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アジアIT闇鍋紀行

最終回:中国ITライター、日本の魅力減少を痛感する

2015年03月03日 更新
最終回:中国ITライター、日本の魅力減少を痛感する

 かつて、日本のITは、中国の先を行っていた。
 しかし、いつの間にか、中国は日本に対する羨望のまなざしを捨てた……。

 私を含め、どうして日本人は未来を予測できなかったのか?
『アジアIT闇鍋紀行』、最終回をお届けします。

「山谷サンハ有名ダカラ、最高ノ原稿料ニシマスヨ!」

 2014年12月、北京。
「このスマホ、すごいんですよ」
 と言いながら、OPPOという中国メーカーのスマートフォンを見せてくれるのは、数年来の知人である王さんだ。
 このOPPOのスマートフォンがすごいのは、私自身もよく知っている。
 決してすごく売れているわけではないが、スマートフォン上部のカメラが自動で回転するのだ。

回転カメラを見せる王氏

 春節(旧正月)の時期に、多くの中国人が外国に行ってかなりの額の買い物をする。中国人にとって、欲しいものなら値段設定は問題にならない。このスマホ、値段にして3000元前後(約57000円)となかなかの値段だが、買いたいと思うマニアは買ってしまうのだ。
 私は相づちを打ちながら、王さんの話を聞いた。

 王さんは、中国の著名なポータルサイト『網易(NetEase)』の編集者だ。
 最初に会ったのは2006年で、そのとき彼はIT系ポータルサイト『PCPOP』の編集者をしていた。
 日本語を独学で学び、日々日本のIT系WEBサイトを食らいつくように見ていた彼は、日本の複数のIT系WEBサイトで中国のIT事情を紹介している私が気になって、メールを送ってきてくれたのだった。
 中国のIT事情を紹介しているうちに、中国本国からこんなお声がかかることがあるのだな、と思った(一方で、中国当局から警告のメールや電話がくることは一度もなかった)。
 「山谷サンハ有名ダカラ、最高ノ原稿料ニシマスヨ! 1記事100元!(当時のレートで約1300円)」と本気の王さんを前に、「これでは成田空港から都内への移動もできないよ」と内心苦笑していた。
 それでも、中国人の反応が知りたくて、私は王さんの仕事を受けた。

 

今から思えば、未来を見ていない記事だった

 私は『PCPOP』と『網易』の両方で、王さんの担当で連載をしたが、内容はかいつまんで書くならこんな感じだった。

・日本のネットカフェは飲み物飲み放題で漫画も読めるぞ
・信用されていない中国では想像できないが、日本では中古市場が身近にあり買う人はいるんだ
・日本のノートパソコンは薄くて軽いぞ、すごいだろ
・日本のパソコンはテレビ番組を録画する機種が多いんだ
・日本にはポイントサイトがあって、小銭稼ぎできるんだ
・日本人は海賊版を使わない人も結構いるんだ
・日本人も昔はPC-9801などの自国オンリーの製品を使ってたんだ

 当時、私は「日本はすごいんや! ドヤァ!」と思いながら原稿を書いていた。そして、中国人読者からは、多くの反響をもらうことができた。
 特にネットカフェについては、当時中国人にとってまだ身近な存在だったので、「中国のネットカフェは汚くてだめだ」というコメントが並んだのを覚えている。
 日本のネットカフェ=まんが喫茶の紹介は、まだ胸を張って言えるとしても、他は自信をもって今も言えるだろうか。

 「日本では中古市場が身近で買う人はいる」とはいえ、今、中国のスマートフォンは次から次へ、中国メーカーが面白い製品を出してくる。おまけに安いので、今や中古を買う必要がない。スマートフォン以外だってそうだ。面白い中国製品が次々と出てくる。秋葉原では、マニア向けに中国の安いIT製品が続々と流れ込んでいる。日本のノートパソコンだけが薄くて軽い時代は過去の話。アメリカメーカーからも中国メーカーからも、気にならない程度に少しばかり重い製品が出てきた。

 ポイントサイトでお小遣い稼ぎ? それより転売したほうがもっと稼げる。ポイントサイトを利用する日本人よりもずっと多くの中国人が、転売を行い、オンラインで投資を行い、より多額のお小遣いをゲットしている。海賊版も、北京オリンピックで海賊版動画を厳しく取り締まり、損害賠償請求を行ったことをトリガーに、配信したら権利者に訴えられるというのが常識になった。 

中国のキャラクターも人気になってきた

 テレビ録画パソコンがあったところで、日本のテレビ自体がつまらなり、テレビ離れが叫ばれて久しい。かたや中国では、テレビ番組がネットで積極的に配信されている。しかも中国産ショートムービーや中国産アニメや中国産バラエティが面白くなってきて、海賊版正規版が混ざる外国コンテンツを見る必要性が以前よりなくなった。自国オンリーの製品、自国オンリーのコンテンツに囲まれているのは、中国人だった。日本人はいつしか、FacebookやTwitterやYouTubeを使っていた。

