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野食のススメ 東京自給自足生活

第7回:新木場秋のサバ祭り!? 鮮度抜群・東京湾奥青物御膳を作ろう!

茸本朗
2016年11月29日 更新
第7回:新木場秋のサバ祭り!? 鮮度抜群・東京湾奥青物御膳を作ろう!

 これまで連載をお読みいただいてきた皆さまには敢えて説明することもないと思うが、茸本(著者)ならびに平林氏(担当編集)のどちらも、釣り運がない。

 そもそも腕はあるのか? と言われるといささか口ごもりたくなるが、それでも別の機会にトライしてみると、狙いのものがポンポン釣れてくることがよくある。

 そう、我々は典型的な「本番に弱い」タイプであり、このせいで様々な局面で苦労をしてきた。

 しかし逆に言えば、そんな我々でも狙って釣れる釣り方・魚がもしいるならば……

 それこそ当連載の読者の皆様に最もオススメできるものなのではないだろうか。

 果たしてそんなものあるんですか……?

 あります! 

 サビキ釣りの青物です!

情報を制するものが青物を制す

 青物とは食卓でもなじみ深いアジ、サバ、イワシをはじめとした背の青い魚のことで、これらは釣り業界においても最もなじみの深いターゲットとなっている。

 その理由としては、以下が挙げられる。

1.情報を得やすい

 青物はいわゆる回遊魚に属し、同じ場所でいつも釣れるというわけではない。

 そのため彼らが回遊してくると、その情報が釣具屋や個人ブログなどによってアップデートに公開され、今どこで釣れているかというデータを得やすい。

2.いれば釣れる

 カツオやマグロのような大型肉食魚ならいざ知らず、プランクトンを主食にしている小型回遊魚は基本的に「サビキ仕掛け」というものでごく簡単に釣れる。

3.美味しい

 御三家と言われるアジ、サバ、イワシは言わずもがな、外道としてメジャーなサッパやコノシロも大変美味しい。

 そもそも岡山にルーツを持つ人間にとっては、サッパの外道扱いはどうにも納得のいかない部分である。

 岡山名物「ママカリ」はこのサッパを酢漬けにしたものであり、「まま(飯)を隣に借りに行くくらい美味しい」というほどに美味なのだ。

 食べんやつはぶちくらわすけん、うめぇんじゃけん食ってみられぇー!

 総括すると、正しい情報とサビキ仕掛けさえあればもう釣れたも同然、というのが青物釣りの魅力なのである。

 では具体的に、どんな情報が必要なのか。

 今回の取材の様子を交えながら、かんたんに解説していきたい。

サビキ釣り必勝のための情報と釣り方

 今回は脳みそコマセマンこと平林氏から「今回こそマジで釣れよ、さもないと連載を終了するからな!!」という熱い激励の言葉をいただく夢を見たので、何が何でも取材を成功させなければならない。

 そのためには相模湾方面、あるいは千葉方面への遠征も辞さない......とまで追い詰められていたのだが、そんなところになんと「東京湾最奥部・新木場(若洲海浜公園)でサバが釣れまくっている」というニュースが飛び込んできた!

 しかも大きいものは30㎝近くあるとのこと。

 これまでこんな事態は聞いたこともなく、秋の椿事と言っても過言ではないだろう。

  若洲海浜公園は海釣り公園として整備されており魚種も豊富だが、入園料などは不要なのが嬉しい。

  釣り具や餌を売る売店も併設されている。

 ここに限らず、各地の海釣り公園・施設では、釣り初心者のためのサービスが充実している。

 貸竿サービスや釣れている魚の情報提供、釣り方のレクチャーまで至れり尽くせりだ。

 入園料がかかるところもあるが、貸竿・貸仕掛けが利用できることを考えると、釣り具をいちからそろえる場合と比べてむしろ安くなることもある。

 釣りが全く初めて、という人は、海釣り公園から始めてみることをオススメする。

 サビキ仕掛けとは、1本の縦糸に6~8本程度の疑似餌付きの針が結ばれているもので、先端についているスナップを、糸の先に付けているサルカン(接続用の金具)に引っ掛けて閉じるだけでセットすることができる。

