みなさま、「ジセダイ」でははじめまして。アシスタントエディターの石川詩悠(@seikaisha_iskw)です。
ジセダイ編集部は、去る6月25日、下北沢のビールが美味しい本屋さん「B&B」にて、星海社新書夜話Vol.4「書き続けるための生存戦略“記名で本・記事を出すライターは何が違うのか”」を開催しました。
ゲストは、ライターの宮崎智之(@miyazakid)さんと小池みき(@monokirk)さん。
誰でも発信できる時代に、名前を出して活躍できるライターの条件とは何か。
隠し事なしで存分に語っていただきました!
今井:今日は最初にどんな人がいらっしゃっているのか聞こうと思っていたんですが、学生さんはいらっしゃいますか?(数名手が挙がる) それでは、すでにライターや編集者など、出版業界でお仕事をされている方と、今後出版業界でお仕事をしたいと思っていらっしゃる方(10数名手が挙がる)。なるほど、半分くらいは業界および業界志望の方々という感じですね。
平林:同業者の視線に晒されながら喋るんだよ。非常にやりにくい……。
今井:今日来ていただいたお二人は、宮崎さんが33歳、小池さんが28歳と、ライター業界、特に書籍ライターでは若手のお二人です。僕がよくしていただいている中川淳一郎さんや『嫌われる勇気』の古賀史健さんなど、年長者のライターさんたちのお話はもちろん面白いんですが、これからライターになりたい、自分も本を出したい、記名で記事を書きたいという人たちにとっては、同世代の方の意見の方がより身近な問題として受け止められるのではないかと思い、今日はあえて若い方をお呼びしております。
平林:10年後に出版業界があるのか不安だけどね。貯金しなきゃ!
今井:貯金でどうにかなる問題ならいいんですけどね……。気を取り直して。お二人とも、「自分の名前で本を出す」ということをここ1年くらいで実現された方々なので、どうやってそこに至ったのか、どんな戦略があったのか、あるいは偶然だったのか等々、お伺いしていければと思っております。僕も可能なら毎回お願いしたいくらい腕に信頼をおいているお二人なので、それこそ同業の編集さんには紹介したくないんですけど……。せっかくなので、今日は何も包み隠さずお話頂ければと思っております。それではご紹介します。まずは宮崎智之さん。
宮崎:どうも、よろしくお願いします。
今井:東京都福生市出身のフリーライターで、先日『ムダ0採用戦略 21世紀のつながり採用』という単著を出されました。僕がご一緒したお仕事では、『あなたのプレゼンに「まくら」はあるか?』という、イェール大学を出て三井物産に入って何を思ったか立川志の輔の弟子になっちゃった立川志の春さんという落語家さんの本でライティングをしていただきました。星海社では他に、荻上チキさんの『ディズニープリンセスと幸せの法則』の構成も担当していただいています。そもそも、宮崎さんはどうしてライターになられたんですか?
宮崎:新卒で大学受験予備校に入社し――1年でやめてしまったんですけど――千葉の校舎に配属されて、高校生の悩み相談を聞くような仕事を牧歌的にやっていました。2月ごろに本社に呼ばれて、「期末対策○○チーム」みたいな謎の辞令が出たんですね。本社に呼ばれたから出世か? と思って行ったらタコ部屋のような閉ざされた部屋に連れて行かれて、テレアポをやらされ。
今井:あ、期末って学校じゃなくて会社の期末だったんですね……。売上が芳しくないから上げろと。
宮崎:そうそう。外部から登用された営業のプロが一人いて、テレアポの最中30分おきに招集をかけられて反省させられるんですよ。冗談半分で「もしかしたらこれ追い出し部屋なのかな」と思ったりもして、やる気をなくしてしまいました。本社にいたころは実家から通っていたんですが、たまたま実家がとっている地域紙に募集があり、応募したら受かったので「辞めてやる」と。
今井:記者に転職されたということですね。
宮崎:そうです。そこで地方行政の記者を6年くらい担当して、それから「プレスラボ」という編集プロダクションに移り、フリーになりました。
今井:なるほど。では、もともとライターになるぞと思っていたわけでは全然ないんですか?
