U-25初のアーティストの登場です。写真家の奥山由之さん。現役の大学生でありながら、若干20歳で写真家の登竜門、「写真新世紀」の優秀賞を受賞。ファッション写真をホームグラウンドとして、広告や雑誌、CDジャケット、また映画の監督など、その活動は多岐に渡っています。
取材 柿内芳文・今井雄紀 構成 今井雄紀 撮影 尾鷲陽介
前編はこちら「注目の写真家奥山由之が目指す、予定調和の先にある写真表現とは──? 【前編】」
柿内 またちょっと話が戻りますが、くるりとのお仕事は、どういうきっかけだったんですか?
奥山 彼らの所属事務所のサイトを見て、「お問い合わせ」みたいなところからメールして..…。そっからですね。
柿内 え? 自分で売り込んだんですか?
奥山 はい。自分のサイトのURLとか送って、見てください、なんか関わらせてくださいって、連絡しました。そしたらマネージャーさんが会ってくださって、しばらく検討して頂いたあと、よかったらツアーに同行してくれないかと言われて……。学生だし時間もあるので、ぜひぜひ!行きます!ってことで(笑)
今井 自分でメールしてっていうのは、同世代としても刺激を受ける話ですね。
柿内 いやホントにね。けっこうそういうところから現実変わったりもするし、やってみないとわからないじゃないですか。反応がないのが普通だとしてもね。
奥山 これ、あんまり偉そうに言いたくないんですけど、今の同世代の人たちって、やる前から無理って思いすぎじゃないかなぁ...…って。まずやれることからやっていこうよと。ヒマなんだし。
柿内 いいっすねえ、それ。ラッキーだったりコネでしょみたいに言ってるだけだと、本質が全部見えなくなっちゃうんですよね。
奥山 ほんとその通りだと思います。若いから凄いとか偉いとか頑張ってるとかまったく思ってないし、もっと言えば今一緒にお仕事してくれている人たちっていうのは別に僕を”大学生だ”っていう意識では見てないと思うんですよ。結果が重要な世界だから、写真が良くなかったらダメだし、この歳でこういうのが撮れるんですよー、とかも全く意識にないし、それぐらいのことは当たり前で、社会人と同じだから。どんな写真でも、見ている人からしたら、それが学生かどうか、というのはどうでもいい事だと思います。だから若いのに凄いねーとかよく言ってもらえるんですけど、全然関係ないよって。
柿内 見る人にとっては歳とか苦労とか関係ないですからね。普通はなかなか文句言って行動しなかったりするじゃないですか。僕も含めてなんですけど。奥山さんが行動できるようになったのって、なんの影響が強いんですか? 周りの環境とか元々の性格とか、いろんな影響があると思うんですけど。
奥山 高校の時に映画を作ってたんですけど、今思うとその経験が大きかったかなと思います。色んな人に協力してもらったり、企業に資金援助をお願いしに行ったりしてたんですけど、最初は自分でも半信半疑だったんですよ。いきなり高校生が来ても誰も相手してくれるわけないって。でも一所懸命やっているうちに、少しずつ色んな人が耳を傾けてくれるようになって...。高校生の時、映画のコンペでグランプリ頂いた時のスピーチでも言ったんですけど、本当に頑張っていれば報われないっていうことは絶対にないし、本当に信じていればできないことは何もないと思うんです。もし頑張ったのに叶わないことがあったなら、それはまだ気づいてない部分で余力を残しているからだと。もっともっとよく状況を見てみるべきだと。そう思うんです。うまくいってる人を妬んだり、自分はダメだよとか、人を羨んでしまうとか、自分もたまにそういう時がありますが、やっぱりそういう時は、本当に願っていなかったりとか、自分の限界まで力を出し切っていない、という事が多いです。他人のせいにしている暇があったら、自分でもがいていく方が、後々学ぶことも多いと思いますし。”頑張れば絶対にできる!”みたいな無駄な暑さが、今の同世代にももっと感じれたら嬉しいな、と思います。――何だか松岡修造みたいになってますね、僕(笑)でも勿論、諦めも肝心だと思います。
柿内 最初に映画から入ったのはすごい良かったかもしれないですね。最初に写真から入っていたらまた違っていたかもしれないし。
奥山 10人から30人をまとめて引っ張っていかないといけないという力に比べれば、自分に対して”お前やれよ”って言って動かすのは、けっこう容易いことだとは思います。
柿内 あとたぶん映画のときに、周りの人がけっこう頑張れば協力してくれたっていうのは大きいんじゃないかと。周りの人を味方だと思えたと思うんですよ。行動できない人は周りのことを敵だと思っちゃうんですよね。味方か味方じゃないかっていう、結果としてどうなるかは別として、最初にそう思えるかどうかっていうのは行動の第一歩に関わってくるんだと思います。
