『僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか』が好調の木暮太一氏へのインタビュー。前編は『金持ち父さん貧乏父さん』と『資本論』との出会いから、独立前のサラリーマン時代の話に、ライター・速水健朗氏が迫ります。
『僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?』すごくヒットされているそうで、おめでとうございます!
木暮 ありがとうございます。
ご自身で感触とか反響とかって、けっこう返ってきてます?
木暮 そうですね。直接僕にというよりは、Twitterなどを通じてなんですが、そうとう評判はいいですね。あとは書店のランキングでも、1位に入れていただいたところも多かったのですごく良かったですね。
タイトルも割とストレートな問いかけですし、そこが読者に響いたところが大きいと思うんですけど、中を読んでみると、つかみもすごく面白いですよね。日本の給料の構造は、規制緩和やグローバリゼーション、ロスジェネ問題や若者の雇用など、よく取り沙汰される問題とは関係なく決まっている」と。
木暮 この本の中で、給料の要素を2つ挙げています。まず給料には「基準値ベース」がある。その基準値ベースの金額から上に行ったり下に行ったりするんですよ。
「成果報酬」とは別に、まず「基準値ベース」がある。で、そこから「労働者に対する需要と供給のバランス」で、給料は上がったり下がったりするんですね。グローバリゼーションとかって、その人に対する需要と供給のバランスが崩れて給料は下がってくって話になるので、まずその「ベース」がスタート地点なんですよね。
ふつう給料はどうやって決められるのっていった場合に、需要と供給の話ってやっぱされると思うんですけど、「基準値ベース」の話っていうのはたしかこの本の中で目新しいというか、「あ、そうなんだ!」と思わせた部分だと思うんです。
木暮 そうですね。そこは近代経済学ではもう完全に抜け落ちているところで、僕はいちばんそこがいけないんだなと思っています。
本の中では、ビルと鉛筆の話をしています。この2つ、同じように需要があっても絶対に同じ値段にはならないと。それは値段の基準が違うからである、っていう。そこをまず考えないことには、なんでその商品がこれが「1000円」じゃなくて、「100円」なのかってことを説明ができないですよね。たしかに需要が増えれば値段は上がりますが、限度があります。もし、ものすごい需要が上がったら鉛筆でも1億円になるかっていうと、絶対にならないですよね。それは値段には「基準値」があるからです。そこのところの感覚をすべて「需要と供給」で整理しようとしたっていうのが、今の経済学の相当な罪というか、功罪のほうの罪の方ですね。
で、この本のおもしろいところは、いわゆるマルクスの話と『金持ち父さん貧乏父さん』の本というのが、実は同じことを言っているんだっていう。まったく違うんだけど。その本に出会ったのっていうのはいつのことですかね?
木暮 『金持ち父さん~』に出会ったのは大学4年生のときです。そこで「ラットレース」っていう言葉が出てくるので、そこで労働者の搾取構造と僕の中で重なったんですよ。で、もう1回『資本論』を読み返してみたら、「あ、同じこと言ってる」と思って。
具体的には?
木暮 『金持ち父さん~』の中では、人を「E」とっていうっていう純粋な労働者(Employee)やと、「B」というっていう目指すべきBusiness ownerなどに分けているんです。で、「E」の人は、自分で時間を使って働くっていう人たちなんです。自分が動かないとお金が入ってこない人たちで、その人たちは一生ラットレースから抜けられません、というようなことを書いていたんです。
で、著者のロバートキヨサキ氏の実の親も「E」で、そのときの収入は非常に高かったのに毎月毎月お金の心配をしていたそうです。一方、「金持ち父さん」といわれている親友のお父さんは、途中までは毎年のフローの所得はそんなに多くないんですね。でも、お金の心配をすることはなく、引退するころには大金持ちになっていたというストーリーです。引退して60歳ぐらいになったらググッと伸びてきたっていうタイプの人で、お金の心配は全然していなかった。もう、これを見たときに、「あ、労働者ってはまると、いくら年収が上がってもこういうふうになるんだな」っていうのが分かったんですよ。
なるほど。では、木暮さん自身も、就活が終わっていざ社会人になるぞといったときに、「サラリーマン」になるわけじゃないですか。ラットレースに参加することになる。そこで、なんか、このままじゃまずいぞっていうのは、ありました?
木暮 「非常にまずいな」と思ってはいて、で、いつか独立をしなければ、と思っていました。まあ、当時は「ビジネスオーナー」になるというよりかは、独立をしなければいけないというふうに思っていましたね。
富士フイルムやサイバーエージェントでお仕事をされてたんですよね。サイバーエージェントでは出版事業をなさっていたそうですが、出版は自分でやりたいこととは合致したんですか?
木暮 そうですね。最初は僕1人しかいなかったんで、法務体制とか流通体制とか全部作って。で、誰にも相談に乗れないってくれない中で、自分で創ってかなきゃいけないっていうのはすごく大変だったんですけど、楽しかったですね。
ただし、出版業といっても、僕は編集者ではなかったので、広告とか予算管理とか、PL管理とかなんですけど、毎回毎回同じことやってるんです。本を出しました。PRします。広告やります。営業します。で、PL管理します。っていうサイクルを続けました。がえんえんと続くんですよ。まったく同じサイクルが。
ええ。
木暮 それを3年ぐらいやって、少しなんかいい加減、ちょっと違うことやりたいなと思ったんですね。で、社長に相談して転職をすることにしました。「もう僕がいなくてもこの仕組み自体はもう回るので、僕いなくてもよくないですか?」みたいな話を社長にしたら、「違う事業部に移る?」って聞かれて、ちょっと検討はしたんですけど、ただ社内的にけっこう難しくていろいろやりづらいし。じゃあ、だったら辞めますっていう。
そのときは「何をしていこう」っていうビジョンはありました?
