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ジセダイ総研

愛し合っているのに、法律が原因で「ラブラブ離婚」......。渋谷区条例成立に沸き立つ現代日本の現実

牧村朝子
2015年04月09日 更新
愛し合っているのに、法律が原因で「ラブラブ離婚」......。渋谷区条例成立に沸き立つ現代日本の現実

 渋谷区の条例案を皮切りに、現代日本では同性婚に関する議論が高まりつつある。しかし「渋谷区」「同性婚」の文字だけが象徴的に踊るばかりの議論には、筆者は意味を見出せない。

 なぜならこのことは、現代日本の社会制度がどうあるべきかという視点で、ひとりひとりが当事者意識を持って議論すべきことだからである。決して渋谷だけのことにも、同性愛者だけのことにもせず。その議論の始発点となるべく、本稿ではある実例を紹介したい。

 一度は結婚していたのに、法律のせいで離婚せざるをえなかった……

 どこの国の話かと思うかもしれないが、他ならぬ現代日本での話なのである。

 ご自身を「レズビアンで元男子」というラキさん(ハンドルネーム/29歳)は、2014年七夕、いくらさん(ハンドルネーム/30歳)との婚姻届を提出した。戸籍上男性、性自認は女性というラキさん。女性であるいくらさんとの結婚は、戸籍上で異性婚、事実上は同性婚となる。 

 以後、仲睦まじく暮らしていたふたり。だが今年、ご本人いわく「双方合意の上のラブラブ離婚」に至った。

 なぜ離婚せねばならなかったのか。壁となったのは、日本の現行法だった。

戸籍上男性として結婚生活を送るか、戸籍上女性として離婚するか

 戸籍上の性別変更要件を定める「性同一性障害特例法」では、「現に婚姻していないこと」を要件の一つとして挙げている。そのため、既婚者が戸籍上の性別変更をする場合、離婚を強いられることになる。更に性別変更後は、戸籍上の性別が同性同士となるため、もともとのパートナーとの婚姻届も同性婚であるとして不受理になってしまう。

 パートナーとの間に「結婚」という法的保障がない生活か、女性でありながら戸籍上男性として生きていかなければならない生活か。ラキさんといくらさんは、ふたつにひとつの選択を強いられることになったのである。

 2015年、七夕。結婚1周年を迎えるその日に、ラキさんといくらさんは再度、戸籍上も女性同士として婚姻届を再提出する予定だ。不受理になる見込みだが、それでも意思表示として意義深いことであり、また不受理届をもって裁判を起こすことも可能になる。

 どのようにその決意にいたったのか、そして、日本の婚姻制度・性同一性障害特例法をいったいどうしていくべきか。本稿では日本のあるべき制度について、おふたりのお話を通して考えていきたい。

 

「ラブラブ離婚」の背景とは? ラキさんといくらさんへのインタビュー

▼Q.自己紹介をお願いいたします。

 いくら:いくらと申します。端的に言えば「レズビアン」。戸籍性→女性。性的指向→女性に向くことが多いです。 

 ラキ:ラキと申します。現状を端的に言えば「レズビアンで元男子」ということになります。物心ついたときから自身の性別に違和感があり、女性として生きたいと思っていました。性同一性障害のMtF、今は女性として生活しています。

1月下旬に戸籍の性別の取り扱いの変更を家庭裁判所に申し立てました。(*3月上旬に性別変更予定。)昨年7月7日に戸籍上女性のパートナーいくらと結婚し、今年1月中旬に離婚しました。

 

▼Q.婚姻届提出に至るまでのお話をお聞かせください。

 ラキ:パートナーとは初めから、私が性別適合手術を受けて戸籍も女性に変更することを希望していることを知った上で付き合い始めました。現在の日本では同性婚が認められていません。私が性別を女性に変更するとパートナーとは戸籍上同性になるので結婚できません。

 しかし、あることを思いつきます。私たちは女性同士に見えても、(戸籍上は男女である)今なら二人は難なく結婚できるよね、と。そこで婚姻届けを千代田区役所に提出し、無事に受理されました。

 

▼Q.婚姻届提出に際し、行政や各種窓口の対応はいかがでしたか?

 ラキ:婚姻届の提出は女性の姿で行きましたが、窓口の対応はさすが都会というか、笑顔で「おめでとうございます」と祝っていただけました。身分証明書で本人確認を済ませ、特に性別に関しては口頭では触れられませんでした。

 

▼Q.婚姻届をご提出された前と後で、変わったことはありましたか?

