ザ・ジセダイ教官、東京大学大気海洋研究所・青山潤先生に伺うウナギのお話も後半戦。
なんと現在、絶滅の危機に瀕しているというニホンウナギについて、そして、青山先生のとびきりでっかい“夢”について。
予定時間を大幅にオーバーして行われたインタビューを、こってり詰め込みました!
取材・構成:平林緑萌(星海社) 撮影:山崎伸康
前編はこちら「ジセダイ教官、初の理系の先生として、 東京大学大気海洋研究所「ウナギチーム」の青山潤先生が登場!【前編】」
ちょっとここで、このインタビューの日程がなかなか決まらない原因にもなった、ウナギ資源の減少問題についてお聞きしたいと思います。
青山 はい。事態は大変深刻です。
今は、政府が動いているんですか。
青山 ええ、水産庁が動き始めましたね。
ちょっと詳しくお聞きしたいんですが、ウナギをめぐる現状はいったいどういうことになってるんでしょうか?
青山 ウナギは完全養殖が出来ませんので、我々は普段、ニホンウナギの稚魚・シラスウナギをとって、それを育てて食べているわけですね。しかしこの3年間、歴史 的にないくらいシラスウナギがとれていないんです。シラスウナギの適正価格は、キロ辺り30万円から50万円くらいだろうと言われてるんですが、それが 250万まで跳ね上がっているような状況です。
5倍ですか……。ということは、海外から輸入でしのぐということになるんでしょうか?
青山 いや、輸入もないんですよ。
えっ!
青山 台湾、韓国、中国……どこにもないんですよ。日本と同様にマリアナ海溝で生まれたシラスウナギをとっていますから。
例えば、回遊ルートがずれているというような可能性はあるんでしょうか?
青山 そうですね、私たちの調査でずれている可能性も出てきてはいます。ただ、全体像を見る限り、豊富にあるものがずれているわけではないらしいんです。要するに、減っていることは間違いない。資源全体が極めて危機的なほどに減ってるというのは間違いないんです。
シラスウナギ減少の原因は、一体なんなんでしょう。
青山 理由は3つほど考えられます。まず、昔から言われているように、乱獲ですよね。また、川の中の環境が悪化して親ウナギが暮らしづらくなったこともありま す。要するに、産卵場へ戻っていくまでに、親ウナギは5年から15年くらい川の中で成長しますから、ここがやられると産卵場へ戻る個体数が減る。
なるほど。
青山 それから、地球環境変動も関わっている可能性があります。それも、温暖化のようにスケールの大きな問題。ウナギは産卵場から東アジアまで帰ってくるとき に、海流をうまく乗り継いでくるようなメカニズムがありますから、例えば海流がちょっと変わっただけでも、彼らにとっては東アジアに帰りつけない原因にな り得る。
なるほど、複雑ですね。では現在、我々はどういう対策を取り得るんでしょうか。
青山 ウナギの海の中の生態ってまだ全くわからないんです。ニホンウナギたちが産卵場まで、だいたい直線距離で1500から2000キロくらいありますけど、ど うやってたどりついてるか、全くわからない。産卵シーンそのものもまだわかっていません。そういう意味では、人間にとって海の中で行われているウナギの再 生産プロセスっていうのは、まだブラックボックスなんですね。ですからさっき申し上げた3つ目の原因、地球環境変動クラスの話であれば、もうどうしようも ないですよね。
打つ手がないということですか……。
青山 直接的には何もできないですね。間接的には、温暖化ガスを抑えるとか、そんなような話になりますが……。でも、それは長い話です。
それに、温室効果ガスと気温上昇の関連も……。
青山 はっきりとはわからないですからね。さっき言った3つの原因が、割合は兎も角関わっているのは間違いないんですが……。3つ目はともかくとして、1つ目の 「乱獲」、そして2つ目の「川の環境悪化」。この二つに関しては、とにかくできることをやっていく必要があると思います。
どちらも日本だけの問題じゃないですよね。
青山 はい、そうです。ですから、まずは国際組織・機関を作る必要がある。私たちは1998年から、日中台韓の研究者と養鰻業や加工業に携わる方々からなるグ ループで、毎年一回ずつ会議を持っています。発足当初はこんな深刻な事態ではなかったんで、ちょっとお祭りチックなところもあったんですが、こういう事態 に立ち至ったんで、今はむしろ、これまで培ってきたネットワークや知識が活かせるんじゃないかと思っています。そして、つい数日前に“東アジアウナギ資源 協議会”として「国際機関を作って、さまざまな手を打ってウナギを守ろう」というような提言書を提出したところなんです。
ここまでお話をうかがってきて、かなり危機的状況だということが分かりました。今後、ウナギは高級魚になってしまうんでしょうか?
