【前編】夢を殺した、その先に......。『夢、死ね!』大ヒット御礼厚着対談!
【中編】夢を殺した、その先に......。『夢、死ね!』大ヒット御礼厚着対談!
【後編】夢を殺した、その先に......。『夢、死ね!』大ヒット御礼厚着対談!
中川:それにしてもこの格好、暑いね。全裸対談は、あんなに涼しかったのに……。
今井:まぁ、そうですね。なんか、今年の夏は氷水かぶる人いっぱいいたんで、僕らはやっぱりこれかなって。
中川:氷水は、苦行でもなんでもないよな。冬にやるべきだろあれ。
今井:いや、全くです。それより、『夢、死ね!』がまさかの重版ですよ中川さん! しかも発売後すぐに。帯も新調しました!
中川:編集が「まさかの」とか言ってんじゃねえ! でもまあ、嬉しいな。買ってくれた人、本当にありがとう。
今井:今回の対談は、その記念でもあります。『夢、死ね!』というタイトルはけっこう賛否あったわけなのですが、中川さん、夢、最初からなかったのですか?
中川:オレも散々夢なんかねぇよ、ボケとか言い続けてきましたが、就活の時はありましたよ。それは大手出版社に入ることだったんですよ。講談社、小学館、集英社、新潮社、文藝春秋社、マガジンハウスの6社のどこかに入れればいいな、と思っていました。その中で、資料取り寄せた一発目が小学館だったと思います。そしたら、もうエントリーシート、まったく書けなくてね……。難し過ぎてさ……。オレは出版社なんて無理だと思った。
今井:(新卒で入った)博報堂も難しかったのでは?
中川:いや、それは免除ですよ。当時は景気悪く、採用コストがかけられなかったから指定校制度みたいなのがあってさ。いわゆる青田買いね。けっこう慎重に確実な人材を取ろうとしていたのかもしれません。だから、OB訪問じっくりして、何人かからAかBの判定をもらったら面接に上がれるシステムがあったんですよ。基本的には面接だけで、ペーパーは内定の後形式的にやった。だから通ったんじゃないですかね。
今井:なんで、そもそも出版社に入りたかったんですか?
中川:椎名誠みたいなオッサンになりたかったんですよ。
今井:一橋大学在学中は、田中康夫になりたかったって言ってましたよね? 次は、椎名誠ですか。
二人:ガハハハハハ!
中川:二人ともモテそうだからな! なんで椎名誠かというと、編集者として会社に入り、それと同時に個人的に文章を書いて原稿料・印税を貰う生活をしているってすげー羨ましい! って思ったんですよ。『哀愁の町に霧が降るのだ』という本では、「A出版の男」というのが登場するんです。この人物は編集者なのですが、彼と喫茶店とか飲み屋で打ち合わせをする描写が時々出てくる。この「編集者との打ち合わせ」ってのをオレ、いつかやりたくて仕方なかったんですよ。
今井:大の大人が昼間からコーヒー飲んでて、「原稿、まだですか?」「いや、インスピレーションが沸かなくてさ……」「そんな甘いこと言ってるとしばくぞ!」「ヒャーッ! ヤメてください!」みたいなことをやりたかったってことですね。
中川:そうそうそうそう!!! 椎名誠の本を読んでいるとそういった描写がよく出てくるので、「この人生いいじゃん」と思って。そこに至るには出版社に入るのがいいのかな、と思った。多分、そういった考えが多少はあったから、出版業界とは多少の繋がりがある博報堂に行ったというのはあるかもしれません。後付けだけどね。当然当時オレはマーケティングやるぞ、オラ! みたいに思っていました。
今井:僕ら、今、飲み屋でよく打ち合わせしてますもんね。
中川:そうそう、美人ギャルがなぜか3人いるタイ料理屋とかでも打ち合わせしたよね! でさぁ、今井さん(としみじみする)。
今井:なんですか? 突然改まって。
中川:オレさぁ、今、小学館に週2回入り込んでいるんだよ。IDカードまでもらってさ。しかも、大学の時のプロレス研究会の後輩がすぐ近くの席に座っててさ。こいつ、オレのところで2000年代前半にバイトしてて、「オレは立花隆みたいになりたいから、会社には入らない!」なんて当時言っていて、オレは「バカ。カネをまずは稼げ」と言ったんです。そうしたら、「しょうがないですね。中川さんが会社行け、と言うから、講談社と小学館と集英社だけは受けてあげますよ」なんて言い、小学館に通ってしまいました。
今井:それもすごいですね。今もその人は、辞める気満々で働いてるんですか?
