ニコニコ動画を中心に大活躍しているヴォーカル系ユニット、√5(ルート・ファイブ)のリーダーを務めるkoma’nさん 。写真集『スクールガール・コンプレックス』の大ファンである彼と、その生み親である写真家・青山裕企さんとの対談が実現。青山さんと共に、様々な分野で活躍する若き才能の素顔に迫ります!
取材:岡村邦寛・落合みさこ 構成:岡村邦寛 撮影:飯田えりか
koma’nさん、青山さん本日はよろしくお願いします。
koma’n・青山 よろしくお願いします!
さっそくkoma’nさんのこれまでの活動と経緯ついて伺わせてください。koma’nさんは現在ヴォーカル系ユニット、√5のリーダーをはじめとして、ニコニコ動画のいろいろな分野で才能を発揮していますが、ニコ動で活動し始めたのはいつごろからですか?
koma’n 高校入学する前くらいですね。その時に自分でノートパソコンを買いました。当時はアニメで『涼宮ハルヒの憂鬱』や『らき☆すた』などが流行っていて、それらのアレンジされた動画がニコ動にアップされているのを見て、なんか面白いなと思ったんです。自分は昔から作曲や演奏など、音楽に関わることをしていたので、その知識を活かして何か投稿してみようと思ったのが始まりです。はじめに投稿した作品の再生数は1ケタとか2ケタとかでした。
青山 そこからどんな作品を投稿して注目されていったんですか?
koma’n 「歌ってみた」というカテゴリの『アンパンマンマーチを切なくうたってみた』という作品を投稿しまして、それが結構注目されました。内容はタイトルのまんまです(笑)。あとはボーカロイドのオリジナル音楽『BadBye』ですね。ただニコ動も最近と(投稿を始めた)四年前とでは全く状況が変わっていて、僕も四年前だったからこそピックアップしてもらったと感じています。作品のクオリティがドンドン底上げされている今だったら、埋もれちゃうと思います。
青山 作品自体はつくりやすい環境になったけど、評価されるハードルは高くなったと。そういう意味では写真と同じなのかもしれないですね。
写真はデジカメ、ニコ動はパソコンですが、クオリティはともかく作品をつくろうと思えば誰でもつくれてしまう現状の中、お二人はそれぞれの世界で活躍されているわけですが、なにか秘訣みたいなものがあるのでしょうか?
koma’n 僕は今していることが「仕事」だという意識はあまり無いんです。昔からニコ動は完全に趣味として楽しんでいました。大学に進学するかどうしようかと考えていたときに、お声掛けいただいたライブに出演する機会があって、「あ、こっちのほうが僕に合ってるのかも」となんとなく思ったんです。両親も「好きなことやりなさい」という考えだったので、じゃあとりあえず1年ぐらい様子見てみよう、という感じで音楽活動をしていました。いわゆるニートですよね、完全な。その後、ライブやドワンゴさんのイベントなどに出ているうちに、気付いたらトントンと、今に至るという感じなんです。だからこそ自分の立場というか、肩書きとかもわかんない状態でここまで来ちゃったんです。あえて言うのであれば「自称」ニコ動アーティスト、ですかね。
青山 じゃあ具体的に何かになりたかったとか、すごい野心が強かったという感じでは……。
koma’n なかったんですね。今、ニコ動に投稿している子たちは、それこそ、アーティストになりたい、歌手になりたいと思って投稿している人も多いと思うんですけど、僕が投稿を始めた時期はニコ動がまだ全然栄えていない時代で。他のユーザーさんもニコ動を純粋に趣味として楽しんでいたと思います。
お話を聞いてると、koma’nさんと青山さんの今の仕事に至る過程というのは正反対ですね。
青山 そうですね。僕はまさに新書『僕は写真の楽しさを全力で伝えたい!』でその流れを書いているんですけど、24歳のときに写真で生きていくって決めたんです。今20歳(※注:取材時)のkoma’nさんと比べると遅いですけど(笑)。写真で生きていくということは、普通に生活できるくらいに写真で稼ぐということです。ただ稼ぐことは仕事であって、趣味で稼げるわけじゃない、というところがやっぱりあったんです。要するに稼ぐとなると、お金をくれる人の要求に応えなければならないので、自分が撮りたいことと、仕事相手の「こうしてください」という要求のズレが大きくなればなるほど、好きなことを仕事にすると苦しいものになるんですけど、そこをなるべく近づけ、すり合わせながら写真で生きてこう、と決めたんです。
写真で生活できるようになったのはいつ頃からですか?
