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ジセダイ総研

バングラデシュ、世界最貧国からの脱出へ大きな課題 邦人殺害事件とその背景

田中秀喜
2015年10月08日 更新
バングラデシュ、世界最貧国からの脱出へ大きな課題 邦人殺害事件とその背景

 2015年10月3日午前10時頃、バングラデシュ北部ロングプールで現地在住の日本人・星邦夫さん(66)が何者かに待ち伏せされ、銃で撃たれて亡くなるという痛ましい事件が発生、大きな波紋を呼んでいる。

 この事件の数日前には、バングラデシュの首都ダッカで、イタリア人男性が同様に銃殺されている。

 両方の事件とも、ISILのバングラデシュ支部を名乗る組織がインターネット上で犯行声明をだしており、様々な憶測を生む事態となっている。

 果たして、ISILの犯行と片付けてよいのだろうか。また、今回の事件を政治的に利用しようという動きバングラデシュ国内で見られる。

 この事件について、現時点で分かっていることについて情報を整理するとともに、その背景を探りたい。

星さん殺害事件のあらまし

ニュースサイト「The Daily Star」 

 現地の情報によると、星さんはロングプールに半年ほど前から住んでいたという。

 バングラデシュへ来たきっかけは、日本に在住していたバングラデシュ人ザカリア・バラ氏と知り合いになったことだという。星さんは、そのザカリア家にホームステイする形で滞在していた。家の近所に2エーカーほどの農地を借り、トウモロコシを栽培していたという。

 生前の星さんは、日々農作業をする傍ら、地域の子供たちに片言のベンガル語で語りかけたり、日本語を教えたりしていた。また、近くのモスクに青年たちと一緒にお祈りに行く姿も見られ、地域に溶け込めるように務めていたことが伺われる。地域の人達には、JICAのプロジェクトで農業指導にきていると誤認されていたようでもある。

 ベンガル語紙『プロトム・アロ』によると、事件の日、星さんはいつものように自身の畑へリキシャ(自転車型の三輪タクシー)に乗って向かっていた。そこに、覆面をかぶった男2名が行く手をふさぐ形で現れ、銃弾を浴びせた。もう一人の男がその近くにバイクに乗って待機していて、3人ともバイクに乗って現場から逃走した。

 現在、警察によって現在身柄を拘束されているのは4人。

 ホストファミリーだったザカリア、リキシャタクシーの運転手、殺人現場近くの家の人、ザカリアの親戚で星さんの仕事の手伝いをしていたヒラという男である。

 この他、ザカリアにはあと2人兄弟がいて、いずれも日本に出稼ぎに行っていたことがあり、その2人は日本にいるという話である。

 この事件の犯人について、現在のところ、以下の3つの可能性があると考えられる。

1)ISIL

2)政権の転覆を目論む国内の反政府勢力

3)ただの個人的怨恨

 

 

イタリア人銃殺事件との相違点

 両方の事件とも、待ち伏せして銃撃、バイクで逃走するという手口は共通している。

 一方で、 イタリア人殺害事件はダッカ市内のグルシャン地区、もっとも外国人が居留する地域で起きた。犯人はそのイタリア人を狙ったのではなく、たまたま通りかかった外国人を殺害、逃走したということもありうる。

 これに対し、今回の事件は農村地帯での出来事である。外国人などめったにいない。

 被害者は待ち伏せを受けていた。犯人グループの中に土地勘のある人間がいない限り、実行に及ぶのはほぼ不可能と言っていい。犯人は被害者を狙っていて、彼がどこに住んでいて、毎日いつどこに行っていたか知っていた。 

 もう一つ重要なポイントは、バングラデシュの農村は大家族制で、地域の人間全てが顔見知りであるということだ。

 ある外国人をターゲットにするために、よそから来た人間が情報を集めようとしていたら、その人間が不審者としてすぐに浮かび上がってくるだろう。

 よって、犯人は地元の人間か、地元の人間による情報提供をうけられる環境にある必要がある。

 つまり、この両事件の実行犯は同一の人間でない可能性が高いのだ。

 また、使用された銃器についても考慮が必要だろう。イタリア人男性殺害事件は、英字新聞デイリースターによると32口径の銃弾だった。日本人殺害事件の銃弾と一致するかどうか、そこも確認が必要である。

 

ISILの犯行声明

 イタリア人、日本人と連続で起きた銃殺事件に対し、過激派組織ISILが犯行声明を出している。この点についても検証ておきたい。

 ISILは両事件に対し、インターネット上で犯行声明を出している。

 これに対し、バングラデシュのシェイクハシナ首相は10月4日に行われた記者会見で、「イスラーム国の分子はバングラデシュ国内にいない」とする一方で、国内の野党グループの犯行を示唆する声明を発表した。