宮崎:もともとは出版社に入りたかったんです。当時出版社のことはよくわかっていなかったんですが、小説が好きだから小説の編集やりたいと思って受けたら全部落ちてしまいました。集英社は面接で大好きな『ジャンプ』のことを語りすぎて、「君はもう読者でいてください」と落とされ……。大学受験予備校にいたとき、知り合いの編集者がフリーペーパーをつくっていたんですが、そこでコラムを書かないかと誘われて。本当に短いエロコラムだったんですけど(笑)。「男の人がおっぱいが好きな理由をフロイトの自由連想法を使って解読する」みたいな。そのときから「もしかして俺、編集よりライターやりたいのかな?」っていう思いがちょっと頭の中にあったので、記者の求人を見たときに飛びついたって感じですね。
今井:大学時代にミニコミをつくったりはしなかったんですか?
宮崎:ないですね。酒ばっかり飲んでました。
平林:じゃあ、最初に書いたのはフリーペーパーのコラムということになるんですね。
宮崎:そうですね。「こま・すじ男」ってペンネームでした。
全員:(笑)
今井:今回の『ムダ0採用戦略』、けっこうびっくりしました。なぜなら、宮崎さんは採用の専門家ではいらっしゃらない。『ムダ0歳用戦略』、読ませてもらうと普通に面白いんですけど、どういう経緯で書くことになったんですか?
宮崎:出版社からとある採用関係の有名な方に「こういう本つくりたいんだけど誰かいませんか?」って話があったんです。たまたまその方と僕が知り合いで、「宮崎くんいけるんじゃない?」と言われ、できそうかなと思ってお受けしました。なんせ20代のときに3社渡り歩いていますし、就職ナビのインタビューコンテンツを結構担当してたんですよ。個人的な興味で就活生のNPOに顔を出していたこともありました。自分が新卒の時に失敗したこともあり、「どうすれば、だれもがミスマッチなしに就職できるのか」という問題意識は、ずっと持っていたんです。
今井:では、続いて小池さんのご紹介を。小池みきさんは87年生まれ、名古屋出身。ライターでありマンガ家でもあるという、珍しいタイプの方です。僕とのご縁で言うと、最初は『百合のリアル』という、編集人生ではじめて担当させていただいた本の構成をやっていただいて、つい先日は大塚明夫さんの『声優魂』という新書の、これまた構成を担当していただきました。
平林:すごい! どっちも売れてますね!
今井:ありがたいですよね。僕と小池さんが組むと必ず売れる……という状態になってます。事実として。
全員:(笑)
今井:『同居人の美少女がレズビアンだった件。』が、記名で書かれたはじめての本であり、マンガのデビューでもありました。小池さんはどういう経緯で今のような、ある意味「変な」状況になられたんですか?
小池:そもそも、文章の仕事でお金をとるということは高校生のころからしていたんです。我が家は両親が二人ともライター業経験者で、幼いころから業界の話を聞きながら晩ご飯を食べるような環境だったんです。書籍や雑誌がどういう工程を経て私たちの手元にやってくるのか、その間にどんなトラブルがあるのか、相当早い段階で頭では理解してましたね。父は働き過ぎで死んだので、幼心に「そういうルートを歩むとリアルに死ぬほど大変なんだ」ってことまで知りましたし。
今井:お母さんに「タレント本は、タレント本人が書いてるわけじゃないのよ」とか言われながら育ったんですよね。
小池:そうです。そういう仕事が身近だったので、高校生時代には母の下請けとしてテープ起こしをしたり、星占いの記事を書いたり。やっぱり文章の読み書きが好きだったんですよね。物心ついたときにはもう、私も文章を書いて食っていこうと思っていて。
平林:逆に、なんて夢のない世界だとは思いませんでした?
