関西の大学に籍をおきながら、脚本を学ぶために単身上京。自ら脚本・監督を務めた自主制作映画『かしこい狗は、吠えずに笑う』が、若手映画監督の登竜門・ぴあフィルムフェスティバルで「エンタテイメント賞」と「観客賞」をW受賞。渡部亮平さんの溢れる行動力の秘訣を伺いました。
取材:林佑実子 今井雄紀 構成:林佑実子 写真:今井雄紀
林:渡部さんが監督、脚本をされた自主制作映画『かしこい狗は、吠えずに笑う』を拝見したとき、あまりの面白さに「とんでもない才能を持った映画監督がデビューしたぞ!」とゾクゾクしました。その後渡部さんのプロフィールを確認したら、あと一週間で26歳になってしまうことが分かったので、急遽インタビューのお願いをしました。本当に危ないところでした……。
渡部:こちらこそ、明日26歳になるので危ないところでした! 本日は宜しくお願いします。
林:ギリギリセーフ! ではまず、渡部さんが脚本家を志すきっかけから教えて頂けますか?
渡部:ずっと昔から脚本家になりたかったわけじゃないです。僕、超ミーハーなので、はじめはテレビ局のドラマ部に入りたかったんですよ。それで就職活動の時にテレビ局の面接を受けたんですけど、あっさり落とされて。来年もう一度チャレンジするためにドラマや映画について学ぼうと脚本の勉強を始めたら、それがめっちゃ面白くて、これだ!! って思いました。そこから大学を休学して、ずっと脚本の勉強をしています。
林:大学に籍は残しつつ、脚本の勉強するために単身上京したんですよね……ものすごい行動力ですね。
渡部:生意気に聞こえてしまうかもしれませんが、単に僕が要領のいい性格をしているだけです(笑)。上京も、僕の通っていた大学では1万円で1年間休学できる制度があって、僕の場合最大2年間休学できるのが分かったから、卒業する前に自分の好きなことに取り組む時間を作りたいと思ったのがきっけした。当時このまま地方にいたら腐っちゃうという焦りもあったので、とりあえず東京に行きました。東京に行ったら変われると思って。
林:上京した後は、どんな活動をしていたんですか?
渡部:赤坂にある脚本の学校に1年通って、卒業してからはコンクールに応募するための脚本を毎日ひたすら書き続けるという日々でした。朝の7時から夕方までドトールで脚本を書いて、その後レンタルビデオ店で12時まで働いて。バイトが終わったらファミレスに行ってまた2、3時間脚本を書くという生活を2年間ほどしていました。
林:うへぇ、その生活は精神的にきっつい! よく、腐らずにその生活続けられましたね。
渡部:ずっと辞めたいと思っていました。今の生活を続けて、本当に脚本家になれるのか不安だったし、親は「もう就職した方がいいんじゃない?」って東京に乗り込んでくるし……。
渡部:毎年2月にフジテレビ主催のヤングシナリオ大賞という脚本コンクールがあるのですが、これに入賞するのが脚本家になる一番の近道って言われているんですね。だからどうしても受賞したかったし、自分なりにこれは面白いと思える作品でコンクールに挑んだんですけど……一次選考で落とされちゃって。ショックでした。なんで面白さが伝わらないんだろうと考えた時に、僕が頭で思い描いていたイメージを、読み手の方が同じように想像できなかっただけなんじゃないかって思ったんです。だったら自分で映像化して見せてしまれば、僕の脚本の面白さが伝えられるんじゃないかと思いました。
林:自分の脚本の良さを証明する手段として、自主制作映画を作ったということですか?
渡部:はい。「この脚本面白いの?」って聞かれたときに、「面白いですよ」って説得力を持って言えるようになりたかったんです。だから一次選考で落ちた脚本を自分で映像にすることにしました。こうして生まれたのが『かしこい狗は、吠えずに笑う』です。
林:そして見事、その映像作品がぴあ映画祭で2部門受賞! 渡部さんのアプローチが成功したわけですね。脚本が再評価されたことで、自信がついたんじゃないですか?
