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円居挽のミステリ塾

円居挽のミステリ塾 第0回──円居挽のミステリ塾とは?

高口康太
2023年03月03日 更新
円居挽のミステリ塾 第0回──円居挽のミステリ塾とは?

円居挽さんと一緒に学ぶ「ミステリ塾」開講! 円居さんと新たな「ミステリのおもしろさ」を求めて5名の豪華ゲスト作家へインタビューを繰り広げた連続対談、『円居挽のミステリ塾』の一部を公開します!

『円居挽のミステリ塾』が、第23回本格ミステリ大賞の評論・研究部門の候補作にノミネートされました!

円居挽のミステリ塾

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著者:円居挽×青崎有吾+斜線堂有紀+日向夏+相沢沙呼+麻耶雄嵩
定価:1200円(税別)
ISBN:978-4-06-528065-2
レーベル:星海社新書
──────────────────

『円居挽のミステリ塾』は、ミステリ作家の円居挽さんをパーソナリティーとする対談企画。
「円居さんと一緒に学ぼう!」というコンセプトのもと、青崎有吾さん、斜線堂有紀さん、日向夏さん、相沢沙呼さん、麻耶雄嵩さん、5名の豪華ゲスト作家をお招きし、読書遍歴やミステリ創作術をインタビューしました。

このたびのノミネートを記念し、『円居挽のミステリ塾』とはなにかを紹介する第0回、そしてゲストをお呼びした第1〜5回の前半を公開します!
対談前半では、読書やミステリにはまったきっかけや、作家デビューに至るまでの読書遍歴をお聞きするなかで、ゲスト作家の方から多くの作品をご紹介いただきました。
どんな作品を読んでミステリ観を育み、作家を志したのか......まずは円居さんの読書遍歴をお楽しみください!

円居挽のミステリ塾とは?

──ただいまから、「円居挽のミステリ塾」第0回を始めます。パーソナリティーと表現するとすごくラジオっぽいですね、お話しいただくのはミステリ作家の円居挽さんです。

円居 円居です。今日はミステリ作家として喋りにきました。

──進行は星海社の丸茂が担当させていただきます。本日は、こんな謎のトークを聴きにお集まりいただきありがとうございます。当然「円居挽のミステリ塾ってなんですか?」という方がほとんどかと思うので、その第0回と称して企画内容を紹介させていただくのがこの配信です。「円居挽のミステリ塾」は、ゲスト作家の方をお招きして円居さんとミステリトークを繰り広げていただく連続対談企画です。6月から月1回ペースで開催していくつもりなのですが、どこまで続くのかは反響次第でしょうか......。

円居 ゲストは何名か決まっている方もいるんですけど、未定のところもあるんですよね。ですから、3回とかでおしまいになってしまう可能性も......そうならないように反響を見ながら調整するつもりですが、まずどんな話をするかを今回ばっちり紹介していきたいと思います。

──簡単にご説明すると、ゲストの方にどんなミステリを読んできたのかをご紹介いただいたり、円居さんにミステリ作家という立場からゲストの方の作品についてインタビューしていただこうというのが対談の趣旨です。「ミステリ作家としてどう作品を読んでいるのか?」ということを、円居さんからご紹介いただけますでしょうか。

円居 もちろんおもしろがりたいから読むっていうのが、本を読むいちばんの動機ではあります。一方で、世間でなにがおもしろがられているかを確認する作業として読んでいるところがどうしてもあるんですよ。とくに作家デビューを意識してからは、僕にとって読書は「おもしろさ」の引き出しを増やす作業になりました。

──作家として小説を書くための読書になった、ということですよね。

円居 自分の内にないおもしろさを発見して、自分の引き出しとして獲得することが目的になったわけです。僕は自分の考えるおもしろさが信用できなくなった時期がありまして、自分が信用できないから、世間がおもしろがっているものをひたすら集めたんです。デビューしてからも、そんな意識で本を読んでいます。それに、僕は同業者と「あの本どう思いました?」みたいな話をあんまりしないんですよね。きっとほかの作家さんもそうなんじゃないかな。読書会なんてデビューしたらやる機会ありませんし、お互いの小説観やミステリ観がぶつかってしまうかもと迂闊に感想を口にできないこともあるじゃないですか。でも本当はしていくべきだという気持ちもあるんです。

