「ジセダイジェネレーションズU-25」、記念すべき第1回にご紹介するのは、株式会社クラウドスタディ代表取締役の廣瀬高志さん。23歳のときに 大学を中退して起業。「学習する人を応援する」というテーマに基づき、mobage、GREEの勉強版を目指すべく、現在「勉強SNS」を開発中。サービ スの魅力、起業までの経緯、そして「勉強SNS」がつくる新たな“未来”を熱く語ります!
取材:柿内芳文・岡村邦寛 構成:岡村邦寛 撮影:尾鷲陽介
本日はよろしくお願いします。さっそくですが廣瀬さんの会社、「クラウドスタディ」はどんなことをしているのですか?
廣瀬 現在、「勉強SNS」を開発しています。サービスのリリースはこれからで、今年の春を予定しています。「勉強SNS」のようなこの新サービスは、「mixiの勉強版」と言ってもいいです。「勉強がなかなか継続できない」というのは多くの人が抱えている課題ですが、その課題を解決するための「学習をソーシャル化するサービス」です。ウェブ、iPhoneアプリ、Androidアプリを並行して作成中です。
現在開発中のサービスとは別に、2011年の3月に、自分の勉強を記録して、それがグラフになるというStudylogというシンプルなサービスをリリースしました。レコーディングダイエットなどと同じメカニズムで、勉強を記録してモチベーションを高める、という狙いです。で、今はユーザーが約6,000人いて、1週間100人ぐらいずつ増えています。ただ、コンスタントに使ってくれている人もいる一方で、途中でやめちゃう人が多かったんです。何でだろう? と思って、お客様のご意見ボックスを作って調べてみました。そしたら「他の人が何を勉強しているのか知りたい」とか、「掲示板機能を付けてほしい」とか、要はソーシャル的な部分の要望がものすごく多かったんです。「ああ、なるほど」と思いました。Studylogをつくる上で、「行動分析学」という学問分野の本を読んで、その知見をかなり参考にしたのですが、その行動分析学的にも「記録することが大事。測定なくして改善なし」ということや「人に褒められるとすごく嬉しいから、それを続けたくなる」ということはわかっていたんですね。なのでやはり「ソーシャルにしないとこれは駄目だ」と思いました。だから「今はソーシャル流行りだから」というソーシャルありきの入りではなくて、「勉強を継続するためにはどうしたらいいのか」というアプローチの中で、Studylogというのを出してみて、ユーザーフィードバックから今度はソーシャルなサービスを作り始めている、そういう感じですね。
昨年の秋に複数のエンジェル投資家の方から出資を受け、現在はアルバイト含め8名でやっています。
どうして廣瀬さんは「学習する人を応援する」というテーマを持つようになったのですか?
廣瀬 僕は1年浪人して大学へ入学したんですけど、2年間受験勉強をしていた中で、「非効率さ」というのを強く感じていたんです。浪人時代は駿台に通っていたのですが、そこで「できる人」はどういう勉強の仕方をしているか観察しました。そしたらそういう人は、授業は役に立ちそうな一部しか聞いてなくて、あとは自分で参考書を黙々と読んだり解いたりしている。そこで僕が思ったのは、「教材ってもう世の中にいっぱい存在していて、参考書をやれば東大へ合格するレベルまで到達できるはず。到達できないのは、進捗管理、モチベーションの維持という部分が足りていないからではないか」ということなんです。
あと僕の高校時代の先輩で、その高校始まって以来の天才、と呼ばれて東大にトップ合格したすごい人がいるんですけど、その人に高3の時に勉強法をちょっと教わっていたんです。「どういうスケジュール組んで、こういう参考書とかをやっていったらいいよ」ということを教えてもらいました。そしたらそれがすごく効果があったんです。勉強それ自体を教わったわけでもないのに。そこで、進捗管理が大事だと実感しました。逆に教材は良いものがいっぱい出ているので、自分に適切な教材を選択し、それをとことんやれば、勉強ができるようになるはずなんですよね。例えば何かの名参考書があって、やってみたけど点数が上がらないとします。本当は10回も20回も繰り返してやれば身につくはずなのに、できないのを「この参考書が悪い」と参考書のせいにして、他の参考書に浮気してしまう。そしてそれをやっても点数が上がらない、という事態にならないよう、同じ教材をやっている人同士で繋がれるソーシャルサービス機能を作っていま す。
それは例えば「Z会の『速読英単語』のユーザー同士で繋がる」というイメージでしょうか?
