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語らせてくれ『HiGH&LOW』!

追放されし異形~日向会の落日~

2017年05月22日 更新
追放されし異形~日向会の落日~

日向会。達磨一家・日向紀久の三人の兄たちが結成した家村会の下部組織にあたる愚連隊集団。家村会の意向でMUGEN潰しに動き、あえなく敗れさった負け犬。わかりやすいにも程があるくらいわかりやすい、典型的なかませ犬、典型的な脇役だ。しかし、そのわかりやすい設定からうける凡庸な印象を、ビジュアル、その他が丸っきり裏切っているのだ。彼らは何者なのか?我々はあらかじめ失われた日向会の物語を取り戻す必要がある。

『HiGH&LOW』には様々なチームが存在する。そして、それぞれが特徴的なファッションに身を包んでいる。例えば、MUGENのバイカー・ファッションは実在するアメリカのバイカー集団ヘルズ・エンジェルズがモチーフにされているし、White Rascalsはスカウト集団を主役にしたアウトロー漫画『新宿スワン』(和久井健)の登場人物の服装とスタンリー・キューブリック監督の名作『時計じかけのオレンジ』に登場する不良少年グループ・ドルーグのコスチュームがミックスされたもの。RUDE BOYSは核戦争後によって文明が滅びた後の荒廃した未来を舞台とした映画や漫画、たとえば漫画『北斗の拳』(原作/武論尊、作画/原哲夫)や映画『マッドマックス』シリーズのような作品の登場人物のような格好をしている......というか『北斗の拳』も元ネタは『マッドマックス』なので、『マッドマックス』の悪人でない人たちの格好をしているというのが一番近いかもしれない。無名街が法律が通用しない荒廃したスラムであり、そこを本拠地とするRUDE BOYSは他のチームとは異質な集団であるというのがわかりやすく提示されている。



こうやって改めて見ると、それぞれがチームの特質の設定にのっとった人物・作品からビジュアル的な部分の引用がなされてきているのがわかる。上にあげた例以外にも、山王=町のあんちゃん、鬼邪高=不良学生、達磨一家=テキ屋、家村会=ヤクザ、スクラッパーズ=チンピラ、という風にチームの特質がビジュアルでわかりやすく提示されている。逆を言えば、ビジュアルを見ればチームの特質が簡単に理解できるようになっている。



 ところが、ビジュアルによってもチームの特質が理解し難いチーム、ビジュアルにとらわれるとチームの特質がよけいにわからなくなりそうなチームが一つ存在する。それが日向会だ。
 日向会。達磨一家・日向紀久の三人の兄たちが結成した家村会の下部組織にあたる愚連隊集団。家村会の意向でMUGEN潰しに動き、あえなく敗れさった負け犬。公的に語られている情報といえば、これくらいのものだろう。わかりやすいにも程があるくらいわかりやすい、典型的なかませ犬、典型的な脇役だ。しかし、そのわかりやすい設定からうける凡庸な印象を、ビジュアル、その他が丸っきり裏切っているのだ。彼らは何者なのか?「脇役とかどうでもいいじゃない」と思う人もいるだろう。しかし、「ハイローはみんなが主役」とはハイローの背骨を通っている思想の一つ。日向会だって紛れもない主役なのだ! そして、我々はあらかじめ失われた日向会の物語を取り戻す必要がある。



 日向の長男・次男・三男のルックスは、あまりにもハイロー世界の他の住人とかけ離れている。
 ほぼ坊主頭といっていいぐらいの短髪を金髪に染めた顔に大きな傷のあるマオカラーの服を着た長男。
 リザードの前身バンド・紅蜥蜴や東京ロッカーズの自殺というバンドを思わせる、長髪、首輪、ピアス、目の周りの黒いメイク、メッシュなシャツに全体的にレザーな服装の次男。(彼はパンクっぽい格好と表記されることがあり、そのことに違和感を覚える人も多かったと思われる。現代的なパンク・ファッション、特にメロコア以降の流れで音楽を聞いている人たちから考えれば、次男の服装はおおよそパンクと認められないものだろう。しかし、70年代中期から80年代初頭にかけて存在したグラムロックから初期パンクの橋渡し的なバンドというのは、だいたいああいう感じの人が一人はいるので、パンク・ファッションとは言えないかもしれないが、間違いなく「パンクバンドのファッション」ではある)
 ブラック・ミュージック由来の髪型であるコーンロウにミスマッチなロックな革ジャン。妙に細いズボン。口ひげやアクセサリーが妙にヤクザっぽい。様々な要素で構成された三男。
 まったく統一感のないビジネスを持った三兄弟。長男は昔の香港映画の悪役みたいだし、次男は不健全なアンダーグラウンドのバンドマン、三男に関してはなんだかよくわからなくてパッと見で一番近いのは東映特撮の怪人だ。それぞれ強そう、悪そうではあるが、同じ集団に属しているような統一感が丸きりないし、これが血の繋がった兄弟だとは到底思えない有り様だ。



 日向兄弟だけではない。一般構成員こそ揃いっぽい愚連隊的な格好でまとめているが、幹部クラスのモヒカンにマスクのデブ、カンフーっぽい身軽なデブ、身軽なナイフ使いの男などは癖が強すぎて、やっぱり悪くて強そうだけど同じ集団にいる感じではあまりない。