小池:夢を抱いたことがないので、失望したこともないです(笑)。
今井:ハハハ(笑)。
小池:その後、大学生のときに地方の郷土史本をつくっている名古屋の出版社でバイトするようになったんです。最初はウェブ担当だったのですが、編集にも参加させていただけるようになり、文章が書けるからという理由で書籍の中の文章を書かせていただくようになって。書籍制作の基礎はそこで学んでいます。ただ、名古屋だと編集や執筆の仕事ってどうしても限られてくるんですよ。なのでとにかく上京してもっと書く仕事をしようと思い、とりあえず東京の番組制作会社に入りました。安く暮らすためにシェアハウスに入ったところ、そこでタレントの牧村朝子に出会ったんです。
今井:まだシェアハウスが流行る前ですよね。
小池:そうですね。私が上京したのは2011年の7月だったんですが、その頃ちょうど、東日本大震災の影響を受けてシェアハウスブームの流れができはじめていたように思います。
今井:人が固まっていたほうがいいということでね。
小池:2012年の頭に牧村と本をつくろうという企画を立てて、それを星海社さんに拾っていただくような形で『百合のリアル』として書籍にできました。企画や構成という形で名前が載るものは『百合のリアル』ではじめて経験させていただき、そのおかげで『声優魂』や他のマンガの仕事も来るようになったので、そこが実質スタートかなという気はしています。
今井:ということは、ある意味宮崎さんとは対照的で、能動的に切り拓いた感じですよね。
小池:そうなんでしょうか。
今井:「食う」ことが先に立って、私はこれなら食えると思って活動を始めたんですか?
小池:食えるとかは何も考えてなかったです。「作りたい」だけで突っ走っていたので。今は会社を辞めてフリーランスとして働いているんですが、会社を辞めたのは単にマンガを描く時間がとれなかったからで。
今井:そのマンガが『同居人の美少女がレズビアンだった件。』ですね。
小池:はい。もともと牧村朝子のPRのために描いていたマンガで、牧村の公式ブログに載せてもらっていました。それをまとめてpixivに上げたところ、イースト・プレスさんからお声掛けが。
平林:ちなみに、編集者になりたいと思ったことはなかったんですか? 僕もそうなんですが、書き手を目指さない場合、編集者を目指すというのはよくあるパターンだと思うんですが。
小池:編集者になる道自体は考えていたんですけど、出版社を受けられるような学歴ではなかったというのと、「”書きたい”が第一欲求の人間が編集者になるとダメな編集者になる」ということを母からよく言われていたのもあって、本当にやりたいことをやった方がいいよなと。
今井:はー、たしかに!
小池:「書きたいなら書き手を目指したほうがいいと思う」ってことは結構言われてましたね。
平林:優れた書き手になった編集者もたくさんいるじゃないですか。僕も基本的に役割分担はあると思うんですけど、一方で宮脇俊三や村松友視といった方もいるし。
小池:もともと私は、自分の足で取材して、中身もがっつり書きたいタイプなんです。こういう人間が編集者になったら、ああしたいこうしたいっていうのが多すぎて、結局著者さんやライターさんに「自分で書け」って思われるんじゃないですかね。
平林:それは編集者にとっても難しいところですね。特に先に編集者が立てた企画だったりすると、出来上がったときに、自分は書いていないのにあたかも自己実現を果たしたような気持ちを感じることがないとは言えないので。
今井:わかります。
平林:いかんいかんと思うんだけどね。
宮崎:でも、編集者もやっぱり自分の作品という意識はありますよね。
平林:自分の子供みたいなものってよく書き手の方はおっしゃるんですけど、編集者の場合はちょっと違うかな。出産を手伝った感じというか。
今井:僕はすごく、野球のキャッチャーに似てるなって思います。負けたら自分のリードが悪かったせいだし、抑えたときはピッチャーが偉い。そういう状況に快感を得る人はたぶん編集者に向いていると思います。
平林:ちょっとマゾじゃないとできないよね。
宮崎:僕は、絶対ダメだわ(笑)。
全員:(笑)
今井:今回はお二人に事前にアンケートをとってまして、ここからはその内容をもとに進めていきたいと思います。
平林:一番ヤバそうなところからいく?
今井:どれですか? 「こんな編集者は嫌だ」とか?
平林:そこじゃないかな。さあ今井の名前は出るか!
今井:まず宮崎さん。「赤入れがボヤッとしてる編集者」、「打ち合わせが要領を得ない編集者」。「赤入れがボヤッと」ってどういうことですか?
