星海社新書『百合のリアル』発売を記念して、トークイベントを開催しました。ご登壇頂いたのは、『百合のリアル』著者でありレズビアンライフサポーターの牧村朝子さんと、女優の杉本彩さんです。
「ありのまま自由に愛し合いたいのに、周囲が自分たちを許さない」
「自分はパートナーと性的関係を持ち続けていたいけど、相手はそう思っていない」
「これは愛なのか束縛なのかわからない」
「これは愛なのか性欲なのかわからない」
このように、「愛・自由・性」は、つねに絡み合い、せめぎ合いながら共存しています。この3つについて、歴史・文学・映画などの上での3組のカップルを実例に出しつつ、考察を深めていくトークイベントとなりました。
牧村さんが「理想の女性」と言って憚らない杉本彩さんとの対談。ひとりの女性の夢が叶った瞬間を、興奮そのままにお伝えします。
牧村:こんばんは。『百合のリアル』の著者の牧村朝子です。私は一昨年、フランス人のパートナーとフランスの法律のもとに結婚をして、今はパリに住んでいます。本日は、私の理想の女性である杉本彩さんと「愛」「性愛」「自由」というテーマについて、3組のカップルを例に出しながらお話していこうと思います。
杉本:よろしくお願いします。
牧村:『百合のリアル』にも書かせてもらったんですが、私はずっと彩さんが憧れの女性で……。本当に今日は、幸せです!!
杉本:あっはっは。ありがとう(笑)
牧村:いちばん最初にお話しするのは、哲学者のキルケゴールとレギーネ。キルケゴールが24歳の時かな? 10歳年下のレギーネに激しく一目惚れし、3年後に婚約をしました。しかし、キルケゴールは彼のすべてだったレギーネと、1年後に婚約を破棄してしまったのです。どうしてでしょうか? 彼はずっと、自分のことを「本当に醜い奴、俺はダメ人間」だと思い続けていた人でした。キルケゴールが「美しくて素晴らしいレギーネは、自分のような醜い人間と一緒に生きてはいけない」と考えたのではないか、と推測する研究者もいます。彩さんは、自分に自信がない時に「自分より上の人」に恋をしてしまったらどうしますか?
杉本:そうだな。人を「上」とか「下」で考えたことがないのだけど……。
牧村:おぉー! ちょっと名言出た! 逆に、何を重視して恋愛をしてきましたか?
杉本:その人の「魂」がいちばん重要。私って実は臆病だから、かなり魂を吟味して、「石橋を叩いて渡る」という部分があるかな。
牧村:具体的に、どうやって石橋を叩くのですか?
杉本:例えば、何かトラブルに見舞われた時に人の本質や自分の本当の気持ちに気づくでしょ。だから、恋愛の中でそういう“トラブル”を求めるのよね。私みたいな女は本当に面倒くさいって思う。自分の問題もわかっているの。「白か黒」しかなくて、「中間」がないの。
牧村:なるほど。
杉本:自分の問題点を改善していくには、まずはどんな問題を抱えているのかということを知ることが前提だと思う。夫は私の問題から目を逸らさずに、真正面からぶつかってくる人だったから、自分の中に抱えていた問題を乗り越えられた。
牧村:キルケゴールは孤独の中で生きた人なので、もしかしたら彩さんのように「他者からの言葉」がなかったかもしれませんね。自分の問題点を自分で見つめるだけでは足りない部分があるので、他者との関わりが重要になると思います。
杉本:魂が開放されてないと、本当の幸せは絶対手に入らないんだと思う。
牧村:魂の開放……。大きいテーマですね。
杉本:「自分は何に喜び、何に幸福を感じるのか」ということを知らないと、魂は開放されないし、本当の幸福も手に入らない。
牧村:魂の開放のためかはわからないけど、キルケゴールは日記をたくさん書いた人だったそうです。文字に残したりして自分の“外”に出すということも、「自分で自分を見つめる」ためには大事なのかもしれないですね。
牧村:じゃあ、次に行きましょうね。芸妓さんの阿部定と、石田吉蔵のお話です。定は吉蔵が店主を務める料理屋「石田屋」で働き始め、次第に二人は不倫の関係になります。あるとき吉蔵の奥さんに二人の仲が知られてしまい、二人は逃げるようにしてお宿に泊まりました。
