深夜33時――世間では午前9時。
戦場の最前線――世間では編集部。
〆切までのファイナルカウントダウン
——世間ではクリスマスだ、サンタさんだ、仕事納めだ、大晦日だ、カウントダウンだ、わーい。
ぼくは12月が大嫌いだ。
自分の誕生日もあるし、クリスマスもあるし、年末で賑やかな感じだというのに、毎年まったく楽しめない。心に余裕がない。
それもこれも、「年末進行」(年末・正月休みのために〆切が前倒しになること)が原因だ。
いや、年末進行にかこつけて、ギリギリの仕事になってしまう「自分のふがいなさ」が原因なのだ。
とにかく、目の前のこの本を、校了しなければならない。
今日は校了日だ。早く印刷所に原稿を渡さなければならない。
もういいや、渡しちゃえ、と思うことは何度もある。しかし、そこで踏みとどまらなければならない。
年末進行というのは、出版業界の都合だ。
著者、そして本を読む読者には、まったくもって無関係の話だろう。
出版社にとっては、毎月出すたくさんの本の1冊かもしれない。1年間に8万点もの本が世に出ている。
しかし著者にとっては、人生のすべてをかけた、体重のすべてを乗っけて書いた「魂のさけび」なのだ。
1/1。分母と分子は同じ「1」だ。
読者にとっても、自分の人生をかけて稼いだ貴重なお金を支払って読む1冊であり、自分の人生の貴重な時間を使って読む1冊なのだ。
時間がないからといって、手を抜くなんてことは一切許されない。
いや、ぼくにはできない。
それをしてしまったら、自分のなかの何か大切なものが壊れてしまう気がする。
童貞を失ったら、もう魔法が使えなくなってしまう、「あの感じ」だ。男性にならこの気持ち、わかるだろ?(童貞を除く)
もう「あの頃」には戻れなくなってしまう。
そりゃ僕だって、「しんどい」「手を抜きたい」と思うことはある。多々ある。
今日もあれば、明日だってあるだろう。
でも、抜けない。そういう性格なのだ。
というわけで、校了最中にこのダイアリーを書いているぼくは、どうすればいいのだろうか?
深夜33時半になってしまった……。ああ。
星海社新書 初代編集長
星海社新書OB。
新卒で光文社に入社し、『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』『99.9%は仮説』『若者はなぜ3年で辞めるのか?』『非属の才能』(すべて光文社新書)など、自分と同世代以下に向けて、メッセージ性が強く、かつ読みやすさにとことんこだわった本を作り続ける。2010年春に杉原幹之助・太田克史の両氏と出会い、「星海社で共に戦おう」と誘われ、3カ月悩んだ末に移籍を決断。星海社でも「新書」をベースキャンプとしながら、出版界の「高み」への登攀を目指す。新書編集歴9年の新書バカ。新書こそがノンフィクションの完成形であると信じて疑わない。尊敬する編集者は、戦後最大の出版プロデューサー・神吉晴夫。好きな言葉は、「俺は有名人と称する男のおこぼれは頂かぬ、むしろ無名の人を有名に仕あげて見せる」(神吉晴夫『カッパ大将』より)。
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