『武器としての決断思考』『武器としての交渉思考』が好調の瀧本哲史氏に、ライター・速水健朗氏が切り込みます。なぜ出版をするのか、なぜメディアに出るのか。他では聞けない瀧本氏の「戦略」も垣間見れるリアルなインタビュー。必読です。
瀧本さんは、去年『武器としての決断思考』『僕は君たちに武器を配りたい』という二冊を出されて、どちらとも話題になったし、売れたと思います。いろいろと取り巻く環境なんかも変わりましたよね?
瀧本 確かに売れるように書いてはいるんですけど、予想よりも反響が大きくて困ってるんですよ。
どのくらいの部数を目標にしていたんですか?
瀧本 目標は3万部でしたが、結果2冊合わせて37万部ですね。
売れたかった、有名になりたかったというわけではないんですか。
瀧本 僕の本業は、投資家なので実はあまり目立たない方がいいんです。だから本を書いたのはあくまで、別の目的があったんです。
どんな目的ですか?
瀧本 これは、もう16年やっていることなんですけど、ディベート甲子園っていう中高生向けのディベート大会の企画と運営をやってるんです。それが、最近は出場校が増えなくてですね。
それを立て直さなくてはいけなかった?
瀧本 そう、なぜならこの大会はパナソニックさんが協賛しているんですが、パナソニックのCSRって数値管理があって厳しいんですよ。目標に届かないと例えば「うちでマーケティングセミナーを開催しているので、瀧本さんにも受けてもらわないと」って指導が入るんですよ。
うわ(笑)。つまり、ディベート甲子園に人を集めるために『武器としての決断思考』を書いたと。というか、セミナーに行きたくないからか(笑)。
瀧本 いや、その前にミーティングで、書籍を出すのが良いだろうという結論になったのです。それで、ディベート大会の関係者経由で編集者の柿内さんを紹介してもらったんです。
柿内(星海社の担当) そうですね。僕はその当時、転職を考えていた時期で、瀧本さんにディベートのテクニックと決断って関係ありますか? って聞いたら、あるんじゃないですかって。それで、瀧本さんのディベート教室の授業を本にしようってことになったんです。
そこで、ニコニコ生放送の企画としてディベートについての授業をやったんですね。
瀧本 僕はテレビ(出演中のNHK「NEWS WEB24」)でも、早口すぎるって批判を受けることがあるんですが、実はあれでもセーブしている方なんですよ。で、このときはセーブせずに早口のまま講義をやったんです。
柿内 すごい速かったですよね(笑)。
瀧本 コメントでも「わからん!」って声が多かったんですけど。それでも2万人が視聴したんです。こんなマイナーなテーマでも、見る人がいるんだな、じゃあ本も少しは売れるかなって。そうしたら、しばらくして柿内さんから相談があるっていわれたんです。実は、転職したんですよっていうんですね。
柿内 前から星海社って会社に誘われていて、迷っていた時期だったんですね。それで、瀧本さんの本を企画している内に、星海社への転職を決断してしまいました。瀧本さんが処女作執筆中だっていうのに(笑)。
瀧本 授業でやったメソッドで転職を決断。しかも、最初に会ったときに話した「武器としての教養」をキーワードに新書レーベルを立ち上げる。それで、これは、いい加減には書けなくなったなっていう。
転職の責任の一端は瀧本さんにあったわけですからね。
瀧本 本を書くって職業的な物書きでない限り、お付き合い的にやらされているケースが多いじゃないですか。でも、今回は自分のプロジェクトになってしまったんですね。投資で言えば、これは自分の投資案件となったわけです。自分が投資した案件は、必ず成功させなくてはいけないというのが、自分のモットーなんです。しかも、1人の編集者の転職の成否まで背負ってしまったらしいと(笑)。
最初の目的はディベート甲子園を盛り上げることだったわけですよね。その結果はどうなりました?
瀧本 いま(6月現在)、地方大会のエントリーが始まっているんですけど、過去最大級の申込件数になってます。むしろ、ジャッジや運営がいままでの体制のままでは足りないんじゃないかっていうくらいです。
すごい。そちらも大成功ですね。
瀧本 元々、社会人、大学生のボランティアスタッフに動いてもらって運営を行っているんですけど、そちらはそちらで、DMを使った動員作戦をやっていて、いわば地上と空中の同時作戦を展開していたので、両方での勝利でした。
「武器」に「地上戦」「空中戦」などといったミリタリー用語がたくさん出てくることからも、瀧本さんがミリタリーオタクなんじゃないかっていう疑惑を晴らすために今日は来たんですけど、それは後で聞くとして、本が売れたことで生じた誤算って何ですか?
