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ニッポンのスタートアップ

「人工衛星が打ち上がると、IKEAの家具が安くなる?」民間発の超小型衛星で、宇宙革命を巻き起こせ!―アクセルスペース―

2013年11月20日 更新
「人工衛星が打ち上がると、IKEAの家具が安くなる?」民間発の超小型衛星で、宇宙革命を巻き起こせ!―アクセルスペース―

第3回目は、世界で初めてビジネス用「超小型衛星」WNISAT-1を開発、2013年11月21日(本記事公開の翌日!!)にロシアから打ち上げるアクセルスペース社です。数十㎝立方の小さな衛星が、遠い宇宙を身近にする。そんな「宇宙革命」を日本のベンチャー企業が起こそうとしている。中村友哉社長にお話しを伺いました。

 

取材・構成:林公代、今井雄紀 写真:今井雄紀

 

超小型衛星WNISAT-1

今井:今日は、よろしくお願い致します。さっそくですが、アクセルスペース社の事業についてご説明頂けますか?

中村:はい。人工衛星と聞くと、数トンの大きさがあり、長い開発期間と数百億円もの予算をかけて作るもの、というイメージを持つ方が多いと思います。ましてや人工衛星を「自分が使う」なんて想像しにくいですよね。でも私たちの会社は、従来の人工衛星のほぼ百分の一の大きさと予算、最短で約1年半の開発期間で「安く」「早く」「手軽に」作り、たくさんの方に「宇宙を使って頂こう」というベンチャー企業です。

今井:おー! 牛丼みたいですね。具体的にはどんな衛星を作っておられるんですか?

中村:この11月21日に気象情報会社ウェザーニューズ社の衛星WNISAT-1をロシアから打ち上げます。27㎝立方、重さ10kgの小さな超小型衛星ですが、「北極海域の海氷の観測」に目的を絞って観測することで、海氷の正確な情報を船会社に頻繁に提供できるようになります。「なぜ、北極海の氷を?」、「船会社に?」と言うと、ビジネスに直結するからです。

北極海の氷は気候変動の影響もあって年々減少しています。そのために以前は氷に阻まれて通過できなかった商船が2005年以降は通れるようになってきました。この北極海航路を通ることができると、例えばヨーロッパから日本に行く際、従来のスエズ運河や喜望峰を回る航路を通るよりも、燃料や時間を大幅に短縮できるようになるんです。海賊に襲撃されるリスクなんかも、著しく低くなります。ただ、海氷の状況は刻一刻と変化しますから、その様子を観測して提供できる仕組みを作ろうと。




今井:なるほど。でもその撮影って、今既にあがっている人工衛星でもできることではないんでしょうか?

中村:できると言えばできるのですが、帯に短したすきに長しという状態でした。ある地点の観測データを入手しようとすると、リクエストして撮影してもらうか、撮影済みのものを入手するしかなかった。リクエストをすれば一枚あたり数十万~数百万もの高い費用がかかります。一方、撮影済みのものは安いけれど、古いし見たいところの画像があるとは限りません。地球観測衛星は様々なニーズに応えるため、北極海だけを観測しているわけではありませんからね。でも、WNISAT-1は北極海だけに目的を絞り1日に4回データを受信できる体制を整えましたから、頻繁に新しい画像を入手し、より確度の高い情報を提供できるようになります。「世界でまだどこも行っていないサービス」を我々が始めるんです!

今井:すごい! それってつまり、アクセルスペースの衛星が上がると、IKEAの家具が安くなるかもしれないってことですよね?

中村:そういうこともあるかもしれませんね(笑)


空き缶を打ち上げ、宇宙にハマる

 

今井:中村さんは元々、宇宙好きだったんですか?

中村:いえ、高校の時は航空宇宙の「こ」の時もなく。むしろ化学が好きでした。東大に入って1,2年の頃はなんとなく「大学って遊ぶもんだよね」という雰囲気があるじゃないですか。でも内心、「このままでいいんだろうか」とか「大学にいる意味ってなんだろう」とちょっと焦っていた。そんなとき、3年生からの学部を決めるガイダンスで、航空宇宙学科の中須賀真一先生の話を聞いて、びっくりしたんです。

今井:どんな話だったんでしょうか?

