円居挽さんと一緒に学ぶ「ミステリ塾」開講! 円居さんと新たな「ミステリのおもしろさ」を求めて5名の豪華ゲスト作家へインタビューを繰り広げた連続対談、『円居挽のミステリ塾』の一部を公開します!
『円居挽のミステリ塾』が、第23回本格ミステリ大賞の評論・研究部門の候補作にノミネートされました!
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著者:円居挽×青崎有吾+斜線堂有紀+日向夏+相沢沙呼+麻耶雄嵩
定価:1200円(税別)
ISBN:978-4-06-528065-2
レーベル:星海社新書
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『円居挽のミステリ塾』は、ミステリ作家の円居挽さんをパーソナリティーとする対談企画。
「円居さんと一緒に学ぼう!」というコンセプトのもと、青崎有吾さん、斜線堂有紀さん、日向夏さん、相沢沙呼さん、麻耶雄嵩さん、5名の豪華ゲスト作家をお招きし、読書遍歴やミステリ創作術をインタビューしました。
このたびのノミネートを記念し、『円居挽のミステリ塾』とはなにかを紹介する第0回、そしてゲストをお呼びした第1〜5回の前半を公開します!
対談前半では、読書やミステリにはまったきっかけや、作家デビューに至るまでの読書遍歴をお聞きするなかで、ゲスト作家の方から多くの作品をご紹介いただきました。
どんな作品を読んでミステリ観を育み、作家を志したのか......第2回ゲスト=斜線堂有紀さんの読書遍歴をお楽しみください!
斜線堂 絶対に話しておきたいのでいまのうちに語っちゃうんですが、私が百合に目覚めたのは『らき☆すた』からでした。こなたとかがみから。なんだろう......いちばん心にきたのが、かがみが別のクラスになっちゃうところですね。
──3年生に進級するタイミングでクラス替えがあって、けれどかがみだけ2年生のときと変わらずこなたたちとは別クラスになっちゃうんですよね。
斜線堂 中1くらいのときに観たので、クラス替えというものの比重が当時の自分にとっても大きくて。「かがみ、なんてかわいそうな......」って思ったんです。ただ、こなたがかがみを励ましているのを見て......「かわいそうなはずなのに......この隔たり......慰め......なんだこの気持ちは!」ともなったんです。彼女たちが引き離されることに喜びに近いなにかを覚えて......。
──......なるほど。
斜線堂 クラスが離れたことで、ちょっとかがみがシュンとしているところを見れるし、こなたが励ましてるとこも見れるし。かがみがこなたに「離れちゃってせいせいしてる」みたいな強がった態度を取ってしまうのを見たときに、目覚めたものがありました。ここから『東方』に入ったりとかして本格的に百合を意識することになりますが、やっぱり原点は『らき☆すた』ですね。
──『東方』はなにから入ったんですか。
斜線堂 ゲームからですね。ずっと昔からゲーマーだったので。『東方』には妹紅と慧音というキャラクターがいて、ふたりのカップリングはもこけーねと呼ばれているんですけど......ここから寿命差のあるカップリングにハマるんです。
──わかりますー!
斜線堂 わかるでしょ。妹紅と慧音だと、慧音が基本的に亡くなってしまうわけなんですが......。
──はい。というところで、円居さんがいらっしゃいました。
円居 おつかれさまです......なに話してるんです?
──斜線堂さんの百合の原点について語っていただいてました。円居さんもいらっしゃったので、第2回「円居挽のミステリ塾」を始めます。今回のゲストは、もう滔々と語っていただいております斜線堂有紀さんです。
斜線堂 はじめまして! 斜線堂有紀と申します。
──斜線堂さんから「円居塾トレンド1位、目指そうよ」とおっしゃっていただいたので、ぜひこの配信の感想を「#円居塾」でツイートしていただけると嬉しいです。
斜線堂 トレンド入り目指そうっていう気持ちでやっていきたいと思います。いやあ円居塾のトレンド入り見たいなあ~!
円居 いや、この配信を1000人ぐらいが聞いてないと無理じゃないですか!
