「おいしいものは人類の奇跡だ!」をモットーに、料理のレシピをHIPHOPするラッパーDJみそしるとMCごはん(ユニット名みたいだけどひとり)。昨年秋冬、活動開始から1年足らずでメジャーデビューを果たし、業界内外の話題をさらった彼女に、超自家製ラップの秘密と、料理への思いを聴いてきました。
構成・写真:今井雄紀
まずは、下記の動画をご覧ください。
今井:『ローストチキン』をはじめ色んなPVを拝見したんですけど、曲はもちろん、撮影の小道具とか絵とか、基本的に全部自分で作られてるんですよね? すごいですよね。元々ものづくりの経験があったんでしょうか?
DJみそしるとMCごはん(以下おみそはん):ありがとうございます。これをやるまでは、一切経験がなかったですね。絵を描くのとかは好きでしたけど、音楽は本当に聞くの専門でした。見よう見まねで全部やってみたら、それにけっこううれしい反応を頂けて……。今もできるところはやらせてもらってます。最近は、プロの方のお力もいっぱいお借りしてますが。
今井:栄養系の大学に通われてて、そこで卒論用に制作されたのが、「お料理ラップ」のはじまりだったんですよね? どうして、レシピをHIPHOPにのせようと思われたんでしょうか?
おみそはん:「紙のレシピは台所で汚れるし、いちいち見なきゃいけないから不便だ! ならば歌で覚えちゃえばいいじゃん!」という考えから、卒業研究を始めたんです。歌ったことも作曲したこともなかったんですけど、色々調べて、卒論用に8曲作って提出しました。で、どうせなら沢山の人に聴いてもらおうと思って、それぞれ撮影&編集して、動画にしました。後にそれをYouTubeにアップしたら、けっこうアクセスが集まって……。
今井:やるのもすごいですけど、認める大学もすごいですよね。美大だったらまだしも……。同じゼミのお友達とかは、どんな研究をされてたんですか?
おみそはん:隣に座ってた友達は、ラーメンをいちから作ったりしてましたね。あと、別の友達は、牛乳パックとか卵のパックとか、形のある程度決まっている食品のパッケージについて、「これが本当にベストなデザインなのか」ってのを検証したりしてました。別の子は、「着色料は素晴らしい! 身体に悪くない! メロンソーダは、あの緑だから心躍るんだ!」って言って、着色料を使った調味料を作ったりしてましたね。私がいたのは、ビジュアルコミュニケーション研究室っていうところだったので、みんなけっこう自由にやっていたんです。普段は、栄養学も勉強するし、調理法も学ぶし、食品学の授業もありました。野菜の授業とか、乳製品の授業とか……。
今井:おもしろいですね!
おみそはん:「食文化人類学」っていう授業もありましたよ。昔の人の、ハレの日(めでたい日)とケの日(日常)の料理の違いについて学んだりしました。めでたい日は鯛があって、餅があってとか。あと、宗教毎に食べれるもの食べられないものを教わったりとか。
今井:調理実習とかもあるんですか?
おみそはん:たくさんありますよ! 和食~とか、中華~とか、ベトナム料理とかもありました。夏休みになると、1週間かけてパンの実習があったりもして。お菓子の授業もありましたし、それはそれは楽しい授業ばかりでしたよ。
今井:学食もやっぱりおいしいんですか?
おみそはん:学食は、質素でしたね。むちゃくちゃ健康的なメニューで、「おじいちゃんのごはんみたい」と思ってました。大きな大学の、カレーにフライがのってて、同じ皿にスパゲッティがのってて~っていうのに憧れてました。卒業してから、その質素なメニューのありがたみがわかりましたけど。
今井:質素な学食の方が絶対いいですよそれ。学校以外では、何か活動されてましたか?
おみそはん:食に関するバイトを、ずっとしてました。珈琲屋さんでバリスタやったり、古民家カフェみたいなところでバイトしたり……。パスタを乳化させる方法とかは、学校で教えてくれなかったのでそっちで学びましたね。ペペロンチーノとかって、乳化させないとうまく絡まないんですよ。分離しちゃって。
今井:確かに家でペペロンチーノ作っても全然うまくいかないですよね。そうか、乳化っていう工程が必要なのか……。そんなに学んだのに、料理を作る人になろうとは思われなかったんですか?
