3月に発売予定の新書『戦略的上京論』。全員上京経験者の星海社新書編集部が配る、新たな“武器としての教養”です。著者は、長谷川高(たかし)さん、投資家であり、不動産のプロフェッショナルでもあります。『戦略的上京論』には、住まいの選び方から、仲間の作り方、上京につきもののリスク等、東京を使い倒すためのエッセンスが詰まっています。刊行に先立ち、今まさに上京しようとしているあなたのために、内容の一部を先行公開させて頂くことにしました。いつかこのステキな街で、あなたと出会えることを祈って。(編集担当:今井雄紀)
前回で、熱く「場所選び」の大切さを語りましたが、例えば渋谷や新宿、六本木、下北沢という場所に学生や新社会人が住めるのかと言うと、経済的に難しいでしょう。
東京に家を借りる際には、探し方のコツというものがいくつかあります。それをこれからお伝えしたいと思います。
仮に、あなたが渋谷や新宿といった繁華街の近くに住みたいという希望を持っているとします。こういった駅の周辺できちんと生活が成り立つ賃貸物件を探すのは容易ではありません。選べる物件が少なく、何よりも賃料が驚くほど高いのが実情です。
ではどうしたら良いか。
まずは、一駅隣の駅まで選択肢を拡げて探してみるとよいでしょう。
例えば渋谷駅であれば、JR山手線と東急東横線、京王井の頭線、副都心線、4つの鉄道が通っており、それぞれの沿線の一つ隣駅を見てみると、JR山手線では恵比寿駅または原宿駅、東横線は代官山駅、井の頭線は神泉駅、副都心線は神宮前駅ということになります。渋谷駅の場合、その隣の駅も極めて人気が高いエリアとなりますが、物件の供給数、つまり選べる住まいの数は、格段に増えるはずです。また、井の頭線の神泉駅のように、他の駅に比べれば割安な家賃で探せることもあります。
こういった、自分が住みたいエリアの一つ隣の駅というのは、仮に渋谷で終電がなくなってしまっても十分に歩いて帰れる距離ですし、自転車があれば一日に何度も往復出来る距離です。(地方出身の方は、よく東京の「隣駅」の近さに驚かれます)
「一駅ずらず」ことで、渋谷が生活圏内に入ってくるのです。私は特別に渋谷駅をすすめているわけではありませんが、この「一駅ずらす」という方法は、色々な意味で理にかなっているのでおすすめします。
さて、実際に家をさがすにあたっては、二つの方法があります。一つは、インターネットを使って探す方法、もう一つは、各駅周辺の不動産屋さんに出向いて、直接物件を紹介してもらう方法です。
どちらにしても重要なことは、2~3の物件を見ただけで簡単に決めてしまわないということです。
1軒の不動産屋さんを訪問しただけで物件を決めてしまうのもおすすめしません。
そもそも東京に土地勘のないあなたが、最初から良い物件を選ぶのは至難の業なのですから、それを補うには、やはり自分の足で歩き回る必要があります。
地方から物件探しに行く場合、インターネットを使って、そのエリアのおおよその家賃相場を知り、その中のめぼしい物件について、現地や建物内を見に行くことになると思います。どうせ現地に行く訳ですから、ネットで目にしなかったような、地元の不動産屋さんにも、飛び込んでみましょう。
今は、賃貸アパートにしてもマンションにしても、ほとんどの地域で例外なく供給過多になっている状態です。おそらくその場で、更にいくつかの、希望に合った物件を紹介してもらえる思います。
そして、地図を頼りに、一つ一つの物件を自分の足で歩いて見て回るのです。
東京の場合、都心部であれば一つの駅だけでも複数の不動産屋さんが看板を出しています。各駅にある不動産屋さんを、2~3軒は訪れてみて下さい。
おそらく、不動産屋さんからは「そんな何軒も行っても同じ情報ばかりだからこれ以上別の不動産屋を回っても無駄だよ」とアドバイスを受けるかと思いますが、これは誤りです。
確かに、なかなか借り手が決まらないような物件に関しては、その情報資料が各不動産屋さんに広く出回っているのも事実です。しかし、「これぞ」という物件情報、つまり借り手がつきやすいと思える優良な物件情報については、どこの不動産屋さんも、店頭に直接来店したお客様だけに開示するものです。
なぜそんな物件が存在するのかご説明しましょう。
賃貸を扱う不動産屋さんの収入源は、大きく2つあります。大家さんからの成約報酬と、借り手から得られる仲介手数料です。一つの契約獲得で両方から報酬を得ることが理想ですが、標準以下の物件の場合、物件情報自体は近隣の不動産屋さんでシェアし、「私は大家さんから報酬を得ますので、周りの業者さんはどうぞ借り手(お客様)をつけて、そこから報酬をもらって下さい。二社で仲良く分けましょう。」となるのです。
一方、賃料が割安な優良物件を大家さんから預かった場合は、両取りを狙います。両方から報酬を得ることが可能な物件であると判断した場合、物件の資料はできるだけ自分の手元に置いておくのです。
割安で優良な物件がインターネットに掲載されている可能性も勿論ありますが、大家さんとの関係が密接で、独自の情報を持つ不動産屋さんほど、インターネットに情報を載せていなかったりするものです。
以上のような事情から、見定めたエリア近辺を、可能な限り歩き回られることをおすすめします。少しでも土地勘を得る、周辺の環境を知るという意味でも有効ですし、地元に根ざした老舗の不動産屋さんの店頭に行って情報を得ることが、良い物件に出会うためには不可欠だからです。
実際行ってみると、明るく入り易い店構えの不動産屋さんばかりでなく、入り口が狭くて建物も古い、なんとなく入りづらい不動産屋さんもあるかと思います。おもしろいことに、どちらに良い情報があるかは見た目からは全くわかりません。そういうものだと割りきって、ひとつひとつ訪問していくしかないのです。
あくまで借りる方がお客様であり、不動産屋さんがサービスを提供する方なわけですから、気に入る服が見つかるまで何軒もアパレルショップをまわるのと同じように、おそれず遠慮せず、複数の不動産屋さんを訪ねることをおすすめします。
もし、何か強引な印象を受けたり、担当者とあまり馬が合わないと思ったならば、次の不動産屋さんを訪れればいいだけのことです。東京には不動産屋さんの数は星の数ほどありますので、心配しなくても大丈夫です。
もちろん地方からいらしているので、物件選びに十分な日数や時間をかけることは難しいでしょう。ただ、そういった焦りからロクに検討もせず入居物件を決めてしまい、「最初に入居した家は、後々考えるととても残念な物件でした……」ということになってしまっては元も子もありません。
入念な下調べを行い、十分な計画を立てて向かうとともに、「焦って決めようとしていないか?」ということを常に自問しながら物件を探してください。
一日で決まらなければ、ビジネスホテルにでも泊まって、翌日仕切り直しをすればいいのです。東京生活を送る、最初の拠点となる場所です。できれば数日は、物件選びに集中してほしいと思います。
→次回に続く(3/10更新予定です)
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