「売れる本の作り方」「企画の立て方」を教えてください、とたまに聞かれることがある。
僕は、はたと困ってしまう。
そんな「正解」みたいな方法はないからだ。
でも、ひとつだけ断言できることはある。
それは、人より努力することだ。
根性論は大嫌いだが、だからといって努力は否定しない。
答えがあるとするなら、それは思ったより単純なことだ。
・人が原稿を3回読むなら、自分は4回読む
・人がひとつ指摘するところを、自分はふたつ指摘する
・人が感覚で言っているところを、自分は資料を何冊も読んでそのうえで断言する
たとえばこんな些細なことが、実は決定的だったりする。その積み重ねだと思う。
努力は人に見えない。
昔、こんな先輩がいた。人より実績をあげているけど、普段はひょうひょうとしていて、結構軽い。
その人は、類書のあるような本をたくさん作っていたけれど、類書より絶対に売れる本を作る。
売上という結果だけを見る人はこう言っていた。
「Aさんは運が良い」「販売の力があるから他社より売れる」
でも僕は近くにいたから知っていた。
その人が陰で、一つの原稿、一冊の本作りに対して、他人の倍以上の労力と時間と手間をかけていることを。くやしいけどとても真似できないと、そのときは思った。
その先輩は努力を人に見せない人だった。見せて「仕事をしたつもり」になっている他の人とは違った。
とても僕は運だなんて言えなかった。
その人ほどの努力をしたことの無い人間が、なんとか自分を納得させるために、相手と自分との間の越えがたい溝を埋めるために吐く魔法の言葉が「運」という奴だ。
「天才」という言葉もそれに近い。
僕もすごい人に対してたまに使ってしまうけど、自覚的に使うよう気をつけている。その人がすごいのは、才能の力もあるだろうけど、きっと他の人より何倍も陰で努力しているからだ。
努力する才能に対して、僕は天才という言葉を使いたいと思っている。
星海社新書 初代編集長
星海社新書OB。
新卒で光文社に入社し、『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』『99.9%は仮説』『若者はなぜ3年で辞めるのか?』『非属の才能』(すべて光文社新書)など、自分と同世代以下に向けて、メッセージ性が強く、かつ読みやすさにとことんこだわった本を作り続ける。2010年春に杉原幹之助・太田克史の両氏と出会い、「星海社で共に戦おう」と誘われ、3カ月悩んだ末に移籍を決断。星海社でも「新書」をベースキャンプとしながら、出版界の「高み」への登攀を目指す。新書編集歴9年の新書バカ。新書こそがノンフィクションの完成形であると信じて疑わない。尊敬する編集者は、戦後最大の出版プロデューサー・神吉晴夫。好きな言葉は、「俺は有名人と称する男のおこぼれは頂かぬ、むしろ無名の人を有名に仕あげて見せる」(神吉晴夫『カッパ大将』より)。
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