──この「円居挽のミステリ塾」は、そういう話をする場にしていきたいですね。

きっかけはヴァン・ダイン

──「円居挽のミステリ塾」では、ゲストの方に作家デビューに至るまで「どんな作品を読んできたのか?」、読書遍歴やデビューの経緯をインタビューしていきます。今回は円居さんにインタビューさせていただいて、「自分の考えるおもしろさが信用できなくなった」という円居さんの作家スタンスに迫れたらと思っています。まず、円居さんがミステリにハマったのはいつごろになりますか?

円居 小学生の低学年で岩波少年文庫版のホームズを祖父から渡されて、楽しく読んでいた記憶はありますが、その段階でミステリっ子になった感じではありませんでした。小学校の図書室にあかね書房の〈少年少女世界推理文学全集〉という海外の名作ミステリが児童向けにリライトされたシリーズがあって、4年生でそのヴァン・ダインを読んだんです。それがおもしろくて全20巻の残りもコンプリートしていったのが、ミステリにハマったきっかけですかね。

──本を手に取る習慣があったのは、ご家族の影響でしょうか。

円居 そうですね。祖父が読書家で、文学全集なんかがある家でした。全集を読むことはなかったですけど、家に本があるだけで興味が向くんですよ。小学生らしくゲームも好きでしたが、小4から塾に通い始めたんです。そこでゲーム禁止になってしまった。でも本は許されたので、図書室の本を読んでいくことになりました。ちなみにヴァン・ダインを読んだのは、クラスメイトがわざわざ「おもしろい本があるんだぜ!」って勧めてくれたからでしたね。

──小4でヴァン・ダインを勧めてくるなんて、すごくリテラシーが高いクラスメイトですね。

円居 そうそう(笑)。ふつうの公立小学校だったんですけどね。ただそいつも受験組で、本読み仲間がほしかったのかもしれないと、いまになって思います。〈少年少女世界推理文学全集〉を読みつくしたら、家にあった〈浅見光彦〉シリーズから内田康夫作品を、〈三毛猫ホームズ〉から赤川次郎作品を読み進めました。もちろん内容をちゃんと理解していたかは怪しいですが、それでもあの辺りのレジェンドな方々の読みやすさってすごいんですよね。キャラクターに着目して、〈三毛猫ホームズ〉だったらホームズを、〈浅見光彦〉シリーズなら浅見光彦の活躍にフォーカスして読んでいければストーリーは小学生でも追える。「売れてる作家がおもしろいのは当たり前だな」なんていうことも当時うっすら思っていました(笑)。

──早熟ですね(笑)。

円居 そこからさらにSFに出会います。教科書で星新一先生のショート・ショートに出会いまして、新潮文庫の星新一作品を読み進めました。その過程で小松左京先生、筒井康隆先生に出会うわけです。小6の読書はほとんど筒井先生にどっぷりでしたね。

京大ミス研との遭遇

円居 中学に入るとゲーム禁止から自由になりましたが、読書はふつうに続けていました。ただ本を読み進める指針がなくて、そのとき出会ったものを無闇に掘るしかないという問題に突き当たっていたんです。『スレイヤーズ』のアニメが放送されていたけど自宅のテレビでは映らなくて、せめて原作のライトノベルを読みたいなという気分はあったんですが、ライトノベルを読むクラスメイトが見当たらなかった。そんな中1の終わりくらいにクラスメイトが勧めてきたのが、森博嗣先生の『すべてがFになる』でした。

──おお、講談社ノベルス版ですよね。

円居 ですね。おもしろかったと返したら、彼が持っていた森先生の作品をぜんぶ貸してくれて。それも読みきってしまうと、京極夏彦先生の『姑獲鳥の夏』を貸してくれた。ぶ厚いのを見ると燃えるじゃないですか(笑)。そして京極先生の既刊も読み切ってしまったところで、「これはわかってくれる人がいなかった」と彼が貸してくれたのが麻耶雄嵩先生の『夏と冬の奏鳴曲』だったんですよ。

──講談社ノベルスを遡って、ついに京都大学推理小説研究会(京大ミス研)とのファースト・コンタクトですね。おもしろく読めましたか?