──おひとりさま10ツイートぐらいしていただければワンチャンあるかもしれません。
円居 ノルマ制じゃないよね?(笑)
──もちろんです(笑)。みなさんさえよろしければ、お願いします!
斜線堂 よろしくお願いしますね!
──最初のトークテーマは「作家・斜線堂有紀をつくったミステリ」になります。斜線堂さんは2016年に『キネマ探偵カレイドミステリー』で電撃大賞のメディアワークス文庫賞を受賞、翌年に刊行されてデビューされました。まず斜線堂さんの読書体験から聞いていきたいと思いますが、ミステリに限らず、読書にハマったのはいつごろになるでしょうか?
斜線堂 小さいころから身体が病弱だったので、外に出られなくてずっと本を読んでいたタイプでした。小学1、2年生のころから青い鳥文庫を買ってもらってたんですよ。外に出られなかった時期に、はやみねかおるさんの〈夢水清志郎〉シリーズをぜんぶ買ってもらいました。文字を読むのがけっこう速くて、漢字に振り仮名が振られていればなんでも読めるタイプの子どもだったので、両親は「時間を潰させるために読ませちゃえ!」みたいな感じでしたね。
──ご両親も読書家だったんですか?
斜線堂 いや、まったく本を読まないタイプでした。父親はビジネス書とか経済の本、あるいはノンフィクションしか読まないみたいなタイプの人で、小説というものをまったく読まなかったですね。ただ基本的にお家のルールとして、本はほしがったらなんでも買ってもらえました。
──おお、羨ましいです。
斜線堂 本屋さんに行って気になるものがあったら、指差すと買ってもらえました。そうしてとりあえず片っ端から買ってもらって、青い鳥文庫と同時並行で星新一を読んでいたっていう感じです。病院に行く前に、ご褒美として近くの本屋さんで1冊、新潮文庫の星新一作品を買ってもらえるルールだったんですよ。私は注射がすごい嫌いで、診察になるとお医者さんを蹴り飛ばして逃げるくらいだったんです。
円居 ぜんぜん元気じゃないですか(笑)。
斜線堂 看護師さんが追っかけてきて、なんとか私を押さえつけるくらいで。「人殺し!」みたいなことを言って私が泣き叫び、「君を助けようとしてるんだ!」ってお医者さんもキレる。それが怖くてまた泣く。両親も怒る。「我慢するって言ったから本を買ってあげたんだよ!」って。でも小さい子に言っても、そんな約束は30分後には無効になってるんですよ。
──この瞬間に感じている恐怖がすべてだと(笑)。
斜線堂 「知るかそんなもん!」って。そして、めちゃくちゃ泣き腫らした顔で車に乗りながら本を読むという。
──〈夢水清志郎〉は、当時の青い鳥文庫の看板シリーズでしたね。
斜線堂 やっぱり青い鳥文庫でいちばん目立つところに置いてあったから手に取ったと思います。
──はやみねさん以外でお好きになった作家さんは小学校のときはいらっしゃいました?
