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続・江戸しぐさの正体

第4回:和城伊勢の正体① 後継者の器ではなかった愛弟子

2015年03月19日 更新
第4回:和城伊勢の正体① 後継者の器ではなかった愛弟子

 百万都市・江戸の人々は、「傘かしげ」「肩引き」「こぶし腰浮かせ」といったしぐさを身につけることにより、平和で豊かな生活を送っていた。しかし、幕末に薩長新政府軍によって江戸市民は虐殺され、800とも8000とも言われる「江戸しぐさ」は断絶の危機に瀕した……。
 このような来歴を持つ「江戸しぐさ」は、現在では文部科学省作成の道徳教材にまで取り入れられるようになった。しかし、伝承譚の怪しさからも分かるように、「江戸しぐさ」は、全く歴史的根拠のないものなのである。
 実際には、1980年代に芝三光という反骨の知識人によって「発明」されたものであり、越川禮子・桐山勝という二人の優秀な伝道者を得た偶然によって、「江戸しぐさ」は急激に拡大していく……。
 この連載は、上記の事実を明らかにした「江戸しぐさ」の批判的検証本『江戸しぐさの正体』の続編であり、刊行後も継続されている検証作業を、可能な限りリアルタイムに近い形でお伝えせんとするものである。

和城・越川の手打ち

 ここ数年に渡り「江戸しぐさ」普及において主要な役割を果たしてきた団体といえば「NPO法人江戸しぐさ」(名誉会長・越川禮子)だが、最近、もう一つの団体が台頭してきた。それは文部科学省……ではなく、「一般社団法人 芝三光の江戸しぐさ振興会」(以下、振興会)である(もちろん文部科学省による道徳教材採用の罪は大きいがそれはまた別の話である)。

 振興会は2014年3月に「芝三光の江戸しぐさ振興会」として設立され、2015年1月に正式名称を現在の形に改めた。

 その代表は「江戸の良さを見なおす会」代表の和城伊勢(わしろ・いせ)氏である。

 振興会は「江戸しぐさ」関連の書籍・CDなどの販売と代表による講演会・勉強会を主な活動内容としている。

 その活動内容はすでに「江戸しぐさ」の商標登録を行なっている「NPO法人江戸しぐさ」と競合するものだが、2014年8月、振興会は「NPO法人江戸しぐさ」との間に商標権・著作権の共有に関する契約をとりかわした。

 2014年9月13日には振興会の企画で和城伊勢氏と越川禮子氏の対談が行なわれたが、これは両団体の手打ちの儀とも言うべきものであった。

 

休眠状態となっていた「江戸の良さを見なおす会」

 ところで越川氏が1991年に「江戸しぐさ」伝承者(事実上の創始者)である芝三光に弟子入りして以来、「江戸しぐさ」普及の中心人物となってきたのは拙著『江戸しぐさの正体』でも述べたとおりである。

 しかし、「江戸の良さを見なおす会」の活動は同会名義での書籍『今こそ江戸しぐさ第一歩』(1986)が出た直後に休止状態となってしまった。

 越川氏は芝に弟子入りした当時について次のように述べている。

 

「江戸の良さを見なおす会」も、もうその時はやってなくて、「江戸しぐさ語りべの会」といっても、私にだけ御前講義をされていたわけですから(越川禮子・林田明大『「江戸しぐさ」完全理解』2006、162頁)

 

 

 つまり越川氏から見れば1991年の時点で和城氏が主宰していたはずの「江戸の良さを見なおす会」はすでに活動していなかったわけである。「江戸の良さを見なおす会」の活動が再開したのは2004年、和城氏の著書『江戸しぐさ一期一会』の刊行によってである。

 その著書の「あとひきしぐさ」(後書)で和城氏は、越川氏が「江戸しぐさ」を「デビュー」させたことへの謝辞を述べており、越川氏の活躍なくして「江戸の良さを見なおす会」の再開もなかったことがうかがえる。

 越川氏によると、芝は越川氏を唯一の「江戸しぐさ」後継者とみなし、越川氏入門の時点では別に弟子を持とうとしなかったという。

 ところが一方で、芝が書き残した文書類は小学校での作文まで含め、越川氏ではなく和城氏の手元に保管されていたともいう。芝が生前から和城氏ではなく越川氏を後継者に指名していたのなら、なぜ文書類も譲らなかったのであろうか。

 

「岩淵いせ」時代の活動

 その謎を解決する前に「江戸しぐさ」の勃興期において和城氏が果たした役割を今一度検証していきたい。

 芝三光が「江戸の良さを見なおす会」の前身となるサロンを開いたのは1960年代のこととされている。ただし、そのサロンが当初から江戸文化との関連を主張するものだったかは不明である。