青山 2、3年ぐらい前からですね。それまでは歳相応分稼げていなくて、いろいろな人の助けを借りてました。例えば『ソラリーマン』でも、ジャンプしている写真でどうやったら稼げるのかということを考えて、ジャンプ写真を入れた名刺を作りますよ、とか、結婚式のときに新郎新婦のジャンプ写真撮りますよ、とかそういうちょっとした仕事をあみ出して、それを積み重ねて好きなものをお金に変える術を少しずつ膨らませていって今がある、という感じなんです。プロの写真家になって売れたいとか有名になりたいとかじゃなくて、好きなものをどうやったら続けられるかってことをものすごく考えて生きてきたと思ってます。
koma’n 好きなことを続けたいですよね……。
青山 そうなんです。僕は好きなものは好きなようにやらないと自分にとって良くないと思っていたから「濁らない」ようにしようと心に留めているんです。それはやっぱりkoma’nさんもそうだと思うんですよね。多分最初から「これをアップして売れてやるぜ!」とか思っていたら、本当に自分がやりたいことよりも「このアレンジのほうが受けるんじゃない?」とか考えちゃって、濁っちゃって、もしかしたらピックアップされなかったかもしれない。わかんないですけど(笑)。
koma’n それは本当にそう思いますね。
青山 僕は今35歳なんですけど、ニコ動で活躍している人やそれを楽しんでいるユーザーさんの年齢ってかなり若いですよね?
koma’n そうですね。ニコ動にもいろいろあるんですが、僕が活動している音楽関係、特にボーカロイド音楽関連のユーザーさんは、中学生・高校生が圧倒的に多いです。ライブの客層も学生の女の子が大半を占めます。ちょうど僕が小学校ときにBUMP OF CHICKENやORANGE RANGEがすごく流行ってみんな聴いていたみたいに、今の若い子はニコ動やボーカロイドの曲を自然に聴いているみたいですね。
青山 そういうニコ動で若いうちから活躍している人たちは、ある意味普通の人が社会人になるより前に既に社会に出ているんですよね。さっき肩書きについて話しましたけど、普通肩書きって社会に出ていくと自動的にカテゴライズされるものなんです。「〇〇社の△△です」とか。
koma’n そうですね。
青山 でもkoma’nさんみたいに早く社会に出た人にとっては、おそらく肩書きってそれほど重要なことではないんですよね。さっきkoma’nさんは「自称」って自然に言っていましたが、でもそれって自分自身に自信がある証拠だと思うんです。自分に自信がない人こそ、自ら肩書きをバンバン主張していくんですよ。たとえば僕が「写真家」って言っているみたいに。
koma’n 青山さんは写真の世界で活躍されている方なので、「写真家」で何もおかしくないと思うのですが……。
青山 僕は自分が「写真家」であることをあえて自虐的に言っているんです。僕は自分のことを全然すごいと思っていないんですが、「〇〇家」って言える人ってすごい人なんですよ、ホントは。華道家とか書道家とか何十年もその道を鍛錬して極めて、初めて「家」を名乗れるのに、写真家はカメラを持って名刺を作れば誰でもなれるんです。それこそ「カメラマン」とか「フリーランスフォトグラファー」とか他の言い方もあるんですが、肩書きによって周りからの見られ方が変わるんですよね。そこに僕は空虚感をずっと感じているんです。そこから「写真家」にふさわしい実績を重ねていけばいいわけなんですけど、koma’nさんは逆なんですよね。実績が先にあって、肩書きは特にこだわらない。そこがすごいと思います。
青山さんに聞いてみたかったのが、コメントや再生数といったユーザーの反応が可視化されたニコ動の環境って、写真家の人から見てどう感じますか?
青山 そこまで見えてしまうのは、正直怖いですね。僕も『スクールガール・コンプレックス』を刊行したときは賛否両論で、いろいろネガティブな意見も頂いたんですけど、それがリアルタイムで洪水のように浴びせられたら……。例え反応が賞賛9・罵倒1でも、やっぱり罵倒1の方が気になっちゃいますよね。ダメかも(笑)。koma’nさんはどうですか?