斜線堂 青い鳥文庫だと『いちご』のシリーズと、〈クレヨン王国〉シリーズが印象にあります。ほかの児童書だと、『ハリー・ポッター』はやっぱり読んでいて、あとは『デルトラ・クエスト』とか『ダレン・シャン』とか、王道なところを読んでいました。
──図書室の人気作たちですね。とはいえ、読書の中核はやはり星新一とはやみねさんにあったという感じでしょうか。
斜線堂 そうですね。やっぱり星新一先生の作品はもうすごいおもしろかった。当時小学生だったからオチがわからない話やちょっとアダルトな話もあるんですが、それも含めておもしろかったです。はやみねさんの作品については、夢水清志郎から知った名探偵という存在が素直にかっこいいと思いました。いろいろ事件が起こるけど、夢水清志郎が「さて......」と解決編を始めると、絶対に解決する。ただ、それよりも〈怪盗クイーン〉シリーズを読んで怪盗のかっこよさにもめちゃくちゃ憧れていました。
円居 そっちなんですね。
斜線堂 私はどちらかというと名探偵よりも怪盗派でした。怪盗クイーンはかっこいい......アニメ化うれしいな。ノワールというほど暗黒な感じではないですが、ピカレスクロマンにかっこよさを感じるタイプなんです。
斜線堂 青い鳥文庫のはやみね作品を全部読んでしまうと、〈虹北恭助〉シリーズというものが出るらしいぞと講談社ノベルスに手を伸ばすわけです。「うわあ、〈虹北恭助〉すごく好き!」と思うと同時に、本の形も衝撃的だったんですよね。文庫でもないし、ハードカバーでもないし。
──細長くて、基本的に二段組で(〈虹北恭助〉シリーズは一段組)。
斜線堂 そして巻末に『多重人格探偵サイコ』のノベライズの広告が載っていて、もう死ぬほど怖いんですよ。植木鉢に生首が刺さってる絵が載ってて、怖すぎてそのページを切り取ったくらいでした。でも図書館に行ったときに、つい借りたんですよね。読んだらまあ怖かったんですけどおもしろくて、「講談社ノベルスってぜんぶおもしろいんだ!」と思ってメフィスト系の作品に触れていくことになります。これが小6ぐらいのことです。
──はやいなあ。僕は斜線堂さんとほぼ同年生まれですが、ノベルスに到達したのは中学生でした。でも、最初に手に取ったノベルスは同じく〈虹北恭助〉でしたね。
斜線堂 青い鳥文庫からの導線が引かれてたんですよね。そして、次に手に取ってしまったのが佐藤友哉さんの『フリッカー式』でした。笹井一個さんの装画になる前の、おしゃれで爽やかな写真の装丁で。読んだらもう、本当に意味がわからなかった。なんか残虐な描写もあるし、エログロ的な要素もすごく強いのに、でも会話がものすごくおしゃれだったんですよ。もうそれで『フリッカー式』にどハマりしてしまって、鏡稜子さんっていうキャラクターのセリフを抜き出して写経をしました。「鏡稜子さんになりたい!」って状態で小6から中学生になってしまったんですよね。
円居 ヤバいな(笑)。お医者さん蹴っ飛ばすよりヤバいって思っちゃうな、素直に。
斜線堂 とくに『エナメルを塗った魂の比重』が鏡稜子さんが主役のストーリーで、教室の机の上に立って口上を述べる鏡稜子に異常に憧れてしまうわけです。「講談社ノベルスっていうのは最高のレーベルだ!」と、『メフィスト』や『ファウスト』や『パンドラ』も読んでズブズブにハマっていきました。ただ、ここがミステリに進まなかった分岐点でもあって、佐藤友哉さんの作品ってサリンジャーの引用やオマージュ表現がものすごく多いんです。だから私はまずサリンジャーに行ったんですよ。サリンジャーに行って、村上春樹さんに行って、英米文学中心に海外文学にのめり込むようになっちゃったんです。
──英米文学というとどのあたりですか?
斜線堂 その当時ハマってたのは、ポール・オースターとフィッツジェラルド。村上春樹さんが訳している作家が中心でしたね。『水没ピアノ』で鏡創士が「少しは本を読んでおくべきだね。あなたはポール・オースターも知らないのか? その歳で」って言うんですよ。それで「そうか、ポール・オースターを読んでないといけないんだ」と思って読み始めるという。読んでみると、自分の好きな文体だったのでどんどんのめり込んでいきました。
円居 わかりますよ。作中で作者の方の趣味であろう本のタイトルが出てくると、なんか読まなきゃって思っちゃいますよね。
──やっぱり講談社ノベルスのなかだと、佐藤さんが一際決定的な読書体験だったと。
斜線堂 そうですね。舞城王太郎さんや西尾維新さんも大好きだったんですけど、いちばん刺さったのが佐藤友哉さんでした。会話がとにかく好きだったんです。「この会話をしている世界の住人になりたい」「このかっこいい文体の世界のなかに行きたい」と思わされました。鏡稜子が言ったことはだいたい真理なんだって思っていた中学生ですよ......やだよ、鏡家のキャラクターになりたい中学生なんて。いま、すごい顔が熱くなってしまった。
──ちなみに円居さんにとって、そういう憧れのある作家さんはどなたですか?