 餌付けが必要ないため、ゴカイやミミズが苦手な人でも全く問題ない。

 初めての時は、針が小さいものを選ぶのがコツだ。

 連動して糸が細くなり、目のいい彼らに見破られにくくなるからだ。

 ただ回遊魚である青物は、魚体サイズの割に力が強く、あまり細すぎると糸を切られて逃げられてしまう。

 使っている竿の硬さにもよるが、まずは4号を基本に、20㎝を越えるようなサバやアジが釣れているなら5号、6号なども用意しておくとよいだろう。

 安いものなら100円以下のものもあり、たくさん用意しても財布が痛まない。

 サビキ仕掛けの下にはプラスチック製のカゴをつける。(仕掛けの上にナイロン製の袋をつける場合もある)

 ここにコマセと呼ばれるアミエビなどの寄せ餌を入れておき、海の中で上下に動かしていると、コマセに寄せられた魚が針に食いつく、と言った寸法だ。

 釣りというより漁に近いかもしれない。

実際に釣ってみよう!!

 格安の4~6号のスキンサビキとレトルト餌パックを携え、現地に到着した。

 まずはふらっと釣り場を散策しながら、釣れ方を確認する。

 青物は釣れ方に濃淡があり、よく釣れている場所とそうでない場所が必ずある。

 よく釣れているところの近くで、先行者の邪魔にならないところを見つけたら、両端の人に軽く挨拶をしてから荷物を置き、準備に取り掛かろう。

 始めるにあたり、現地においても手に入れるべき情報がある。

 もっとも大事なことはタナ、つまりは魚が回遊している水深を知ることだ。

 一般的にはイワシが表層、サバが中層、アジは底層にいることが多いが、潮や気温、天候によっても大きく変わってくる。

 トライ&エラーで探り当てるのもいいが、釣れている人に聞いてしまうのが一番手っ取り早い。

 さて、うまくタナに入れても、そのままにしていると釣ることはできない。

 サビキ仕掛けの針は前述のように疑似餌であり、止まった状態だと魚に偽物だと見破られてしまう。

 そのため絶えず上下に動かし、本物の餌であると錯覚させなくてはいけない。

 タナが正しく、かつしっかりと仕掛けを動かし続けていると、やがてプルプルと小気味よく竿先が揺れて魚信が伝わってくる。

 焦らないよう一定のスピードで糸を巻き上げ、外れてしまわないように注意しながら陸上に上げる。

 最初に釣れたのはコノシロ(ニシン目ニシン科)。

 出世魚であり、小さいうちは新子、あるいはコハダとして寿司ネタに珍重されるが、大きくなると見向きもされないことが多い。(出世してないじゃんというツッコミはなしで)

 しかし料理法によってはイワシをも凌駕する美味な魚となる。

 釣れた青物は美味しく食べるため、鰓からキッチンバサミを入れて動脈を切り、

 水汲みバケツに入れて血抜きをして、

 すぐにクーラーボックスにしまう。

 ときに水汲みバケツに入れたまま放置しているのを見かけるが、鮮度が下がった青物は美味しく食べられないだけでなく、ヒスタミン中毒の原因になってしまうこともあるので厳に慎みたい。

 幸先いいじゃないか。

 まだ干潮過ぎたばかりなのに、活性高いなぁ......。

 とその時、いきなり竿先がグーッと海中に引き込まれた!!

 無理に糸を巻くと4号のサビキが切れてしまうので、竿の弾力でいなしながら、堤防上にぶりあげる!

 サバキター!!

 しかも28cmほど、噂にたがわぬいいサイズだ。

 本当に新木場でサバが釣れるとは驚き。

 東京湾で釣れるサバは2種類あるが、これはマサバ(スズキ目サバ科)の方だ。

 味噌煮、竜田揚げ......新鮮なサバは何にしても美味しい。

 魚雷のような強烈な引きもサバの魅力だ。

 その後は酢との相性が抜群にいいサッパ(ニシン目ニシン科)や、

 小さなマアジ(スズキ目アジ科)、

 カタクチイワシ(ニシン目カタクチイワシ科)、

 これらを混ぜながら、サバを追加していく。

 あー気持ちいい! 狙い通りの魚が読み通りに釣れるって、なんて気持ちいいんでしょう。

 ねえ平林氏!!

 ......えっ、もしかして、まだサバ釣れてないの......?

 しょうがないなぁ、僕ちょっと植物性食材探してくるので、僕の竿使ってていいですよ。

 竿をセットしておきますんで、どうぞ。

 ああ、人に親切にするってなんて気持ちいいんだろう!

