前編に続き、後半の公開です!!!
今井:続いての質問は、「お二人にはなぜ仕事が来るのか」。なかなか難しいことだと思うんですけど、心がけていることをお聞きしました。まず宮崎さんは「Facebookで自分の仕事を紹介するようにする」、「〆切を必ず守る(点滴に繋がれながら入稿したこともあります)」、「飲み会を断らない」、そして「打ち合わせはなるべく相手の会社に行くようにする」。これどれも面白いですね。たしかに宮崎さんは「行きます」っていつもおっしゃってくださいますよね。
平林:仕事先の編集部の様子を見たり、担当以外の編集者とも挨拶をしたりすることでメリットは多いですか?
宮崎:上司を紹介されたりしますしね。それから、僕も33歳で若手なんですけど、年下の編集者も結構いるんですよね。ライターって面倒くさい人多いじゃないですか。だから、ちょっと年齢が上がって面倒くささが出ちゃうと、仕事が来なくなる。それを避けるために、会社まで行くことで「面倒くさいやつじゃないんだよ」といかにアピールするかが大事なんです。
今井:会社に行くことで、最悪担当が辞めても編集部とのつながりは残るっていうメリットもありますよね。それは外でだけ打ち合わせしていたら絶対にない。Facebookで自分の仕事を紹介すると類似の仕事って来るんですか?
宮崎:結構来ますよ。本や雑誌は投稿しても、なかなか読んでもらえないんですけど、ウェブの記事はワンクリックでアクセスできるので、読んでくれて「これが書けるならこれも書けるんじゃない?」って仕事が来たり。これは飲み会に行ってフレンドを増やすのとパラレルなんですね。だから飲み会はかなり重要です。
今井:じゃあ飲み会は顔を売るために行くんですか?
宮崎:まあ、酔っ払っているのでほとんど覚えてないんですけどね。翌日仕事のお誘いのメールが来ると、いいパフォーマンスを発揮したんだなと(笑)。
全員:(笑)
今井:「〆切を必ず守る」というのは小池さんも同じですね。
小池:もちろん。
宮崎:当然ですよ。
平林:われわれは校了日という〆切を守れていない……。
宮崎:フリーライターは社会から遠い人間なので、時間と〆切守らなかったらクズですよ。守らなければいけないことは、それ以外にあまりないんですから。
平林:何時まで寝ていても、どこで仕事してもいいですしね。
今井:小池さんは4つあるんですけど、「人間としての基本的な礼節と常識を守る」、「〆切を守る」、「調子こかない」、そして次が面白くて、「SNS以外から情報収集をする」。これはどういうことですか?
小池:「仕事を絶やさないため」だけにってことではないんですけど……私たちって、mixiのサービス開始と同時期に18歳になって、即会員登録したような世代じゃないですか。その後FacebookとかTwitterとかもどんどん生活に取り入れて。だから、無意識に「SNSに時代の最先端が集まっている」と思いがちだと思うんです。でも、SNSで流行り廃りをチェックして、SNSベースで世間の声を知るというのは絶対ダメだと思っています。
今井:コモディティ化するというか、陳腐化する。
小池:結局みんなの反応のあとを追いかけてしまうことになるので、私はなるべくそれ以外のソースをもつようにしています。具体的にこことここをチェックしてますっていうのはないんですけど、SNSがすべてじゃないぞっていうことはいつも意識しています。
平林:「調子こかない」。調子こいてる人を見てこれは痛い、みたいなことがあったんですか?(笑)
小池:「書いてやっているのだ」的な意識で仕事をし始めたら終わりだなと思うんです。もちろんへりくだるのは駄目なんですが、書かせていただいているんだ、っていう意識はどこに対しても持ち続けています。
今井:僕、本当にありがたいことに、仲良くしてもらっている人がみんなミリオンセラーを連発してたりするので、自分の仕事をまったくもってまだまだだと思っているんです。ただ、お二人のおかげで、知名度を獲得した、「売れた」と言ってもいい本を、いくつか担当することができました。そうしたときになんですけど……このあいだとある先輩から「自分では一切調子に乗ってる気がなくても、『あいつ売れてる』と思われると普段通りの行動が調子に乗ってるととらえられる可能性があるんだよ。『実るほど頭を垂れる稲穂かな』ってのは、本当に大事なことなんだ」って言われて、ゾッとしました。いいことがあったときこそ低姿勢でいないと、何をどう思われるかわからないだなって。オリエンタルラジオの中田敦彦さんも、「テングになるとやばいのは、自分でテングになってるってわからないこと」と仰っていたことがあります。
宮崎:でもさじ加減が難しいですよね。謙遜ばかりしていてもしょうがないし、自分はダメなんだよとか言っていても仕事は来ない。
平林:「なぜ仕事が来るのか」の延長なんですが、お二人は仕事を断ることってありますか?