 ラキ:お互いの親や親戚に挨拶にいくなど、ああ結婚したんだなとあとから実感しました。すでにカムアウトしていた勤務先の会社からも祝っていただいて、性別移行・同性婚いずれも偏見もなく受け入れていただけたのでホッとしました。お互いの親にも二人の気持ちを伝えて、納得してくれたようです。

 

▼Q.ラキさんの場合、「戸籍上は男性/性自認は女性」という状態での生活に、どんなご不便がありましたか?

 ラキ:初めはぎこちなかったメイクや女性の格好にも、だんだん慣れてきます。そうすると、数年前に撮った免許証の写真や保険証の性別と現在の容姿が大きく異なり、本人確認をする際に支障がでます。何度も本人だと説明しているのですが、なかなか納得していただけないこともあります。 

また、性別移行後に必要となる女性ホルモン補充療法についても、戸籍が男性のままだと保険がまったく効かない上、婦人科を受診しにくい、場合によっては受診自体を拒否されるといった問題もあります。

 

▼Q.そういったご不便がありながら、戸籍の性別を変えるには離婚せねばならないということについて、お二人の間でどのようなお話合いがありましたか?

 いくら:私はラキさんの人生の選択については口出しする権利は持っていません。なので、離婚して戸籍性を変更するかどうかについては「今後ラキさんの生きやすい選択をして」としか言いませんでした。

自身は戸籍上に離婚歴が付いても何も問題は無く、二人のパートナーシップも変わらないと思い、離婚届けを書きました。

 

▼Q.お話合いの結果、離婚届の提出→戸籍上の性別変更→婚姻届の再提出、という道をお選びになったとのことですが、何が決め手でしたか。

 ラキ:私たち二人は同性カップルですが、やや特殊な事例かも知れません。そういった例も含めて同性カップルも結婚したいんだということを広く知っていただくことで、日本でも同性婚の議論が活発になったり、性同一性障害特例法の要件の見直しに繋がるきっかけになれば良いなと。そういった動きに少しでも影響をおよぼせるのならば、目先の(異性としての)婚姻関係の維持よりも、より価値がある選択だろうと。

もちろん一度は離婚しないといけないのは悔しいですよ。いつ「再婚」できるのかも分からないです。形式上のこととはいえ泣きました。

 

▼Q.おふたりに協力したい読者に、何かできることはありますか?

 ラキ:渋谷区の条例案でいま少し話題にはなりつつありますが、まだまだ日本では同性婚が出来ないということを知らない方もいます。偏見を持つ方もいます。いきなりは難しいことかも知れませんが、同性婚について家族や友人、年配のご家族ともドンドン話して、少し多くの人に、同性婚を望む人たちが居ることを知り、意識してもらえたら嬉しいです。

 いくら:「結婚」「性別」「障害」といったことについて、一度じっくり考えてもらいたいです。

生まれ持った身体的性別と性自認が違うことは障害ではない。しかし性自認と身体性が異なることによって社会生活に困難が生じる。その困難こそが「障害」である、ということ。これは伝えておきたいです。

 

Shibuya_Crossing_5 via photopin (license)

 

“法律に離婚させられる”ことは、“法律だから仕方がない”のか?

 いわば“法律に離婚させられた”ともいえるふたり。「法律だから仕方がない」と思う向きもあるかもしれないが、しかし日本の現行法には問題点も多い。たとえば、性同一性障害特例法が当事者に生殖腺切除手術を強いていることについては、2014年、WHOはじめ国連機関から「人権侵害である」との指摘がなされている(WHO公式サイト上の原文:http://www.who.int/reproductivehealth/publications/gender_rights/eliminating-forced-sterilization/en/)。

 「私の身体、私の選択」――LGBTフレンドリーで有名な“パリの新宿二丁目”、マレ地区の路上に刻まれた言葉だ。現にアメリカ・フランス・アルゼンチンなど、性別移行を「障害」でなく「個人の権利」として定めている国も少なくない。

 また、同特例法が「現に婚姻していない」者のみに性別変更を認めているのは、婚姻成立後の男女カップルのいずれか一方が性別変更したことで同性婚状態になるのを防ぐためだが、そもそもなぜ同性婚状態になってはいけないのか、という点も検討が必要だ。ちょうど渋谷区の同性パートナーシップ証明書条例案を機に、現代日本では、同性婚をめぐる憲法解釈にまつわる議論が高まっている。

  

ここでも議論される「解釈」。憲法に反するのは「同性婚」か、「同性婚を認めないこと」か?