円居 え、俺にそれ刺す? 「この会話がおしゃれ」「地の文おしゃれ」って思った作品は、矢作俊彦さんの『マイク・ハマーへ伝言』ですかね。けっこう昔の作品なのに、この達成がなされていたのかという感動がありました。『丸太町ルヴォワール』には、ちょっとその名残があるんですよ。いまだともう書けない恥ずかしい文章でもある。
──円居さんは、清涼院流水さんからの影響は公言されてますけど、西尾さん、舞城さん、佐藤さんたち『ファウスト』に執筆していた作家はどんな存在でしたか。
円居 間違いなく影響は受けています。ただ『ファウスト』を読んでいた大学生の当時、僕はもう作家志望だったんです。そこで『ファウスト』の編集長だった太田さんのスタンスとしては当然「西尾・舞城・佐藤の劣化コピーだったらいらない!」というものですから、そこから離れないとはねられてしまう。もちろん視線は切らさずに、ちょっと距離を置きつつ別のオリジンを求めないといけないと思って、見つけたのが矢作俊彦先生ですね。見つけ出すまでに3年間くらい彷徨い続けたので、長い遠回りをしたなという反省もあります。
斜線堂 高校生になると、純文学を異常に読むことになります。芥川賞の受賞予想をするのが好きでしたね。
──つまり本だけでなく、五大文芸誌を読まれていたと。早いなあ......。
斜線堂 高校の図書室がけっこう充実していて、文芸誌がほとんど揃っていたんです。私は高校時代にちょっとスレていて、授業なんか出ねーよと図書室に行ってたんですよ。そこで純文学を読むようになった。
──差し支えない範囲で聞きたいんですけど、スレてしまったのはなんでですかね。
斜線堂 勉強が本当に嫌いだった。
円居 身もふたもないこと言わないでください(笑)。
斜線堂 高校生活において私が好きだったことって友達と遊ぶことだけだったんですよ。文化祭のときとか体育祭のときだけ異常に元気で、そのほか全部嫌いみたいな感じでしたね。授業めちゃくちゃサボってました。親には学校行ってると言いつつ、実際は高校近くのマクドナルドで延々と100円のコーヒーを飲んでるとか、休み時間に友人とご飯だけ食べる、みたいな。そのころから作家になりたいというか、なんか小説を読んでくれみたいな気持ちがあって投稿を始めたんです。当時、河出書房新社の文藝賞にすごく憧れていて、初投稿で最終選考一歩手前まで残ったんですよ。その成功体験が私を狂わせて「じゃあ作家になるか!」と思ってしまった。
──投稿されたのはどんな作品だったんですか?
斜線堂 水辺に自殺志願者のOLがいて、中学生がそれを家に連れ帰って飼う話でしたね。しかも風呂場で飼うんです。
円居 ザ・佐藤友哉フォロワーだ!
──佐藤さん以外で好きな作家はいましたか?
斜線堂 まず川上未映子さんがやっぱり好きで、中村文則さんにもハマってましたし、王道に小川洋子先生も好きで、円城塔さんもすごく読んでましたね。あと西村賢太さんも、『どうで死ぬ身の一踊り』を読んでなんてかっこいいんだと。田中慎弥さんも『神様のいない日本シリーズ』を読んで、なんて綺麗な話を書くんだと感激しました。そんな明るい話ではないんですけど、これを書く人はすごく優しいだろうと思っていたので、芥川賞の受賞会見をテレビで見てびっくりした思い出があります。
──芥川賞を「もらっといてやる」という、選考委員だった石原慎太郎への皮肉めいた発言が話題になりましたね。
斜線堂 そうそう、「『神様のいない日本シリーズ』を書いた人はこんな感じなの?」って......でもすごく好き。
──純文学と言っても、近代文学より日本の現代作品を読んでいたんですね。
斜線堂 そうですね。古典に触れ始めたのは大学に入ってからでした。純文学ガチ勢の先輩に「お前の解釈は甘い」「それで読めていると思ってるのか?」「お前が読書に使ってる時間は人生の無駄だ」と解釈バトルみたいなものを挑まれてからちゃんと向き合ったんです。
──強烈なエピソードが出てきましたので、大学時代のお話に入りましょうか。どういった興味で学科を選ばれたんですか?