 当時としては、中国の環境を体験した上で書いたそれなりの記事だったと思う。けれど、今から思えば、未来を見ていない記事と言わざるを得ない。

 

2010年より前に、日本のITへの関心は失われた

 弁明すれば、当時は中国メディアは、日本の最新のガラケーやパソコンの新製品があるたびに釘付けになって、日本のIT系ニュースサイトの製品写真を勝手に拝借し、翻訳した中文記事を爆速で掲載していた。
 あまりにも頻繁にあったから、日本のIT系ニュースサイトは中国に対策用の支社を設けた。それくらい日本のIT製品は魅力があった。だが、2010年、いやその前には、日本の製品紹介の記事の反応は薄くなった。
 私がいた昆明を振り返るに、2003年か2004年にはソニーのアンテナショップが町のど真ん中にオープンし、多くの地元民を呼び寄せていた。aiboが入口目の前のガラスケースに鎮座していたのは記憶している。地元民にとってはワクワクする店だった。
 上海では、昔は音楽動画プレーヤー兼ゲーム機で、メンツアイテムにもなるPSPを携える若者を多く見た。2008年ころまでは、上海で開催の中国最大のゲームショー「Chinajoy」でのSCEブースに、期待に胸躍らせた中国人たちが集まっていた。

中国製のスマートフォン人気の火付け役「小米(Xiaomi)」

 しかし2014年、以前日本のITに関心を持っていた王さんの反応は薄かった。
「何か書きましょうか」と相談したが、「担当からメールしますね」と言ったきりで、その担当者やらからは連絡も来ない。
 王さんは、アメリカラスベガスで開催の家電ショー「CES」に注目し、彼のSNSではラスベガスでの出張旅行ライフの写真が次々と更新されていた。

 見捨てられたことで気づかされた。自分自身が、日本のITが、情けなく思えた。

 

世の中を動かすことはできないが、記録を取ることはできる

 私のようにずっと住んでいると気づきにくいが、日本人ビジネスマンはよく、中国の変化の激しさについて言う。
 確かに、思い返してみると、ネット環境も、ネットの常識も、街の一区画がまるごと更地になり高層マンションができるように、あっという間に変わっている。

なにげない写真が貴重な記録となる

 私は2002年から、一貫してその時々のIT事情や出来事を書いてきた。
 それら記事は、一見すれば旬を過ぎた役立たずの記事だ。けれど、歴史の証人となる。
 変化の激しい国々で撮った写真や、状況を記したメモは、後になってみれば驚くほどの生生しさを持った歴史の証人たちなのだ。
 もっともっと、変化の激しいアジアの街の何気ない日常を写真で、ビデオで撮り、メモを撮っておけばよかった。そう思う。
 今からでも、もっとたくさん記録していこう。

 私があれこれ書いたところで、それを見て決定する会社は少ないので、目に見えて世の中や会社を動かすとは思わない。
 でも、書いてきたからこそ歴史をまとめることができる。
 歴史をちゃんとまとめた本を出せば、その読者の誰かが中国の今後や、東南アジアやインド進出時に「これ中国のあの流れと同じだな、次はこう来るな……」と予想できるようになる。どうして日本製品が負けたのか、その理由もわかるだろう。
 そうして役に立てば、私が仕事をやってきた甲斐があるというものだ。
 
 私は今後も、中国をはじめとするアジア各地を、ITを求めて放浪し、たくさんの記事を書くだろう。
 記録をとり続け、歴史をまとめる、それが私の仕事だ。


 『アジアIT闇鍋紀行』 完

 

山谷剛史氏、ご登壇! 3月7日(土)イベント開催! ご参加受付中です。

ネット上の独立国、中国に迫る! 星海社新書夜話 Vol,2@鷗来堂会議室

日時:3月7日(土) 16:00~18:00(予定)

チケット:1500円(1ドリンク付き)

場所:鷗来堂会議室 *アクセスはこちら

申し込み方法:専用申し込みフォームに必要事項をご記入ください。申し込みフォームはこちら

出演:山谷剛史(中国ITライター) 、平林緑萌(星海社エディター) 、今井雄紀(星海社『ジセダイ』編集長)

 

星海社新書『中国のインターネット史』


 

私の足かけ14年に及ぶ、中国IT観察の中間決算とでもいうべきものが本書である。
政府の統制と、庶民生活の変化という両面から中国のインターネット史を記述した、初めての通史である。
試し読みはこちら

著者:山谷剛史

定価:840円(税別)

ISBN:978-4-06-138565-8

発売日:発売中

Amazonはこちら

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山谷剛史

山谷剛史

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東京電機大学卒。SEを経て中国やアジアを専門とするITライターとなる。この道12年。バックパッカー並の予算で、現地の消費者に近い目線での取材を行う。そこから生み出される、独自の切り口の記事に定評がある。著書に『新しい中国人 ネットで団結する若者たち』(ソフトバンク新書)など。「ITMedia」「ASCII」「東洋経済オンライン」「ダイヤモンドオンライン」 「JBPress」などの系Webメデイアで連載を多数持つ。

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