瀧本 仕事が増えてしまったことです。そもそも投資業って信頼を築きながらやるものなので、売り込み的なことすらしないほうがいいくらいなもので。
目立ちすぎると、信頼度が揺らぐわけですね。でも、NHKのニュースに出演するというのは、かなり目立つ仕事ですよね。
瀧本 NHKも、ふつうに人気番組に出演するという話であれば、出てないんですよ。最初に、その企画の話が来た時に、スタッフの人に「NHKのなかでゲリラ的な番組をつくらないといけない」っていう話をされたんです。
はい「ゲリラ」ですね(笑)。
瀧本 従来のニュース番組の文法を壊すものをNHKから発信するべきだっていうところから「NEWS WEB24」って始まっているんです。実際、番組のスタッフって、他の番組や部署から精鋭たちが集まってできているプロジェクトチームでもあるんですね。某民放の長く続いているニュース番組って、上から目線で正規軍で予定調和でワンパーターンじゃないですか。もっと前に向いて、ゲリラ的で、新しい要素のあるニュース番組をつくりたいと思っていたので、興味を持ったんです。しかも、スタッフの人が「僕武器」を読んで、新番組への決意を新たにしたと聞いたものですから。
話が逸れましたが、新刊の『武器としての交渉思考』は、前作の『〜決断思考』の続編って考えていいんですよね?
瀧本 まず僕が本を書いた原点には、カリスマが出てきて社会を変えるみたいなことでは、何もうまくいかないなっていう問題意識があるんですね。カリスマのぶち上げって、僕も職業上いく度か手がけたことはあるんですけど、カリスマでは世の中はよくならないというのが結論なんです。
今ね、西日本でもカリスマが出てきて、社会を変えようとしていますけど、ああいうモデルは絶対にうまくいかないんです。カリスマに頼りたいっていう弱い心を強化するだけなんです。そうじゃなくて、自分で考えて自分で世の中をつくっていくという人を大量につくっていく、そのための武器を、出版というビジネスを通してやろうという意識があったんです。
「カリスマモデルから武器モデルへ」という発想の転換と言うことですね。
瀧本 ディベート甲子園をやろうと思ったのも、いまの政治家やリーダー層には期待できないので、将来の有権者になる中高生に合理的な思考の方法を教えることで日本は変えようって思ってたからなんです。
なんか中二病的ですね!
瀧本 議論の文化を学校教育に導入することで、日本の民主主義を進化させる(キリッ みたいな(笑)
それが1冊目によってある程度達成したと。
瀧本 そう、個人の思考を変えるっていうことは、ある程度できたんですけど、社会を変えようとするのであれば、個人がばらばらに変わるだけではダメで、それを運動に変えていかなくてはいけないんですよ。
なるほど、と納得しかけたんですけど、そう言いながらも瀧本さん自身がカリスマ化してしまってないですか?
瀧本 そうならないようにしているんですよ。僕自身がメディアに出る時は、よくわからない人だっていう体を装うように気をつけています。
わかりやすさがカリスマの条件だとすれば、それをあえて外していると?
瀧本 講演をするときは必ず「今日は皆さんにがっかりして帰ってもらいたいと思います」って言って講演会を始めるんですね。
「本はともかく、話はよくわからんぞコイツ」って思わせるってことですか?
瀧本 みんな、答えを求めてやってくるんですよね。本を読んでくれて、講演まで来てくれる人って特にそうなんですけど、「これに関して瀧本さんはどう思いますか?」って。僕はそれに対して、「自分で考えてください」としか言わないんです。
それはがっかりですね(笑)。でも、答えを出さないってことが大事だと。
瀧本 カリスマってバイブルとセットなんです。バイブルって、答えが書いてあるんですね。
『武器としての決断思考』は、あえてバイブルにはしなかったと。
瀧本 あの本には、わざと突っ込みどころを用意しているんです。例えば、大学の先生が「私の経験では」という書き出しで書くことを信じてはいけないって書いている数ページ前で、「私の経験では〜」っていうのを書いていたり。
突っ込み待ち……。
瀧本 実はそういう仕掛けがたくさん仕掛けられている本なんですよ。
(後編へ続く)
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瀧本哲史
京都大学客員准教授、エンジェル投資家。
東京大学法学部を卒業後、大学院をスキップして直ちに助手に採用されるも、自分の人生を自分で決断 できるような生き方を追求するという観点から、マッキンゼーに転職。3年で独立し、企業再建などを手がける。また、他の投資家が見捨てた会社、ビジネスア イデアしかない会社への投資でも実績を上げる。京都大学では「交渉論」「意思決定論」「起業論」の授業を担当し、教室から学生があふれ、地べたに座って板 書する学生が出るほどの人気講義に。「ディベート甲子園」を主催する全国教室ディベート連盟事務局長。星海社新書「軍事顧問」も務める。単著は『僕は君た ちに武器を配りたい』(通称ボクブキ、講談社)と『武器としての決断思考』(通称ブキケツ、星海社新書)。
速水健朗
1973年、石川県生まれ。ライター、編集者。コンピュータ誌の編集を経て現在フリーランスとして活動中。専門分野は、メディア論、都市論、ショッピングモール研究(『思想地図βvol.1』ショッピングモール特集の監修)、団地研究(『団地団ベランダから眺める映画論』大山顕、佐藤大との共著を準備中)など。TBSラジオ『文化系トークラジオLife』にレギュラー出演中。主な著書に『ラーメンと愛国』(講談社現代新書)、『自分探しが止まらない』(ソフトバンク新書)、『ケータイ小説的。――“再ヤンキー化”時代の少女たち』(原書房)など。
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