中村:1999年に、学生が空き缶サイズの模擬人工衛星を作ってアメリカの砂漠で打ち上げるという「缶サット」プロジェクトを成功させたばかりで、先生本人が大興奮しながら話していて飛び抜けて面白かった。「次は10㎝立方の本格的な超小型衛星を作ります」と。

学生が人工衛星作る、とその時初めて聞いて「相当クレイジーだな」と感じながらも、「何となく卒業して大企業に入って、何となく生きていくより、他ではできないことをできるんじゃないか」と強く思った。それで中須賀先生の研究室に入ったんです。

今井:そこから、衛星作りに没頭されて……?

中村:そうでもなくて……正直、入った直後は「間違ったな」と(笑)。研究室に入ってすぐに「じゃあ、明日から熱真空試験ね。宇宙研集合」と言われて。先輩が何を言っているかわからない。

熱真空試験というのは、宇宙の温度状態を実験施設で再現して、衛星が耐えられるかどうかを試験するんです。相模原市にある宇宙科学研究所に行くと、「じゃあ24時間交替ね」とその場で言われて、「え、何も用意していないんですけど」と(笑)。2年間だらけた生活をしてきた身には衝撃的なスタートで「これは生き残れるんだろうか」と思いました。

林:図らずも洗礼を受けたわけですね。面白いと感じ始めたのはいつ頃だったのでしょうか?

中村:3ヶ月ぐらい経って、先輩が何を言っているかわかるようになってからですね。面白くなると、夜中まで一生懸命打ち込むようになって。4年生の時に大学初の超小型衛星「XI-IV(サイ・フォー)」を完成させました。打ち上げは2003年6月30日ロシアの宇宙基地まで行きました。世界初の超小型衛星打ち上げとなりましたが、自分の横にあったものが宇宙に行くなんて、現実じゃないような気持ちでしたね。

現実感を持ったのは、衛星からの電波を受けたときです。衛星が飛来する時間になると、無線機の前から聞きなれたモールス信号が聞こえてくる。開発中、朝から晩まで聞いていたあのメッセージです。あまりに聞きすぎて、少し聞いただけで衛星の健康状態がわかったものです。そして、衛星が地平線の向こうに沈むと信号も途切れる。ああ、衛星は今、遠い宇宙にいるんだと実感する瞬間です。何年もかけて作ってきた衛星が、自分が設計した通り宇宙でも動いている。衛星エンジニアにとって最高のご褒美です。

今井:すごい経験ですよね。進路についてはどう考えておられましたか?

中村:一応、就職活動もしましたよ。修士2年で打ち上げを終えて、大型衛星を作る大企業も会社訪問しましたが、大型衛星を作る道に入るなら、この道を歩んできた理由はなんだったのかと考えてしまって。せっかく他の人にできない経験をしたのに、もったいない。超小型衛星をもっといいものにしたいと、後先考えずに博士課程に進みました。




起業―「やっぱり無理だったのか」と苦しい時期


今井:どうして、起業という道を選ばれたんでしょうか?

中村:博士課程を終えるまでに3つの超小型衛星の開発を手がけて、衛星作りは面白いけど、ただ面白いからやるだけではダメだと思うようになってきたんです。最初の衛星で画像を一般に配信するシステムを作ったら思った以上に好評で、反応があるのがすごく嬉しいし、「使ってもらってなんぼだよな」と実感しました。そのためには大学でやっていても広がらない。もっと色々な人に使ってもらうには会社を作るしかないと。

今井:ビジネスとしてやっていけるだろうという自信はあったんですか?

中村:「これは絶対役に立つ」という根拠のない自信はありました。使ってくれる人が絶対出てくるだろうと。そこで2007年3月に博士課程を終えて、大学発ベンチャー創生事業の助成金を受けたんです。たとえ起業できなくても死ぬわけではないし、チャレンジしてみる価値はある。助成金の2年間の期間でできるだけやってみようと覚悟を決めました。

林:どの企業も、まさか「人工衛星を所有できる」なんて思ってないですよね? ニーズから作らないといけない感じするんですが、営業は大変ではありませんでしたか?

中村:これがやってみたら大変で・・最初は何もわからないから、「こんな衛星あります」と紹介しに行く。でも先方にしてみたら困りますよね(笑)、いきなり訪ねて来て「超小型衛星買いませんか?」と言われても。自分の中にはこの衛星が使えるという確信があるけど、うまく伝えられない。相手にしても衛星ってどう使うの?という感じで、どうしてもかみ合わない。そんな期間が1年弱ぐらい続いて、これはやばいなと……。

最初は自信満々だったのに、あまりの反応の悪さに「これはやっぱり無理なのかな」と、本当にできるんだろうかと。あの時期が一番、苦しかったですね。

林:折れそうな心を支えていたのは何だったんでしょうか?