渡部:自信とまではいきませんが、自分の脚本に自分自身が期待できるようになりました。これまではずっと設計図だけを書き続けている感じだったんですよ。完成品を見たことがなかった。だから、この設計図でちゃんと家が建つのか? って不安を感じながら脚本を書いていたけど、一度自分で映像化してからは脚本を書くのがほんの少し楽になりました。このシーンはそんなに言葉で説明しなくても役者の芝居と演出で観客に意味は伝わるとか、物語を頭の中で立体的に考えることができるようになりました。
mimpi*β(ミンピ)さん [写真左]
渡部さんが制作した自主制作映画『かしこい狗は、吠えずに笑う』ではブサイクで暗いという理由で虐められる女子高生・熊田美沙役をつとめる。役と普段のキャラクターは正反対で、普段は音楽をメインに活動をしている。
岡村いずみ [写真右]
同作品で、可愛すぎて疎まれている女子高生・清瀬イズミ役を務める。芸能事務所NO.9所属し、女優として活動中。現在はドラマ『たべるダケ』(毎週金曜24:52−テレビ東京他)に出演している。
林:映画を作る費用は全額自己負担だし、渡部さんにとってこの映画は、脚本家としての今後を決定する勝負の1本だったわけじゃないですか。主演のお二人はプレッシャーを感じませんでした?
mimpi*β:はじめ軽い感じでオファーを受けたんですけど、後から主役だと分かって「私、演技経験ないけどいいんですか!?」って思わず聞きました。
岡村:私は過去に何本か自主制作映画に出演した経験があったのですが、台詞の掛け合いで物語を引っ張っていくような役は初めてでした。
渡部:はじめ1ヶ月で稽古は終わりますって2人には話していたんですけど、初回の稽古を見て焦り、3ヶ月に伸ばしました。撮影の機材をレンタルできる日数は限られているので、短期間でいいもの撮るために稽古で手を抜くことは考えられなかったんです。
mimpi*β:1ヶ月の稽古じゃ足りないことは、演者である私たちも感じていたんですけど……5〜6時間位同じシーンをくり返す練習は、「またやるのか、もういいじゃん!!」って何度も思いました(笑)。
岡村:結果として、何度何度も練習しているうちに、自然と台詞を言えるようになりましたね。今振り返ると、あれくらい練習しないと本番のカメラの前でうまく演技できなかっただろうなって思います。
mimpi*β:初めて主演のオファーをされた時、渡部さんに「絶対ぴあの映画祭で受賞するんで!」って言われたから。それを信じて頑張りました。
岡村:そうそう! それ私も言われた〜。
林:始めから受賞宣言!? すごい自信だ!
渡部:(はにかみながら)イメージできることはイメージ通りに実現できるって信じていてですね……今までずっとそうだったので。今回の映画は脚本を書いている段階で「これは面白くなるな」って強くイメージできたんです。なのに誰も僕の脚本を信じてくれないから……だから2人には信じてくだいって言いました。
林:最後に、同世代で夢を持っている人にアドバイスはありますか?
渡部:地方に住んでる人に限って言えば、絶対に東京に出たほうがいい。僕の地元でも夢を持っている友達がいっぱいいるけど、「この町で成果を出してからじゃないと東京には行けない」ってルールを勝手に持ってるんですよ。例えば地元で観客を50人、100人集められても、東京行ったらゼロからのスタートじゃないですか。だったら一歩でも早く東京に行かないと駄目ってずっと思っています。
林:たしかに東京はめちゃめちゃチャンスに溢れていますからね。
渡部:そう!! 努力すれば、凄い人たちに会えるチャンスがいっぱいある! だから夢を追うならまず東京に行け!! そこから何かやればいい。少なくとも僕はそういうスタンスですね。
林:今回の渡部さんのお話を聞いて私もやる気が沸々と湧いてきました! それでは渡部さん、mimpi*βさん、岡村さん、今日はありがとうございました!
同じ志をもった仲間や、憧れの人に出会えるチャンスがある場所に身をおくことで、何かが始まる!
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