宮崎:ワードで一段落丸々赤くして「イメージと違います」みたいな。
今井:方向性すらないのはキツいですね。せめて、「もっと具体的に」くらいは書くべきですよね。
宮崎:どうイメージと違うのかがわからなければ書き換えもできない。そういう場合って大抵こねくり回した結果はじめに戻るんですよ。結局僕らも最初から理屈をつくって書いてるわけだし。
平林:「打ち合わせが要領を得ない」というのは、要するに編集方針が定まっていないってことですか?
宮崎:そう、何を打ち合わせるのかを打ち合わせる人。
全員:(笑)
今井:宮崎さんにこれを書いてほしいって言って呼び出すんじゃないってことですね。
平林:企画の相談のところから来るわけですね。僕が仕事しているライターさんからも聞くのが、散々ネタ出しさせて、発注は他の人に行ってしまうこと。仁義的にちょっとありえないんだけど。テレビは特に多いらしいですね。
宮崎:企画を相談されるのは、うれしいんですけどね。まあ、この部分は僕もしっかりしなければいけない部分なので、反省しなければいけないですが……。
今井:小池さんの「こんな編集は嫌だ」。まずは「外部の人間の前で身内(社員や著者)の悪口やゴシップを言う人」。
平林:星海社は大丈夫かな……。
今井:わ、われわれは本人がいるところでも言ってますから……。そして「報酬の話は後回し」、「相手の肩書によって態度を露骨に変える」、「飲みニケーション偏重主義者」。
宮崎:あ、最後のは僕だ……。
今井:ちなみにあとで出てくるんですけど、「仕事を絶やさないために心がけていること」で宮崎さんは「飲み会を断らないこと」を挙げられています(笑)。それから、「報酬の話は後回し」……さっきちらっと聞いたのは、意外と紙の雑誌はそういう文化があると。
小池:最初に言うのが正しい、というわけではないです。報酬金額が決まらないままスタートする仕事もありますから。ただ下請け仕事だと、報酬が支払われないままになってしまうってことも時々あるんですよ。「納品したのに報酬の話してくれないなー」と思ったままぼんやりしているとそのままずるずると……というような。出版社にはほぼないと思うんですけど。
平林:振込が遅れる話もよく聞きますよね。
今井:「飲みニケーション偏重主義者」っていまどき少ないんじゃないですか?
小池:減ってきたとは思いますけどね。まず飲み会ありきというか、酔っぱらいながら「面白いことしようよ」って言い合うこと自体が好き、ってタイプの人が苦手なんです。私の場合、酒抜きでの方が人と仲良くなることは多くて。
今井:「面白いことしようよ!」って言うやつは、だいたい面白くないですよね。
小池:シラフで言えば、って思ってしまうんですよね。
平林:無駄にだらだらお酒を飲む必要はないんだけど、僕は会うのが大事だと思っているので、できるだけ電話とかメールとかLINEで済ませないようには意識してますね。近くまで出向いてでも顔を合わせたほうが、行き違いがあったときにも修復できる。
宮崎:逆に、「こんなライターは嫌だ」っていうのはないんですか?
今井:難しいんですけど……まず、おしゃれじゃなくてもフォーマルじゃなくてもいいんですけど、不潔な人はちょっと困ります。特に取材に行くとき。
宮崎:そんな人います……? まあ結構いるか……キリストの風貌みたいな。ライターは変な人多いですもんね……。
全員:(笑)
今井:それから、自分のことを棚に上げて言うんですけど、〆切に遅れるときは遅れるって言ってほしいですね。遅れることは想定内というか仕方ないんですけど、〆切5秒前に「すみませんまだ半分です」みたいなことを言われるととっても困る。
平林:これはライターさんに限らないんだけど、決めたスケジュールが変わりそうなときは、日中の印刷所やウェブ制作会社が動いてる時間帯に連絡をもらえるとリスケジュールが多少スムーズになるかな。編集者は深夜でも動いてるから別にいいんだけど。
今井:たしかに、9時〜5時に連絡がほしいですね。
平林:そうだね。金曜の深夜2時に「すみません! 間に合いませんでした!」って言われても、もう土曜になっちゃってるし……みたいな。これは別にライターさんに限った話ではないんですよね。
今井:あと、連絡がつかないのは嫌ですね。いわゆるバックレは本当に困る……。
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