奥山 それは本当に凄くあると思います。映画のときに協力してくれた人たちには、感謝してもしきれないです。何ができるかも分からない僕に付いてきてくれてありがとうって。あと一点、思い切って動ける理由があるとすれば、ある意味で人の予想を裏切りたくなる、自分の性があると思います。子供の頃から、これやっちゃったらどうなんだろう、何が見えるんだろう、って思ってヘンな事をしてしまう、すごい悪いクセがあって...…。今これ(机の上にあるアイスコーヒー)を今井さんにぶっかけるとは誰も思ってないじゃないですか。でも、そうでもしないと予測できない展開とか関係性はなかなか生まれてこなかったりすると思うんです。今、多分今井さんは、奥山はこのままいい感じでインタビューに答え、ありがとうございました!って言って帰っていくんだろうなっていう、ある種の予測があるじゃないですか。その予測の範疇で動いているうちは、自分や周りに対する発見は少ない。今のは悪い例ですけど、だからくるりのお仕事にしても、事務所にメール送ったらどうなるんだろうとか、今ここでカメラのシャッターを押したらどうなるんだろうとか、電車とか乗ってても、向かいの人をいきなり撮ってみたらどうなるんだろうとか、そういうのすごいワクワクするんですよ。そういうドキドキがとにかく好きで、行動の原動力になってるんだと思うんですよね。
柿内 先が見たいんでしょうね。どうなるかわからない先が。
今井 こうするんだろうっていうことのあえて逆をやって、なにが起こるかってことをやっていくとどんどん面白くなるんですよね。
柿内 行動しないと未来は完璧に予想できますからね。
奥山 本当にそうなんですよ。動けば動くほど予測できない未来がどんどん来るから、とにかく動いて動いて、ウワーっ、って驚いて、たまに落胆したりして...、でもまた先が見たいから動いて動いて...、みたいなことの繰り返しですね。
尾鷲 普通のファッション写真が嫌いだっていうのもそういうのがあるかもしれないですね。予定調和を嫌うというか。
奥山 そう、まさにそれを言いたかったです!今ここで見えているものに、普通にカメラを向けてシャッター切るだけでは、予測の範疇のものしか写らない。でも、何か突拍子もないことをモデルさんにしてもらったり、普通では使わないカメラを使ったりすることで、想像もしていなかった瞬間が切り取れるかもしれないですよね。フィルムを使うのもそれが要因で、すぐに見れるのではつまらないし、デジタルだと、現場でどんどんと修正ができてしまうじゃないですか。現像しないと見れないスリルやロマンはフィルムでしか味わえないので、だからもう最近では”写真”が好き、というよりは”フィルム”が好き、になってきています。
尾鷲 写真はそういうのに入り込みやすいですよね。イラストとかに比べたら、偶然こうなっちゃったっていうのが多い。
奥山 たしかに! そうですね。
尾鷲 じゃあみんな写真やればいいんだ、これ読んだ人。
奥山 そういうオチにしておいてください(笑)
柿内 でも本当にそうじゃないですか。絵だったら自分の描ける理想との違いはあると思いますけど。
尾鷲 間違えたらやり直せるけど、写真はやり直せないですからね。
奥山 いやあ、やっぱり予測できないことを見られる、写真はこれがいいですよ。とくにフィルム写真はいいです。だからこそフィルムに事前に加工しておいて感光させるとかマジックペンで文字を書いておくとか、そういうアナログな実験をたくさんしてみたくなる。でも、僕一回フィルムを暗いところで全部出してグッシャグシャにして、それでもう一回巻き直してカメラに入れてみたら、カメラ、見事に壊れました...。
尾鷲 ははは、いい話ですね。
柿内 どうにかなんじゃねえのかなっていう。
奥山 それも予測できなかったですね。実験は失敗がつきものです(笑)
柿内 でも言われてみたら、携帯の写真とかって何枚でもタダで撮れるから、「そんなんやってもしょうがないじゃん!」っていう人たまにいますよね。この間寿司屋に行ったら隣の奴が一貫ごとに写真撮りやがって。そんなんいいから...…はよ食えよと!
尾鷲 腹立つなあそれ。
柿内 腹が立つと同時に、その撮ってる姿を写真に撮りたいとも思いました。なにかを表してるなあと思って。たしかに、予測がつかない楽しさみたいなところを、写真を通じて知ることができれば、人生はちょっと楽しくなるかもしれませんね。
奥山 そう思います。
今井 まだ僕ら若いですし、どんどん、自分や周りの予想を裏切ることをやりましょうかね。
奥山 はい。そのワクワクがね、やっぱり楽しいですよ。
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