ジセダイ教官初!美大の先生の登場です。
わかっているようで全然わからないデザインの役割から、
「ぶっちゃけセンスじゃないの?」というところまで、
美大の講師であり、現役のトップアートディレクターでもある茂出木先生に、
わかりやすく解説して頂きました!
取材・構成:今井雄紀(星海社) 撮影:尾鷲陽介
今井・柿内 今日は、よろしくお願いします。
茂出木 よろしくお願いします。
今井 早速なんですが、中学〜高校卒業するまで、ずっと「美術 2」だった僕から、質問よろしいでしょうか?
茂出木 どうぞ(笑)。
今井 デザインて、学べるんですか?センスじゃないんですか?美術とデザインが一緒かはさておき、学校の美術の授業を受けて絵が描けるようになる人って、ほとんどいないと思うんですよ。
茂出木 全然学べますよ。センスも大事ですが、それ以上に、ロジックが大事です。いいデザイナーは、「なんでその色、その形にしたか」って全部説明できますから。誰が誰に何を伝えるのか整理して、「だからこのデザイン」って決めるのがデザイナーやアートディレクターの仕事です。
今井 !!!!そうなんですね!これは、デザインが全然ダメな僕にも活路が見えるかも…今日お話伺うのが、改めて楽しみになってきました。
今井 デザイナー・アートディレクターの仕事について、説明して頂いてよろしいですか?
茂出木 はい。そもそもの話なんですけど、人に何かを伝えるときって、必ずデザインが発生しているんですよね。そこで誰に誰が何を伝えるのか整理して、「じゃあこの方法はどうですか?」って提案するのがデザイナーで、出てきた方法論が、最大限効果を生むように鍛えていく、力の入れ具合を調整していく、バランスを取るのが、アートディレクターですね。
今井 編集者と編集長の関係と同じですね!
茂出木 そうですね。デザイナーが活躍する場面を、わかりやすくスピーチで考えてみましょうか。何かのスピーチをやることになったとして、不安が無数にありますよね。語彙も多くないし、噛むかもしれないし、なまりが出るかもしれないし、速度もどれぐらいが適切なのかわからない。服装にしても、ジャケットなのか、Tシャツなのか、ポロシャツなのか…。ちょっと考えたぐらいじゃ、全然わからないですよね。そういった時に、伝えることが何で、とるべきコミュニケーションはなんなのか。また、そこに潜む課題は何で、それはどうやったら解決できるのか。そこをひとつひとつ考えて、調整していくのが、デザイナーの仕事です。もちろん、色彩の知識に基づいたネクタイのアドバイスみたいな、プロの業は必要なんだけど、それは目標を達成するための一部なんですね。だから、デザインて無意識のうちにみんなやってるんですよね。本の編集もそうですし、子供が親に新しいPCを買ってもらおうと思って交渉するのもそう。どうやって泣きつくかは、デザインですよ。自分の何を表に出せば、親が納得するのかってね(笑)
今井 もっとデザインしてねだればよかった…
茂出木 ははは(笑)学生には、頭だけじゃなくて、「手で考える」ってことを教えています。課題が何で、それを解決するためには何を出力しないといけないのか。そのためには、どんな技術が必要なのか。アイデアだけじゃなくて、実際に手を動かしてそれを作れるかどうかまで考え抜けなければいけません。そこではじめて、「それじゃあタイポグラフィが必要だね」、「このソフトを使えるようにならないとね」という話が出てきます。
今井 「手で考える」はいい言葉ですね。今、大学4年生のゼミを持たれているということですが、具体的にどんなことを教えられてるんですか?
茂出木 毎年、最初の授業はやることを決めていまして、『ユダヤ人大富豪の教え』というビジネス書を、全員に読んでもらいます。その後、感想を共有する飲み会をやる感じですね。
今井 え?ユダヤ人大富豪って、あのベストセラービジネス書の?
茂出木 そうです。
柿内 おもしろい!美大の本屋さんには、置いてなさそうですね!
