。で、彼らとコンビニに行く機会があったんです。コンビニに入ると、色々な食べ物が並んでいますよね。例えば、おいしそうなメロンパンが並んでいる。でも、彼らは「乳化剤が入っているから食べられない」って言うんです。
平林:ああ、なるほど。
佐藤:そこからハラルのことを知って、勉強しました。その後、色々な集まりでハラルについてプレゼンしたりもしたんですが、会場に数十人いて、知っている人が1人いるかどうか。これはまずい、と思いました。
平林:ああ、でもきっとそのくらいですよね。自分を振り返ってみて思うんですけど、日本の義務教育で身に付くイスラーム文化に対する知識って、ものすごく貧弱なものじゃないかと……。
佐藤:ああ、そうですよね。でも、僕はそれがちょっと変だなって思ったんですよ。日本は先進国ですよね。そして、ムスリムの総人口は15億人なんです。でも、日本人の多くは彼らのことをほとんど知らないわけです。確かに、日本国内に暮らすムスリムは少なくて、10万人くらいと言われています。変だなと思いました。そして何より困っているムスリムの友達がモックレベルのアプリを見て喜んでくれたことがislamapの立ち上げに繋がっていきました。
平林:いま、islamapを使っているユーザーってどんな人たちなんでしょう?
佐藤:主に、日本に住むムスリムの人と、日本にいらっしゃるムスリムの人ですね。
平林:ということは、旅行で日本に来られる方も使われているんですね。
佐藤:ええ、そうみたいですね。
今井:やっぱり、おいしいハラルフードが食べたい、ということなんでしょうか?
佐藤:いえ、必ずしもそうではないですね。まず、日本で生活されている方は、きちんとした食材を買って、自宅で調理して召し上がっている訳ですし、例えばインドネシアなどから旅行でお越しになる方にしても、日本人が真似をして作ったハラルではなく、ムスリムに対して配慮された日本食を食べたい、と仰る方が多いですね。
平林:それはつまり、「せっかく日本に来たんだし、寿司を食べてみたい」とかそういう……。
佐藤:はい、そういうことです。
今井:魚はオッケーなんでしたっけ?
佐藤:ええ、大丈夫ですね。それ以外にも、ムスリムフレンドリーと言われる、豚・アルコールが除外されたような日本食ですね。こういったものを召し上がりたい、という需要は多いと思います。もちろん、きちんとしたハラルを食べたい、という方もいるので、islamapとしては「ハラル」「ムスリムフレンドリー」とそれぞれわかりやすく可視化して、最終的に自己判断に委ねたい、と思っています。
平林:いま、お話をうかがっていて疑問に感じたんですが、やはり日本って、ムスリムにとって旅行し辛い国なんでしょうか?
佐藤:そういう面はあると思いますね。
今井:他の国だと、どんな状況なんでしょう?
佐藤:ロシアや中国、それからフランスなどでも、もっとムスリム観光客に対して環境的に整備されていますね。ロシアや中国はムスリムが日本に比べてかなり多い国ですが、フランスは観光客が多く、ムスリムマイノリティでその状況自体は日本と似ています。ただ、もっとムスリム観光客にとっては滞在しやすいですね。
平林:アメリカではどうなんでしょう?
佐藤:アメリカもやはり環境的にはかなり整っていますね、そもそも「Yelp」(企業に対する検索・レビューサービス)で「ハラルレストラン」と検索すればかなりの数が出ます。
今井:なるほど、「Yelp」ですか。日本でいうと、ホットペッパーやぐるなびにそういうチェックボックスがあるようなものですよね。
佐藤:いま、日本では食べログ、ぐるなび、google map等で検索することが出来ますが、何れも件数は未だそこまで多くありませんね。
今井:そこでislamapの出番なわけですね。
平林:僕も、iPhoneアプリ版(右写真は画面写真)を使ってみたんですが、気になったのが、やっぱりそもそもお店が少ないんじゃないかということなんですよ。やはり、日本に住んでいるムスリムの方は食に相当苦労しているんですかね。
佐藤:ええ、そうですね。自宅で食べる場合は、ハラルショップなどで買った食材で作るという方法があって、モスクなどでそういったお店の情報を共有されているんですが、例えば留学生で、大学の学食でハラルのものが無い、ということもよくあります。
平林:となると、どうするわけですか?
佐藤:家に帰って食べないといけないですね。
今井:でもそうすると、日本国内で仕事をされてる方は大変じゃないですか?たとえば、仕事での会食なんかのときは、食べられないものがガンガン出てきたりするんじゃないですか?そもそもお酒の席ですし……。
佐藤:食事には手を付けることが難しく、ソフトドリンクだけ注文するということになりますね……。
今井:うーん、それは切ないですね……。
(islamap webサイト画面)
平林:会社のことをお聞きしたいのですけど。今、何人でやられてるんですか?