青山 もう間違いないんじゃないでしょうか。
ちょうど先日、近所のスーパーで中国産のものを買ったんですが……。
青山 それはおそらくストックで、今は下手をすると中国産のほうが値段が高いんですよ。
え、本当ですか。
青山 日本の養鰻っていうのは、早いものは冬にシラスウナギをとって、次の土用の丑までに一気に育てて出荷するというシステムになっています。そうすると、夏以 降は日本の養鰻池にはウナギがいないんですよね。その端境期は中国や台湾から仕入れてしのいでたっていうような状態だったんです。でも、今シーズンあたり はその中国・台湾の池にすら全くウナギが入っていないという状態になっています。日本国内はかろうじてストックがありますけれども、これが出きってしまっ たらどうなるのか……。
ということは、今あるもの食べといたほうがいい……いや、それがまた乱獲に繋がるのか。
青山 ……うん、そうですね。こんなこと言うと本当は怒られるんですけれども、ウナギっていうのは、数千キロの大回遊をする神秘的な魚です。まだまだ謎ばっかり で、タイとかヒラメみたいに人間が卵を人工にとって養殖できるような生き物とはまたちょっと違うわけです。ですから、そういう意味では、ほとんど自然の中 に依存して、ちょっとだけアガリをもらってる。そういう生き物だっていうことを、やっぱりもっと消費者としても認識する必要があるんじゃないか。消費者と しても、食べてるものがどういう由来で、どういう実体を持っているものなのかというのを知れば、それに適正な価格っていうのが当然ありますよね。
そうですね。
青山 だから、今の経済システムの中で値段は決まってるんですけど、自然から人間がとってる、食べてるものっていうのを考えていただけると、ウナギという魚に対して、またちょっと違う価値を見出していただけるんじゃないかなっていう気はしています……。
青山 日本は世界に冠たる水産国ですよね。その水産国が、ヨーロッパウナギを食い尽くして、ワシントン条約で保護されるような絶滅の危機にまで追い込んでしまった。水産国として、そういうことはやはりみっともないです。
あ、あれはフレンチで食べたわけじゃないんですね。
青山 全然違います。ヨーロッパウナギのシラスを中国へ持ってきて、中国で養殖して、蒲焼にして日本のスーパーなんかで安く売られてたんですよ。結局、それが原 因でヨーロッパウナギがほぼ絶滅状態になってしまいました。ヨーロッパの研究者なんかは言いますね、「日本に、アジアに食われた」と。さらには、「お前ら 今度は自分たちのものも食ってるのか」と言われてしまうような事態です。水産立国というからにはですね、もう少し品格も必要なんじゃないかと。
ウナギって江戸時代から盛んに食べてたわけじゃないですか。江戸には参勤交代で単身者の武士がいっぱいいて、それでファーストフードのようなものとして、ウナギや寿司が発達したんだよ、と我々は普段聞いています。
青山 そういう理解ですね。
そうすると、当時から百万都市でウナギをこうジャンジャン消費してたわけじゃないですか。当時は、そこらへんの川にもまだウナギはいて、それをとってさばいてたっていう話ですけど、その時代からこう延々、ちょっとずつウナギを乱獲し続けてきたっていうことなんですかね。
青山 どうなんでしょう……。ただ、江戸期の話になりますと、食べているのは川の中にいる親ですよね。
やっぱり、シラスをとるっていうのがまずいんですね。
