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HOME > 連載 > 続・江戸しぐさの正体 > 第14回:文部科学省と「江戸しぐさ」

続・江戸しぐさの正体

第14回:文部科学省と「江戸しぐさ」

2015年07月28日 更新
第14回:文部科学省と「江戸しぐさ」

 百万都市・江戸の人々は、「傘かしげ」「肩引き」「こぶし腰浮かせ」といったしぐさを身につけることにより、平和で豊かな生活を送っていた。しかし、幕末に薩長新政府軍によって江戸市民は虐殺され、800とも8000とも言われる「江戸しぐさ」は断絶の危機に瀕した……。

 このような来歴を持つ「江戸しぐさ」は、現在では文部科学省作成の道徳教材にまで取り入れられるようになった。しかし、伝承譚の怪しさからも分かるように、「江戸しぐさ」は、全く歴史的根拠のないものなのである。

 実際には、1980年代に芝三光という反骨の知識人によって「発明」されたものであり、越川禮子・桐山勝という二人の優秀な伝道者を得た偶然によって、「江戸しぐさ」は急激に拡大していく……。

 この連載は、上記の事実を明らかにした「江戸しぐさ」の批判的検証本『江戸しぐさの正体』の続編であり、刊行後も継続されている検証作業を、可能な限りリアルタイムに近い形でお伝えせんとするものである。

相次ぐ懐疑的立場からの報道

 今年(2015年)に入ってから7月中旬現在までで、「江戸しぐさ」に関するマスメディアの批判的報道としては次のものがあった(『江戸しぐさの正体』書評、拙稿の掲載を除く)。

 

※『フライデー』1月30日号
「捏造された歴史を教えて“美しい国ニッポン”づくり 小学校道徳教科書に載る“江戸しぐさ”はウソだった」
※TBSラジオ『夢★夢Engine!』3月7日放送分
※TBSラジオ『萩上チキSESSION22』4月2日放送分
※東京新聞4月6日付朝刊記事
「“江戸しぐさ”史料の裏付けなし 国や自治体がもてはやす 道徳の教材で学ばせる 伝統を隠れみの・・・“科学軽視 危うい”」
※TBSテレビ『NEWS23』6月25日放送分
「”江戸しぐさ”に疑問 日本の伝統?それとも」
※『サンデー毎日』6月19日号(7月7日発売)
「道徳教材に掲載 江戸しぐさ "偽物の歴史" 専門家から批判噴出」
 
 

 これらの報道ではいずれにも私のコメントもしくは出演箇所があるが、私が感慨を覚えずにいられなかったのは、これらの中で文部科学省やその関係者のコメントが報じられたことである。

 

 馬場喜久雄・元文部科学省総合初等教育研究所室長「(教材作成にあたって)NPO法人江戸しぐさのホームページなどを参考にした」
 美濃部亮・文部科学省教育課程課課長補佐「道徳教材はNPO法人の主張を参考にしていない。江戸しぐさが歴史的な事実だとは言っていない」
(以上、『東京新聞』)

 

 文部科学省「新聞や公共広告でも取り上げられ、ある程度の認知がある中で題材としました。歴史的事実なのかの議論はあると思いますが、江戸しぐさを推奨するものではなく、マナーを教える方法の一つなんです」
(『サンデー毎日』)

 
 

個人や地方新聞を軽んじる文部科学省

 さて、私は『江戸しぐさの正体』初版刊行直後、文部科学省に次の文面の書留を出したことがある。


  文部科学省初等中等教育局教育課程課長様

 拝啓、ますますご清栄のこととお喜び申し上げます。
 私は歴史研究の一環として江戸時代の町人哲学と称される「江戸しぐさ」の成立と伝播について調査している者です。
 さて、貴省にて発行しておられる『私たちの道徳 小学5~6年』について疑問に思うことあり、つきましては発行者たる貴省の窓口たる貴課に直接問い合わせたく一筆差し上げる次第です。


 ◎典拠・資料の選定の経緯について
1、『私たちの道徳 小学5~6年』について採用する典拠・資料の選定もしくは編集方針について議事録は残っているのでしょうか。
2、前項で述べたような議事録が残っている場合、それを閲覧するためにはどのような手続きをとればよいでしょうか。

 ◎「江戸しぐさに学ぼう」の典拠について
3、『私たちの道徳 小学5~6年』56~59頁に「江戸しぐさに学ぼう」という見開きがありますが、奥付ページの原作・出典一覧にはこのページの典拠が記されておりません。なぜ、このページの典拠についての記載は欠落したのでしょうか。
4、この「江戸しぐさに学ぼう」の実際の典拠は何だったか、文献名をあげて説明していただければありがたく存じます。