茂出木 たしかに置いてないと思います(笑)デザインの本とか、広告の本とか色々試したんですけど、これが一番しっくり来るんです。まずは、「求められるサービスを、高いモチベーションで提供できるからこそ、お金がもらえる」ということを教えたくて。その次に、本にも出てくる「やりたいことを書き出す」という作業をします。「死ぬまでにやりたいこと」、「中長期的にやりたいこと」、「卒業までにやりたいこと」を書き出して、発表する。そうすると、周りのみんなから、達成するためのアイデアが出てくるんですよ。「死ぬまでにブラジル行きたいのなら、今行って、卒業制作もそれに絡めたら?」という大きなものから、「髪質をよくしたいなら、このシャンプーでいいんじゃないかな?」っていう、小さなものまで。自分が思っていること、やりたいことをアウトプットすると、実は簡単に答えが見つかったり、そうでなくても、重大なヒントをもらえたりする。そういう成功体験を積んで欲しくて、最初の2回は「ユダヤ人」でやってます。
今井 おもしろいですねー。徹頭徹尾、おしゃれなことしかしないのかと思ってました。
茂出木 ははは(笑)話は少し変わりますが、いいデザイン=おしゃれとは限らないんです。どうしてもそう思われがちなんですけど…例えば僕はデザインをするとき、「自分の親に伝わるか」を考えるようにしています。普通にやってるとどうしても業界ウケとか考えてしまうんですが、そこで踏みとどまって、顔の見える人を思い浮かべて、「デザインとか何も知らないあの人にも受け入れてもらえるだろうか」と考える。
柿内 「顔の見える人を思い浮かべる」という点、文章にも同じ事が言えるかもしれません。『20歳の自分に受けさせたい文章講義』という本があるんですが、その中で著者の古賀さんは「読者」という言葉を否定しているんです。そんな漠然とした読み手はいないと。
茂出木 まさにそうですね。1000万人に向けて何か作るなんてことはありえないんですよ。
今井 紅白歌合戦とかだと、そういう作り方をしてるってことはないですか?国民みんな見てますよね?
茂出木 いや、あれは時間毎に見る人が違う設計になっているんです。
今井 なるほど確かにそうですね!AKBとかジャニーズは、浅い時間に出ますし、演歌は深い時間に固まっていますよね。間に挟まるコンテンツも、浅い時間はキャラクターが出て、深い時間はベテランのタレントさんががんばりますし。
茂出木 時間毎に見て欲しい人がきちんと設定されていると思います。それでいて漏れがないから、すごいですよ。
デザイン≠センス、デザイン≠おしゃれ…デザインへの先入観を、一気に覆された前編でした。まさか授業にビジネス書を使われてるとは…後編では、より具体的に、「日常に潜むデザイン」について語って頂きます。
後編へ続く
アートディレクター / 代表取締役 / 日本大学芸術学部非常勤講師
1976年東京都生まれ。日本大学藝術学部デザイン学科卒業。ビジネス・アーキテクツなどのデザイン会社を経て、2010年5月、デザインスタジオTWOTONE INC.を設立。国内大手企業のコーポレートサイト、ブランディングサイト、プロモーションサイトなど、多くのインタラクティブコンテンツのアートディレクション、デザインを手がける。
文化庁メディア芸術祭優秀賞、カンヌ国際広告祭 Titanium and Integrated Lions、グッドデザイン賞、東京インタラクティブ・アド・アワード グランプリ、OneShow、WebbyAward、ロンドン国際広告賞など国内外のアワード受賞歴多数。2005年より出身校である日本大学芸術学部にて非常勤講師を勤める。
氏名
|
茂出木龍太
|
---|---|
フリガナ
|
モデキリュウタ
|
所属
|
日本大学芸術学部
|
職名
|
非常勤講師
|
キーワード
|
デザイン
|
Copyright © Star Seas Company All Rights Reserved.
コメント