中川:全然。「会社っていいッスね!」なんて言って、今は組合の委員長やってますよ。
今井:ガハハハハハハ。社畜まっしぐらじゃないですか!
中川:それでね、今のオレの話で何を言いたいかというと、「夢」とは関係してくるんだけど、フラフラとしていたら、元々思い描いていたポジションって案外取れてしまうんだな、ということなんですよ。
今井:ふむふむ。
中川:2001年にオレがフリーライターになってからオレがどの出版社と仕事したか? ってことを考えると、大手・中堅はほぼ全部なんですよ。最低1回は仕事をしている。相性悪かったところとはそれっきりだけど。新卒で入らなかったからと言って諦めないでいいんです。
今井:どどどどど、どーしたんですか? 突然。なんで中川さんのくせにポジティブなことを……。らしくないっすよ!
中川:出版社に入れなかったとしても、将来的に出版業界を目指すのならばウェブ系に行けとオレは言うんですよ。なぜならウェブは今の出版社にとっては需要があるから。「ほかの出版社にいました」よりも、「ウェブ系でこんなことやってました」という方が、今の出版業界では求められる人なんじゃないかな。
今井:今の中川さんの話聞くと、人生行き当たりばったりでいいかと思っちゃっいました。
中川:もちろんきっかけは行き当たりばったりでいいかと思いますが、そこから先を手繰り寄せるには、運と相性と縁が必要になってきます。NEWSポストセブンを今運営している小学館との付き合いだって、きっかけは2010年1月に当時SAPAIOの編集部にいた酒井君から話が来たことにあります。さっき言ったプロレス研究会の後輩ね。彼が「ネットについて我が社で講演してもらえませんか?」と言ってきたんですよ。ここでは学閥が生きているわけです。そこから小学館の人と名刺交換をし、あれよあれよという間にサイトを立ち上げることになったんです。
今井:えっ? NEWSポストセブン、創設時から中川さんかかわってたんですか?
中川:そうそう。
今井:回り道していたら、目指している道に入ったって感覚ですかね。だって1996年に出版社を諦め、2010年からは、なぜか出版社に週2回行くようになるという。
中川:結果そうなりましたよね。今、編集者と打ち合わせしてますし、先生風に扱ってくれるし、講座で講師をやってもみんな笑ってくれたし、大学生の時に思い描いていたものはほぼ達成したと思っています。でも、今言ったことってすべて「ちょっと頑張ればなんとかなる」レベルなんですよ。ACミランに入るレベルでもないし、武道館でコンサートをやるレベルでもない。夢じゃなくて手に届くかもしれない目標だったんですよね。
今井:あと、ぼやっとしているのがよかったんでしょうね。だって「サッポロ黒ラベルを超えるビールを作る」とかだと大変ですからね……。
中川:オレ達がやってるモノカキの世界でも、ピュリッツアー賞取るとかの目標は高すぎるんですよ。でも、「編集者と打ち合わせをする」ってのは現実的です。でも、それを実現することは、仕事につながるってことを意味する。仕事に繋がるということは、カネにも繋がるし、社会との接点にも繋がり、女にモテることにも繋がる。それが低レベルの目標であっても貴重だと思えるワケです。
中編に続く
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文:セルジオ苺 撮影:キング・カス
ライター、編集者、PRプランナー。
1973年生まれ。東京都立川市出身。一橋大学商学部卒業後、博報堂CC局で企業のPR業務を担当。2001年に退社し、しばらく無職となったあとフリーライターになり、その後『テレビブロス』のフリー編集者に。企業のPR活動、ライター、雑誌編集などを経て『NEWSポストセブン』など様々な、ネットニュースサイトの編集者となる。主な著書に、当時主流だったネット礼賛主義を真っ向から否定しベストセラーとなった『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)、『ネットのバカ』(新潮新書)などがある。割りと頻繁に物議を醸す、歯に衣着せぬ物言いに定評がある。口癖は「うんこ食ってろ!」。ビール党で、水以上の頻度でサッポロ黒ラベルを飲む。
86年生まれ(早生まれ)。滋賀生まれ滋賀育ち。大学では、京都でロックのイベントをしつつ、マネジメントについて割りとまじめに勉強。就職を機に 上京し、新卒でリクルートメディアコミュニケーションズに入社。営業→ディレクターを経験した。「Webと紙の書籍、イベントを組み合わせた新しい出版事 業 をつくる」という志に共感し、2012年5月、星海社に合流。尊敬する人物は、小谷正一。
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