 ◎「江戸しぐさに学ぼう」の記述者について
5、『私たちの道徳 小学5~6年』では個々の記事の記述者の名は示されておりません。また、イラスト担当者の名も奥付ページに列挙されるのみで個々のイラストが誰の手になるものかは示されていません。つきましては「江戸しぐさに学ぼう」の本文執筆者ならびにイラスト担当者の名をご教示いただくたくお願い申し上げます。
6、『私たちの道徳 小学5~6年』では本文記述者の名が明記されておりませんが、個々の本文について文責は誰に帰すべきものと判断しておられるか、貴省の見解をご教示いただければありがたく存じます。

 ◎登録商標について
7、拙著『江戸しぐさの正体』35~37頁にて示した通り、「江戸しぐさ」という言葉は用途に応じ、その出所を受給者に意識せしめる性質を持つ登録商標です。その適当範囲には印刷物も含まれております。
貴省はその点を調査された上で貴省の印刷物である『私たちの道徳 小学5~6年』に「江戸しぐさ」の語を採用されたのかどうか、その点についてご教示いただければありがたく存じます。

 以上、1~7についてここに問い合わせる次第です。
 この書簡に次のものを同封いたします。
A・拙著『江戸しぐさの正体』1冊(資料として謹呈)
B・2014年9月7日付朝日新聞掲載分書評コピー1点(資料として謹呈)
C・2014年9月7日付中国新聞掲載分書評コピー1点(資料として謹呈)
D・切手140円分(定形外郵便100g以内1通分)
E・返信用封筒1通

明快なる返答を賜りたくなにとぞよろしくお願い申し上げます。

                      敬具
2014年9月25日

(以下、差出人住所氏名電話番号)

 

 さて、返信は期待していなかったが、念のため、届いたかどうかの確認という名目で文部科学省に電話を入れてみた。

 要件を伝えたところ、文部科学省初等中等教育局教育課程課第一係の担当者という方が電話を代わり、こちらからの質問に対し次の回答を行なってくれた。

 

1、2
教材は作業部会での作成につき議事録にあたるものは残っていない。

編集方針については下記に示された通りである。
平成25年5月21日付・道徳教育の充実に関する懇談会決定
(別紙3)「心のノート」全面改訂の基本的考え方
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/25/05/attach/1335478.htm

3、4、5、6
文部科学省作業部会で作成した文章等についての著作権は文部科学省に帰属するため特に出典や個々の筆者等を示す必要を認めない。


『私たちの道徳」での取り上げ方はNPO法人江戸しぐさが有する商標権に抵触するものではないため特に問題はない。


なお、問い合わせに書面で答えた前例はないため郵送による返信はできない。実際に教材政策にあたった担当者や責任者について教えることもできない。希望するなら切手は送り返す。

 

 それから数日後には、文部科学省から私の下に送ったのと同額の切手が郵送されてきた。それに付された手紙の文面は次の通り。

 

原田 実様

 先日、御送付いただきました御質問の件は、お電話でお答えさせていただいたとおりでございます。
 同封いただいておりました切手をお返しいたします。
 
 どうぞよろしくお願いいたします。

 平成26年10月21日

 文部科学省初等中等教育局教育課程課

 

 

文部科学省が作成した『私たちの道徳』

 

『私たちの道徳』は全文がPDFで公開されている。

 

 さらに後日、中国新聞のある記者の方から「江戸しぐさ」について取材しているという連絡を受けた。その記者の方はNPO法人江戸しぐさのHPからメールで取材を申し込んだがなしの礫だったという。

 また、文部科学省に電話で取材を申し入れたが担当者という人が電話に出て木で鼻をくくったような対応をされ、とてもくわしい取材はできないありさまだったという。

 ためしにその電話に出た文部科学省側の担当者の部署と名前を聞いてみると、私の電話に回答した方と同一人物だった。私たちは苦笑せざるをえなかった。

 

流布してしまった大量の教材群

 さて、その文部科学省が東京新聞からの取材に対しては課長補佐の名前を出して応じたわけである。また、TBSからの取材に対して文部科学省は書面での返答を寄せていた。個人はともかく地方紙と、在京メディアや全国ネットの放送局への対応の違いを見て、私は、なるほど、これが中央官庁というものかと改めて感じ入った。

 何はともあれ、文部科学省がTBSの取材に答えたという書面の大意は、「江戸しぐさ」をマナーの教材として導入してはいるが、その内容が史実かどうかの検証はしていないというものであった。『東京新聞』『サンデー毎日』の記事と合わせ、一連の「江戸しぐさ」報道は文部科学省の無責任さを浮き彫りにするにいたったのである。

 さて、現在流布している教材・教科書で「江戸しぐさ」が採用されているものは下記のとおりである。

 

 小学校道徳副読本 東京書籍『明日をめざして』
          学校図書『かがやけ みらい』

 中学校道徳副読本 日本標準『中学道徳副読本1年 みんなで生き方を考える道徳』
          学研『中学生の道徳1年 かけがえのないきみだから』
          日本文教出版『あすを生きる』
          正進社『キラリ☆道徳』

(以上2008・平成21年度までに採用)

          育鵬社『中学社会 あたらしいみんなの公民』

(2012・平成24年度から採用)

