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ジセダイ総研

中国版「テロとの戦い」、ウイグル問題は日本にも影響を及ぼす

高口康太
2014年07月01日 更新
中国版「テロとの戦い」、ウイグル問題は日本にも影響を及ぼす

 中国の民族問題といえば、チベット問題を想起する読者も多いだろう。しかし近年では、ウイグル人を巡る民族問題も緊張を高めている。相次ぐウイグル人による事件を受け、中国は全国的な「対テロ戦争」を宣言した。しかし戦うべき敵はもともと存在しなかった。武断的な支配によって中国が自ら生み出してしまったものでしかない。民族や階級、地域といった境界線を強化し「内なる敵」を生み出してしまった隣国の失敗を日本は繰り返してはならない。

 10年以上にわたり「テロとの戦い」を続けるアメリカ。しかし、いまだにその泥沼から抜け出せずにいる。
 そして今、中国も国内の少数民族ウイグル人との「テロとの戦い」にのめりこもうとしている。
 ただし、両国には大きな違いがある。海外の脅威と向き合う米国とは違い、中国はその武断的統治により国内に「テロリスト」を作り上げてしまったのだ。

 中国を覆うウイグル人への恐怖とは何か? その背景とは? 日本に対する影響とは?
 これらの問題について考えて行きたい。

 

中国を覆うテロの恐怖

 多民族国家・中国には漢民族以外にも政府に認定された55の少数民族が存在する。
 その一つがウイグル人だ。

 ウイグル人の人口は約1000万人。その大半が中国西部の新疆ウイグル自治区に居住している。
 ウイグルの名を冠する同区だが、総人口約2200万人のうちウイグル人は40%あまりを占めるに過ぎない。入植が進む漢民族と人口ではほぼ拮抗している。

 中国の民族問題というと、チベット問題が取り上げられることが多かったが、昨年からウイグル問題が緊迫化している。主要な事件だけでも以下のとおり続発している。
 
 2013年10月28日、天安門車両突入事件。ウイグル人3人を乗せた車が天安門前に突入、炎上。容疑者を含め5人が死亡した。
 2014年3月1日、昆明駅暴力テロ事件。ウイグル人5人が刃物で通行人を殺傷、29人が死亡。
 2014年4月30日、ウルムチ駅自爆事件。容疑者2人を含む3人が死亡。
 2014年5月22日、ウルムチ市朝市自爆事件。容疑者4人を含む43人が死亡。
 2014年6月20日、ホータン地区検問所放火事件。警官5人が死亡。
 2014年6月22日、カシュガル地区警察ビル車両突入自爆事件。容疑者13人が射殺された。
 
 他にも派出所襲撃事件、デモと警官隊の発砲など情勢緊迫を伝えるニュースは枚挙に暇がない。いつ市民を巻き込むテロが起きても不思議ではない。そうした恐怖が中国社会に広がっている。

 2014年、カシュガル市内にて。人民解放軍戦車のおもちゃに乗って遊ぶウイグル人の子ども(撮影:安田峰俊)2014年、カシュガル市内にて。人民解放軍戦車のおもちゃに乗って遊ぶウイグル人の子ども(撮影:安田峰俊)

 

暴力を生み出す背景にあるのは、経済的・文化的格差

 では、これらの暴力事件はどのような背景を持っているのか。
 中国政府は海外勢力の指図を受けた「テロリスト、独立主義勢力、イスラム原理主義勢力」の犯行だと断定している。アメリカと同じく中国も国際的テロ戦争を戦っている。米国と中国は同じ立場にあるのだという主張である。
 
 ただしその根拠はきわめて薄弱だ。「テロ」の組織者としてたびたび名前があげられるETIM(東トルキスタンイスラム運動)だが、中国当局の発表以外ではほとんど活動実態がない。
 容疑者がコーランを持っていた、独立運動の旗が現場から見つかったなどの証拠だけでは信じることは難しい。
 
 組織的な動きではなく、格差や貧困を背景にした行動ではないかと見る人も多い。
 エネルギー資源開発を中心に新疆ウイグル自治区には多額の投資が行われている。しかし大手企業の社員になったり、会社を興して関連プロジェクトの受注に成功したりと発展の果実にありつけるのは漢民族がほとんどだ。
 
 治安維持も新疆ウイグル自治区では巨大産業だが、ここでも民族格差が顔をのぞかせる。ウイグル人は採用されたとしても協警と呼ばれる補助警官にとどまることが多い。街頭を警備する警官を見ても銃を持っているのは漢民族だけ。ウイグル人警官は警棒だけということすらある。
 
 経済的な格差に加えて、文化的な弾圧も大きな影響を持っている。例えば女性のベールだ。アクス地区クチャ県では5月20日、ベールを取らなかった女子学生が逮捕され、数百人のウイグル人女性が政府庁舎に詰めかけて抗議するという事件も起きている。
 
 他にもモスクの使用が突然禁止された、昔からの墓地が開発のために移転を余儀なくされたなどの問題がウイグル人たちの不満を招いたと報じられている。

 

ウイグル人難民と、原理主義勢力の合流はあるか?

