「百合映画」300本以上を紹介する前代未聞の一冊、『「百合映画」完全ガイド』(星海社新書)。
今回は、本書執筆陣の8名にそれぞれ1作ずつ、〈プッシュしたい「百合映画」〉をコメントとともに挙げていただきました。
それでは、さっそくどうぞ。
簡潔でありながらその後のすべてを予感させている出会いの場面が素晴らしい。(ふぢのやまい)
監督:クリスティアン・ペッツォルト/2005年/ドイツ/85分
病院で出会ったふたりの少女が、そこから脱出し、自分たちだけの世界へと移行するとき、ふたりの間で交換されるのは、視線と少しの身振りだけ。そこに言葉なんて必要ない。「映画」と「百合」とを接続するお手本みたいな瞬間に、ふたりの逃避行は開始される。(牛久俊介)
監督:アラン・モイル/1980年/アメリカ/111分
私にとっての「百合」とは、愛に限らず、女と女を強く結びつける何かと出逢ったときに花ひらく感情のことです。そしてそこから、新しい世界を描きはじめる可能性のことです。ちょうどこの映画がそうであったように。(児玉美月)
監督:チョン・ジュリ/2014年/韓国/119分
隕石の落下に目覚め街を襲う古代蟹!という説明文は全て嘘である。描かれているのは少女と巨大蟹の心の繋がりであり、そこに至るまでのあらゆる無意味な会話も首を捻るシーンも最後の60秒が帳消しにする。百合という言葉は人間の為だけにあるものではない。(将来の終わり)
監督:ブレット・パイパー/2015年/アメリカ/81分
「百合」は友愛/性愛の二項ではなくグラデーションだと考える契機となった作品。わかり合えないことを認めたうえで背中を任せ合える関係の尊さ――甘ったるい馴れ合いを拒否する桃子とイチゴに敬意を払い、この作品を「ハードボイルド百合」と表現したい。(関根麻里恵)
監督:中島哲也/2004年/日本/102分
湖畔で過ごす女ふたりの友情は、暴走する自意識/自己愛、染み出すパラノイアによって腐食する......ファスビンダー影響下"崩壊した女の映画的世界"系譜の最新形。現状の最新作『Her Smell』と共に、監督アレックス・ロス・ペリーの名を頭に焼き付けろ。(髙橋佑弥)
監督:アレックス・ロス・ペリー/2015年/アメリカ/90分
女たちがジョン・マルコヴィッチになって性交しているうちに惹かれ合い、彼の身体を使って子供を作り添い遂げる。当初はマルコヴィッチの男根に基礎づけられていた欲望はいつの間にか女たちのものとなり、未だ名指すことのできない奇妙な性関係ができあがる。(鶴田裕貴)
監督:スパイク・ジョーンズ/1999年/アメリカ/112分
これを見ずにアナ雪は語れない。アナとエルサの普段の暮らしが丁寧に描かれている。エルサはアナに完璧な誕生日をプレゼントしようと懸命に頑張るのだが、エルサがひたすら不器用すぎて、最後は結局アナがエルサの面倒を見ているというのもアナエルらしい。(中村香住)
監督:クリス・バック+ジェニファー・リー/2015年/アメリカ/8分
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ここで取り上げた作品は、『「百合映画」完全ガイド』収録作のうち312分の8にすぎません。
手段の問題で鑑賞のハードルがやや高いものもありますが、選りすぐりの8作、ぜひご覧になってみてください。
『「百合映画」完全ガイド』(星海社新書)
編著:ふぢのやまい
著:牛久俊介、児玉美月、将来の終わり、
関根麻里恵、髙橋佑弥、鶴田裕貴、中村香住
装画:志村貴子
発売日:2020年6月27日
定価:880円(税別)
ISBN:978-4-06-520179-4
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