青山 いや、重さとしてはともかく、個体数は圧倒的ですよね。あとは、江戸期でも、最初のころは本当に下賎な食い物と言われて、蒲焼が出てきたのが江戸後期くらい。やはり、爆発的に消費量が増えたのは、やっぱりその養殖、養鰻業っていうのができてからですね。
消費量は、近代に入って格段に増えたんですね。
青山 そうですね。戦後のある時期まで、年間1万トン〜3万トンとかっていうレベルの消費量だったらしいんですけど、それが1990年代には15万トンまで上 がったんです。やはりそれは、かなりの乱獲だったと言えそうです。その結果、今はおそらく6万トンくらいまで落ちてきています。
クジラについては「日本人のせいじゃない」って普段思っていますが、ウナギについては言い訳できないですね……。
青山 まあ、乱獲だけじゃないんですけどね。先ほどお話しした3つの要素が絡み合って、複合的にやられてるんじゃないかとは思います。
なるほど。そういえば、サケもそうですよね。
青山 ああ、そうですね。サケは今、放流してますけどね。
人 類学者の佐々木高明さんの本を読むと、「縄文時代の集落で一番人口支持率が高かったのは、川沿いにある集落だ」と書いてあるんです。で、それがなんで他の 場所にある集落より大きかったかっていうと、サケがとれるからだった、という。でも、地名を見ると、今では全然サケがとれるようなとこじゃないんですよ。 我々がとれないようにしちゃったんだなーっていう……。
青山 まあ、そうですね。日本人は結構食べ過ぎていると思いますよ。あまり自覚していませんが。
さすがにウナギがそうやって失われるってなると、日本人も焦るのではないかと思います。
青山 やっぱりそうですよねえ。
僕は特別ウナギが好きなんですけど、山崎さんはどうですか。
山崎 大好きです。大好きだけど、特別感で食べます。
青山 そう、そうですよね! やっぱりウナギってちょっと特別なんですよ。上方の腹開き、江戸の背開きとか、ああいう文化があるじゃないですか。
ありますね。
青山 例えば白身魚だと、とれなきゃメルルーサに変えたり、外国からホキを持ってきたりしますよね。でも、ウナギは代替できるものではないですよね。
確かに、替えがきかないですね。
青山 要するに、タンパク質ならいいという話ではなくて、やっぱり、ウナギに根付いている文化とかそういったものがあるんで、大事にしないといけないんだろうと思うんです。
なるほど。しかし、こういう危機の時こそ、学問と社会の接点なのではないかという気がします。
青山 そうですよねえ。そうなんですけど、なぜかあまり役に立たないんですよね(笑)。
そのあたり、もう少し突っ込んでお聞きしたいのですが、「役に立ちたいんだけど立てない」という感じなんでしょうか。
青山 そうなんですよ。自然科学,例えばウナギの進化とか生態なんて研究の根底にあるのは、ものすごく自分勝手な好奇心なんです。だから、社会貢献とかそういう のは後付けのような気がしてしょうがない。科学っていうのは、そもそも貴族が遊びではじめたものじゃないですか。生活に余裕がある人がはじめたものであっ て、実学的な研究を別にすれば、根源的な部分っていうのは、金とかそういうものじゃなくて、ただ個人個人が持ってるモチベーションとか、人としての好奇心 とか、そういったものなんです。だから、そこのギャップっていうのはものすごくあると思います。
それを一般の人たちが楽しめるような形にして、入り口を下げられれば、より幸福な科学と社会の関係、学問と社会の関係ができるんじゃないかなっておもうんですが、やはり難しいんでしょうか。
青山 うーん、どうなんでしょう。何か後付け感が残りませんか?