 しかし、これには疑問がある。バングラデシュ国内にISILの活動分子が存在する可能性は十分にある。

 過去にYouTubeに掲載されていたISIL戦闘員の勧誘ビデオの中で、リクルーターが「バングラデシュからの参加者がいる」と明言していたのだ。

 一方、バングラデシュ国内でISILの勧誘員が逮捕される事件は過去、今年5月末と、この事件が起きてから(10月3日The Daily star)で発生している。

 http://www.thedailystar.net/city/islamic-state-member%E2%80%99-held-dhaka-90277

 http://www.thedailystar.net/country/4-held-over-link%E2%80%99-mymensingh-151273

 

 現時点で実際に犯行を起こしたのか、事件に乗じて声明を出したのかは不明であるが、ISILに影響を受けた活動分子が行動を起こした可能性はありえる。

 

事件の政局利用を図る現政権

 先述したように、シェイクハシナ首相は国内の反政府野党グループの犯行の可能性を示唆している。

 野党グループの中でもとくに、ジャマティイスラムはイスラム主義政党であり、過去においてパキスタンからの分離独立の際には独立に反対し、現政権党と対立していた過去がある。

 その当時の政治活動に対し、現政権は今頃になって戦争犯罪人裁判という形でジャマティイスラム主要幹部を軒並み逮捕、処刑している。その意趣返しとして、彼らの中の急進的一派が動いた可能性はあるのだ。

 とくに、北部貧困地域はイスラム教を深く信仰する人たちも多く、ジャマティイスラムの選挙基盤ともなっている。ロングプールもその地域に含まれる。だが、通常のイスラム教徒は来訪者をもてなすのが徳目とされている。

 あまつさえ、強烈な親日感情をもつバングラデシュ人が、わざわざ外国人の中でも日本人を狙うという点が理解できない。

 ゆえに、今回の星さん殺害事件については、ただの個人的トラブルの可能性も捨てきれない。出稼ぎベンガル人に連れてこられた日本人が、金銭面でもめるのは、とてもよくある話だ。

 この点については、拘束されているザカリア氏およびその他の兄弟の供述を待つ必要があるだろう。

 

蔓延しつつある銃犯罪と銃器の地下流通

 今回の星さん殺害事件、そしてそれに先立つイタリア人殺害事件については、もうひとつ論点がある。それは、銃を使った事件、という事件の性質についてだ。

 過去、バングラデシュ国内において外国人が銃殺された事件は、2012年に起きたサウジアラビア大使館員が最初で、これで3件目である。

 もともとバングラデシュでは、犯罪に銃が使われるケースはごくすくなかった。

 しかし、在バングラデシュ日本大使館の発表する犯罪マップによると、近年、強盗目的や政治がらみの抗争で拳銃が使われるケースが一般化してきていることがわかる。

 http://www.bd.emb-japan.go.jp/jp/safety/aprcrimemap.pdf

 バングラデシュにおいては警察の許可ないかぎり、拳銃その他の武器の所有はできないことになっている。しかし、マフィアが拳銃その他の武器を地下マーケットに流通させているという話は枚挙にいとまがない。

 マフィアは政治家と結託し、警察その他の治安維持組織にお目こぼしの便宜を計ってもらう代わりに賄賂を収める。政治家はマフィアからの政治資金を受け取ることができるという仕組みだ。

 この仕組みについては、以前ナラヨンゴンジ殺人事件でとりあげたことがある。

 http://kinbricksnow.com/archives/51899559.html

 政治家は末端になればなるほど、金に汚く、思想はない。

 マフィアは金になる相手であれば誰にでも武器を売るだろう。

 マフィアが流通させている武器が、今回の犯罪グループに利用されている可能性は充分考えられるだろう。

 

事件を政局化する与党

星さんはモスクで村人たちと共に礼拝していた。日本人でここまでする人なかなかいない。

 いままでバングラデシュは、流布しているイメージに相反して、外国人居住者にとって夜一人で出歩いても安全な国だった。今回の2件の事件により、それは大きく覆されることになった。

 バングラデシュ政府には、早急な事実の解明、犯人の逮捕が求められている。

 しかし、首相の発言は、星さんの事件を政局絡みで捉え、野党追い落としのために利用しようとする意図が透けて見える。

 ゆえに、逮捕者が出たとしてもそれが冤罪であるということもありえる。また、銃絡みの犯罪が蔓延しつつあることは、そもそも現政権に責任がある。

 犯罪組織や地下マーケットの摘発、治安維持組織の綱紀粛正などを行い、外国人はもちろんのこと一般国民に対する安全の提供を行えなければ、経済活動は大きく萎縮するだろう。

 ひいては、せっかく離陸しかけた世界最貧国から中等国への経済発展が失敗する可能性もありうる。

 事件を本当の意味で解決することができるのか、銃犯罪を押さえ込むことができるのか……被害者と同じ日本人であるからというだけでなく、国際社会の一員として、バングラデシュの現政権を注視していく必要があるだろう。 

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ライターの紹介

田中秀喜

田中秀喜

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1975年福岡県生まれ。メーカー勤務、青年海外協力隊、JICA専門家を経てバングラデシュでコンサル業を起業。チャイナプラスワンとして注目されながらも、その情報の少なさから敬遠されがちなバングラデシュの情報源となるべく奮闘中。現在、ダッカ在住。

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ジセダイ総研 研究員

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