佐藤:実は、従業員はゼロなんです。皆、ボランティアでやってます。残念ながら、まだ収益を上げるところまでいっていないので。
平林:現在のメンバーは何人ですか?
佐藤:国内では10人ですね。それから、インドネシアにも会社があって、そちらのメンバーが5人です。
平林:日本人とインドネシア人以外にも、色々な国籍の方々がウェブサイトのメンバーのところに掲載されていますが、その方々もボランティアということでしょうか?
佐藤:ええ、そうです。パキスタンやマレーシアの方もいますね。
今井:日本とインドネシアでは、それぞれ業務に分担があるんですか?
佐藤:いえ、基本的には両方とも開発ですね。
平林:インドネシアの法人と、データを共有しながらですか?
佐藤:ええ、そうですね。クラウドで共有しながら開発やメンテナンスをしています。
平林:メンバーの皆さんは、色んな交流を通じて広がっている感じでしょうか?
佐藤:ムスリムの会に行ってプレゼンをしたり、色々な紹介で繋がっていったり、といった感じですね。発展性があって面白い、と思って加わってくれる方もいらっしゃいます。
平林:日本のハラルフードビジネスが発展途上だから、ということですか?
佐藤:うーん、ちょっと言いづらいんですが、実は、ビジネス的な部分にはちょっと懐疑的だったりもするんですよ……。
平林:どういうことでしょう?
佐藤:例えばロシアなどでは、ハラルフードビジネスを行っている企業が幾つもあるんですが、その中には、ムスリムの戒律を逆手に取ったようなやり方で商品を売っているところもあるんですよ。つまり、すごく細かな点に立ち入って、「他社のこの商品は基準を満たしていない、でもうちの商品は大丈夫」といった風に。
今井:ああ、なるほど。
佐藤:それが本当にムスリムの人々の役に立つのか、って考えると、やっぱりちょっと違うような気がするんですよね。
今井:でもそうすると、佐藤さんはビジネスがやりたいわけではないという事になるんですか?
佐藤:いや、難しいですね(笑)。もちろん、islamapは一生やって行こうと思っていますので、ビジネスとして軌道に乗らないとまずいんです。でも、収益だけを追い求めるのはちょっと違うと思っていますね。
今井:一生やっていく、っていうのはすごいですね……。
佐藤:まずは、2020年までをひとつのスパンととらえています。
今井:なるほど、オリンピックですね。
平林:2020年までがひとつのスパン、というお話が出ましたが、その頃にはもう少し状況が変わっているかもしれないですね。
佐藤:ムスリムの数は増えるとは思いますね。それによって、お互いが困ることも増えていくのではないか、とも思います。だからこそ、相互理解が必要だと思うんですが。
平林:すごく少ない例だとは思うんですが、実は僕の友人に、日本人なんですがムスリムに改宗したやつがいるんですよ。佐藤さんの周りでそういう例はありますか?
佐藤:うーん、僕自身もムスリムではないですが、例えば結婚によって改宗する方はやっぱりいらっしゃいますよね。
今井:基本的なことですみませんが、やっぱり、ムスリム同士じゃないと結婚できない?
佐藤:基本的には改宗しないといけないですね。ただ、日本はそのあたりが緩いというか、宗教的に寛容で、宗教対立があまりない状況じゃないですか。
今井:確かにそうですね。
佐藤:なので、みんなが繋がり合う場所になれるかなって思うんですよね。例えばislamapが、そのなかで少しでも役に立てばいい、とは思っています。
平林:ちょっと悲観的な意見で申し訳ないんですが、例えばキリスト教徒にも色々な派があるように、ムスリムにも色んな宗派がありますよね。極端なことを言うと、現在テロと結びついていると言われることもあるワッハーブ派とか。そういった細かなことがわからずに──僕もよく分かっていないですが──その無知の上に寛容があるような気もするんですよ。本当にちゃんとわかりあえるのかな、と……。
佐藤:自分は逆で、あまり心配していないんですよ。
平林:というと?
佐藤:単純に、話してみればいいんですよ。友達が1人か2人いるだけで、随分イメージが変わってくると思うんですよね。勉強するのも大事ですが、僕がそうだったように、友人ができるとすごく世界が広がるし、生の文化に触れることができるんですよ。
平林:なるほど。そのなかで、先ほどお話にあったように、日本人だからできることもある、ということですか。
佐藤:islamapも、ノンムスリムの自分がはじめたことにひとつの意義があると思っているんです。ムスリムでない自分が、例えばイスラーム圏の国と行き来することで、お互いに見えてくることもあって、そこから繋がりができて、相互理解が深まっていくといいな、と。まだ少し飛躍があるんですが、それがワールドピースに貢献することにもなるんじゃないかって。
今井:イスラーム圏に行かれることが多いと思うんですが、どういった発見があったんですか?