みんな、勉強したいっていう欲求は持ってるんですよね。そして、社会に出た人ほど、「もうちょっと勉強したかった」って思ったりするんですよ。
青山 そうかもしれないですね。今はむしろ、一般社会の方たちのほうが理解があるといいますか、私自身お話させていただくと、意識を共有できるところがありま す。やっぱり、政府とか大学とか、そちらが萎縮してしまっていると思います。要するに世間に対して、「こんなに経済状況が悪いときに、こんなやつら遊ばし といていいのか」っていう罪悪感のようなものがある。
「役に立たなくてすみません」みたいなの、確かにちょっと感じますね。でも、やっぱり専門家であり、プロなわけですから、役に立たなかろうが胸を張っていて欲しいとも思います。
青山 そうなんですよ。ですから私よく「全く役に立ちません!」「おもしろいだけじゃダメですか?」って言うんです。すると、一般の方たちは、ガハハって笑ってくださる方たちが多い。ところが、やっぱり大学の中とかでは、「冗談じゃないよ!」っていう声のほうが大きくなる。
自分の研究に対する誇りより、社会の役に立たないことに対する引け目の方が大きいんですね。
青山 はい! 私だって引け目は感じてますよ(笑)。私はそもそもの入り口が協力隊でしたんで、研究の世界とある意味では正反対だったんですよね。何もない水の 中から、どれだけのお金を作るかっていうだけで評価される、そういう価値観の中でやっていて、それがこういうとこへ飛び込んだら、全く逆じゃないですか。
「こんなお金にならなくていいのか」、みたいな。
青山 そうです、だから最初のころはものすごく自分の中で葛藤があって、そもそも研究とか学問がやりたかった人間ではなくて、要するに何にも知らないただの大学 生が、いきなり協力隊へ入って、もの作ってなんぼだみたいな世界で二年間やって、ある程度価値観というか、まあ刷り込まれますよね。で、今度帰ってきた ら、そんなもの一切気にしなくていいと。金なんか気にしなくていいんだみたいな。で、そこで悩んだっていうのもあるんですけれども。僕は向こうの世界を 知ってるから、今みたいに変なこと言うんだろうなって思います.その「おもしろいだけじゃダメですか」なんていうのは絶対怒られますからね、たぶんいつの 時代でも。
確かに普通の学者の先生の発想ではないですよね。
時間がオーバーしてしまって恐縮なのですが、最後の質問です。青山先生にとってウナギとはなんでしょうか?
青山 なんですかねえ……それは難しいですね。いや、ウナギはウナギ以外の何者でもないような気がするんですけど……うーん。
(笑)
青山 なんていうのかな……。いや、別にウナギがいなくなったらいなくなったで構わないんです。絶滅したっていいって思ってますし。
えっ。
青山 いや、絶滅させろってことじゃないですよ。でも、すべての生き物は絶滅の可能性から逃れることはできないじゃないですか。
はい、絶滅することもありますよね。
青山 例え人の手が加わらなくても、地球上から消えていった生物は数知れません.例えば今回のウナギの減少でも、もしかしたら進化的な歴史の中で、もうウナギというのは滅び行く生き物であるという可能性もあるわけですから。
でも、たった数年で絶滅しちゃうなんて変ですよね。
青山 もちろん人間が絶滅を後押ししているわけですが。話を戻すと、私にとってウナギはウナギであって、もちろんすごく面白いんですけど、常に「他にもっとおも しろいことあるんじゃないか」って考えているんですよ。そういう意味では、ウナギの研究は、今はとてもおもしろい。けれども、唯一無二の特別な存在ではな い。おもしろいものの一つであって、世の中にはまだまだいっぱいおもしろいものがありますし。
じゃあ、ウナギよりおもしろいものが現れたら、そっちに行っちゃうかもしれない……。
青山 行きます行きます! 思い切り行っちゃいます! でももう結構長い期間、大学院生から考えたら二十年、ウナギが一番面白いんですけどね。でもやっぱり、きっとありますよね。世の中絶対もっとおもしろいもの。
あるかもしれないですね。
青山 いやいや、おもしろいことだらけだと思いますよ。
青山 実は、途方もないことを考えているんですが……自前で研究船を作りたいんですよ。
おお、それは素敵ですね!
青山 大学とか一切関係なしで、自分たちの研究船みたいなものを作りたいんです。例えば大学の研究船なんかに一般の方たちを乗っけて、海洋調査の現場を見てもらうことは非常に難しいんです。
難しいんですか。
青山 現実問題としては中々……。
それどうしてでしょう?