円居 ぜんぜん! だってあの『夏と冬の奏鳴曲』ですよ! 「わからないような、わかるような......いややっぱりわからんわ!」って読破しまして、「おもしろかった気がするけどようわからんかった......」と返しました。そしたら『翼ある闇』を貸してくれて、これはふつうに読めるしおもしろかった。なんでそっちを先に貸してくれなかったんだよと(笑)。そして、綾辻行人先生、我孫子武丸先生、法月綸太郎先生たち、京大ミス研出身の作家を追いかけることになりました。

──いわゆる新本格第一世代の方々ですね。

円居 講談社ノベルスは家の本棚にもそれなりに並んでいて、綾辻さんの〈館〉シリーズが『迷路館の殺人』まであることに気づいたりしました。

ライトノベル作家志望だった?

円居 メフィスト賞作家を読み進めるなかで清涼院流水先生の『コズミック』に衝撃を受けたんですが、そのことは「好書好日」のエッセイで詳しく書いたので割愛しますね。メフィスト賞作品をシリーズの最新作まであらかた読み尽くしてしまい、中3くらいからようやく本格的にライトノベルに突入します。『魔術士オーフェン』あたりの人気作を読んでから、角川スニーカー文庫や富士見ファンタジア文庫や電撃文庫の新人作家を順番に読んでいく感じでした。そのころには本はお小遣いで買って読んでいて、作家になりたい気持ちもありました。ライトノベルレーベルからデビューしようと思って、その参考になるかなとライトノベルのレーベル雑誌をよく買って読んでましたね。『電撃hp』に『イリヤの空、UFOの夏』〈ブギーポップ〉シリーズの短編が載っていたころです。

──ミステリでなくて、ライトノベル作家としてデビューを狙っていたんですね。

円居 小賢しいですが、ライトノベルの新人賞からミステリでデビューしようと考えてましたね。メフィスト賞ってキャラクター小説的な回路もあるじゃないですか。そんな自分の感覚とあっていた、富士見ミステリー文庫とスニーカー文庫の〈スニーカー・ミステリ倶楽部〉があったんですよ。

──米澤穂信さんの〈古典部〉シリーズが最初に刊行されたのが〈スニーカー・ミステリ倶楽部〉ですよね。

円居 『氷菓』はもちろん読んでいて、ライトノベルレーベルがミステリをやろうとしている流れを感じていたんです。

──SF作家になる可能性はなかったんですか?

円居 ミステリかSFかと選択するなら、ミステリを選ぶくらいには愛着がありました。小学生のころにはSF作家になりたい気持ちもあったんですけどね。これは正しい史観ではなく、あくまで当時の自分に見えていた景色が......という話ですが、SFっていわゆる冬の時代を迎えていると思っていたんです。一方でミステリやライトノベルは食える人は食えていそうだった。子ども心に業界というか、ジャンルの活況を感じ取っていた範囲で、比較的勢いがあるフィールドを狙ったわけです。

──打算的な小学生ですね(笑)。たしかにメフィスト賞が設立されてまもない時期ですよね。ライトノベルもレーベルや作品数が増えていて。

円居 ある作家さんの見解ですが、2000年ぐらいまでのメフィスト賞はひとやま当ててやろうという作家志望者が原稿を送っていた時代だったようです。ミステリプロパーでなくとも、当たると金になるからといろんな才能が集まっていたと(笑)。僕もそのなかに加わりたいと思って『メフィスト』本誌の座談会を読んでいましたからね。というのが、無邪気に作家になりたいと思っていたころでしょうか。

──高校生になっても、その延長で本を読まれていたという感じでしょうか。

円居 高校生になったら投稿を始めました。富士見と電撃には2、3回くらい応募したんですけれど、はしにも棒にもかかりませんでしたね。

──どんなものを書かれたんです?

円居 うろ覚えですけど、ファンタジーというか伝奇っぽい感じにミステリ要素が入った......でも、まあおもしろくないんで! 掘り下げないでおきましょう!

憧れの登竜門に入会するも......