廣瀬 そうです。例えばその『速読英単語』を使って、TOEIC600点から900点にアップした人がたくさんいる、ということがソーシャルでリアルタイムにわかれば、揺るぎない信頼というか、「これをやっていていいんだ!」というすごい安心感が生まれて、浮気しなくなる効果が見込めます。あとはその参考書を使っている人のフィードが流れてきて、他のユーザーに「あ、俺もやろう」という気分にさせるみたいなことなど、いろいろなことをそのソーシャルサービスで する予定です。勉強は継続するのがなかなか難しくて、1人でやっているから挫折しやすい、というところある。まさにそこの部分をソーシャルで解決したいんです。
現段階でそこまで明確なビジョンを持っているのは素晴らしいですね。そんな廣瀬さんの中期的な目標、具体的には30歳までに到達したいステージ、というものはありますか?
廣瀬 野望はめちゃくちゃ大きいです(笑)。簡単に言うとmobage、GREEの勉強版を作ることですね。mobageとGREEはソーシャルゲームの雄ですね。ITベンチャーの業界の中では、「ソーシャルゲーム以外でも、「ソーシャル×なんとか」の分野はこれから他にも色んなものが来るだろう」ということは半ばコンセンサスになりつつあると思います。mixiが流行って、SNSというものに普通の人が慣れて来たという土壌の上に、ユーザにとってわかりやすい「ゲーム」が乗ったのがソーシャルゲームです。ゲームはネットが普及してきたときもオンラインゲームという形で早い時期から流行りました。ソーシャルゲーム以外の「ソーシャル×なんとか」は、例えば「写真共有」のInstagramとか、「位置情報共有」のFoursquareとか、「イラストSNS」のpixivとか、「若年層女性向けソーシャルコマース」の「ショッピーズ」とか、色々成功例が出て来ています。その中で、「ソーシャルラーニング」はこれから確実に来る領域だと思っています。モバイルでゲームする時はmobage、GREEに行くというふうになっていますけど、スマートフォンないしPCで勉強する時は、僕らのプラットフォームに来る。自分の勉強のログが自動で残り、それを他のユーザーとシェアしたり、友だちと比較するランキングがあったり、バトルができたりする、そういうプラットフォームを作りたいんですよね。で、まさに今ソーシャルゲームのいろいろなプロバイダーがたくさんのゲームをmobage、GREEに提供して、そこのプラットフォームで利益を上げていますが。同じことをラーニングの領域でやりたいんです。ARPU(Average Revenue Per User)、顧客1人当たり利益のことなんですけど、ラーニングの領域ってゲームと同じぐらいARPUが取れると思っているんですよね。
日本人の学習意欲とそれに投資するためらいのなさというのは、確かに感じますね。具体的なユーザーターゲットはあるんですか?