青山 やっぱり責任論とか、色々あるんですよ。
「あ、星海社の編集者が甲板から落ちて死んだぞ!」ってなったときに、だれが責任を負うのか、ということですか。
青山 そうです。そこで、私たちが考えているのは、例えば自分たちで調査船を作って、そこに色んな人たちと一緒に乗っかって、世界中からトップの海洋研究者にも参加してもらって、ダーウィンのビーグル号航海をもう一回今の時代にやってみようじゃないかと。
うわぁ、それはワクワクしますね!
青山 ダーウィンが見た景色が百年後どうなってるのか。ダーウィンと同じようなところでサンプリングをすると、今はどんな生き物がいるのか。ビーグル号っていう のは『種の起源』の発想のきっかけになったわけですから、要するに、この百年の生物学を支えた発想を与えたんですよね。百年後の今、もう一度あれをやって みると、また次の百年を支える発想みたいなもの、たとえ私たちができなくても、それを体験した子どもたちとか、若い人たちの中に何か生まれるんじゃないか と。
最高に面白そうです!
青山 それをやりたいんですけど、お金がないんですよ、ええ。
山崎 スポンサー、集まりそうですけどね。
弊社も少しくらいなら、社長を丸め込んでひっぱりますよ! そのかわり、本を作らせて下さい!
青山 企画はね……色々と考えてはいるんですよ。
おお!
青山 例えばテレビ・クルーを乗っけて、毎週テレビ番組にして放送する。で、ビーグル号の航海が終わったら、南極と北極に行く。そうして地球を縦と横に一回ずつ 周ったら、僕が沖に行って船の栓を抜いて、沈めて保険金で全部払いますからって言ってるんですけど(笑)。実際には船の建造費が問題ですね、やっぱり…… 百数十億円ぐらいかかるらしいんですよ(笑)。
百数十億ですか! 一億円くらいだったら何とか方法があるかなと思ったんですけど、百数十億はちょっと集まんないですよね。
青山 集まんないですよね(笑)。造船会社でも「ふざけんな!」って言われました(笑)。
やっぱり研究船っていうのがハードル高いんですかね。
青山 そうです。今の百数十億っていうのは、最新の海洋調査機器とか全部積みこむことを考えての金額なんです。ただ走るだけならもっと安く出来ます。でも、そう すると普通の世界一周クルーズと変わらなくなるじゃないですか。そうじゃなくて、やっぱり研究科学の進展があるというのもおもしろいと思うんですけど。
どうやったらできるんですかね。
青山 ちょっとなにか、アイデアをいただければ……もう、行く先々で言ってるんですけど。
例えば、出資者を世界的に募る、ファンドみたいにしちゃうっていうのはありかなって思うんですけどね。ソーシャルファンディング。
青山 募金に近いようなファンドですか。
例 えば今、ソーシャルファンディングのキャンプファイヤーというサービスが日本で立ち上がっているんです。それは、目標や企画の概要がサイトに載っていて、 賛同する人が寄付ができますと。で、拠出した金額に応じて、インセンティブをもらえるんですよ。それは企画提出者が設定できるんですけど、例えば、「アフ リカにウナギを集めに行きます」と。ついては、「目標金額は五十万円です。三千円くれた人にはアフリカから絵はがきが届きます」とか。
青山 あー、そういうインセンティブ。そんなんでいいんですか?
「五万円だったら、本の奥付にでっかく名前が載ります」とか。で、例えばですけど、それで百万円寄付してくれたら、船に乗っていいよとか。
青山 そうですね……うーん、全体の金額が百数十億ですから、百万円の人を乗せたらもう甲板まで満員ですよ(笑)。
そうですよね(笑)。
青山 すでにまっとうな船のファンドってあるんですよ。で、最初はそれを考えたんですけど、やっぱり利回りを考えると研究船では難しいんです。燃料や船の維持費に加えて、十分な利益を出すのはかなり難しい。
でも、百数十億円を個人で出せる人はたぶんいないですよね。企業でも、一社じゃ絶対無理ですよね。百数十億円というのがきついですよね。なんとかならないんですかね。
青山 いや、なんとかなるとは思いますよ。例えば中古船にするとか。でも、船っていう発想を持ったときに、「やっぱり既存の船じゃやだね」っていう話になったんです。
というと?