杉本:毎日毎晩、むさぼるように二人は愛し続けて、あとは「死ぬしかない!」というところまで来てしまったのね。
牧村:そんな状況の中で、吉蔵は定にこんなことを言いました。「家庭は家庭、お前はお前だ」と。要は、「都合のいい女でいてくれ」ということですね。宿泊して、 7日目のことだったと思います。吉蔵が好きだった“窒息プレイ”が高じたのか、定は睡眠薬を飲んで寝込んでいる吉蔵の首を紐で締めて殺してしまいました。でも、死んでしまった恋人をこのまま部屋に置いておくのは寂しいからと、彼の局部を切り取ってずっと持ち歩いていたんです。「これでやっと私のものになってくれたのね」という様なことを思ったと言います。
杉本:狂気の愛の代名詞ですよね。一緒にいるためなら手段を選ばないっていうね。そういう愛し方もあるんです。私は『JOHNEN 定の愛』という映画で定を演じたので、彼女のことを深く理解できた。もしかすると、定は幼少時代に大きなトラウマを抱えて傷つきながら生きてきたから、愛にものすごく執着があったんじゃないかな。
牧村:実は、定さんは初潮が来る前に、性暴力の被害を受けた経験がありました。「こんな身体ではお嫁にも行けない」と悩んだ結果、男遊びに走ってしまうんですね。芸者の仕事を始めたのも、お父さんの指示なんです。
杉本:男性にひどい目に遭って来たから、吉蔵に歪んだ執着心を持ってしまったのかな。定にとって吉蔵は、初めて自分を愛してくれる男性だったから。
牧村:でも、定はお父さんに愛されていたと思うんです。定を芸者小屋に入れたのも、「男遊びが好きでどうしようもない子だったから、芸者の仕事でもやれば男に懲りて家に戻って来るかな」と、お父さんなりの教育だったんですね。でも、定はそれを「自分は捨てられた」としか受け取れなくて……。
杉本:その時代の価値観っていうのがあるから、今の私たちには理解しきれないところもあるよね。
牧村:そうですね。定は吉蔵を「最後の人」だと思ったから、殺してしまったんだろうし。「他にもっといい出会いがあるよ」とか軽々しく言えないけど、でも、もう少し自分を信じることができていたら、定にはもっといい出会いがあったと思う!
杉本:どうなんだろう。私がなかなか恋愛感情抱かないタイプなので。「色んな人と恋愛をしている」って思われがちだけど、なかなか恋愛になるまで結構難しい。
牧村:でもどんな人に惚れちゃうかわかんないわけですよ。彩さんみたいに「トラブルを起こす人」が好きみたいな人もいるかも。
杉本:別に好きでやってるわけじゃないわよ! 若い時に、自分が幸せになりかけるとすごく不安になって「今あるもの全て壊したい!」と思ったことがある。でも、幸せになるためには、それがとても邪魔。
牧村:そういう彩さんにとって、不安を解消するために「結婚」は大きかったですか?
杉本:「穏やかに暮らしたい」と思ったから“結婚”という選択をしたわ。「私は一生この人と一緒なんだ」ってようやく納得できたの。
牧村:でも、なかには結婚という選択を選べないカップルもいるわけです。小説家の吉屋信子さんとそのパートナーの門馬千代さんもそうでした。二人が生きた昭和初期は、女性たちが「良妻賢母」の型にはめられていて、女性は人生の主人公ではなく、陰から支えていく役目しか与えられなかった時代。信子は女学校で先生をしていた千代と互いに惹かれ合い、一生を添い遂げた関係でした。しかし、もちろん当時の日本には、同性同士で結婚できる制度はありません。信子は千代を自分の養女にすることで、戸籍の中で、家族関係を作ったんですね。今日は、二人がどれだけ愛し合っていたかがよくわかる手紙をご紹介しようと思います。二人が一緒に住む前に、関東大震災の影響で遠距離恋愛をしていた時の手紙です。読み上げますね。
〜信子から千代へ〜
あぁ、夕に別れを告ぐることなく一つ屋根の下に暮らす日はいつのことか
男と女なら易きことなれど
御身も女 我も女
本当に千代ちゃんの魂 そして身体 私にはなくてならぬもの
その唇その頬 私は官能の上からも苦しく寂しい
二度生まれると思えぬ限りある生命の時にあってなぜ別れて住まねばならぬの?