佐藤:色々ありますが、身近な例で言うと、UAE(アラブ首長国連邦)やカタール、それからオマーンなどの国では、実は日本のポップカルチャーがすごく人気があるんです。
今井:えっ、そうなんですか?
佐藤:例えば「日本クラブ」のような若者が集まるところにいくと、日本のアニメのポスターが沢山貼ってあって、アニメの台詞で日本語を勉強しているような若者が沢山いるんですよ。日本語も、アニメを見て勉強していて、けっこう喋れたりするんです。それってきっと、日本人の抱いている中東のイメージと違いますよね?
平林:正直、全然違いますね……。どちらかと言うと、新幹線とかそういったインフラ的なところへの興味が強いのかな、と思っていました。
佐藤:若者はやっぱり圧倒的にカルチャーですね。そして、例えば中国や韓国の方が日本の社会に溶け込んでいるように、ムスリムも日本社会に根付いて暮らしていけるようになるといいな、と思っています。そのために、もちろんビジネスとして軌道に乗らないと困るんですが、islamapは「本当にムスリムにとって役に立つもの」であることにこだわりたいと思っていますね。
平林:最後に、読者向けの情報提供をお願いしたいのですが……。
佐藤:なんでしょう?
平林:日本人の舌に合うような、ハラルフードが食べられるレストランを幾つか教えていただけないでしょうか?たぶん、食べてみるのが実際一番なんじゃないかと思うんですよ。
今井:それは是非いきたいですね!
佐藤:わかりました! そうですね……まず、渋谷の「ケバブカフェ」ですね。場所はドン・キホーテの隣で、トルコ人の方が経営していらっしゃいます。ケバブなら、食べやすいと思うんですよね。
今井:いいですね。ケバブ、大好きです!
佐藤:それから、パレスチナ出身の方が経営する神田の「アルミナ」というレストランは、店内が綺麗で女性でも入りやすいのではないかと思います。パレスチナ料理などのレストランで、ラム肉のヨーグルトソースかけなんかがすごくおいしいです。
平林:いいですねぇ、西アジア料理。
佐藤:最後に、ここはメジャーなお店ですが、六本木の「アラジン」。イラン人シェフの方による、アラブの料理が食べられます。
今井:あ、聞いたことあります。
佐藤:ランチバイキングが1000円で、とてもお得感がありますよ。カレーだったり、フムスっていうひよこ豆のペーストだったり、どれもおいしいです。
平林:なるほど、ありがとうございます。やっぱり、けっこう食べに行かれてますね。
佐藤:打ち合わせやミーティングをしたり、islamapへの掲載について、オーナーさんとお話ししたりもしますんで、頻繁にハラルフードのお店には足を運びますね。実際、おいしいお店も多いですし、「エスニック料理を食べたい」という方にもおすすめしたいです。
今井:そのときは勿論、islamapで調べて足を運んでいただくということで……。
佐藤:ありがとうございます(笑)。
平林:本当に、今後の黒字化を祈っています。黒字化はやはり、広告収入モデルでの達成を目指されているんでしょうか?
佐藤:主にムスリム向けの広告を募っていければと思います。
今井:今の時点での手応えはどうですか?
佐藤:今後の収益化の目処として、現在プロデューサーを務めさせて頂いている「富士そば」様からの広告・コンサルタント費、今後ハラール対応を行なおうとしている企業様の広告・コンサルタント費があります。
今井:おお、かなり具体的に、黒字化に向けて進みはじめているんですね。
佐藤:いや、まだまだです(笑)。黒字化に至るためには、ユーザー数を集め、海外企業から広告を得ることが必要だと思っています。ユーザーが付いてきたらまた、その後の展望について、実績と共にお話させて下さい。これからも宜しくお願い致します。
平林:是非また、成功者としてインタビューさせて下さい!
今井:その暁には、星海社新書で本も作らせて下さい!!
佐藤:はい、頑張ります!
islamap iPhone版アプリ
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(2014年6月13日、渋谷にて)
会社名
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islamap.Inc
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所在地
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東京都渋谷区神山町10-8
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事業内容
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ムスリムの方がムスリム少数の国で暮らしやすくするためのプラットフォームアプリケーションislamap®の企画、開発、運営
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