青山 実は、外観設計まで夢は膨らんでるんです。船殻構造は、カタマランっていう双胴船で、さらに帆を付けるんですよ。その帆っていうのも昔ながらの帆布の帆 じゃなくて、カーボンファイバーで煙突みたいな形をしている。そして、船体の一番前は前面ガラス張りで、ホールにしたいんです。
(笑)
青山 世界中の港に入ったときに、現地のトップ研究者を呼んできて、そのホールで講演をしてもらう。外観が特徴的で、遠くから見て、「あっ、きた!」っていうのがすぐわかるくらいの先鋭的なデザインがいい。そう考えるとやっぱり……。
山崎 中古じゃダメだ(笑)。
青山 夢はあるけど、全く実現できないっていう感じですね(笑)。
百数十億はちょっと……うーん。
青山 そうですねえ。まあ、必ずしも日本でやる必要はないし、中国のお金持ちに出していただいたってかまわないんですけどね。
それこそ、ソーシャルファンディングで世界中の人からお金を集められるわけじゃないですか。百数十億ってことは、一万円出してくれる人を………………ダメだな。一万円じゃ全然ダメだ(笑)。
青山 世界中から一万円集めるって、けっこうなもんですよ(笑)。
もし一億人が出してくれたら、一人百数十円でいいじゃないですか。
青山 そりゃそうですけど。
一億人は無理でも、一千万人ぐらいだったら、何年もかかかるかもしれないけどなんとかなるかもしれないですよ。
青山 なんとかなりますかねえ。だから、本当はこんなのは日本人が言い出すんじゃなくて、ヨーロッパとか。
アメリカとかの人が。
青山 そうなんですよね。そうだよな、世界的な……。
ちょっと待って下さい、船を先に作って、徐々に機械を積んでったらいいじゃないですか。船を運行しつつ金を集めるっていうのもありますしね。実際に船を見せて。これからこういうことをやるんで、この航海に金を出しませんかみたいなやり方もあると思いますし。
青山 なるほど。その辺がね……ダメなんですよ。我々の周りには好き勝手に夢だけ語る奴は多いんですけど、実際に実現できる力を持ってる人が一人もいないんで(笑)。
いや、でもお話聞いてるとすごくおもしろそうですけどね。
青山 企画はいいと思うんです、絶対に。
百数十億っていうのが難しいですよね。一億円くらいだったらたぶんなんとかなるんじゃないかと思うんですけどね。
青山 一億だと、おそらく……百トンもいかない、小さなマグロ船ぐらいの。
ちょっと太平洋に出るには怖い感じの。
青山 いや、彼らはインド洋とか行きますから、それは大丈夫と言えば大丈夫なんですが……。
そうか、『どくとるマンボウ航海記』が確か600トンくらいだったような……。
青山 そうそう、そういうイメージですよね。
文学的ではありますけど、研究船としては……。
青山 さすがにちょっと(笑)。
お力になれずにすみません(笑)。今日お忙しいところ、本当にありがとうございました。
青山 いえいえ、とんでもないです。こちらこそありがとうございました。
〈おわり〉
※ 青山潤先生に百数十億円寄付して下さる方は、星海社までご連絡を!
青山潤
1967年横浜市生まれ。東京大学大学院農学生命科学研究科博士課程修了。東京大学大気海洋研究所特任准教授。
塚本勝巳教授率いる“ウナギチーム”の一員として、ウナギ研究の最前線で活躍中。
2007年、『アフリカにょろり旅』で講談社エッセイ賞を授賞。
氏名
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青山潤
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フリガナ
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アオヤマジュン
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所属
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東京大学
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職名
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准教授
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研究分野・キーワード
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うなぎ
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経歴・職歴
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2004年 東京大学 / 海洋研究所 / 助手
2007年 東京大学 / 海洋研究所 / 助教 2008年 東京大学 / 海洋研究所 / 特任准教授 |
著書
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