中村:やっぱりこれまで重ねてきた経験かな。衛星の開発って大変なんですよ。何年もかけて徹夜をくり返して色々な試験をするのに、ちょっと考え忘れたことがあると失敗につながって一瞬ですべてが終わってしまう。でも打ち上げてうまくいったときの喜びは感動的です。大変な思いをいっぱいして積み上げてきて、ようやく社会に役立つものにしようとしているのに、今、ちょっと辛いからって簡単に諦めたら後輩達に申し訳が立たないと。


ウェザーニューズ社創業者の「君たちは革命を起こせ」という言葉

 

今井:ウェザーニューズ社さんに出会ったのはいつ頃ですか?

中村:年があけて2008年の初めですね。「興味がある」とミーティングの機会を頂いて。ウェザーニューズ社さんも当時ちょうど北極海航路が開通した直後で、船会社に情報を提供するために、既存の衛星の画像だけでは情報の取得頻度が低いことに悩んでおられたんです。

その話を聞いて、「ぜひ検討させて下さい」と。何度も足を運んで衛星や搭載するカメラについて話し合いを重ねて、ようやく夏頃に「これでいきましょう!」と衛星を持つ覚悟を決めて頂いたんです。そこで我々もアクセルスペース社を起業する決断をしました。

今井:アクセルスペースのアクセルはどういう意味ですか?

中村:元々は「加速する」という意味のアクセル(accelerate)からとったんですけど、ウェザーニューズ社の会長だった故・石橋さんから「君たちは革命を起こせ」と言われたんです。ウェザーニューズ社も気象の世界で革命を起こすから君らは宇宙革命を起こせと。それを聞いて今の宇宙開発を加速しているだけじゃダメだ、「次元を変えないと」と思い、フィギュアスケートのトリプルアクセルのように高く舞おうと「AXEL」としました。


人工衛星と言えばJAPAN

 

今井:今後はどんな展開を考えておられますか?

中村:柱としては2つ考えています。一つはウェザーニューズ社さんのように、自分の衛星を持ちたいというお客様を開拓したい。もう一つは人工衛星を自分で持つ判断をなかなかできない方のために、衛星が撮ったデータを買うという利用の仕方を考えています。

大型衛星にできなくて超小型衛星にできることはなんだろうと考えると、数を多く打ち上げられることです。大型衛星は一つ何百億円もしますが、超小型衛星なら大型衛星1個分で100個打ち上げられる。100個あれば、「リアルタイムのグーグルアース」のようなものができると考えています。

今井:つまり、頻度高く地球を観測できるということですね?

中村:そうです。いくつもの衛星を使うことで、地球のあらゆる場所の「今」を観測できる。様々なしかも今の地球を見るだけなら、無料に近い形で利用できるように考えています。そうしないと、利用は爆発的に広がらないと思うんです。タイムリーな情報を使ったビジネスがきっと出てくるでしょう。

今井:それは楽しみですね! しかし、なぜそこまで?

中村:今の衛星ビジネスの問題点はプロフェッショナルがプロフェッショナルに売っているだけ。限られたプレーヤーの「宇宙村」の中だけでお金がぐるぐる回っている。外の人をどう引っ張り込むかを考えると、「いい物を安く」提供しないと革命は起こせない。

具体的には超小型衛星群の打ち上げを2016年から開始する計画で、試作モデルを作るための助成金を既に受けています。つまり技術的な面はクリアしている。来年には、スポンサーを募り、実際に宇宙に打ち上げる「実機」の製作にとりかかりたい。今、アメリカのベンチャー企業も同じような目的をもっていて、競争しているところです。

今井:世界と戦っているということですね。

中村:超小型衛星の開発はアメリカと日本で同じ頃に始まって、一緒に発展してきました。ようやく世界的にビジネスが始まり、新しい産業が生まれようとしている。どこが主導権を握るか、今が正念場です。ぜひ日本がイニシアチブをとりたい。日本が、我々が世界で初めて大学発の超小型衛星を打ち上げたのだから、「超小型衛星と言えば日本でしょ」と言わせたいんです。

会社概要

会社名
株式会社アクセルスペース
所在地
 〒101-0052 東京都千代田区神田小川町二丁目3番13号 M&Cビル7階
事業内容
超小型衛星等を活用したソリューションの提案
超小型衛星及び関連コンポーネントの設計及び製造
超小型衛星の打ち上げアレンジメント及び運用支援・受託
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