廣瀬 ターゲットとしては、べつに社会人とか学生とか、そういうふうに狭めずに、全部やっていきたいです。コンテンツも最初は英語が中心になってくると思うんですけど、英語だけじゃなくて、他の語学や、大学受験の全科目、あと就活生だったらSPIとか。少し昔にニンテンドーDSの『脳トレ』が売れたように、教育的な投資でしかもちょっとゲーム性があって楽しい、というところに売れる素地というのがすごくあるのだろうと考えてます。ソーシャルっていうのもゲーム性の1つなので。
今までのお話を聞いていると、勉強にあまり興味がない人でも、そのソーシャルサービスに訪れれば、勉強したくなるというイメージが浮かびます。
廣瀬 そうですね。例えばリアルタイムで「3秒前に○○さんがこの教材を1時間に10ページやりました」とか、そういう情報がどんどん流れてくるんですよ。そしたら「俺よりも若い高校生がもうそんなに進めてるのか!」と刺激になったり、かわいい女の子のほうが、自分より先にその参考書を進めていて「ちょっとは俺もいいとこ見せなきゃ!」と頑張ったり(笑)。進学校の人間とかだったら、ライバル校の生徒が10ページ先に進んでることが伝わって来て、「ヤバイな」と思ったり。クラスメートとか同級生、先輩、後輩、他校の生徒とか広がったら面白いですよね。今、mobage、GREEのプラットフォームでヒットしているゲームは、やっぱり「他人との繋がり」というのがポイントなんだと思います。例えば釣りゲームとかでも、ゲーム自体はすごい単純なんですけど、チームを組んでバトルしてランキングを争って、という結束感・達成感という要素がユーザーに受け入れられている。なのでソーシャルラーニングでもそういう要素を取り入れていきたいですね。
我々が廣瀬さんを知ったのは、現在、新書の企画を一緒に進めている藤野英人さん(レオス・キャピタルワークスCIO)から教えていただいたのがきっかけなのですが、廣瀬さんと藤野さんはどういう経緯でお知り合いになったのですか?
廣瀬 昨年(2010年)、「起業を増やさナイト」という起業セミナーに行ったんです。何か起業したい起業家予備軍みたいな人々が200人ぐらい集まっていたんですけど、その講師の一人が藤野さんだったんです。他の講師も公認会計士の磯崎(哲也)さん、日本テクノロジーベンチャーパートナーズ代表の村口(和孝)さんという、すごい面子でした。その講義終了後に、僕が藤野さんに「今度起業するんでお話させてください!」とお願いしたのが付き合いの始まりですね。その後、当時は「ITを活用した家庭教師会社」を作るプランを藤野さんに見てもらったんですけど、藤野さん的には「微妙」だったらしいんです(笑)。そこでいろいろアドバイス頂いて、案を練り直して1年後ぐらいにまたプランを見ていただきました。そのときは「勉強を記録して、進捗管理できるサービス(Studylog)」という、以前とは全然違ったものになっていて。「あ、なんかけっこう良くなったね」という感じで褒めていただきました。で、今度は 「ソーシャルになります」ということで「どんどん変わっていくね」と藤野さんに言って頂いているところですね(笑)。藤野さんは業界では有名なカリスマファンドマネジャーで、5000人以上の経営者と交遊のあるすごい方です。とても気さくな方で、お話していてもどんどんアイディアや知識を提示していただいて、大変勉強になります。投資家の人もご紹介いただいて、お世話になっていますね。
我々も藤野さんとお話していて、とても刺激を受けています。これまで廣瀬さんの現在のお仕事、将来のビジョン、起業の経緯など伺ってきましたが、最後に廣瀬さんの活動は、社会に何をもたらしますか?
廣瀬 教育機会の格差是正です。僕は教育格差は情報格差であり、希望格差でもあると思っています。そこを是正したい。例えば灘高に通っている生徒とどこか地方の進学校でない高校の生徒では、もともと持っている能力は実はそんなに差はないと思いますが、教育機会、環境、勉強法の格差は激しい。後者の人は前者の人に「勝てっこない」と最初から諦めている人もいると思います。だけど、じゃあウェブで、ソーシャルで「できる人たちはこういうふうにやっていて、これをこういうふうにやれば、こういうレベルにはなりますよ」ということを示されていたら、すごく希望を持てると思うんです。ビル・ゲイツも、『ビル・ゲイツ未来を語る』というちょっと分厚い本の中で、「インターネットの最大の恩恵は教育にもたらされる」と言っています。ウェブとソーシャルの力で教育機会の格差が是正されれば、若い世代の人々が希望をもって勉強し、知識と知恵を身につけられます。それは国力が上がるということです。それはすごく社会的意義があり、人生賭けて取り組むべき価値があるテーマだと僕は思っています。そのソリューションをこれからも調べて考えていきたいです。
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