──そして京都大学に進学して、推理小説研究会に入られたわけですよね。

円居 京大ミス研に入りたいから、京大に入ったと言ったほうが正しいですかね(笑)。インカレサークルなんで無理して京大に入る必要はないんですけど、当時はネットとも無縁で詳しい情報を知らなかったので。作家になれるコースとは言わないまでも、そこを勝ち抜けば世に出られるような作家登竜門的な空間が京大にあると思いこんでいたんです。作家になるために京大に入ったわけで......つまりバカだったということです。

──ミステリ作家登竜門みたいなイメージは、未だにあるんじゃないですか。京大ミス研って具体的にどんなことをしている場所だったんでしょう?

円居 課題図書を読んで読書会をする、ふつうの文芸サークルです。独特なのは〈犯人当て〉が定期的にあるところですかね。ただ、ここでの経験は大きかった。それまでは、読書仲間での会話って「あの作品よかったよね」みたいなふわっとした感じでした。ところがサークルに入ると「あの作品はここが悪かった」という話が増え、そこで感想の言語化の重要性を認識させられました。つまり、なんでおもしろかったか、つまらなかったのかを詳細に言語化できないとバカにされるわけです。僕は流水ファンとして入ったわけですが、「なにがおもしろいと思っているの?」と問われて、「なんとなく......」と答えるとバカにされる。そして「つまらない」と評価する先輩の言語化には、いちいち納得感があるんですよ。「すべておっしゃる通りです」と......そこで自分のセンスを信じることをやめたんですよね。投稿もいい手応えがなかったので、自分の創作に疑いを持ったんです。これは誤解していただきたくないんですけど、人間なにが好きだっていいんですよ。そんなの当たり前です。ただ創作で食っていこうと思ったときに、僕は「なにをおもしろいと思っているのか」を認識していないときついと思いました。だからこそ自分の好き嫌いをはっきり言語化して、創作に生かさなければいけないと。

──感覚的におもしろかった、つまらなかったと思うだけでは、作家デビューには繋がらないと考えたということですね。

円居 もちろん、感覚的に書いてデビューする人もいると思います。ただ自分はそんな才能はなかった。厳しい先輩に「じゃあ、なにがおもしろいんですか?」って聞くと、ちゃんと作品を挙げてそのおもしろさを他人が共有できるように説明してくれるわけです。感覚的に共感できなかったとしても、言語化されれば少なくとも理解はできる。そこで、たとえばそれまで読むことがなかった山田風太郎船戸与一のおもしろさを知ることにもなりました。新しいおもしろさのものさしを提示され、自分のなかにはものさしがないなと気づき、いろんな人の好きな本を読み漁ったのが、自分のセンスを信じることをやめてからの読書でした。

──周りにも作家志望であることは隠されていたんでしたっけ。

円居 入学したてのころは、作家志望だと軽い気持ちで口にしていたと思います。ただ『蒼鴉城』というサークルの会誌に載せるための長編原稿にボツを食らったんですよね。

──ボツ!? サークル活動で!?

円居 でも、あれはボツになって仕方ない出来でした。それで作家志望とは口にしなくなったので、デビューしたら「おまえ、書いていたのか」と驚かれましたね。

珍しいデビュー経緯

円居 1回生のときに歴史の闇の葬られた某賞に応募したんですけど結果は出ず、そこから次回作を用意するまでに時間がかかりました。書いたら確実に受賞できると思えるネタが見つかるまで、書きたくなかったんです。長編一本を支えるだけのネタが思いつかなかったのでメフィスト賞から逃げ回っていたんですけど、『ファウスト』が創刊されたんですよ。ファウスト賞という名前で中編くらいのボリュームの募集が始まって、そこに送るつもりで作品を用意していたんです。けれど『パンドラ』という後継的な雑誌が創刊されて、ファウスト賞は流れてしまった......これは御社の社長の太田さんが悪いです。なので、用意していた中編を第1話にしたゆるい長編にして『パンドラ』の流水大賞に送ったんです。それを送ったら編集の方から連絡がありました。後半はよくなかったけど、最初の話はよかったから、それをリライトして作品にしませんかと。6回生の秋のことでしたね。まあ、実際は3回生と4回生のころにも電撃大賞には2回ほど送って一次落ちしていたので、僕なりに必死だったんだと思います。