koma’n 慣れましたね。学生の頃からやっていて、批判もガンガン浴びてきましたが、だんだんメンタルが鋼になっていきました(笑)。それに批判でも言ってくれるということはいいことだと思っています。注目してくれているってことですから。全然興味なかったらコメント自体そんなマメにできないですよね。
青山 確かに。一番酷なのは無視ですよね。
koma’n はじめは馬鹿にしてたけど後からファンになった、というパターンも多いですからね。そこらへんの好きと嫌いは紙一重なんだと思います。
さっき『スクールガール・コンプレックス』の話題がちらっと出たのでkoma’nさんが作った同人誌『妄想ポエム』について伺いたいんですけど、この作品、『スクールガール・コンプレックス』をリスペクトしてますよね。
※『妄想ポエム』
koma’n 学生のときにヴィレッジヴァンガードで読んで好きになりました。で僕が好きなことを周りも知っていまして、よくファンの方から差し入れとして『スクールガール・コンプレックス』をいただくんです。だから家に何冊もあります(笑)。
青山 ありがとうございます(笑)。
どうして『妄想ポエム』をつくろうと思ったんですか? ……やっぱりこういうフェティシズムを感じるものが好きなんですか?
koma’n いや、僕が特別な性癖を持っているとかそういうわけではないんですよ。よく疑われるんですけど(笑)。うまく言えないんですけど、文学的な表現をしたかったんです。なんかこう、直接ではないんですけど、遠まわしに、答えは言わないんですけども、エロティックな、そういう表現を。それで電車の中で、ヒマなときに考えていた表現をツイッターでポエム風に投稿したら、意外と評判よかったんです。それをルーチン化して投稿し続けていたら、周りで気に入ってくれる人がたくさん増えてきて、じゃあ、いっぱい書いたので本としてまとめようということになりました。カメラが好きだったので、ポエムに合った写真を撮影して、ポエムと写真を組み合わせて本にしようと。それで友達の妹に協力してもらいました。
これ、友達の妹が被写体なんですか?
koma’n そうです。いっしょにプリキュア見に行ったんですよ、この子と(笑)。完成した本を恐る恐るその子のお母さんに渡したんですけど「あら、かわいく写ってるわねぇ」って言われてほっとしました(笑)。
そうなんですね(笑)。青山さんから見て『妄想ポエム』はどうですか?
青山 ポエムを書いてそれに合わせて写真を撮るというのは、面白いですね。僕の場合、写真を撮ってから例えば文章を付けるとなると、その写真の見方がすごく狭くなってしまうので難しいんです。だけど、ポエムというのは拡がりを持たせますよね。言葉でまずイメージさせて、それに写真を添えるわけですが、その写真が説明的すぎず良い具合にポエムを補助している。この按配はすごくいいんじゃないかと思います。
koma’n 写真にも、ポエムにも完全に着地はしてないですからね。
青山 そうそう。「あとは観る側に委ねます」だよね。だからいいんですよ。『スクールガール・コンプレックス』を刊行したあとに、明らかにそれを模倣しただけのような作品が現れたんですけど。それとこれとは全然違う。
koma’n ありがとうございます。
青山 本当に写真って、簡単なんですよ。誰でも撮れて簡単なんですけど、出来上がった写真から発せられるメッセージには差があるんです。例えば『スクールガール・コンプレックス』だったら、ただ女子高校生がいるとか、脚が写っているというだけじゃなくて、写真からイメージを膨らませる「妄想の発火点」みたいなものを、何重にも組み込んだりしています。よく「フェチだね」って評価されるんですけど、単なるフェチの一言で回収されないものをいろいろ込めてはいるので、フェチだけじゃない見方をしてくれる人がたくさんいるんです。個展を開くと、思いのほか女性のお客さんが多く来てくれるんです。単なるフェチ写真だったら、多分女性ってそこまで深くのめり込めないと思うんです。だから実はいろいろ巧妙に、写真を撮っていたりします。簡単に見せかけて、やっぱり写真は奥深いとも思うんで誰でも撮れるからこそ、そのなかで「青山さんにお願いします」って言われなきゃいけないんで。本当はそんなこと言うのはダサいことなので、何も言わないのが一番なんですけど(笑)。
koma’nさんは音楽、青山さんは写真ですが、仕事に関して普段から特別にしていることとかあるんですか?