 サバも釣れたし気も楽だ! 植物系食材もサクッと見つけてしまおう。

秋・冬の野食に強い味方『ロゼット』

 さて、当連載でしばしば愚痴ってきたとおり、夏以降は植物性食材を集めるのに苦戦する。

 成長した植物は硬く筋張り、食用に利用しづらくなるのだ。

 しかし、朝晩の寒さが厳しくなってくると、いくつかの雑草は寒さに耐えるための形態に変化する。

 その1つがロゼットだ。

 ロゼット型になる植物は、若い葉を地面にへばりつかせるように開き、寒さに耐えながら日光を多く取り入れようとする。

 この葉は柔らかく、みずみずしくて食べやすいものが多いのだ。

 たとえば、

 オオバコ(シソ目オオバコ科)。

 雑草の代表格として知られるが、若い葉はクセがなく、柔らかくて食べやすい。

 それから、

 タンポポ類(キク目キク科)。

 日なたに生える大きなものは硬いうえに苦みが強く食べづらいが、日陰に出るものは柔らかく、苦みもチコリと同じ程度で美味しく食べられる。

 こちらはロゼットではないが、ドクダミ(コショウ目ドクダミ科)の若芽も生えだしていた。

 悪臭があることで知られるが、東南アジアではハーブとして用いられるほどなじまれており、野菜の一種と言っても過言ではない。

 若いものなら多少は食べやすいかも......。

 これらを採取していると、平林氏から「サバの群れがまた回ってきた」という連絡が入った。

 釣り場に戻ってみると、あちらこちらでサバがボイルして(水面をたたいて)いる。餌となるイワシを追いかけて興奮しているのだ。

 まさか、東京湾の最奥で、サバのボイルが見られるとは......感動ですこし見とれてしまう。

 仕掛けを入れると、

 飽きない程度にテンポよく釣れてくる。

 コマセが切れかけたころ、ようやく平林氏もいい型のサバを1本キャッチ。

 最後にサッパをパタパタと追加して納竿。

 銀座から30分のこの場所で、これだけ青物が釣れたら何も言うことはない。

 堤防にこぼれたコマセをきれいに洗い流して、調理場へ向かった。

東京湾奥産青物で鮮度抜群ぴちぴちの青物御膳を作ろう

 今回は、文京区教育センターに隣する「アカデミー文京」のキッチンをお借りした。

 まず、遺憾ながらすっかりおなじみとなった無洗米からだめあてを研ぎ、水を少なめにして炊飯器のスイッチをオン。

 炊き上がったら寿司酢を振り掛け、タオルで扇ぎながら急速に冷ます。

 さあ、魚の処理に進もう。

 マサバは頭と内臓を下ろして3枚に捌き、

 塩をたっぷり振りかけて30分おく。

 酢を少し入れた水で塩を洗い流し、腹骨を漉いて、

 寿司酢に漬けて再び30分。

 続けてコノシロの頭と鱗を落とし、

 硬く骨ばっていて食べづらい腹の部分を切り落として、内臓を抜きよく洗う。

 3枚に下ろして、

 腹骨を漉き、皮を手で引いて剥がす。

 指がヌルつくほど脂がのっていて、とても美味しそうだ。

 しかし、大きく成長したコノシロは小骨が硬く、このまま普通の刺身にしても食べられない。

 そこで、細長く切りだし、さらに包丁で叩きながら荒いミンチ状にしていく。

 ここに適量の味噌を混ぜて、粘りが出るまで叩く。

 本来ならここで刻んだ薬味を入れたいところだが、今回は薬味になりそうな香草が採れずじまい。

 一縷の希望をかけてドクダミの若葉を刻むも、香りが強烈過ぎて断念。

 今回は薬味なしでいくしかない。

 続いてサッパの下処理。

 基本的には小さいコノシロと考えてもらえれば問題なく、同様に処理していく。

 よく研いだ包丁で3枚に下ろしたら、こちらも多めに塩を振り掛け、15分ほどで酢洗いをし、寿司酢に漬けこむ。

 マサバを1匹、3枚に下ろしてミンチにし、

 ここにオオバコの葉を刻んで入れ、丸めてつみれにする。

 マアジとカタクチイワシは、指で鰓と内臓をちぎり取り、粉をまぶす。

 タンポポ、オオバコ、ドクダミをさっと洗い、衣をまぶす。

 これらを揚げ物マスター・平林氏がサクサクと揚げていく。

 また、別のマサバは下処理をして塩を振り掛け、

 グリルで焼きあげる。

 さあ、いざ仕上げに参ろうぞ。

 酢締めにしたサバは皮を引いて、中央の盛り上がっている部分の筋肉を削ぎ落とし、断面が台形になるように整える。

 先ほど作った酢飯をすのこの上に棒状に並べ、そこにサバの身を互い違いに並べる。

 すのこを巻いてギュッと力をかけ、きれいな筒状になったらゆっくりと取り出し、一口サイズに切る。

 サッパは酢をよく切り、器に盛る。

 東京湾奥青物御膳、完成!!

