U-25初のアーティストの登場です。写真家の奥山由之さん。現役の大学生でありながら、若干20歳で写真家の登竜門、「写真新世紀」の優秀賞を受賞。ファッション写真をホームグラウンドとして、広告や雑誌、CDジャケット、また映画の監督など、その活動は多岐に渡っています。
取材 柿内芳文・今井雄紀 構成 今井雄紀 撮影 尾鷲陽介
柿内 では、インタビューを始めます。堅苦しくなく、思った通りに答えていただければと思います。インタビュー写真のほうも、私たちと話している風景を撮らせていただきますので……。
奥山 写真撮られるの、久々だなぁ..….。いつも撮る側なので、ヘンな気持ちになってしまいますね。あと僕、話すのが下手で、いつもなんかこう質問に答えていない感じになるので、気になったら途中で止めてください。
今井 ははは。ではまず、奥山さんの近況から聞かせてください。つい先日まで、ロックバンド「くるり」のツアーに帯同して、ずっと写真を撮られていたんですよね?
奥山 そうですね。20公演ぐらいの全国ツアーに、1ヶ月間ずっと帯同させてもらいました。そこで撮った写真を、9月に発売される彼らのアルバム『坩堝の電圧(るつぼのぼるつ)』のジャケットと、限定版同封の写真集に使ってもらっています。それが、一番最近のお仕事ですね。
今井 アルバムのジャッケットになっちゃったんですね! 現役の大学生でありながら、既に一線級の方と仕事されていること、単純にすごいと思います。写真はいつから?
奥山 3年ぐらい前からですね。大学に入ったタイミングではじめました。ただ、ちゃんとお仕事としてお話を頂くようになったのは、ここ1年ぐらいです。New Balanceの広告だったり『TRANSIT』という雑誌での撮影をし始めたがその頃で。
今井 結果出すの早っ! 今回、帯同したということは、毎回のライブに東京から行くんじゃなくて、ずっと、寝食も一緒だったってことですか?
奥山 そうですね。何かの裏側が好きなんです。ドキュメンタリー番組とか。映画のDVDを見ても、メイキングの方がおもしろいと思うぐらい。
今井 わかります。
奥山 そこに本質がある気がします。ファッションショーとかも、半年以上考えたコンセプトをたった15分で発表するわけじゃないですか。ショーの中にも当然美しさはあるんですけど、本当の情熱はどこに見えるかというと、準備の半年間だなって。だからそそこの部分を撮りたいというのは、すごくありますね。完成したものの美しさよりも、そこまでの暑苦しさのほうが、よっぽど伝わってくるものがある気がしていて、そういうお仕事は積極的にやらせて頂くようにしています。
今井 そんななか、これまでにないぐらい密着したのがくるりだったわけですね。
奥山 そうですね。
今井 今回みたいに、ずっと誰かと一緒にいると、いい写真の撮れそうなタイミングがわかるようになったりするんですか?
奥山 徐々にですけど、分かってきますね。やっぱり長い時間一緒にいると、ああなんか面白いことが起こりそうだなっていうのが、自然に雰囲気で感じとれる気がしてきて。その感覚の変化がすごく面白い。今回のツアー帯同の場合も、後半になってくると、自分で何も考えずとも、みんながいい表情になるタイミングにカメラを向けている事も多くなってきて……。ただ、写真を撮ろうという意識よりも、純粋に自分自身が同じように楽しんでいる、という事が大事なんだと思います。そうすると自然とシャッターを押してる。結果、撮り過ぎて予算オーバーになることも多々ありますけど……。(笑)
今井 ということは、後半に撮った写真の方が出来がよかったり?
奥山 割とそうですね。後半は、メンバーの皆さんとも距離が縮まってきたという事もありますし。結局写真って、撮る人と撮られる人の関係性が、映像以上に滲み出ている気がするんですよ。全然ごまかせない。ふと心が通った時や、予定調和が崩れた時に、いい写真が撮れますね。だから、いかにカメラを意識させないか、というのが大事なことだと思います。僕が写真を撮っているという状況が彼らにとって当たり前になるような場を作っていくっていうのが、すごく重要です。今制作しているファッションの写真集も、あるブランドを2年近く追っていて。各シーズンのコンセプト作りから、フィッティング、ショー当日の裏側まで、「服ができるまでの過程」を、僕自身の視点で、色んな手法を使って撮っています。今のファッションフォトに顕著に表れている事ですが、撮られるというのがわかっていて撮られるのは、”写真”として見た時に、すごく不自然なことだと思います。被写体となるモデルさんから「撮られている」という意識をいかに取り除くか。集中を他に持って行くこと。それが”画像”を”写真”に近づける大きなポイントだと思います。
柿内 こんなカメラがあったらいいなっていうのはありますか?
奥山 それはもう眼ですね。眼がカメラだったら最高です。強くまばたきしたらシャッター切れる、みたいな。(笑)
柿内 いずれなりませんかね? 眼自体じゃないにしろ。
奥山 いつか作って欲しいですよね。そしたら、撮られる側はカメラを意識しなくていいですし。
今井 欲しいですね。やっぱりカメラって一種の攻撃性、を持っているじゃないですか。こう覗かれている感じとか。その辺り、気になりますか?
奥山 そうなんですよね。それもあって、最近では”写ルンです。”というインスタントカメラをよく使っています。あれだとみんな構えずに写ってくれるので。
今井 構えさせずに写真を撮るという感覚、プライベートで撮る写真とか、今回のツアーの裏側みたいな感じだとすごいわかるんですけど、ファッション誌の写真みたいに、スタジオ撮影で、メイクも照明もばっちりみたいな場合だと難しくないですか?