 ビジュアルだけではない。鎖分銅を操り、遠方の敵に破壊を振り撒く男。室内なのに闇から車で現れて人をはね飛ばす男。巨大なスパナを軽々と振り回す、各種スパナを体に仕込んだ武器使い。コンクリートの壁を粉砕しながら殴り合うモヒカンの男。蹴りでの空中戦を華麗に見せつける巨漢。喧嘩に勝つことではなく相手を切り刻むことしか考えていないような戦い方のナイフ使い。RUDE BOYS以上に、彼らの戦い方もこの世界とは異質なものなのだ。
 このような統一感に欠ける奇怪な人物たちが一つの集団に属しているというのは、日向会を一愚連隊と考えた場合、非常に違和感があるだろう。しかし、私はこのような狂気と暴力に満ちた奇怪なクリーチャーたちが一つの集団として集っている情景を過去に見たことがある。山田風太郎の『忍法帖』シリーズで。横山光輝の『伊賀の影丸』で。永井豪の『手天童子』の鬼の子孫や『凄ノ王』の超能力不良集団・不死団や部団連合で。そして、石川賢が生涯執拗に描き続けてきたような彼らを私は確かに見てきた。そう、日向会こそは閉鎖された山里で何代にも渡る交配の結果産み出されたミュータントであるところの忍者や、まつろわぬ者として闇に追われた鬼の子孫といった、狂気に満ちた異能力者たちの系譜をうけ継ぐ者たちなのだ。



「まあ、長男はいいとして、次男や三男って特に凄い能力とかなくなかった?」とかいう人もいるだろう。しかし、ちょっとまってくれ。普通、車にはねられたら死なないまでも戦闘不能になるだろう。しかも闇に隠れておいてからの不意討ち! あんなのは九十九さんが丈夫なのがいけないの。あの人が車にはねられても死なないし、窓ガラス突き破るくらいの打撃をうけて高い所から落ちても死なないで、しばらくしたら動けるようになるのがおかしいの。普通の奴はあんな巨大なスパナを軽々と振り回さないし、あれで躊躇なく人間を殴れないの。相手死んじゃうから。それを平気でうけて真っ向からぶっ飛ばしていく琥珀さんが変なの。琥珀さんが色々とおかしいのがいけないの。相手が悪すぎたから本来持っている特殊な力を披露する前に負けてしまったに違いない。



 太田と古西だって、あんな破壊力のある鎖をやすやすとうけ止めたり、コンクリートを破壊するパワーに耐えた上に自分でもコンクリートの壁壊したり、九十九さん以上というか、琥珀さんなみにおかしいし。琥珀、太田、古西、九十九のMUGENの四人が自分たちと同レベルの異能力者だと思わずに油断したのが日向三兄弟の敗因だ。鬼を倒せるのはやはり鬼だけだったのだろう。琥珀さんもまた、左右の眼の色が違う異形の者なのだから。



冷静になって考えてほしい。一見、かませ犬のように見られがちな日向会だが、彼らは弱かったのだろうか? いや、私の見るところ現SWORDのトップで日向三兄弟及びモヒカンに勝てる人間は存在しないだろう。まず、みんな車にはねられたら最低でも戦闘不能だ。鎖分銅の距離と破壊力には相手にたどり着く前に敗れ去るだろう。唯一、勝機があるのはスモーキーだが、素早さで肉薄するもタイムリミットが来てしまい、血を吐いて寝込んで終わりではないだろうか。コンクリートの壁を破壊できる奴もいないだろうし、あんなの当たったら普通死ぬ。それは巨大スパナも同じだと信じたい。万が一の時には卑怯スパナを使えば......少なくとも、ヤマトは気付かないはずだ。



 映画本編に向けて、琥珀さん、及びMUGENの強さを知らしめるために日向会編があったわけだが、琥珀さん率いるMUGENが現存のチームより戦闘力が高いということを表現するためにはシーズン1での山王対他チームのバトルを超えるものが必要とされる。そのため日向会には今までにない強さのイメージが無ければならない。また、MUGENと互角に渡り合った雨宮兄弟という存在も既にいる以上、そことイメージが被ることは得策ではない。そして、日向三兄弟が日向紀久の血縁である以上、その強さには狂気が流れていなければ嘘になるだろう。その結果が狂気に満ちた言動とビジュアルであり、他のチームとかけ離れた人間離れした戦闘スタイルだ。小説、漫画、映画といった創作物(私があげたもの以外にもアメコミの悪役等も当てはまるだろう)に登場してきた闇に潜む異形の異能力者という存在が召喚されることになったのだ。また通底する狂気はありながらも、拷問やいやがらせのための占いマシーンの破壊というシーンで外道で陰湿な要素を付け加え、達磨一家との差別化も成功させていることに触れておきたい。その結果、日向紀久と達磨一家というのは日向会の単なる後継種ではなく、その脆弱な負の部分を切り捨てることで始まったものだというのが明確になっている。



このように偶発的な事態によって、本来なら同一の物語内で存在し得ないようなキャラクターが登場してしまうのがハイローの魅力の一つであり、日向会はその可能性を大いに広げた重要な存在なのである。

ライターの紹介

ロマン優光

ロマン優光

    

音楽ユニット「ロマンポルシェ。」のDELAY担当。著作に『日本人の99.9%はバカ』『間違ったサブカルで「マウンティング」してくるすべてのクズどもに』(コアマガジン刊)など。

    

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