 サバ寿司、大好物なんですよ! さっそくいっちゃいましょう!

 ......うん、やっぱり富栄養の海、東京湾産のサバは小さくても脂がのっていて美味いなー!!

 ......ん?

 もう一口食べてみる。

 ......ん、やっぱり感じる......。

 これは......東京湾奥の匂いだ!!

 気になって、先ほど切り取った筋肉部の方を食べてみると、全く匂いを感じない。

 どうやら脂肪に匂いをため込んでいるようだ。

 どちらかというと外洋性の、しかも回遊魚であるサバに湾奥部の匂いがついているとは驚きである。

 湾奥と言っても、臭い・不快だというものでは全くなく、いわば個性の延長といった程度であるが、明らかに他の産地のサバとは異なった独特の香りがする。

 その手の香りが苦手な人は、塩締め・酢締めの時間をより長めにとるといいかもしれない。(今回は時間がなく浅漬けになってしまったが、筆者は自宅でやるときはいつも塩締めに1~2時間、酢漬けに30分ほど費やしている)

 マサバの塩焼きは、水分が飛ぶことで匂いが濃縮されてしまい、冷めるとやや食べづらくなってしまった。

 熱いうちに食べきってしまうか、香辛料を効かせて焼くのが無難かもしれない。

 同じ匂いはサッパの酢締め(ママカリ)からもわずかに感じられたが、こちらは魚体が小さいため酢の回りがよく、ほとんど気にならなかった。

 歯ごたえと、青物特有の旨味があり大変美味しい。

 個人的に最も美味しかったのがコノシロのなめろう。

 こちらもサバに負けず劣らず脂がのっていたが、味噌の効果か臭いは全く感じられない。

 青物としての旨味はサッパよりも強く、一方でミンチ状になっているため小骨も全く気にならない。

 コハダサイズの味わいしか知らない人にこそ、大きく脂の乗ったサイズのものを食べてみてもらいたい。

 マアジ、カタクチイワシのから揚げは、このサイズだと骨ごと柔らかく揚がり、カリカリと香ばしい。

 サビキ釣りで本気を出すと、このサイズが無限に釣れ続くことも多いが、資源保護や後処理のことも考えて自省しないといけない。

 サバのつみれ揚げと野草の天ぷら3種。

 濃厚なサバの味が感じられてお酒が欲しくなる。

 区民センターのためアルコールを飲めないのがとても残念だ。

 タンポポは柔らかくてとろけるような食感、オオバコは存在感と食べごたえがありどちらも美味しいが、一番評価が高かったのはドクダミ。

 揚げると香りが穏やかになり、甘みが出てきて完成度の高さを感じる。

 栄養価も高いらしいし、今後も積極的に利用していきたい。

 というわけで、東京湾奥でも簡単に青物が釣れて、さらに美味しく食べられるということが分かった。

 マサバ、マアジともに、外洋に面した漁港へ足を運べば30㎝、40㎝といった大物も陸から釣ることができる。

 まずは湾奥や近場で小物相手に修業を積み、慣れたらそれらのサイズに挑戦してみることをオススメしたい。

 40㎝を越えるようなサバが掛かったら、まさに力勝負となり大変なスリルが味わえるだろう。

 さて、次回のテーマはどうしようか。

 年の瀬も近いし、ちょっと豪華なものを作りたい。

 スペシャル回にしたいな......おせちとか、どうでしょう?

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ライターの紹介

茸本朗

茸本朗

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駆け出し図鑑編集者。川崎在住の30代。2012年にブログ「野食ハンマープライス」を開設。海産物に野草、キノコ、虫など、ありとあらゆる変わった食材を入手して調理して食べてレポートするという、食材へのアグレッシブな探求心が話題を集め、現在では月間50万PVの人気を誇る。胃腸は弱め。

ブログ:http://www.outdoorfoodgathering.jp/

野食のススメ 東京自給自足生活

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