 同会について、メディア上で今のところ確認されている最古の記録は、1974年6月7日付東京新聞朝刊囲み記事「ニュースの追跡・話題の発掘」である。そこには「『江戸のよさを見直す会』主宰」の肩書で「岩淵いせ」という人物のインタビューが掲載されている。岩淵というのは和城伊勢氏の旧姓である。

 

1974年6月7日付東京新聞朝刊囲み記事「ニュースの追跡・話題の発掘」誌面写真

 

 その記事では江戸の「しつけとマナー」として「混んだ道を通るよきの“カニ歩き”かさをさしてすれ違うときの“カサ落し”」など現代の「江戸しぐさ」の原型と思われるものが記されている。

 その記事によると、岩堀氏は「数年前、社内研修会の後の講師との懇談会で“江戸のしつけ”を知って研究を始めた。会を作ったのは四年前」とある。つまり、岩堀氏(後の和城氏)が「江戸のよさを見直す会」を立ち上げたのは1970年のことと見てよいだろう。また、彼女が芝と出会ったのは社内研修会の講師と教え子としてであったこともわかる。

 その12年後に出た『今こそ江戸しぐさ第一歩』でも岩淵氏は著者の一人として名を連ねている。カバー袖の著者紹介で彼女は次のように解説されている。

 

岩淵いせ(当会名・花鳥旨子)
「東京人なんかの負け犬になるな」と両親に言われて上京した常陸魂の持ち主。株式会社「ビジネスコンサルタント」(NBC)から東京都庁に派遣されている。本人は江戸の話などに興味はないが、東京人をよく知るために仕方なく始めたのが本音。はじめてみたら東京人に腰抜けが多いので17年間も江戸の良さを見なおす会・目黒会代表として、縁の下の力持ちをかってでている。

 

 

和城氏は器量不足だった

 そう、この書籍が出た時点での岩淵氏の役回りはあくまで「縁の下の力持ち」なのである。この書籍の著書紹介には花鳥旨子こと岩淵氏の他に野乃みどり・大和明日香(どちらも会名、すなわち江戸の良さを見なおす会内部で用いるペンネーム)の2人が挙げられている。

 この書籍の本文にはボーイスカウトの話題がたびたび出てくるがそれは野乃氏が当時、家族ぐるみでボーイスカウト運動に関わっていたからである。その内容からこの書籍は4分の3以上が野乃氏によって書かれたものと推定できる。

 芝がこの書籍に寄せた「あとがき」には次のように書かれている。

 

書籍『今こそ江戸しぐさ第一歩』書影

 

 野乃みどりさんの出現で、講演会の域を出なかった『江戸の良さを見なおす会』にも、江戸しぐさのロールプレイを始めようという気運が出てきました。頭でなく、体で覚えなくては意味がないと主張し、体験学習会を開くのが宿願だった私には嬉しいことでした。
(中略)
 折りも折り、私の我儘を聞き入れてくれる出版社から依頼を受けました。そこで「先生のお元気なうちに、できないながらも江戸しぐさのお芝居を始めましょう!」と言い出された野乃さんに、ボーイスカウトの活動と合わせて体験記ふうの文章にまとめることを薦めてみたところ、二つ返事で引き受けてくれました。(江戸の良さを見なおす会『今こそ江戸しぐさ第一歩』1986、232~233頁)

 

 

 つまり、岩淵氏の下では芝の期待に応えられなかった「江戸の良さを見なおす会」が野乃氏の参加によって活性化し単行本をも出せるようになった、というわけである。

 しかし、野乃氏の名は『今こそ江戸しぐさ第一歩』以外の「江戸しぐさ」関連資料には一切見ることができない。おそらくは何らかの事情でこの書籍が出た直後に会を離れたものと思われる。

 小規模な組織が優秀な参加者を得ることで活性化するが、やがてシステム自体がその人物を中心に回るようになってしまうため、その脱退とともに動かなくなる……このありがちなパターンに「江戸の良さを見なおす会」にはまりこんでしまったのだろう。

 そして岩淵氏(和城氏)にはそれを自力で立て直す器量はなかったのである。

                            

     (続く)

 

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ライターの紹介

高口康太

高口康太

翻訳家、フリージャーナリスト 1976年、千葉県生まれ。千葉大学博士課程単位取得退学。独自の切り口で中国と新興国を読むニュースサイト「KINBRICKSNOW」を運営。豊富な中国経験と語学力を生かし、中国の内在的論理を把握した上で展開する中国論で高い評価を得ている。

続・江戸しぐさの正体

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