宮崎:断る時もありますが、ほとんどの場合、断るのは分量の問題ですね。クオリティコントロール上これ以上受けられないと。それから、このお題だとクオリティが出せない、というとき。
平林:逆に、お題によっては安くても書きたくなるときもあります?
宮崎:あります。好きだった人に会えるとか、これを書くことによって少し話題になるかもしれないとか。
小池:私はフリー1年目ということでなんでも引き受けるべき時期ですし、幸い面白い仕事ばかりいただいているので、ほとんど断らずにここまで来ていますね。明らかに常識がない、めちゃくちゃな文面のメールで依頼が来たら断りますが……。
宮崎:「宮崎さま」が、文の途中から「○○さま」と違う名前になるとか。コピペの依頼文を直し忘れてるよ!みたいな。
全員:(笑)
平林:僕はずっと紙でやってきたのであまりわからないんですが、紙の編集者とウェブの編集者ってどこが一番違いますか?
宮崎:うーん、ウェブの編集者は情報提供してくれないことが多いですね。企画があって、「これについて書いてください」といった感じで。紙の編集者は「こういうところに取材したほうがいいですよ」言ってくれたり、関連書籍を送ってくれたりするじゃないですか。
平林:はい、よくやりますね。
宮崎:そういう発想はウェブにはないのかなって。
平林:なんでそう違うんですかね?
宮崎:単純に予算の問題だと思いますね。ウェブの1記事にそこまで金をかけられない。
今井:編集者が紙からウェブに移ったり、逆にウェブから紙に移ったりということも最近は多いと思うんですが、そのときに作法がわかっていなくて苦労することってありますか?
宮崎:やっぱりウェブと紙では書き方が全然違うので、紙からウェブに来た編集者に紙の書き方を押し付けられると困りますね。例えば、なんらかの「あるある」についての記事を書くときに、あえて当たり前のことを入れ込んだりすることがあるんです。書いているほうとしては、その当たり前だってことにツッコんでほしい。ウェブの記事ってそういうつくり方をしているんですよね。
今井:ツイートされるときに「当たり前じゃないか!」ってツッコまれるような隙を、あえてつくっておくってことですね。
宮崎:でもそれをわかってもらえないと、「なんでこんな当たり前のこと書くんですか!」って真顔で怒られちゃうんですよ。
今井:ハハハハハ(笑)。
宮崎:その反応がほしくて書いたんですよ……みたいな。ウェブではそういうことが結構ありますね。
平林:難しいですよね。お金を出して買った雑誌に当たり前のことが書いてあるの場合と、ウェブの記事に当たり前のことがかいてある場合の違い。
宮崎:紙出身の人は完璧な原稿を求めてくるから、その齟齬でうまくいかないこともあります。
平林:僕らは本当に紙ベースなので、よくウェブの記事を紙の読み味と比べてしまうんですね。最近は縦書きルビつき表示なんかがウェブでもできるようになってきて、「本に近くていい感じだ」とか思ったりするんですけど、完全にウェブならではの独自な表現に到達している媒体もあるじゃないですか。それを見ると、「あ、紙の読み味に近づけてるうちは全然ダメだな」とも思うわけです。
今井:ウェブの編集者としてはってことですね。
平林:そうそう。だから、ウェブの編集者としてはこういう考え方をするのはきっと二流なんだろうなと思う。でも、テキストが少ないと不安になっちゃうんですよね……。
今井:宮崎さんは普段どのくらい寝てるんですか?
宮崎:僕はすごい寝ますよ。8時間くらい。でも、休みの日は設けていないです。僕は休みがないのは耐えられるんだけど、長時間仕事をし過ぎるとパフォーマンスが落ちるので、1日12時間とかは難しいんですね。だから1日の労働時間を短くして、その代わり365日稼働する。本当に忙しい時は徹夜もしますが、それは最終手段です。
平林:たまに休みたくならないんですか?