千代ちゃん 愛する人 もう何と書くべきか言葉がない
帰って 帰って 帰って
牧村:「もしも男と女だったら結婚して一緒に暮らしていけるのに、どうして離れ離れなの」という切実な手紙ですね。それに対する千代の返事も、またキュンとするんですよ。
大切なお姉様
千代は悲しいですの。しおれかえって、黙って泣いているの。
編み物をしていても、本を読んでいても、夜のことばかり考えて、瞳に涙がいっぱいになってしまいますの。
さようなら、さようなら 毎晩キスして
杉本:この時代は、レズビアンじゃなくても、「結婚したい人」と「結婚できない人」がいたんだろうね。
牧村:恋愛結婚が一般的ではない時代ですね。恋愛結婚をした人たちのことを「野合」と呼んで、汚らわしいものとして差別すらしたらしいですから。
杉本:時代も変わればね、価値観も変わるね。
牧村:変わってほしいですけどね。変わるのかな……? 結婚できなくて困っているカップルは同性結婚に限りませんが、ひとつの大きなトピックとして「同性結婚」はありますよね。彩さんはどう思いますか?
杉本:日本は実現に時間かかるだろうね。他者の色んな価値観に対して寛容じゃないから。日本ってすごく成長した国だけど、成熟はしてないもんね。
牧村:成熟していない日本社会を作っているのは、この私たち一人ひとりですよね。どうやって成熟していけばいいんですかね?
杉本:「自分の知らなかった世界を知ること」よね。これは成熟には欠かせないと思う。知らない世界、文化圏に立ち入ることで違う自分が覚醒されていくわけでしょ? 人って何かしら刺激を与えられないと変わっていけないのね。
牧村:そうですよね。私も妻との出会いはフランスでした。私にとって初めての海外でしたが、怖くなかったですね。違う世界に入るのを怖くないと思えたのは、「自分の世界」と「別の世界」に線を引くのをやめたからだと思います。
杉本:「自分を変えたい」っていう想いはあったの?
牧村:自分を変えたい……というよりも、彼女のことしか考えてなかったですね。本当に彼女が好きだから、彼女と生きるのは当然だと思って。生きていくって「変わっていくこと」の連続ですからね。
杉本:そうね。すてきに年を重ねていくって、変化し続けることなのね。私も20代半ばの頃、私がどうっていうよりも、「人が私をどう思うんだろう」ということばかりに視点がいってしまった時期があった。ここ10年くらいですからね。「私、これで良かったのかもしれない」って思えたのは。
牧村:いちばん最初に紹介したキルケゴールも、こんな名言を残しています。「哲学は成長し、前に進むにつれて、後ろに脱皮した皮を残していく。その皮に住むのは、汚らしい寄生虫だ」と。
つまり、一度幸せを掴んだりしてしまうと、どうしてもそこから出ていくのがすごく怖くなってしまう。「セクシャルマイノリティー同士だったら話がわかるわ」「男って嫌よね」「やっぱり女同士が楽だわ」とか、今いる幸せの世界にどうしても居たくなってしまう。
杉本:安心感があるところに留まっていたいのね。人は変化を恐れるものだから。
牧村:私は恐れないでほしいし、「実はお互いの世界って、別の世界じゃないんだよ」っていう視点を持ってほしいなと思います。
杉本:必ずどこかに“共通点”はあるはずよね。
牧村:そうなんですよね。少なくとも人間だったら、“人間”という共通点があるし、言葉が通じなくても、例えば動物だったら“生きている”という共通点もあったり。共通点ってあるものではなく、「探すもの」なんですよね。その共通点を見つめることで、「自分と違うもの」として切り離してしまわずに「別の世界」に進んで行くことが大事だと思います。
□日程:2014/1/29(水) 20:00-21:30
□会場:HUB TOKYO(東京・目黒)
□チケット:前売り(事前予約)1500円 当日1800円
□プログラム(予定)
[1] 登壇者紹介
[2] トークセッション
[3] 質疑応答
[4] 牧村朝子サイン会
星海社の送る行動機会提案サイト「ジセダイ」の主催するイベントです。本を読むだけでも、それを自分ごと化して思考するだけでも、本当の意味では何も変わりません。すべての変化は、“行動”から始まります。読んで、考えて、動く。これを一気通貫で提供するのが、ジセダイであり、その根幹となるのがイベントです。編集部一同、あなたに会えるのを楽しみにしています。
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