奥山 そういう撮影でもやりようはあるかなと思っています。ファッション誌の様に、ある程度決まった位置で撮らないといけないものでも、モデルさんの意識をカメラだけに集中させないように、何か他のことをしてもらったりして。簡単なことですが、誰かと会話してもらうとか。前やって面白かったのが、フリスビーをしてもらって、飛んで来るのを待ってる瞬間の表情を撮る、とか。意識的に無意識を作り出す。そんな感じです。最近のファッション誌って、どんどんとスタジオワークが多くなってきていて、見易いけれども、何だかどれも似ている印象ですよね。キレイなモデルさんがポーズとってるとか、服のディテールがよく見えるとか、適正な明るさの照明とか、高い解像度とか、カメラ目線とか、そんな事は見ている側からしたらどうでもいいと言うか。もっと”ファッション”を伝える方法は沢山あるんじゃないかな、って。そんなんだったらマネキンが着ている写真でも、伝わる要素はあまり変わらないと思うんですよ。
今井 確かに。
奥山 この間やったあるブランドの撮影なのですが、マネキンにそのブランドの服を着せて、モデルさんには量販店で買ってきた、シンプルで黒い服を着てもらったんです。それでそのマネキンの周りでド派手なポーズを色々とってもらって...。風とかびゅんびゅん浴びながら。「私を見て!」と言わんばかりの感じで。
柿内 めっちゃパンクじゃないですか(笑)
奥山 その写真で言いたかったのは、結局ブランドのコンセプトや服の美しさを伝える、という事において、モデルさんが着ることと、マネキンが着ることとでは、果たしてどれくらいの違いがあるのでしょうか、という事なんです。ただ、別にモデルさんが着てポーズをとって写る事を否定している訳ではなくって、質問、みたいな。問題提起です。
柿内 おもしろい!
今井 代表作である『creep』、『Girl』についても伺いたいのですが、まず作ろうと思ったきっかけはなんだったんですか?
奥山 3/11に大きな地震があったじゃないですか。あの時、地下鉄の駅のホームにいたんですけど、地下だからなのか、揺れをとても強く感じて。それで「あぁ、もう死ぬのかなぁ」とか思って、ホームのイスに座ってみたんですよ。そしたら何だか、今までの色んなことグワーって思い出して。今撮りたいと思うものとか、気持ちとか、そういう何かしらを、この世に残しておかないと!って強く思ったんです。もう今後もいつ死ぬのか分からないし。だから、自分が大学に入ってから抱いた感情とか不安、焦り、揺らぎみたいなものを写真に焼き付けよう、と思ったんです。それで、その時仲の良かった友人を撮りました。
今井 ほんとに地震の直後に撮らなきゃ! と思ったんですね。
奥山 そうですね。実際に撮影したのは5月ぐらいでした。撮っているうちに色んな感情が写ってきて、すごくいいもの作れたなと思って、最初はWebで発表しようと『creep』というタイトルを付けました。これを紙にプリントアウトしてみたら、また違った見え方がして、良かったんです。なのでブックにしてまとめて、また新たな構成を組みました。作品の意味合いも変わったので、タイトルも『Girl』に変えて。ちょうど写真新世紀というコンペの応募時期だったので出品してみたら、審査員のHIROMIXさんが優秀賞に選んで下さって。勿論嬉しさもあったんですけど、なんだかとても救われた気がしました。「この気持ちを分かってくれる人が1人でもいたんだな...」って思えた事が。モヤモヤと浮遊している感情だったり、泥だらけでとてもじゃないけど人には見せられないような個人的な思いを、写真にギューッと押し付けたような、そんな作品だったんです。だからなんかもう、見せるのもおこがましいぐらいのものなんですけど、それをHIROMIXさんは「わかるよ」って思ってくれたんだって。自分の写真家人生のなかで、『creep』、『Girl』というのは本当に転機なんです。この2つがあって、何を撮るときも関係性を感じながら撮るとか、ドキュメントの手法を用いるとか、今の創作の全てのベースがあそこにあると思います。ただ、逆を言えば、あの作品で僕のある部分は表現しきっていると思うので、今は、根本的に新しい発想で写真と向き合いたいな、と考えています。
柿内 感情の塊みたいな作品なんですね。
奥山 今見ると、もう客観視になってしまうんですけど、それでも、あぁいい作品だなって思えるんですよ。自分のことのように思えなくて、なんか人が撮ったようにしか見えないんですけど、何だか”感情”が露骨なくらいに見えるんですよね。
柿内 最初は思いだけで何かやって、それが形になってそれはいいものになるんだけど、そのあと経験とか色々付随していくと、よりその作品のピュアさが明確になってきて、結果壁になりますよね。
奥山 そうなんですよ。この作品の場合は、お金や時間だったり、そういった縛りも何も無かったので、僕とカメラと友人、っていう凄くシンプルな三角形だけで成り立っているんですよね。 なのでどんな撮影も、いかにそういう状況に近づけるか。というのが今の課題になっています。
今井 プロのカメラマンさんが、奥さんを撮ったものとかありますよね。
奥山 そうですね。でもその本ですら、出版に向けての多少の制約はあると思うんですよね。だから僕みたいなただの学生が純粋に撮っている作品っていうのは、強い衝動だけが原動力で...。それがあるうちはいいんですけど、無くなっちゃった時どうなるんだろうって、そういう不安はあります。
柿内 でも大人になったらなったで、また別の感情が出てきて写真が変わるかもしれないですよね。
奥山 そうなんですよ。その変化がまた楽しみでもあります。今後どんな気持ちで写真を撮って行くんだろー、みたいな。
(後編へ続く)
後編では、くるりとの出会い、奥山さんの思う「おもしろい写真」等のトピックについて、語って頂きます。お楽しみに。
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