 日本国憲法に反するのは、同性婚か、むしろ同性婚を認めない不平等か――。一見正反対に見えるふたつの解釈だが、現状では「どちらの読みもある」という状態だ。なぜなら日本国憲法が作られた当時、そもそも「同性婚」はおろか「異性婚」という概念すら存在していなかったからである。

 まず争点となるのは、「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立」すると定める憲法24条第1項の解釈だ。2014年6月には、青森市役所が、女性同士の婚姻届に対して憲法24条1項を根拠に不受理証明書を発行した。また2015年2月の参議院本会議では、安倍晋三首相が「現行憲法では(同性婚は)想定されていない」との答弁を行った。

 しかしながらこれを受けて、有志法律実務家は報道機関各社に下記のような要請文を提出している。

 

同性婚と憲法24条の解釈に関する報道について【要請】
LGBT支援法律家ネットワーク有志
 
①「憲法24条1項により、日本では同性婚が認められない」との誤った憲法解釈を安易に報道することのないよう、強く要請します。
②憲法24条1項が「両性の合意」という文言を用いているのは、人々を「家制度」から解放し、男女平等の思想を宣言するという趣旨であり、同性婚を排除するものではありません。
http://www.2chopo.com/article/detail?id=1120より一部を引用)

 

 

 日本での同性婚法制化に尽力するNPO法人EMA日本によれば、むしろ日本の法制度上で同性結婚を認めないことこそが、日本国憲法の以下の条項に違反しているという見方もできるという。

 

・第13条「幸福追求権」
・第14条1項「性別に基づく差別の禁止」「法の下の平等」
・第24条2項の「個人の尊厳」
 
 

 果たして、どちらの解釈をとるべきか。歴史上、日本において、同性結婚ができないことについての違憲審査請求が行われた例はまだない。そもそも婚姻届を出すこと自体を諦めている同性カップルや、同性の婚姻届不受理証明書を根拠に裁判が起こせるということを知らない者も少なくない。筆者自身も、フランスの法律で同性と結婚した当時、婚姻届不受理証明書の請求に思い至らず、在仏日本大使館の窓口で婚姻届を受け取り拒否されてしまった。

 

先を行く台湾

 隣の台湾では2012年12月、男性同士のカップルが婚姻届不受理を受けて行政訴訟を起こした。また同国では2014年にも、20組以上の同性カップルが同時に婚姻届を提出して不受理となり、憲法解釈請求が検討されている。

 奇しくもこの、台湾で20組以上の同性カップルが婚姻届を提出した日は、同国で「愛し合うものたちの日」とされる旧暦の七夕であった。 

 ラキさんといくらさんもまた、ふたりの結婚記念日である七夕に、婚姻届を再提出の予定だ。その上で、あくまで検討中ではあるが、違憲審査請求も視野に入れている。

 果たして今年の七夕、日本の行政はふたりにどんな結論を出すのか――今後の動向が注目されるところである。繰り返すが本稿で指摘したのは、他ならぬ現代日本の社会制度の問題点だ。ラキさんといくらさんが離婚を強いられたのは「LGBTの世界のこと」ではなく「東京都千代田区で起きたこと」――ひいては、ほかならぬ現代日本で起きたことなのである。

 同性婚法制化や性同一性障害特例法をめぐっては、どこか“そっち系の人たちのこと”という他人事目線の言説も少なくない。だが、他人事で論じていては成熟した議論は望めない。読者諸賢にはどうか、現代日本の問題として考えて欲しい。一度は結婚していたおふたりに、日本の現行法が離婚を強いたのだという現実を。

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ライターの紹介

牧村朝子

牧村朝子

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一九八七年生まれ。タレント、レズビアンライフサポーター。二〇一〇年、ミス日本ファイナリスト選出をきっかけに、杉本彩が代表を務める芸能事務所「オフィス彩」に所属。日本で出会ったフランス人女性と婚約後、フランスの法律に則って国際同性結婚をし、現在はパリ在住(フランス語勉強中)。レズビアンであることを公表して各種媒体に出演・執筆を行っている。宇宙や深海やオカルトが好きで、日課は幽体離脱の練習(現在成功率0%)。将来の夢は「幸せそうな女の子カップルに"レズビアンって何?"って言われること」

公式サイト:http://yurikure.girlfriend.jp/yrkr/

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