──円居さんは『パンドラ』の〈下克上ボックス〉という企画で誌上デビューしたんですよね。

円居 流水大賞には、投稿者に担当編集者がつく「あしたの賞」という......これは『あしたのジョー』にちなんだ太田さんのなんともいえないネーミングでしょうけど......枠があったんですよ。僕の担当はとくに面倒を見てくれたんです。新人ですらないデビュー前のただの投稿者に定期的に連絡をくれて、原稿に意見をくれて、そのおかげでデビューできたと思ってます。初めて自分の作品にプラスの評価をくれたということもすごく嬉しいことで、ひらめきが生まれ『丸太町ルヴォワール』の第1章ができあがりました。

──『パンドラ』に掲載したものとは別に、『丸太町ルヴォワール』の執筆を進めていたんですか?

円居 そうですね、下克上ボックスっていう企画をやるから書かないかと言われて『パンドラ』に掲載された短編をひねり出しました。あれはあんまり評判がよくなかったんですけど。2作目のほうは評価が高かったです。『パンドラ』で誌上デビューしたのは7回生のころで、さすがに7年目の学費は払わないと親から怒られていたんですけど、『パンドラ』での原稿料で前期の学費がまかなえたんです。自分の腕で自分の学費を払ったという実感はいいものでしたね。

──投稿作でデビューする形ではない、珍しいデビューの仕方ですよね。

円居 だから僕は、賞でデビューすることに未だに憧れがありますね。独力であるレベルへ達した証だと思うので。ただ担当編集者と、その編集部のトップが認めてくれれば本は刊行されるんですよ。担当編集者の顔を見ながら書けばよくって、そういうわかりやすいゴールがない新人賞は自分には向いていなかったと後になって思いますね。たまたまいい担当編集者と出会えた自分はすごくラッキーでした。

ミス研の呪縛から解放されるために

──京大ミス研で大きな意識の変化を余儀なくされた読書のスタンスは、円居さんのなかでいまでも続いているという感じでしょうか。

円居 そうですね......ただ悪い影響もあったと思うんです。ミステリ研に入ったがために、ミステリ研の人たちが納得するものを書けないとデビューできないと思い込んでしまったんですよね。

──指針になったけれど、抑圧にもなってしまったかもしれないと。

円居 いま冷静になって思うと、ミス研の感性に沿わなくてもデビューできるし、売れる作品はあるわけです。ただ未だにその呪いは残っていて、意識的に外さないといけないと思っています。どうしてもその枷を気にしすぎると、小さくまとまってしまう予感がある。セオリー全無視は論外としても、おもしろさを優先してあえて無視していいこともあるはずなんです。

──それが、デビュー以後の課題ということですね。

円居 もちろん自分の感性のままに書ける方もいると思います。ただ自分の場合は、セオリーを完全に無視すると、迷走してもとに戻ってこられなくなる予感もあるんです。セオリーを学んだうえで外していくのが自分には合っていて、ただもうちょっとそのことにはやく気づきたかったです。10年くらいはやく!

──とくに本格ミステリはセオリーが強いジャンルですしね。多かれ少なかれ、いまの作家さんは同じ課題を抱えて執筆されているのではないでしょうか。

円居 ミステリ作家には、ミス研である程度セオリーを学び自分の創作を見つけていく、僕みたいなミステリプロパータイプもいますけど、非プロパータイプの方もいますよね。あの自由さが羨ましくて、どうすればいいところどりできるかなと、最近よく考えています(笑)。

──これからそんな円居さんの問題意識と一緒に、ミステリについて話していくことになると思います。次回からの対談にご期待ください。

(2021年5月21日、ツイキャスにて配信)

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円居挽

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ミステリ作家。1983年、奈良県生まれ。2009年に『丸太町ルヴォワール』で講談社BOXからデビュー。同作から始まる〈ルヴォワール〉シリーズ(講談社)のほか、著作に『キングレオの冒険』(文藝春秋)、『シャーロック・ノート』(新潮文庫nex)など。

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