おみそはん:なろうと思ってたんですけど、具体的に動いてはいなかったんですよね。どうしようどうしようと思ってるうちに4年生の12月になって……あと3ヶ月しかない!と思った時にたまたま学校行ったら、求人が出てたんですよ。食器問屋さんの。「食器ならいいかな。土日休みだし。土日は料理のことしよう」と思って、応募して受かって、そこに入りました。そのまま普通に働いて、卒論でトラック作ったことも忘れてたぐらいだったんですけど、そこに突然、「音源配信しましょう!」って、今のディレクターさんから連絡をもらって。びっくりしましたねえ。
今井:すごいですよね。DJみそしるとMCごはんとして活動をはじめて1年でメジャーデビューですもんね。これはディレクターさんにお聞きしたいんですけど、どうしてこんなにすごいスピードで駆け上がっていけたんでしょうか?
ディレクター:手前味噌ですけど、本人のセンスが圧倒的にオリジナルだからだと思います。この人にしか作れない世界観が最初から完璧にあるんですよね。今は色んな人と協力してPVやCDを作ってますけど、それも基本は全部、本人主導ですし。
おみそはん:(相当照れながら)あ、ありがとうございます。私自身、何もかも想像を絶するスピードで進んでいて、本当にラッキーだなと思ってます。会社やめて、DJみそしるとMCごはん専業で活動して1年になるんですけど、最近ようやく、ちょっとだけですけど、余裕が出てきました。今回の取材もそうですけど、呼んでくださった方々が自分に何を求めてくださってるか聞いて、「それならこういうことができるかもです」って提案できるようになりました。というか、提案するのが怖くなくなりました。昔は、「レシピなんて1回聴いても覚えられないし、ライブでやる意味あるんだろうか。CDだけ作っておけばいいんじゃないかな」って超ネガティブになって、「ライブなんて意味ないですよー!」って言ってディレクターさんを困らせたりもしたんですけど、そういうこともなくなりましたし。ライブで1回聴いて覚えられなくても、目の前でお客さんが笑顔になってくれたり、料理してみよっかな!って思ってくださったりするだけでも、十分うれしいし意味あるなって思えるようになりました。
今井:聴くと食べたくなるのがおもしろいですよね。フェスとかで屋台やったらすっごい売れると思いますよ! 僕も、先日ライブ観たときに『ピーマンの肉詰め』聴いて、ピーマンの肉詰めめっちゃ食べたくなりましたもん。
おみそはん:あはは。ありがとうございます。この活動してて1番嬉しいのは、実際に料理を作ったというレポートをもらった時なんですよね。こないだも「5歳の息子が覚えちゃって~」みたいなリプライもらって、とびあがる程嬉しくなりました。
今井:いい話ですね。「くいしんぼうHIPHOP」は本当に唯一無二だと思うんですけど、レシピになってる歌って、他にもあったりするんでしょうか?
おみそはん:多分1番有名なのは、『お料理行進曲』ですね。『キテレツ大百科』のオープニングテーマの。
今井:あー! そうですね! コロッケ!
おみそはん:そうですそうです。2番はナポリタンなんですよね。
ディレクターさん:え? あれ2番あるの!?
今井:ナポリタン! 全然知らなかった……。
おみそはん:ありますよ(笑) コロッケとナポリタンていうところに時代を感じますよね。その2つが、家庭でごちそうだったってことに。
今井:確かに、、そう、ですね……(2番の衝撃から立ち直れない)。今後の展望・野望はありますか?
おみそはん:野望は、『フィッシュ&チップス』という曲を作って、その1曲だけ持って、UKツアーをやることです! 昔、イギリスにで働いてる知り合いの人に「『フィッシュ&チップス』、その1曲作ったら、絶対回れるよ!」って言われたのを真に受けてます。別に『ジャーマンポテト』でドイツ回るのでもいいんですけど、海外を回って、色んなところで新しい料理を教わって、それをまたラップにして……っててのを、やってみたいんですよね。
今井:それむちゃくちゃおもしろいですね。最後に、ジセダイ読者にメッセージをお願いしてもいいでしょうか? 「こうすると人生変わるかもよ」っていう提案を、何かひとつ。
おみそはん:「スーパーじゃなくて、専門店に行ってみよう!」ですね。八百屋さんや魚屋さんに行って、「いま美味しいものなんですか?」って聴いて、それを買ってみるといいと思います。「旬」のものって、本当に味が全然違うんですよ。こないだ八百屋さんおすすめの春キャベツ食べたんですけど、レタスみたいにやわらかくて、白菜みたいに甘いんです! これが春のキャベツなんだってわかって。季節ごとにちゃんと美味しいものを食べると、人生変わると思います。
今井:なるほど! 早速実戦してみたいと思います! 今日はありがとうございました!
おみそはん:こちらこそありがとうございました~!
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