木暮 教育産業に携わりたかったんですよね、僕。
それは、もともとそうなんですか?
木暮 もともとです。大学のとき、に友だち向けにの解説書、資本論の解説書を書いたりしたのも、教育的な視点で書いてたんですけど。何か難しいものを分かりやすく説明したり伝えたりするのが、すごく好きなんですよ。だから本当は予備校の先生になりたかったんですね。そういう意味では学校の先生でもよかったんですけど、学校の先生って、授業しても生徒誰も聞いてないじゃないですか、真剣に。
予備校だとみんな熱心に聞かなきゃいけないっていうか。
木暮 お互い真剣でいけるので、予備校か学習塾で働こうとも思ったんですけどね。いろいろな会社をみてまわりましたが回ったりもしたんですけど、これから新規参入して芽を出すのは難しいと感じまして、それもちょっと芽が出ないというか、難しいなということで。まあ、いろいろ考えて探していたときに、もう1回ちょっとビジネスやろうかなというふうに思いなおしてリクルートに行ったんですね。
次のリクルートっていうのは、わりとすんなり出てきた名前なんですか?
木暮 リクルートは全然行くつもりなかったんですよ、ほんとは。当時リクルートがたまたま募集していた役員直下の7人しかいないグループがあったんです。で、そこで投資のビジネスに携わる人材をを募集していましたますと。事業を組み立てるうえで、ある会社に投資をして、その会社と一緒にビジネスを創っていくような仕事です。役員直下で役員と毎週ミーティングしながらリクルートの将来を考えていくような事業部ですっていうことになって、「お、すげえおもしろそうじゃん」ってことになって行って、入りました。ったんですけど。
普通のリクルートのイメージとは全然違うことをやられてたんですね。
木暮 はい、全然違いますね。いわゆるリクルートっぽいの仕事じゃなくって、どちらかっていうと金融ベンチャーキャピタル機関のようなの仕事ででした。まあ、ようやくそこで学生時代から興味があった金融の仕事がっぽいことができたっていう感じですけど。ただ何よりも、僕の中で積み上げてきた感じがすごいあったんですよ、そこは。
どういうことですか?
木暮 ビジネスを将来自分で創っていきたいと思ったので、まだまだ学ばなければいけないことがたくさんありました。例えば10年後、自分でビジネスを1人でやっていくときに必要な能力って、いろんなことがあります。ですがるんです。けど前の会社のときには、資金繰りをどうすべき、とかファイナンスの部分とか対外的にアライアンスをするとかいう部分は考えていませんでした。が、もう完全に欠落していたので。自分で何かやるにしても銀行との関係とか、「企業価値あとは(バリュエーション)」をどう測るかもという言葉を知らなかったんで。企業の価値がどんだけで、株を第3者に譲るときにもいくらで売るんだとか、そういう企業価値をバリュエーションっていうんですけど。
バリュエーション。
木暮 で、その評価するときにどういう方法で計算して。だからこのぐらいの売上でこのぐらいの利益だから、この企業の1株はいくらです、っていう理論的な金額が出るんですけど、そういう話をそこで勉強させてもらったり。
あとは会社の見方を改めて勉強させてもらいましたですね。どういう企業はこれから伸びそうで、どういうジャンルは厳しいかやばそうでとか、そういうビジネスの基本的な見方を改めてそこで学びました。
なるほど。リクルートではそういうビジネスの基本的な見方を学んだ、と。そこからいよいよ起業、独立をされるわけですね。
木暮 はい。
(後編に続く)
木暮太一
作家、出版社経営者。1977年千葉県生まれ。慶應義塾大学を卒業後、富士フイルム、サイバーエージェント、リクルートを経て、独立。ビジネス書作 家として活動しつつ、出版社(マトマ出版)を経営している。大学の経済学部在学中に「資本主義経済の構造」と「労働の本質」を学び、その後10年間の会社 員生活で「労働者のリアル」を体感しながら、現代日本で若者が現実的に選択し得る「幸せな働き方」を追求してきた。その知見をまとめたものが本書である。 著書に『新版今までで一番やさしい経済の教科書』(ダイヤモンド社)、『マルクスる? 世界一簡単なマルクス経済学の本』(マトマ出版)、『学校で教えてくれない「分かりやすい説明」のルール』(光文社新書)など。
速水健朗
1973年、石川県生まれ。ライター、編集者。コンピュータ誌の編集を経て現在フリーランスとして活動中。専門分野は、メディア論、都市論、ショッピングモール研究(『思想地図βvol.1』ショッピングモール特集の監修)、団地研究(『団地団ベランダから眺める映画論』大山顕、佐藤大との共著を準備中)など。TBSラジオ『文化系トークラジオLife』にレギュラー出演中。主な著書に『ラーメンと愛国』(講談社現代新書)、『自分探しが止まらない』(ソフトバンク新書)、『ケータイ小説的。――“再ヤンキー化”時代の少女たち』(原書房)など。
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