  文部科学省道徳教材『私たちの道徳』小学校5・6年生用

(2014・平成26年度から採用)

  啓林館『わくわく算数 6年生』

(2015・平成27年度から採用)

 

 このうち、育鵬社については平成28年度からは「江戸しぐさ」を内容から外すことが確認されている。また文部科学省の『私たちの道徳』についてTBSテレビの取材によると来年度も残すかどうかは検討中だという。

 さて、『教育ジャーナル』2006年10月号には東京都台東区立忍岡中学校校長・大橋久芳氏による「道徳的態度を学ぶ “江戸しぐさ”を取り入れて、規範意識を高める」という文章と大橋校長の指導方針に従って「江戸しぐさ」を学ぶ生徒たちのグラビアが掲載されている。大橋校長が何から「江戸しぐさ」についての知識を得たのかは明記されていないが、すでに公共広告機構(AC)のCMで「江戸しぐさ」の知名度が高まっていた時期だから区立学校の校長が関連書籍を読むこと自体は不思議ではなかった。

 2007年3月、東京都千代田区では「江戸しぐさを題材とした道徳教育資料集」を作成。同年5月16日にはその作成した教材に基づき千代田区立全校同時に道徳教育を実施している。その少し前からには東京書籍などで道徳副読本のコラムに「江戸しぐさ」を採用。さらに2009年、文部科学省による学習指導要領平成21年度改訂で道徳教育の内容が変更され、小学3・4年生と中学生の礼儀に関する授業で「江戸しぐさ」を用いることが推奨された。

 かくして平成21年度には、教科書各社の道徳副読本に「江戸しぐさ」の記事がずらりと並ぶことになったのである(ちなみに平成21年度改訂時の首相は麻生太郎氏、文部科学大臣は親学推進議員連盟副会長も務めた塩谷立氏)。

 育鵬社公民教科書や文部科学省道徳教材での「江戸しぐさ」採用は突然始まったわけではなく、こうした何年もかけての根回しの結果として現れたものだったのである。

 

文部科学省は責任にどう向き合うのか

 全国ネットの放送局や在京メディアが「江戸しぐさ」を批判的に取り上げるようになると、NPO法人江戸しぐさではそれらの取材に応え、文部科学省の教材採用にあたって同法人は関与していないと主張するようになった。

 しかし、教材採用の淵源が何年も前に遡るとなると、単にNPO法人側にその間の記録や経緯を説明できる関係者が残っていないだけとみなすこともできるだろう。

 NPO法人設立にあたってその手腕を示した初代理事長・桐山勝氏は2013年に逝去、メディアでの宣伝でその手腕を発揮した同法人元理事・山内あやり氏は2014年5月に辞任、2015年2月に新団体「日本江戸しぐさ協会」の代表理事に就任と、ゼロ年代後半に組織の渉外にあたっていた人物はもう法人内にいないのである。

 事情はどうあれ、文部科学省は長年にわたって「江戸しぐさ」の義務教育の現場への導入を推進してきた。その間、児童生徒はニセの歴史を学ばされたことになる。社会科ではなく道徳の時間に教えるものだから歴史的事実でなくても構わない、というならそれこそ道徳の破壊であり教育を受ける権利の侵害である。
 義務教育における義務は、あくまで文部科学省を含む大人側が負うべきもので、児童生徒にあるのはあくまで適切な教育を受ける権利なのである。

 内部での検討の結果、来年度から「江戸しぐさ」の教材導入をとりやめたとしても、過去において文部科学省が何年も虚偽に基づく教育を推進してきた事実が消えるものではない。文部官僚の皆様にはその点を改めて考えていただきたいものである。

 なお、2015年7月25日に開催された「トンデモ本大賞2015」において『私たちの道徳 小学五・六年生』は会場で圧倒的多数の評を集め、見事、大賞を受賞した。著作権者である文部科学省と責任者である下村博文文部科学大臣に「おめでとうございます」の一言を伝える次第である。

 

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トンデモな「江戸しぐさ」を検証。(エディターズダイアリー/築地教介) *星海社新書『江戸しぐさの正体』刊行時のブログです

 

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ライターの紹介

原田実

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歴史研究家。1961年生まれ、広島市出身。龍谷大学卒。八幡書店勤務、昭和薬科大学助手を経て帰郷、執筆活動に入る。元市民の古代研究会代表。と学会会員。ASIOS(超常現象の懐疑的調査のための会)メンバー。日本でも数少ない偽史・偽書の専門家であり、古代史に関しても造詣が深い。近年は旺盛な執筆活動を行っており、20冊を超える著書がある。主著に『幻想の超古代史』(批評社)、『トンデモ偽史の世界』(楽工社)、『もののけの正体』(新潮新書)、『オカルト「超」入門』(星海社新書)など。本連載は、刊行後たちまち各種書評に取り上げられ、大きな問題提起となった『江戸しぐさの正体教育をむしばむ偽りの伝統』(星海社新書)の続編である。

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続・江戸しぐさの正体

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