宮崎:たとえば5時間しか働かない日があったとして、朝起きて昼には解放されるから、そのあと遊びます。
今井:お二人は仕事量の基準はどうやって決められてますか? 宮崎さんは自分が1日何文字書けるか、正確に把握されてますよね。
宮崎:そうそう。最高のパフォーマンスを出して、1日1万5000字だったんですよ。それが基準になって、二日酔いだから8000字くらいかなあとか。
平林:僕は往々にして自分のできる仕事量を見誤って大変なことになるんですよね。毎月燃え上がってます。
今井:僕も迷惑かけている人がたくさん……。
宮崎:どれだけできるか、固定すればいいんですよ。自分の体力と集中力の限界を知っていればスケジュールも立てられるじゃないですか。それに関して言えば、ライターって表現者でもあるんだけど、基礎体力がすごく重要な気がしているんですよね。僕は年に1回、東京ゲームショーで日経の記者ルームに配属されて、3日間お助け記者をやるんですよ。僕もなんだかんだ文字を書いて10年経つので、取材や正確性には多少の自信があるんですけど、やっぱり日経の熟練の記者ってすごくて全然敵わないんですよ。正確で速い。だから、基礎体力をコツコツ上げていくと仕事がやりやすいのかなと思います。
小池:私は仕事の回し方については模索中ですが、大分前に今井さんにもらった突発仕事が今のところの限界点基準になっています(笑)。具体的に言うと、10日で本1冊分書かなければいけない、という仕事で。インタビュー原稿だけがあり、本文はゼロから書くしかない状態でした。でも、文量が多いからといって雑な原稿をあげるわけにはいかないし。その仕事をやり遂げたことで、「ここまではできるな」っていう自信がつきましたね。
宮崎:10日で1冊いけるならなんでもいけますよね。
今井:その節は、本当にありがとうございました……。集中できる環境はどうやってつくってますか? たとえばごはんは、お腹いっぱいまで食べます?
小池:絶対に食べないです。空腹なほど集中できるので。
宮崎:忙しいときは、何も口にしませんね。眠くなってしまいますから。
今井:僕には、むりだ……。
会場:「仕事のもらい方、とり方」についてお話いただけますでしょうか。
宮崎:まあ酒ですね、ほとんど。
全員:(笑)
宮崎:僕は、まともな営業をしたことがないんですよ。友達になってしまうのが何よりも手っ取り早い。
今井:たしかに連絡のハードルは下がりますよね。特に無理を言うときには。
平林:気安く相談ができるというか、ダメかもしれないけど聞くことができる。でも、ある種の緊張関係はある。そういう距離感がいいかなと思います。
小池:私も営業らしい営業をしたことはないですね。やった仕事のツテで新しい仕事が来ているというか。たとえば、『百合のリアル』のイベント記事を載せていただいたことがきっかけで、cakesの編集者さんとは今でもお付き合いさせていただいています。最近ではアニメ番組の台本に関する仕事ももらうようになったのですが、それは番組制作会社時代の先輩が、私の作品を読んでくださったことで来た依頼でした。なので「作品が営業をしてくれている」感じですね。
宮崎:僕もコンテンツの力はまだまだですけど、ひとつの仕事をしっかりやれば次の仕事も来るし、その仕事を見てくれた人が発注してくれるし、一緒に仕事をした人が紹介してくれる。やっぱりそれが理想なんじゃないですかね。
平林:自分の名前がクレジットされている仕事が一番宣伝力があるんですね。
宮崎:僕がこだわっているのってクレジットなんです。絶対に名前を入れてくれないと嫌だって言うときもあるし、なんなら名前にTwitterのリンク入れといてくださいって図々しく言うときもあります。
今井:宮崎さん、Twitterのプロフィールに電話番号書いてますよね。メールアドレス書いてる人も仕事ほしいんだなって思うんですけど、電話番号が書いてあるとさらにほしいんだなと思う。
平林:かかってきますか?