青山 特別なことは無いですね。例えば今日、次に撮影する場所の下見として高円寺から阿佐ヶ谷まで歩いてたんですね。すごく遠回りをして、二時間ぐらい。けどこれって客観的に見ると、下見と言ってもただ平日の朝10時からプラプラ歩いてただけで仕事と言えるほどのものじゃないんですよ(笑)。だけどそうしていると「ああ、ここで撮ったらいいかも」とか考えるじゃないですか。だから、実際に撮影していなくても、歩いているだけでもう写真をしているんですよ。それが僕は楽しいので、仕事をする・しないというオン・オフの切り替えはないんですよね。
koma’n 境界線は無いですよね。僕も普通に散歩したり自転車乗ったり、ぷらーっとしながら、曲を頭の中で作って、家に帰ったらいざ音源を打ち込んで……という感じなので、他の人から見たら、「お前、遊んでるだけだろ」って思われますよね(笑)。でもほんとに苦痛ではなくて、楽しみながらやっていることなんで、周りから理解されるのが難しいところがありますね。
青山 それこそ「ファミレスに2時間籠って一生懸命作詞してます」とかだったら理解されるかもしれないけど、そんな状況じゃ詞とか頭に浮かばないよね(笑)。『妄想ポエム』だって、絶対これ日常のなかで浮かんでるはずですからね。電車で人などを見て、その場で思い浮かんだことを書いている。僕も街を歩いてたら、いろいろなものが見えるんです。女性の絶対領域も見えるしね(笑)。だから別に露出なんていらないって言うか、もはや男の人でもなんでもドキドキするんです……。
koma’n それは芸術的にですか(笑)。
青山 それはもう芸術的に(笑)。
それでは最後にkoma’nさんがこれからどんなことをしていきたいのか教えてください。
koma’n 僕はまだ自分の作品に自分の色を付けられてないんです。3歳から音楽を始めてロックやポップス、ジャズとかいろいろしてきたんですけど、そのなかで本当に自分に一番あったのを見つけて磨いていきたいです。それこそ青山さんの『ソラリーマン』や『スクールガール・コンプレックス』みたいに「自分はこれだ」というのを作っていきたい。
青山 だけど一つのことに専念せず、いろんなことをしている今でもファンはたくさんいますよね。Twitterのフォロワー数とかもすごい。
koma’n フォロワーは多いんですけど、曲に付いたファンの方もいれば、ポエムに付いたファン、歌に付いたファン、ピアノについたファンの方もいるので、いざ「歌のライブをやります!」って言うと、歌のファンの方以外は来ないので、実は来場者数はフォロワー数とかでは測れないんですよね。
青山 いろいろしている活動を横断させたいって気持ちはあったりするのかな? 例えば音楽やボカロとかに興味なくても、詩とかに興味ある人とかはいるじゃないですか。そういう人にも音楽を聞いてもらうために、いろいろ組み合わせてみたりとか。
koma’n それはあります。ちょうどこのポエムを僕が朗読して、それに自分の音楽をBGMとしてつけて、コミックマーケットという即売会で売り出しました。
青山 さっき「自分はこれだ」というのを作っていきたい、と言ってたけれども、そうやってkoma’nさんができることを上手くつなげていくのも「らしさ」なのかもしれないですよね。いずれにせよkoma’nさんの今後の活躍を楽しみにしてます。僕も頑張ります!
koma’n 了解です! ありがとうございました!
2013年4月
koma’n(撮影:青山裕企)
青山裕企(撮影:koma’n)
ジセダイジェネレーションズU-25の紹介
ニコニコ動画出身アーティスト。ピアノアレンジが得意な、歌い手・演奏者。 ボカロPとしての作品発表や、自主制作で本を出版するなど、 マルチな活躍が期待される20歳。 歌い手ユニット√5(ルート・ファイブ)のリーダーとしても活動中。3月に発売したメジャー1stアルバムはオリコンウィークリーチャート7位を 獲得。6月にはNHKホールでのライブが予定されている。
個人) 公式サイト:http://koman.jp/ ブログ:http://ameblo.jp/komaaaaaaaa/
曲リスト:http://www.nicovideo.jp/mylist/9700417
√5) 公式サイト:http://avexnet.or.jp/rootfive/index.html twitter: https://twitter.com/root5_official
ジセダイジェネレーションズU-25の紹介
写真家、ぱちスト
1978年愛知県生まれ。2007年キヤノン写真新世紀優秀賞。受験前日に一目惚ぼれした子を追いかけて、一浪の末、筑波大学 (心理学専攻)に入学するも、すぐに逃げ出して突然自転車で日本縦断の旅へ。旅先でカメラを買い、ジャンプ写真を撮り始める。友達を跳ばせて、今はサラリーマンを跳ばせる『ソラリーマン』を全国で展開中。一方で、思春期の女子に対する妄想をさらけ出した『スクールガール・コンプレックス』を発表し、物議をかもす。恋愛経験が少ない割には、若い子を撮らせたら右に出る者はいないとか。いつも眠たそうな顔をしているものの、撮影現場になるとテンションがあがるタイプ。2012年、ZINEの新しいスタイルとして「ぱち」を提唱。
公式サイト:http://www.yukiao.jp
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