斜線堂 さっきも言った通り本当に勉強がすごく嫌いで、オープンキャンパスなんて1回も行かなかったんですけど、やりたいこともないし進学しなければならないと。そのときに読んでたのがスティーヴン・キングの『ゴールデンボーイ』という、元ナチスの老人と暴力的なものに惹かれる少年の話だったので、ちょうどいいやとドイツ文学科に入りました。でも大学1年生のときに、また授業についていけなくなるんですよ。試験があって、大学に入ったら勉強しなきゃいけないんだということに初めて気づきました。
──それはそうです!
斜線堂 週5でドイツ語の講義があったんですけど、私はいまでもドイツ語は「おはよう」と「おやすみ」しか言えないし、自己紹介もできない。自己紹介もできない人間がドイツ語で授業を受けているので、もちろん授業についていけない。落ちこぼれて、投稿の熱も冷めちゃってましたね。無気力期がやってくるんですよ。大学選び失敗しちゃった、もう無理やろこれ、みたいな。とはいえ翻訳されたドイツ文学は読めるので、友人のトーマス・マンについてのレポートを代筆し、代わりにドイツ語の課題をやってもらうとかの変則闇取引で切り抜けていました。ドイツ文学って自分と世界の対比とか、不条理に対してどう向き合うかがテーマにあるものが多いんです。それはけっこう肌に合っていて、「ドイツ文学おもしろいな」と思いながら、のんべんだらりと過ごしていました。
──解釈バトルを行っていたのは文芸サークルですか?
斜線堂 「あそこ入ると留年するぞ」って言われてる魔のサークルでの話です。メンバーは10人くらいいるはずだけど、私と先輩しか多読家はいない、若干壊滅してるところでした。私は純文学の解釈がまったくわからなくって、どちらかというと読むよりも書いて部誌に載せたいタイプだったんです。だけど、その先輩がトガっていた時期に「お前の書くものは本当にポリシーがない」と言われたんですよね。「お前はそのままだと読み捨てられる売文家になるばかりだ」「1年ちやほやされて、あとは読み捨てられるばかりのものを書いてなんの意味があるんだ」って。
──大学生が大学生に言うセリフとは思えない語気の強さですね(笑)。
斜線堂 それでその先輩のもとで文学についていろいろ学ぼうと思ったんです。......あの人は自分の書く小説はつまらないくせに、人の小説に文句をつけるのはなんなんだ......とは当時から思ってましたけど。
円居 (爆笑)。
斜線堂 その先輩が自分視点で純文学の講義をするような読書会があって、でも私にはない視点だったので興味を持って聞いていたんです。あの人がおもしろいって言っている価値ある作品を読んでいきながら、自分では初心に帰ってミステリを開拓していきました。
──そこから投稿をするモチベーションを取り戻すまでには、どういったことがあったんですか?
斜線堂 なにがあったかっていうと、就活をしなきゃいけないんですね。
──圧倒的現実だ!
斜線堂 大学3年生になった時点で卒業に必要な単位数の3分の1しか取れてなくて、これはまずいぞと。どうせ就活しても無駄だし1年は留年するだろうと思って、とりあえず投稿を始めました。大学2年生でもたまに投稿していたんですけど、本腰を入れなければと大量に投稿し出したのが3年生からですね。就活を意識しながらも、現実逃避のように回る椅子に座ってクルクルしながら小説を書いていました。
円居 どのくらいのペースで投稿していたんですか?
斜線堂 月1で書いて投稿してました。応募作の使い回しもしてましたけど。なので、私が受賞した電撃大賞の年には、受賞作以外にも5作ぐらい選考に残ってたんですよ。
円居 ショットガンかよ。
──投稿先はどちらでしたか?