 皮肉なことに、経済的、文化的な問題がウイグル問題を思想的なものに変える可能性も指摘されている。
 香港誌・鳳凰週刊は新疆ウイグル自治区南部ではコーラン学校を通じて、海外のイスラム原理主義の思想が流入しつつあると報じている。現状の苦しみを抜け出すため、信仰に回帰するなか海外から伝わった教えを取り込もうとする「保守化」の動きが見られる、と。もし今までの事件が組織的な背景がなかったとしても、今後もその状態が続くかは未知数だ。
 
 また先日、ウイグル人の大量亡命が注目を集めた。陸路で東南アジアに抜け、偽造パスポートを使って他地域に移動するルートで最低でも数百人単位のウイグル人が亡命しているとみられる。トルコやパキスタンが最終目的地だというが、「保守化」の潮流を考えれば、ウイグル人難民の一部が海外の原理主義勢力に合流する可能性は十分に考えられる。
 
「米国と同じ国際的テロ戦争を戦っている」と主張してきた中国。ウイグルの人々の苦しみが続く中、その言葉通りの状況が生み出されようとしているのだろうか。

 

「ウイグル人は優遇されている」逆差別との不満広がる

 この状況を中国共産党はどう解決しようとしているのか?その対策は「アメとムチ」で言い表せるだろう。
 
 まずは「ムチ」について。新疆ウイグル自治区当局は5月23日、1年間のテロ活動厳打(厳格な取り締まり)キャンペーンを開始。大量の警察力を動員しての大量摘発を行っている。ターゲットは原理主義勢力の関係者、ネットで抵抗を呼びかける動画を流したもの、かつてテロに関する軽微な犯罪を起こし悔い改めていない者だという。

 中国当局はETIMなど独立派、原理主義勢力が制作した扇動動画がネットや記憶媒体を通じて流通していると主張している。6月23日時点で32グループを摘発、380人を拘束したと発表されている。その多くは逮捕後間もなく有罪判決を出されるという異常事態だ。
 
 また中国国有英字メディアのグローバル・タイムズは「ベールをつけている女性は原理主義勢力の影響を受けている」と明言。他にもウイグル族の村書記が信仰を捨てなかったという理由で党籍を剥奪されるなどの厳罰が科されている。共産党員の信仰は禁じられているとはいえ、有名無実化しているのが現状。一罰百戒を狙った脅しと言える。
 
 一方で「アメ」も用意されている。5月28日、29日に北京市で開催された第2回中国共産党中央新疆工作座談会では大々的な支援が打ち出された。学費の無償化、企業の新疆ウイグル自治区への進出とウイグル人従業員の雇用奨励。貧困層や遊牧への給付金拡大。インフラ整備の拡充などが列挙された。

 2014年、カシュガル市内のバザール。(撮影:安田峰俊)2014年、カシュガル市内のバザール。(撮影:安田峰俊)

 

実現困難な中国のシナリオ

 警察力で当面の事件を押さえ込みつつ経済支援によって不満を解消、統治を安定させる。それが中国政府の描くシナリオだろうが実現は難しい。
 
 第一にウイグル人の不満の多くは中国全体の悩みだからだ。格差の拡大、権力者とつながりがすべてを決めるコネ社会、思想的な自由の抑圧。これは中国全土に共通している問題だ。新疆だけがその問題を解消することは不可能だろう。
 
 第二に漢民族による嫉妬という新たな問題も浮上している。まじめに働きもしないで文句ばかり言って多額の補助金をむしりとっている、優遇政策を受けられて不公平だ、警察も民族衝突を恐れてウイグル人を取り締まらない……。そうした不満が広がっている。庶民レベルだけではなく、中国政府のブレーンや官僚の間でも少数民族の優遇や独自の文化の保護を廃止する第二世代民族政策の導入を唱える声があがっている。
 
 一時的な封じ込めはできたとしても、武断的な対応がさらなる不満を呼び、より大きな爆発へとつながる。こうした悲観的なシナリオが現実になる可能性のほうが大きいだろう。
 
 アメリカの後を追って「テロとの戦い」を宣言した中国政府。当時、敵となるテロリストが本当に存在したのかは疑問だったが、その後の武断的な支配によって実際に敵を作り上げてしまったかのように見える。こうなってしまってはもはや特効薬はなく、どれほど困難であっても個人の権利が守られ民族文化が尊重される真っ当な社会作りにチャレンジするしか解決策はないだろう。

 「内なる敵」を作り出してしまった中国の失敗、それは日本にとっても無関係ではない。民族、階層、地域……人々を分断する境界線が強化され「内なる敵」という認識が広まれば、対立を解消することはきわめて困難だ。外国人労働者の受け入れ、雇用の流動化、地方の疲弊など時代の転換期にある日本にも落とし穴は用意されている。隣国が犯した失敗を繰り返さない智慧が私たちには求められている。

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ライターの紹介

高口康太

高口康太

翻訳家、フリージャーナリスト 1976年、千葉県生まれ。千葉大学博士課程単位取得退学。独自の切り口で中国と新興国を読むニュースサイト「KINBRICKSNOW」を運営。豊富な中国経験と語学力を生かし、中国の内在的論理を把握した上で展開する中国論で高い評価を得ている。

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ジセダイ総研 研究員

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