2011年9月21日、台風15号が関東に上陸したその日に、星海社新書は創刊、走りはじめました。「武器としての教養」を10代・20代のジセダイたちにくばることで、自らの力で未来を切り開こうとする前向きな人間がひとりでも増えることを信じて——。
そしてこの9月に、星海社新書はおかげさまで2周年を迎えることができました。現在、このレーベルには、36の〝武器〟がそろっています。
まだまだ弱小レーベルですが、若い人の価値観や働き方などが変化していく大きな時代のうねりのなかで、小さいながらも「台風の目」となりつつあることを、最近は実感するようになってきました。
先日のことです。都内にある大学の男子学生から『生協で星海社新書を買いあさっています。新しい一歩を踏み出そうという気持ちにもなれました。ありがとうございます!』といった感想をお手紙でいただきました。それを読んで、僕は思わずうるっとしてしまいました(涙もろいのです……)。
「前へ進め!」というメッセージを掲げ、そのための具体的な「方法」や「考え方」(=武器としての教養)を若い人に向けて提示することにはやはり大きな価値があると、あらためて感じたのです。
信じた道は、間違っていない。
これからの世の中をつくっていくのは、いつの時代もジセダイの人間でしょう。だとしたら、その世代に対して「希望」を届けるのは、出版の大きな役割だと思います。そして、その役割の一端を、星海社新書は担えているのではないかと、自負もしています。
ただ同時に、僕はジレンマも感じています。
まずひとつ目としては、僕自身、編集者として若者を代表しているつもりが、いつの間にか歳を取り、30代なかばとなって、10代や20代の感性についていけなくなりつつある、ということ。まあ、オヤジになってきたということですね……。
そしてもうひとつが、「新書」とは違った枠組みで世の中に希望を届けるような仕事をしたい、という個人的な欲望が生まれつつある、ということ。
僕は大いに考え、悩み、そして決断しました。
創刊編集長として、この2年間、星海社のメンバーらと共に、前に向かって全力で走り続けてきました。すると、スタートラインのときには見えなかった風景が見えてきた。ここが、つぎの走者にバトンを渡すタイミングなのだろう——。決断に一切の迷いはありません。
僕は、星海社新書の巻末に掲載している「創刊の辞」のなかで、一冊の本は文化的な遺伝子だと書いていますが、働くこと(仕事)や生きること(人生)そのものも、遺伝子と同じで、つぎの代、つぎの人間に引き継がれ、あとはある意味「勝手に」進化していくものだと考えています。
僕自身、「カッパブックス」という社会現象にもなった新書レーベルを生み出した名編集者・神吉晴夫(光文社2代目社長。1901-1977)の仕事から大きな影響を受け、そのマインドを引き継いだと、勝手に思い込んでいます(僕が1978年生まれなのは、偶然ではないでしょう)。
そのマインドはおそらく神吉氏のものとは似て非なるものになっているかもしれませんが(進化というより退化させてしまっているかもしれませんが……)、べつにそれでいいのです。
バトンは、引き継がれ、そしてまた引き継がれていく——。
それが世の常です。
(星海社の人材募集はこちらから。応募書類は10月18日必着です)
僕は、星海社との業務委託契約が切れる11月末で、星海社新書編集長だけでなく星海社からも卒業し、12月からは「old boy=OB(フェロー的な立ち場)」として、星海社新書が走り続けるその先の風景を、少し離れたところから温かく見守っていきたいと思います。
(用事もないのに、ちょくちょく顔を出すかもしれません。口も出すかも……笑。そして、何冊かの星海社新書もひきつづき編集していきます!)
星海社新書での2年のあいだ、じつに多くの方々に多大なるご支援とお力添えをいただきました。本当に感謝しています。
ありがとうございました。
12月からの僕の新たなゼロからのチャレンジに、ご期待ください。
さらなる武器、さらなる価値を、世の中につくり出していきたいと思っています。
Keep on running !!!
2013年9月 星海社新書編集長 柿内芳文
星海社新書 初代編集長
星海社新書OB。
新卒で光文社に入社し、『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』『99.9%は仮説』『若者はなぜ3年で辞めるのか?』『非属の才能』(すべて光文社新書)など、自分と同世代以下に向けて、メッセージ性が強く、かつ読みやすさにとことんこだわった本を作り続ける。2010年春に杉原幹之助・太田克史の両氏と出会い、「星海社で共に戦おう」と誘われ、3カ月悩んだ末に移籍を決断。星海社でも「新書」をベースキャンプとしながら、出版界の「高み」への登攀を目指す。新書編集歴9年の新書バカ。新書こそがノンフィクションの完成形であると信じて疑わない。尊敬する編集者は、戦後最大の出版プロデューサー・神吉晴夫。好きな言葉は、「俺は有名人と称する男のおこぼれは頂かぬ、むしろ無名の人を有名に仕あげて見せる」(神吉晴夫『カッパ大将』より)。
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