最終目標に「世界中の広告を焼燬[しょうき]すること」を掲げ、ソーシャルメディア上に突如現れた悪戯広告結社『反広告社』。勝手広告をつくり、“クライアント”への勝手掲出を生業とする彼らの活動動機はなんなのか、目指す先はどこなのか……。独占インタビューをお届けします。
取材:柿内芳文・今井雄紀 構成:今井雄紀
今井 本日はよろしくお願いします。
反広告社 本日はお声がけ頂き、恐悦至極でございます。よろしくお願い致します。
今井 まず、反広告社さんの組織構成について伺いたいんですが、何名ぐらいでやってらっしゃるんでしょうか?
反広告社 北は北海道から南は九州まで全部で40名、活発に動いているのは8名ぐらいですね。18歳の女性もいれば、病床の60歳のもの、広告が本職のものもいます。彼女や彼らに会ったことないので、事実かどうか定かではありませんが。女性が多いですね。
今井 会ったことないってことは、全体会議とかそういうのはないんですか?
反広告社 ございません。会いたいと言われれば会いますが、基本的に会いません。ターゲットにする企業・団体についても完全に自由、構成員がそれぞれ自由に広告を作って私宛に送ってくるので、その中から発表価値ありと思ったものを掲載する仕組みです。
今井 すごく、自由にやられてるんですね。
反広告社 はい。ルールというルールはありません。ただ、私共の方針に合致しない広告の場合、理由を説明し掲載を見送る場合があります。例えば実務家に少しでも負けてるコピー、嘘が入ったコピー、笑えないコピー、今この社会に出す必要がないコピー、私たちが言う必要のないコピー等です。改善余地があると考えた時は、私も一緒になって代案を制作します。伊勢丹の「恋が着せ、愛が脱がせる」やLUMINEの「悪い女ほど、清楚な服が、よく似合う」、JR東日本の「愛に雪、恋を白」に勝てるコピーとは何か、四六時中考えています。
今井 なるほど。基本、全部メールでやってるわけですよね? 議論が紛糾することはありませんか?
反広告社 あります。内部での喧嘩は好物ですね。相手の案を潰すか私の案が潰されるかの緊張状態を経ると、最初の案よりグッと引き締まる。
今井 最初は、ひとりではじめられたんですか?
反広告社 そうですね。孤独に終えるつもりでした。これだけ賛同者が現れたという事実は、広告へのフラストレーションが現代人にとって普遍的なものであるということでしょう。
今井 こういった活動をはじめようと思ったきっかけはなんだったのでしょうか?
反広告社 ある日の晩餐中、ソフトバンクのCMを見て感じたことが発端です。お父さんのやつですね。誰もが退屈と感じるのに、誰もそれを言わない。言えないのかもしれません。もう数年間同じシリーズ且つマイナーチェンジを繰り返して、『サザエさん』みたいに生活に溶け込んでしまった。では、スマップも上戸彩も存在しないソフトバンクの広告をゼロから再構築できるかと言われると、簡単には浮かばない。大量露出のマジックです。ステマと呼ばれる手法や、スマホでついクリックしてしまう位置に置いてあるバナー広告もそうですが、とにかく広告が卑怯になっていると感じています。広告とは本来、ワンメッセージ&ワンビジュアルで語られるものであったはず。その可能性を探求したいと考えるに至りました。
今井 実はインタビュー前から思ってたんですけど、広告のこと、すごくお好きですよね?
反広告社 愛しています。同世代で私より広告のことを好いている人間はいないでしょう。
柿内 ビジュアル+コピーだけっていうのがいいですよね。そしてそれを街に掲出してしまうという……。
今井 貼りやすい、あるいは貼りにくい場所とかあるんですか?
反広告社 貼りやすいのは日本郵政。すぐに破棄されてしまいますが。貼りにくいのはどこでしょう。一度、JRの駅で貼ろうとして、「君ィ、ちょっといいかな」と駅員に声をかけられました。逮捕の危機ですね。イタリア人に日本語の美徳を説明する気分で、何故貼ろうとしているか、これにどんな意義があるか説明しましたが、屈服させることができず、撤退を余儀なくされたことがあります。元来違法行為であるということは十二分に承知しておりますゆえ、器物損壊程度も最小限で済むよう、剥がれやすい両面テープで貼っています。何の言い訳にもなりませんが。
今井 イリーガルなことをしているという自覚はあるんですね。
反広告社 私が逮捕されたらその新聞記事を御笑納ください。広告に使っている写真も、ネットで拾ってきたものがほとんど。弊社も相当な卑怯者です。
今井 このプロジェクトは、どうなったら成功だと言えるんでしょうか?
反広告社 弊社が無断で作り、発表している広告を、ターゲットが自社広告として使いはじめた時です。そうなってはじめて、既存の広告会社を打破したと言えると考えます。弊社の活動が終わるとしたら、そのときです。
柿内 いいですね!うちも、K社を子会社化したら勝ちだと思ってます!
反広告社 すばらしい目標ですね。
今井 同世代に向けてメッセージを投げるとしたら、なんでしょうか?
反広告社 独り言であれ便所の落書きであれ、ソーシャルメディア全盛のこの時代においては、誰でも言いたい事を言いっ放しにすることが可能です。政治や企業炎上報道に義憤を憶えそれを呟いてはすぐ忘れる、そんなサイクルを繰り返し過ぎた時代。そういった特殊な感情を宛先不明の場へ言いっ放しにするのではなく、誰かにぶつけるべきだし届けるべきだと考えます。私共は青臭くてどうしようもない連中ですが、そこに文化を変える可能性があるはず。誰だって何かを疑い、怒り、声を上げることができる。別の誰かに叩かれるかもしれませんが、それでも愛せる何かを、誰だって一人ひとつは持っているはずです。そこを大事にして頂きたい。
柿内 いいですね。なんか勝手にですけど、僕と似た空気を感じます。僕がもっと若くて、反広告社のことを知ったら、入れてくれって言ってるんじゃないかな……(笑) そして、メールで大喧嘩してると思う。違ったら申し訳ないんですけど、自分のやってることを他人がやってたら、すごく嫌悪してると思いませんか?
反広告社 それは……あるかもしれませんね。嫌に思うというよりは、腹がたって仕方がなくなっていると思います。デザインもレベル低い、パクリ、こんなことやってる連中がいたら、批判記事を認めて悦に入った後に、下唇を噛み千切って死んでますね。
柿内 ですよね? でも一方で、自分のやってることをかっこいいとも思っていませんか?
反広告社 一度もかっこいいと思ったことがありません。正しい、とだけ思ってます。法的には黒くとも、江戸時代から続く日本の広告史に於いて全的に正しいと思いたい。
柿内 正しいかー。確かにその感覚はわかる気がします。僕も、星海社新書の最後に入れている宣言文とか、こないだ発表した檄文とか、どっちもすごい恥ずかしいんですよ。でも、正しいとは思ってるんですね。いやーわかるなー。親近感湧くわー。会えて嬉しかったです。ありがとうございました。
今井 確かに2人には、似た狂気を感じます……。今日はありがとうございました。
反広告社 ありがとうございました。
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