斜線堂 文藝賞と電撃大賞に絞ってました。文藝賞は高校生のときの1回が手応えがあったからで、電撃大賞は選評がもらえるからです。電撃大賞については一次選考で落ちたことがなくて、絶対選評もらえるところになっていたんですよ。
円居 マウントを取られましたね(笑)。
斜線堂 最初の投稿をしたときから、とある編集さんが私に向けて選評を書いてくれて、それが文通みたいになってたから投稿を続けていたところがあります。ちなみにメフィスト賞は1回ボコされてから、ちょっと......。
──ミステリでデビューしようという感じではなかったんですね。でも電撃大賞ってライトノベルのイメージが強いのですが、投稿されていたのは文藝賞にも投稿するような純文志向の作品だったんですよね?
斜線堂 そうですね、電撃文庫もメディアワークス文庫も読んでなかったんですけど、でも選評が返ってくるってことはこれで合ってるんだと思っていたんですよ。ライトノベルはほぼ読んだことがなくて、読んだのは谷川流先生の『涼宮ハルヒの憂鬱』と、野村美月先生の『うさ恋。』くらい。
円居 どっちも電撃文庫じゃない!
斜線堂 指針がわからないから感想がほしいという気持ちで送り続けていました。
円居 ちなみに投稿作を、サークルの先輩に読ませて反応を見たりとかしてたんですか?
斜線堂 例の毒舌な先輩にはずっと読んでもらっていました。
円居 それだと手応えもらえないんじゃないですか?
斜線堂 いや手応えはありました。「お前のテーマはわかる。でもこのテーマで、この結末に落ち着くのは思想の鋭さに対して合っていない」みたいなことを言われてました。先輩は純文学に誘導しようとするから「お前にはわかってない」なんて言うんですけど、私はエンタメとしてはこっちですよねと内心口ごたえしてました。本当にチクショウと思ってましたね。
──すごい先輩ですね。いまでもご縁が続いてるんですか?
斜線堂 その先輩はいま、編集者になっているんですよ。なので、いるべき業界にいるなあと思ってます。たまに近況報告がてらご飯を食べたりしてますね。
斜線堂 デビュー作の『キネマ探偵カレイドミステリー』は、文通状態になってた編集さんから「今年もおもしろかったですけど、あなたはレーベルカラーを意識していない。一度でいいからウチで出せそうなものを書いてみませんか」という感じの選評をもらって書きました。「選評がくるからこの路線でいいと思って投稿し続けてきたけど、そうだったんだ!」と衝撃でしたね。それでライトミステリーはメディアワークス文庫からけっこう出てるから、その路線でいこうと応募しました。そのあと「2巻を出しましょう」と言われ、「え!? 2巻を出すってことは、これをもう1回考えなきゃいけないのか」となにもわからなくなってしまい、ミステリを慌てて読み始めたんですよね。デビュー後は大学時代に輪をかけて、ミステリを読みました。
円居 そっか、デビュー後でも間に合うんだ......。
斜線堂 自分の才能のなさを痛感していた日々でしたが、でも努力でどうにかなるはずだと考えている筋トレ思考だったんですよ。いまでも「数を読んで分析すれば、自分でもどうにかなるはず」と思ってます。
──ミステリ以外の入力があれば、違う出力が斜線堂さんから出てくるかもしれないわけですね。
斜線堂 そうなんですよ。〈異形コレクション〉とか、『SFマガジン』に掲載する短編を依頼されたときも、そこから〈異形コレクション〉のバックナンバーをいっぱい読むとかSFを大量に読むとかして書きました。つくりかたの骨子はあまり変わってないですね。依頼をされたら、とりあえずその分野の研究から入ります。
円居 いやー、力技ですね。思っていた以上にヤバかった......。
──僕は「ゼロ年代最高!」みたいなトークになるかと思っていましたが、かなり予想外な読書遍歴とパワーがあるデビューの経緯を聞けました。
斜線堂 でも私の読書遍歴も創作も、すべて佐藤友哉さんから始まってるんです!
(2021年7月17日、ツイキャスにて配信)
*第2回対談後半の内容は、『楽園は探偵の不在なり』ネタバレあり読書会となります。続きが気になる方は、ぜひ書籍もお求めください。
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