宮崎:かかってきますよ。記事を読んだ人からクレームみたいな電話がかかってくることもあるけど、年に2回くらいですね。その10倍くらいは仕事の電話が来る。
小池:私も書こうかな……。
宮崎:携帯電話くらい書いても大丈夫ですよ。テレビやラジオでのコメントの仕事だと、スタッフは忙しいから電話番号が書いてあると重宝されると思います。ライターだから学者さんにコメントもらうことも多いんですけど、電話番号を教えてくれて「いつでも電話していいよ」って言ってくれる人もいました。結果、彼は今結構テレビに出るようになったんですよね。
今井:編集の視点から言うと、話題になったブログを見ている人は多いと思います。たとえば北条かやさんという僕の担当している著者さんはブログでずっと女性の話を書かれているんですが、そうやって継続的に書いているブログが何回か話題になって、連絡先や「お仕事募集中です」って一言が書いてあると、じゃあ何かお願いしてみようかなとなる。
平林:Twitterからの質問を拾っていきましょう。「編集者からの指摘はどのくらい原稿に反映させますか?」それから「読者の反応は気にしますか?」
小池:指摘は基本的に反映させます。明らかな誤解や間違った指摘だったら、もちろん丁寧に説明してお戻ししますが。
平林:バトルはします?
小池:全然したことがないですね。編集者さんがガッツリ直してくださった文章に対して、改訂を加えることはあります。ちょっとした形容詞を変えたり、言い切りをやわらかい表現にしたり。そういえば、今井さんからは厳しい赤をいただいたことってないんですよね。
宮崎:僕も基本的に指摘は反映させますが、どうしても直したくないところはワードのコメントで直したくない理由を滔々と書く。そうするとこいつ面倒くさいからもういいやってなる(笑)。
平林:読者の反応に関してはどうですか?
小池:私は発売から2年経ってもいまだに『百合のリアル』はしょっちゅうTwitterで検索して、お気に入り登録してます。嬉しいので。
今井:僕もたまに『百合のリアル』で検索すると、全部お気に入りが1件ついてて、全部小池さん(笑)。
宮崎:僕もめちゃめちゃ見てますよ。エゴサーチしまくってる。
平林:ダメージ受けることはありますか?
宮崎:まったくないです。そこらへんのタフさがないと、今のライターはキツいですよね。
小池:ネガティブな反応にいちいち心折れていると、魂がいくつあっても足りないです。
宮崎:ネガティブなこと言ってるけどURLつけてる時点で宣伝になってるんだぜ、くらいの感じですね。
平林:僕らもそうだよね。
今井:的を射ていると、痛いとこ突かれたなとは思いますけどね。
平林:それは普通に反省するし、次はしないようにしようって思うけど、的はずれなことは言われても何も感じない。感じやすい人は見なければいい。
宮崎:どちらかですよね。まったく見ないか全部見るか、どちらかにしたほうがいい。
今井:最後に、僕はお二人に関してこれを言っておきたいんですが、いつも準備がすばらしいなと思うんですよ。いろんなライターさんとお付き合いがありますけど、それがお二人は違うなと思うところです。宮崎さんは、落語の本をやりましょうって言ったとき、落語については素人でほとんど聞いたことがないっておっしゃってたんですが、最初の打ち合わせまでの1週間で、「落語」って調べてAmazonで出てくるトップ3冊とYouTubeで出てくるトップ5本くらいはとりあえずチェックしてきてくれる。付け焼き刃といえば付け焼き刃かもしれないですけど、付ける人と付けない人がいる。小池さんの場合は、ある意味ちょっと引いたんですけど、『声優魂』のとき、大塚明夫さんの本をやりたいんですけどどうですか? って最初に聞いたときには、そんなにテンションが上がったようには聞こえなかったんですよ。「私でよければ」ぐらいの淡々とした感じで。でも、次に会ったら大塚さんの30年間にわたる役の年表をつくってきてくれて……。それがどれだけ役に立つかって話ではなくて、そういうものをバンッと見せられると、信用度が違う。お二人とも、本当にありがたいです。
宮崎:もともと本を読むことが好きだから、その作業が苦にならないんですよ。仕事で本が読めるという事実に対して、なんていい仕事なんだと震えるときがあります。
小池:すっごいわかります。準備しないのは、私は怖くて無理ですね。大塚さんの年表について言えば、昔のことって曖昧になるし何かきっかけがあったほうが引き出される記憶って多いと思うので、そのフックになるものはこちらが持っていこうと。大塚さんが好きでテンションが上がるからそういうことをする、というよりは、やったほうがいいことはやるべきだ、という気持ちというか。
今井:やったほうがいいことをやれるというのは本当にすばらしいです。
今井・平林:本日はどうもありがとうございました!
宮崎・小池:ありがとうございました!
Copyright © Star Seas Company All Rights Reserved.
コメント